がーりっしゅみみっきずむ!!!〜俺の彼女はどこにでもいてどこにもいないです。見つからないから〜 作:囚人番号虚数番
「はー……昨日のあいつ、何だったんだ」
俺はあれからずっと木目の事について考えていた。彼女と俺は昨日話したのが初めてだ。しかし何故だか興味が湧いたのだ。これが恋だろうか?
冗談はさておき、彼女に変なものを眺めるような興味を彼女を持っている。建前としては先日の出会いから彼女の異常だがどこか不思議な嗜好が何となく気になったからだ。下心を含めると外見事態は悪くないから関わっても悪くないかな。何だかんだで妹みたいな感じで可愛いし次会う時にはもう少し優しくするのも悪くないかもしれない。
……決してストーカーやロリコンではない事はここで宣言しておこう。
友人の伝手を頼りに一日彼女について調べた結果俺が予想以上に不思議な人物だという事が知れた。彼女は確かに不思議人物だ。これといった友好関係を持たず部活動にも所属しない。身近な人物とはまったくもって無関係である。陽キャ組っていう訳でもないらしく陽キャでも陰キャでもない完全に孤立した人間である。
よって彼女は学校で廊下で見られる姿が情報の殆どを占める。だがその情報も数少ない。
という訳で調査を始めて一日経過、今は清掃の時間だ。木目の調査に協力したお礼として友人の分の掃除も請け負った。まあいつもより少し時間が掛かる位だし楽な仕事だ。今はゴミ捨て場にゴミ袋を輸送している。相変わらず一日で随分とゴミを出す物だとその質量を肌で感じながら運ぶ。
ゴミ捨て場に到着して袋の山にゴミ袋を放り投げる。袋が潰れると同時に独特な匂いがするから逃げるようにその場から離れる……が、ふとゴミ捨て場に放置されたごみ箱が気になった。蓋つきで腰ほどの高さある普通のごみ箱だ。
……まさかな。
試しに放置されたごみ箱を開いてみた。得も言われぬ埃臭さが鼻をつく。俺は恐る恐る中を確認する。するとそこには見覚えのある昨日の段ボールが捨てられていた。まあ、こんな都合よくはいかないか。
俺は一度蓋を閉めて大きくため息を吐く。そしてもう一度開けてみる。やはり中には箱の紙屑だ。
「戻るか」
少し残念な気持ちで俺は踵を返す。しかし、視界の端で何かが動いた気がした。振り向くとそこにはこれまた廃棄された錆びたロッカーだ。
角に立てられたまま雨ざらしで放置されている。この学校では生徒が使う用具は定期的に業者が点検に来るので鍵がかかるタイプのロッカーは無い。だからこういったものは放置されっぱなしなのだ。俺は興味本位でロッカーの扉に手をかける。特に抵抗もなく開くと……
「おお?また出会うとは」
中にいたのは昨日会った少女、木目だった。彼女は驚いた様子も無く平然とした態度で言う。俺は驚きの声を上げる事すら出来ずに固まってしまった。
彼女は俺の反応を気にせず口を開く。
「いやぁ、君はいつでも私の事を見つけてくれるな」
彼女は笑いを含んだ声色でそう言う。俺は未だに状況が飲み込めず困惑していた。
「あの……なんでここにいるんですか?」
やっとの事で絞り出した言葉がこれだった。彼女は無愛想な表情で答える。
「趣味だ」
彼女はさらりととんでもない事を言った。俺は思わず聞き返してしまう。
「それは……まあ、凄い趣味だな」
俺が苦笑しながらそういうと彼女は不満げに頬を膨らませた。
「もしかして私を変質者とでも考えているのか?」
彼女は拗ねる様にそっぽを向いてしまう。昨日もそうだったけどこの人は思った以上に子供っぽいらしい。
「すまん、悪かったよ」
俺の言葉を聞いて彼女はこちらに向き直り、満足げに微笑む。
「うん、よろしい。許そう」
そう言って彼女はどこかに去ろうとしていた。俺は咄嵯に彼女の腕を掴む。
彼女は不思議そうな顔で振り返った。彼女は突然の事に首を傾げる。
どうしようか。俺は内心焦っていた。彼女を引き留めたのはいいが何を言えば良いのか分からないのだ。引き止めたはいいが何も考えていなかった。とりあえず何か言わなければと思い、適当な話題を振る。
「えっと……どうしてロッカーの中に居たんだ?」
我ながらアホな質問だと思った。彼女は呆れた様な顔をして答えた。
「狭ければ大体それでいいではないか」
何となく予想通り過ぎて逆に面白みがない回答だった。俺は彼女の手を掴んだままだった事を思い出し手を離す。彼女は名残惜しそうに自分の掌を見つめている。
やっぱり彼女とコミュニケーションをとるのは難しいのだろうか。俺は気まずさから視線を逸らす。もっとこう時間をかけたり、何とかして友人からの紹介を待つべきだっただろうか。そんな後悔が頭を過る。
すると彼女は唐突に何かを思いついたかのように呟いた。
「しかし……もしかして君は私に興味があるのか」
彼女は何故か得意げに胸を張る。俺は慌てて否定する。
「ああいや、そういう訳じゃないです」
つい大きな声で叫んでしまった。彼女も少し驚いたような様子だ。少しだけ申し訳なさを感じつつも会話を続ける。
「そうか。私以外こんな物に用があるとは思えないけれど」
彼女がジト目で聞いてくる。その眼差しはまるで不審者を見るかのような目つきだった。
流石に誤魔化せないか。まあそりゃそうだ。実際に彼女に興味があったのだから。俺は諦めて正直に話すことにした。
「実は昨日偶然あなたと出会って、ちょっと気になって調べていたんですよ」
「成程、気持ち悪いな」
彼女は蔑んだ目で俺を見下す。言い逃れできない上ストレートに言われると流石に傷つく。しかも身長は俺が高いからか絵面は完全に小学生に叱られている高校生だ。校内でなければ不審者扱いされただろう。
「しかし私も人の事は言えないな。私もつい昨日見出した境地がある。君、こちらへ」
彼女は俺の手を引きロッカーを開く。これはまさか昨日みたいに一緒に入る流れか?彼女がどうするのか出方を伺っていると彼女は俺の後ろに回り込んで……
どっ!
「うおっ!?」
俺を後ろから押してきた。勢いのまま体はロッカーの中に入り、更に彼女が俺に密着してから扉を閉める。またもや彼女の柔らかな感覚が俺の足元に伝わる。確かな彼女の心拍がリズムが体に感じ、息遣いまで聞こえるほどに近い距離に居る事を実感させられる。
俺は動揺を隠せずにいた。心臓は激しく鼓動し、体温は上昇していく。この狭い空間では彼女の香りが強く鼻腔を刺激する。落ち着け俺。平常心を保て。
彼女は無言で俺を抱きしめるように体を押し付けてくる。身長差のせいで彼女は俺の腰を掴んで引き寄せるような体勢になっていた。彼女の吐く息が耳元にかかりこそばゆい感触に襲われる。
そしてまたもや唐突に口を開いた。
「ふむ……やはりロッカーの中というのはなかなか良いものだな」
彼女はどこか満足げな表情でそう言った。
「あの……近いです。思いっきり体が……」
「ああ、だがこれでいい。埋め尽くせない凹凸を比較的柔軟な物で塞げば密度が上がる。当たり前なのに一人だったから気が付かなかったよ」
彼女はそう言って笑った。この人は本当に変わっていると思う。普通ならこういう状況になれば照れるなり焦るはずだろう。それどころか嬉々としてほぼ他人の俺を抱き寄せている。一体どういう神経をしているんだか。
「暗所での孤独とは心細いのだよ……君であればまた見つけてくれるだろうし」
5分ほどして彼女は満足したのかようやく離れて出て行った。俺はやっとの事で呼吸を整える事ができた。
「しかしどうにも癖になりそうだ」
彼女はとても楽しげだ。俺は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。彼女は再び何かを思い付いたようでこちらを見つめて来る。
「そういえば説明がまだだった」
彼女はそう言うと俺を見つめる。
「君も私も似ているよ。お互い好奇心で動く時は盲目的だ」
俺は首を傾げる。何が似ているというのか。
「昨日君を引き込んだのだって『ここで手を引いたどうなるか』気になったから」
彼女は得意げに笑う。それは悪戯っぽい笑みではなく、何かを楽しむような微笑みだった。
「でも今日は違う。偶然にも君が開いてくれたから引き込んだ」
彼女はそう言って俺に手を差し伸べる。俺は思わずその手を取ってしまう。
「だから君に提案だ。次から私が隠れる時、たまには同席してくれないか?君ならきっと見つけるしな」
俺は呆気に取られて固まってしまう。彼女の言っている事が理解できずに混乱してしまう。つまり今みたいに一緒に狭いところに入れって事か?
彼女は不思議そうな顔で俺を見つめる。
「駄目かい?私としては君が居れば色々と捗りそうだ」彼女はどこか期待に満ちた瞳をしていた。
「いや、駄目でしょ。高校生の男女が密室で二人きりとか」
俺は冷静に指摘する。そもそも犯罪臭しかしない。
すると彼女は少し残念そうな顔をして呟いた。
「それもそうか」
俺は内心ほっとしていた。いくら何でも犯罪者になるのは御免である。
「せめてそういうのはもっと親しい仲だったり、それこそ彼氏とか出来たらにしましょう」
俺の言葉を聞いた彼女は少し考え込むような仕草をする。すると突然何か思いついたかのように彼女は呟いた。
「分かった。じゃあこうしよう。私は君が好き、これで問題は解決する」
俺は開いた口が塞がらなかった。何をどうしたらそういう結論に至るのだろうか。俺は慌てて否定しようとするが、その前に彼女が言葉を続けた。
「私はまだ恋愛というものがよく分からない。幸い君の事は多少知ってはいる。二人でこれから勉強していこう」
彼女は自信満々に言い放つ。その様子はまさに無邪気な子供そのもので、まるで何も疑っていないようであった。
「という訳で、これから頼むよ」
彼女はにっこりと笑って俺を見上げる。俺は諦めて溜息をつく。この様子だと恐らく折れないだろう。それに俺自身も彼女の事を嫌いではない。寧ろ好ましく思っている方だ。
「まあいいか……分かりましたよ」
俺は半ば諦めたように了承した。