がーりっしゅみみっきずむ!!!〜俺の彼女はどこにでもいてどこにもいないです。見つからないから〜   作:囚人番号虚数番

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禁忌の箱

…………?

 

……動けない。極端に狭いところに閉じ込められて満足に動かせない。壁の感触は紙、具体的には段ボールに近しい感触で、だが以上な硬度らしく力を入れても壊れる様子はない。自力では出られない事を悟ると本能的な恐怖を感じる。

 

ゴンッ ゴンッ

 

動かせる部分を全て使い暴れる。怪我のリスクも何も関係なく恐怖から逃れたいがままに狭いここから出ようと抗う。しかし一向に出られる気配がしないまま5分が経過。

 

暴れに暴れて体力が尽きて呼吸を整える。膝が痛み濡れる感覚がするが頭は未だここから出ることを考え続けている。

 

だが遂にこの場にも変化が生じた。箱の外から足音が聞こえる。感覚の狭い落ち着いた足音だ。

 

ああ、木目さんだ。彼女が助けに来てくれた。

 

ゴンッ ゴンッ

 

痛む体に鞭打ち必死に彼女に存在を訴える。彼女にそれが聞こえたかは知らない。しかし確実に足重は俺の方に向かっている。

 

そして足音は俺の直ぐ側で止まる。早くここから出してくれ。暗くて狭いこの場所じゃまともに正気を保ってられないんだ。止まったままの彼女に訴えるようにより激しく暴れる。

 

しかし幾ら待てども彼女は動かない。またもや体力が尽きて動けなくなるまで暴れても反応一つない。それから何度か同じことを繰り返して遂に彼女は言葉を発した。

 

「君はそこから出たいのかい」

 

箱越しのくぐもった彼女の声が聞こえた。俺は全身を使い肯定を表すために1回箱を鳴らす。

 

「悲しいよ。やっと君が私を見つけてくれたのに」

 

返事は来た。しかし妙に様子がおかしい。悲しさや哀れみの籠もった声で彼女は俺に語りかける。

 

「私はずっと君を待っていたんだ。君が私を知る前にも私はずっと覚えていたしすぐ傍に居た」

 

? どういうことだ。俺と彼女は初めて合った筈なのにずっと側にいるとは。

 

……いや、まさか。彼女なら可能ではないが、考えたくもないけれど一つだけ仮説がある。もしかして俺が彼女を見つけたずっと前から彼女は俺の側にいたのだろうか。

 

余りにも非現実的な仮説だがそれを実現する術なら何度も見てきた。飽くまでも想定に過ぎない。しかし今まで彼女が直ぐ側にいて気づけたことがあるであろうか。少なくとも自らバラしたり、心理的に余裕がない場合以外は俺は気が付かなかった。

 

その可能性を理解した途端、背筋がゾッとした。それだけならまだいい。次の彼女の言葉に俺は戦慄する。

 

「君、養子だろう?」

 

 

 

何故、それを知ってる?俺が誰にも話さなかった最大の秘密。小さい頃、育ての親の事情で俺は2回ほど引っ越した。2回目はただの親の転勤のせい、そして1回目が養子として今の家族に引き取られたせいだ。

 

だからこそ俺は恐ろしい。いつから俺は彼女に知られていた?疑問は尽きないが混乱する俺を置いて彼女は続きを話す。

 

 

「図書室で君に話した物語があるだろう?実は一つの嘘と続きがあるんだ。まずは訪ねてきたのは2人、君と親戚の佐藤だ」

 

佐藤……?

 

「彼は……まぁ、僕を私たらしめた人だ。彼は未だ私に罪悪感を抱いていてね。おまけに少し人脈を伝えたら久しぶりのお願いでも色々と手伝えてもらえたよ」

 

思えば彼は昨日酷く何かに怯えていた。彼は恐らく先輩に薬を盛り、ホテル街に連れて行った。それが彼女の指示となると本当の彼女は木目さんなのか。

 

「君は元は私の代わりだったんだ。最もその後の私に関連した悪評のせいで一族は離散した。それが君の2回目の引っ越しの正体だ」

 

そうか、そうなのか。信じがたい、けれど何となく嘘とは思えない語り口。コレが俺に隠されたままだった彼女との関係。俺は動揺し暫く呼吸を止めた。数秒経って俺は気を取り直す。たとえ真実であっても今はもっと優先すべきものがある。

 

彼女は先輩に対して敵意がある。主に俺が先輩と関わることについて特に顕著で、だがそれは今まではただの可愛らしい独占欲だけのものだと過小に評価していた。

 

それがもし誰かの実害に及ぶようであるのなら俺も許すことはできない。

 

「恐れているのか?君は凶行だと恐れるだろうか、愚行だと蔑むだろうか。僕には君の顔は見えない。けれどひどく軽蔑しているのは目に見えているよ。まさかね、僕までもこんなことになるとは考えもしなかったから」

 

彼女の足音がまた響く。箱の周りを歩きまわってから彼女は箱の上に座った。コツコツと周期的に足の当たる音が中に聞こえた。

 

「ここまで話しておいて済まないが君は私の独り言など興味はないか。もっと気になる話題にしよう。ああそうだ、望月は生きてはいるよ。隠してはいるけれどまだ無事だ」

 

確かにそれは朗報ではある。しかし隠している、というのが今の俺のような状態であると仮定すると彼女もまた危険ではある。俺はどうでもいいから、だなんて無責任な事は望まない、ただせめて無事でいて欲しい。

 

「さて、ここまで話した事だしそろそろ本題に入ろう」

 

彼女はそう言って俺から離れていく。足音がフェードアウトして1分程して再び彼女は戻ってきた。一体この僅かな時間で何をしたのか俺には予想もつかない。しかしそれは俺に最悪を予感させるのには十分であり、再び彼女が戻った時には心臓の心拍は今までにない程加速していた。

 

「僕は君にはずっとここにいて欲しい。誰にも見つからないように、君が僕以外の誰もを見つけないように、ここで私に秘匿され続けてくれ」

 

外からがりがりと削れる音がする。脅しだ、下手に応えればどうなるか見えないながら伝えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははは……怯えてるね。ちょっと暴れすぎだよ。僕もこんなことしたくないよ。だって、あの時、君は僕を見つけてくれた初めての人だったのに」

 

同時に彼女の声も震えていた。何も答えずそのまま待っていると静かな空間に啜るような音と嗚咽が聞こえてきた。そしてカラン、と金属音が虚しく反響する。

 

「うぅ……ひっぐ……もう嫌だ……」

 

彼女は泣いていた。今までの落ち着いた雰囲気とは真逆の少女のような弱々しい声で、まるで子供のように泣きじゃくっていた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……。どうしてこうなったんだ。僕はただ君と一緒に居たかっただけなのに、そうすればずっと僕だけを見てくれるって、そう思ってたのに……っ!」

 

暗い夜、すすり泣く声、閉ざされた狭い部屋。彼女は何処とも知れるこの場所で泣き叫びながら懺悔する。その姿は俺の知る彼女とは全くかけ離れていた。そこにいるのはいつもどこか余裕のある不思議な少女ではなく、孤独を恐れる小さな女の子であった。

 

「私はただ君に、見つけてほしいだけだったんだよぉ……」

 

 

 

 

 

 

ああ、どうして忘れていたのか。思えば、あの日の夜だってこうだったではないか。

 

「『黒姫』、見つけられなくてごめんな」

 

俺の口から無意識に出た言葉。その瞬間、部屋の中は静寂に包まれた。

 

「あの日、忍び込んだ離れの割れた床でお前の泣き声を聞いたのが本当の出会いだったんだ」

 

佐藤が帰った後に入れ替わるように俺はあそこに訪れた。あの時点では俺はまだ黒姫の代理としての目的は無かった。覚えていないけれど確か親族間で何かがあったとか、詳しい話は知らないけれどとにかくそこにいた。

 

あの日、俺はあの屋敷に初めて訪れていた。屋敷は早朝にしては騒がしく、俺は大人たちが慌ただしく動いている間放置されて広い屋敷を歩いていた。そして俺は家の端にひっそりと佇んだあの離れに入った。

 

……ああ、だから今まで気が付かなかったんだ。

 

「お前は何もかも変わった。名前も何もかもあの時とはまるっきり違うな」

 

あの時は俺より少し年上ぐらいだったか。今よりも幼い印象だったが、今は背丈がだいぶ伸びた。顔つきも大分変わってしまった。

 

「でも中身は変わらないよ。ただ、昔と違って臆病になってしまった」

 

「はは、確かに。今も酷い顔だな。目元真っ赤だろ?」

 

「うるさい、黙れ。第一箱の中じゃないか」

 

口では強がっている声色は正直だ。

 

「それよりも私は君に改めて問おうか」

 

彼女は急に立ち上がって箱の上に座る。コツコツと音を立ててから彼女は語り出す。

 

「君は、これからも私を見つけてくれるか?」

 

それは何度聞かれても答えは決まっている。

 

「当たり前だろう。何があっても見つけてやるさ」

 

彼女は俺の言葉に安堵するように息を吐いてから、再び問いかける。

 

「ありがとう。それなら私も君を絶対に逃さないよ」

 

 

ーーー

 

俺が箱から出るとそこは俺の部屋であった。俺はガムテープで蓋を閉じられた段ボールの中に閉じ込められていたようだ。

 

しかし疑問は尽きない。段ボール内部での気温や湿度はこことはまるで異なる。湿度は高く、空気もかび臭い。まるで地下のような空気である。

 

床を見てもここはフローリングにカーペットが敷かれた部屋だ。彼女が落とした金属の何かが落ちたとしても反響は難しいだろう。

 

それに肝心の木目さんは既にここにいる痕跡がない。開封したのは彼女だというのに。

 

状況を理解した途端、まるで悪夢の中にいたような錯覚に陥る。

 

ふと窓を見ると既に夜は明け朝となっている。土曜日の朝、学校はない。携帯を手に取る。数件のどうでもいい通知、それから木目さんからの連絡が来ていた。送られたのは画像が1枚であり望月先輩が恐らく自室であろう部屋のベッドで寝ていた。一応俺からの一通の安否確認の連絡をする。間もなく返信が返された。

 

……成程、一応生存はしているらしい。

 

「ありがとな、木目」

 

部屋の誰かに語り掛ける。しかし返事はない。静寂のまましばらく待ち、俺はクローゼットを開く。中には俺の服が綺麗に畳まれて入っていた。

 

次にベッドの上下を調べる。何もなし。ベッドの下は少し埃が溜まっている。あとついでに布団は畳んでおこう。

 

一通り調べ終わった後、俺は服を着替えて部屋を出た。階段を下りてリビングに入る。誰も居ない。俺はキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。中身は空っぽだった。俺はため息をつく。

 

そのまま朝食を買いに玄関に行き靴を履いて外に出ようとする。その時だった。

 

ガチャリという音がしてドアが開く。

 

「あっ……」

 

「っうわあっ!?な、なんで見つかったの!?」

 

なんと玄関の前に木目さんがいた。しかも意外にも隠れていない素の彼女だ。彼女自身でも俺に見つかったのは相当に想定外だったのか驚き様は今までにない物であった。

 

彼女は玄関扉から離れ塀の後ろに隠れる。顔の半分だけを出してこちらの反応を伺いつついる。普段であればそのまま塀の死角に隠れ走り去っていそうなのに。今までにない挙動に少しだけ興味が出た。

 

俺は一度室内に戻る。

 

 

 

「…………戻ったようだな。なら今のうちに隠れて「よ!」

 

「うわあっ!?」

 

一度室内に戻ったあと裏口から外へと出て、塀を登って彼女に後ろから声をかける。

 

一度室内に戻ったあと裏口から外へと出て、塀を登って彼女に後ろから声をかける。すると彼女は驚いて飛び上がった。

俺はそんな彼女の腕を掴み引っ張り上げる。そして彼女を俺の方へと引き寄せた。

 

「な、何をするんだ君は!」

 

「いつもの仕返しだ、たまには驚かされる身にでもなってみろ」

 

「君、私に似てきたんじゃないか……?」

 

似ているも何も俺も彼女という人物を分かったからに決まってる。俺はそんな事を思いながら手を掴む。どうせなら彼女にもコンビ二に着いて来てもらおう。そう思っての事だったが、彼女はその場から動かない。

 

「おい、どうしたんだよ」

 

「もしかしてコンビニに行く気かい?」

 

木目さんはそっと目を逸らす。しかしそれは明らかに何かを隠していている。

 

「今日は私が一日君に何でもするよ」

 

彼女は小さく呟くように言った。その表情はいつも通りの自信に満ちて見えた。そしてその手にはいつの間にかビニール袋を手に提げていた。中身は魚と野菜、それとスーパーの半額のお惣菜だった。

 

「こんな物でしかできないが……まあ、先日のお詫びだ。暫くは君の頼みであるなら何でも叶えよう」

 

俺はそれを聞いて思わず笑ってしまった。木目さんは不思議そうな顔をしていた。

 

「朝飯くらい二人で作ろうぜ。俺だって簡単な料理はできる」

 

俺の言葉に木目さんは少し戸惑った様子を見せる。しかしすぐにいつものように笑う。

 

「仕方のない奴だ、だが君が望むのなら付き合ってあげよう」

 

こうして俺は彼女を家に招くのであった。

 

 

 

 

ーーー

 

「こんにちは、先輩」

 

「こんにちは!」

 

放課後の部活、今日も先輩は部室にいる。彼女はいつものようにパソコンでゲームでプログラムを構築していく。俺も今日の作業を始めよう。俺は適当に部室を見回してこれまたいつものように探し物をする。

 

気配は無いけれど確かに彼女はそこにいる。だって彼女は俺の大切な人だから。

 

靴を脱ぎ机の上に立ち上がって天井を見る。多分今日の彼女はここだろう。天井の点検口を開きスマホのライトで中を照らす。するとそこには膝を抱えて寝ている彼女がいた。

 

「……zzz」

 

優しく揺すって起こすと彼女は目を擦りながら起き上がる。

 

「ああ、済まない」

 

そう言って彼女は俺の腕の中に飛び込んでくる。それをしっかり受け止めると俺は彼女の頭を撫でる。彼女は気持ち良さそうな顔をした後、少し悲しそうな顔になる。そして俺の顔を見て呟くように言った。

 

「君も見つけ出すのが上手くなったな」

 

そんな彼女に俺は言う。

 

「そりゃあね。毎日一緒にいれば嫌でも分かるよ」

 

俺の言葉を聞いた彼女はとても嬉しそうだった。

 

「……うーん?」

そんな俺達を先輩は不思議に眺めている。机から降りて木目さんを立たせると先輩は彼女をじっくり見つめていた。

 

「あの、俺達どこかおかしいですか?」

 

「いいや……何か仲良くなった?」

 

その言葉を聞いて木目さんは少し恥ずかしげにする。

 

「まあ、君の見ていない間に色々あったんだ」

 

先輩は満足気に微笑むと今度は木目さんの全身をじろりと見た。

 

「ふうん、そうか。じゃあ……」

 

先輩は突然、俺の首に腕を回し引き寄せると小声で俺に聞いてきた。

 

「ねえ、もしかして……ヤっちゃった?」

 

「え!?」

 

思わず声を上げてしまった。

それを見た先輩はとても楽しげだ。

 

「んな訳ないでしょう!流石に俺も常識は弁えますから!」

 

「いやいや、私は別にそこまでは聞かないけど?ただ、何となく雰囲気が変わったなって思っただけだよ」

 

俺は心の中でほっとする。だが彼女は俺をからかえたことで満足したらしく再びパソコンの作業に戻った。

 

そんな彼女と入れ替わるように木目さんが近づいて来た。

 

「どうやら上手くいってるみたいだね。彼女は気が付いていないようだ」

 

「はい、おかげさまで」

 

「しかし君がその気であるのなら私の体など好きにしても……」

 

「はいはい、話はいいから部活の作業だ」

 

彼女を押し戻すと俺は自分の席に戻る。すると彼女はクスッと笑ってパソコンに向かった。

 

それからしばらく部室にキーボードを打つ音だけが響く。たまに先輩が鼻歌を歌うくらいだろうか。

なんてことない部活動の光景。

 

こんな日常に秘匿されるべき秘密などもうないのだ。

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