がーりっしゅみみっきずむ!!!〜俺の彼女はどこにでもいてどこにもいないです。見つからないから〜 作:囚人番号虚数番
俺は今人生で一番意味不明な状況にいる。いくつかの段ボールの置かれた無人の教室、夕暮れの静寂が広がる空間に異性と二人っきり。
一人は俺、驚いた拍子に尻もちをついて上を見上げる。
もう一人は名も知れぬ少女である。
彼女は黒髪の長髪で身なりは大人しい印象を受ける。だがそれ以上に高校生としてあまりにも小柄で顔つきも幼くまるで小学生が無理をしているみたいだ。全体的に細身で手足はスラッとしていて身長が小さい分腰回りも相応に細い。しかし箱に入る為か着崩れた制服からは小さな胸元が見え隠れしていて何とも言い難いい雰囲気を醸し出している。
どうしてこうなったのか。それを説明するには少し時間を遡る。
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「はぁ……厄介な仕事を押し付けられたな」
俺は川崎翔(かわさき しょう)、どこにでもいる高校生だ。陰キャ気質で趣味はゲーム、彼女はいない。学業、運動、趣味、どれをとっても普通な男である。
現在時刻は放課後。今はたまたま職員室近くを通りかかった時に先生に頼まれて用具の入った段ボールを運んでいた所だ。他学年が何かの講習に使用するらしい物をどうして俺が運ばなければならないのか。だが手は空いている。部活までも時間はあるから請け負った。
段ボールは3個ある。一個は小さめな箱で中くらいの箱に乗せて運ぶ。目的の教室にそれらを置いた後もう一往復だ。さて、問題は最後の箱だ。この箱は他とは違い70cm?くらいのかなり大きな段ボールだ。コレを運ぶならばせめて2人は欲しいが周りには人はいない。仕方が無いから一人で運ぼう。
「よいしょ……!?おっも!なんだコレ!」
下に手を差し込むと予想以上の重量だった。しかも中見の固定が不十分で一歩歩く度に中身が少し動く。バランスを崩しそうになりながら俺は慎重に運ぶ。
が、足元が見えないからかついつい何もない所で足を引っかけた。
「うおっとっと!あっぶね」「ひゃっ……」
間一髪で踏みとどまって転倒しない。危ない危ない、うっかり頼まれた物を壊したら後で面倒くさい事になるからな。にしても中身は何だろうか。一応業務用のトイレットペーパーの箱らしい。しかしテープが剥がされた跡でもう一度封がしてある。つまり外観からは中身は分からない。
まあ、運んだあとでチラ見すればいいや。
それと今、女の子の声が聞こえたような……
それから目的の教室に箱を置いた。壁際にどっしりと置かれた箱をまじまじと見つめる。うーん、一体これは何だろう。重量的には学習用の機械のパーツとかだろうか。しかし運んだ時の感覚的には3、40kg程度でそうなればもっと慎重に運ばせるだろうし。
「……誰もいないな」
俺は辺りを見て警戒する。教室に人は居ない、廊下も偶然人通りが少ない。バレる心配はなさそうだ。再び箱に目を向けると箱の外観は結構ボロボロだ。テープの剥がし跡もそれなりにあり一度剥がした所ではバレはしなさそうである。
箱からテープの端を少し傷つけて丁寧にテープを剥がす。バレたら先生になんて言われるか分からないし何だか緊張してきた。箱を塞いでいたテープが剥がされていくにつれて段ボールの暗い隙間が広がる。この段階で止めておくか?俺はスマホを取り出してカメラを隙間から覗かせる。そして画面を操作してから懐中電灯を光らせた。
「さーて、これで中身とご対面d……っ!」
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箱を運んできたと思ったら中身は女の子だった。俺が中を覗いた途端に飛び出して俺は転んでしまった。そんな俺を彼女は低い視線から倒れる俺を見下ろす。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
制服のリボンは俺と同じ1学年を示す。敬語である必要はないのについつい丁寧に話してしまった。
「目がとても痛い。断りも無くフラッシュを焚くのは許されない」
「それはゴメン」
彼女はそれだけ言ってまた箱の中に戻り蓋を閉じる。そしてしばらくの間ごそごそと動き続けていた。箱がいくら大きいとはいえ彼女の体格でも入るにはギリギリだ。中の様子を考えるとかなり小さく丸まる形だろう。そして動きがピタッと止まる。
俺は立ち上がり箱に近づいてみた。
「君は私がいると知ってなお開けるのか?」
開けるつもりはない、いや一度は開けたのだが今はそれよりも気になる事がある。
「いや、開けるつもりはないけど……君は誰?」
彼女はしばらく黙り込んだ後
「木目美海(もくめ みみ)。多分君は知らないはずだよ」
と静かに答えた。名前には微かに聞き覚えがある。どこで聞いたかは覚えていないけれど友人から変わった子が同じ学年にいると噂で聞いた。
彼女はしばらくそれ以上は喋らない。こちらに興味が無いらしく物言わぬ箱のように箱に籠もっている。噂では少し変わった子で人は寄り付かないと聞いていた。見た目はかわいいけれどそう言われるのも納得だ。
「狭いところが好きなんだな」
「……うん。好き。落ち着く」
……何だか不思議な子だ。彼女とはまだあまり多くの言葉を交わしていないけれど何となく不思議な空気となる。
しかし先生から頼まれた用事はもう済んだ。従ってこの教室にこれ以上いる必要もない。段ボールに籠もる彼女を置いて教室のドアに歩を進める。
「あ、待て。聞きたい事がある」
箱に入ったままの彼女に呼び止められた。
「どうして私が分かった?」
「たまたま運んだ箱に君が入ってただけだよ」
「ふーん、ご苦労さま」
呼び止めた割には興味がなさそうな返事だ。何だか少し腹立たしいな。少し意地悪がしたくなったのでこっちからも少し質問しよう。彼女の隣に椅子をおいて座る。
「どうして君は箱の中に?」
「色々ある。が、落ち着くから、かな。君も狭い所は好きだろう?」
落ち着くのは凄く分かる。押入れの中や炬燵の中のような暗くて狭い場所に入ると何だか心地よく感じるのだ。子供の頃の俺はどちらかといえば安息よりもワクワクする感覚のほうが勝っていた。しかし今ならきっと落ち着くだろう。
「まぁ、分からなくもない」
「だろう?君も入ってみるか?」
いやいや、どうやって入るんだよ。明らかに彼女で定員オーバーな段ボール箱にはどうあがいても二人入れるスペースは無いだろう。彼女の入る箱の蓋を少しだけ開ける。
「あ」
「うん、どう考えても入るスペースなんてないだろ」
僅かに見える中は小柄な体格のお陰で意外とスペースがある。しかしそこにもう一人となるとどう考えても入り切る空間がない。
「中、結構狭いな」
「むぅ、勝手に開けるなんて失礼だぞ」
膝を抱えていじける彼女と目が合う。ムスッとした表情が幼い顔と合わさって少し可愛い。もう良いだろうと俺は箱の蓋を閉じようと手をかけた。
が、掴む直前に小さな手を掴まれた。そして体重全てで引かれてバランスを崩す。俺は段ボールの中に誘われるように頭から転倒して段ボールの中に突っ込んだ。
「うおおおおおっ!」「ぐへぇ」
箱の底面に衝突する直前に手を着く。幸運にも彼女の胴体を避ける事に成功する。大怪我をしなくてよかった……一瞬そう安堵したもののよくよく今の状況を考えると相当不味いのを自覚した。俺の顔面は丁度彼女の腹部辺りに押し付けられている。柔らかい感触と共に甘い香りが鼻腔をくすぐる。それにここは小さな箱の中、当然俺達二人の距離は近い。体は広範囲で密着して互いの体温を感じるほどに近い距離にいる。
俺は慌てて体を起こして離れようとする。しかし彼女はそれを許さず俺の背中に腕を回してくる。そしてギュっと抱きついてきた。俺は驚きと焦りの感情が入り混じり思考が停止する。そんな俺を無視して彼女は呟いた。
「おお、これはこれで面白い」
彼女の声を聞いて我に帰る。俺は彼女の体を引き離して立ち上がろうとする。彼女は不満げな顔をしていた。
「ああ、箱が壊れてしまったな」
破れて半壊した箱を見て彼女は呟く。そして彼女は立ち上がってこちらを見た。
「君、名前は……」「え?川崎だけど」
唐突な質問に戸惑いつつも答える。彼女は少しの間考えるような仕草をした。
「……成程、カワサキか。ありがとね」
彼女はそれだけ言うと教室から出ていった。
「なんだったんだ……」
残された俺は彼女が出て行った扉を見ながら一人そう言った。
夕暮れは更に進み空は赤く染まっていた。今日は何か疲れたな。用事は長くなったが今日はさっさと部活に行こう。