がーりっしゅみみっきずむ!!!〜俺の彼女はどこにでもいてどこにもいないです。見つからないから〜   作:囚人番号虚数番

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休日にもやってくる箱入り

現在の曜日、土曜。休日である。部屋の壁掛け時計は朝の十時を指し示しベッドの中で経過を見届ける。日は登り、優しく部屋を照らし春の暖かな陽気を形成する。

 

prrrrr  prrrrr

 

しかし携帯電話の着信音がその静寂を破る。眠い目を擦りながら枕元電話を取った。

 

「もしもし、私だ」

 

「……」

 

「返事がない。もしかして意図せずモーニングコールを送ってしまったか。それなら失礼」

 

「ああ、全くもってその通りだよ畜生」

 

寝起きの機嫌の悪さから普段よりも口調が荒い。今日は親のいない休日だからゆっくり寝ていたいのだ。最近の心労もあるし特に休日は楽しみであったのに朝からこのザマだ。

 

少し憎く感じる声に苛立ちを感じながらリビングに向かう。棚からシリアルを取って雑な朝食を用意する。やはり手っ取り早い朝食にはこれが一番である。スマホ。スピーカーにして机においた。

 

「ねえ、今日は一日予定は空いている?」

 

「暇だ。ついでに親もいない」

 

「好都合。私も暇だよ。遊ぶ?」

 

「別にいいけど……何するんだ? 駅前で映画でも見に行くか?」

 

「いいや、君のお家に行きたい」

 

俺の家に来たいとは珍しい提案だった。家の前までは勝手に来たことはあれど彼女が家にきたことは一度もない。何か用事でもあるのかと勘繰ってしまう。

 

「別に構わないぞ。ただ、掃除とかしてなくて汚いかもしれないけど大丈夫か?」

 

「うん、問題ないよ。じゃあ、一時間後に伺うね」

 

そう言って電話を切る。そして時計を見る。今は10時半頃なので1時間は余裕があるだろう。さて、その間に身支度を整えておくことにする。

 

俺は顔を洗い歯磨きをして服を着替えた。そして髪を軽く整える。が、ここでもう一度携帯の着信が鳴る。

 

「聞き忘れてた。君って制服好き?」

 

「……お前、まさか制服着てくるつもりじゃないだろうな!?」

 

彼女のことだからやりかねないと思った。流石にそれは困る。まだ高校二年生なのだ。制服を着て街に出るなんて恥ずかしくてやってられない。

 

「冗談だよ。ちゃんとした服着てくから」

 

ほっとすると同時に安心した。どうせいつも通りの格好してくるのだろうと予想していたからだ。

 

それから三十分後。インターホンの音と共に彼女はやってきた。カメラ越しの玄関先にはいつもよりラフな服装をした彼女がいた。

 

肩出しのシャツにショートパンツを履いている。……が小学生並みの身長だからか少しお洒落な小学生にしか見えない。キッチリした制服の姿とはまた別の魅力があった。思わずドキリとしてしまう。

 

俺も玄関先まで出向いて彼女を出迎える。

が、しかし玄関の扉を開けた瞬間、俺は固まることになる。玄関先に立つのは木目さん……の姿をした段ボール製の板。

 

「デコイだこれ!?」

 

なんでこんなところに!? 疑問が尽きないがひとまず置いておくことにしよう。一体本人はどこに……?

 

とりあえず部屋で彼女か、の連絡を待つか。リビングに放置したスマホには木目さんからメールでの連絡が入っていた。そこには「もう中にはいってる」と簡潔な文が送られていた。

 

急いで自室に戻ると一見変化はない。しかし彼女の連絡の通りならベッドの下に当たりに彼女がいることになるだろう。

 

……俺はベッドの下を覗く前に自身の布団を捲ってみた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

……うん、何となく自ら居場所をバラすのは無いかなとは思っていたのだ。よく見ると頭に猫耳カチューシャをつけているし尻尾も生えている。所謂ネコミミ少女になっているわけだ。無防備な姿で眠っている。可愛い……。写真撮っとこう。パシャリと一枚写真を撮ったところで彼女の目が開く。寝ぼけ眼でこちらを見つめてきた。

 

「おはよう、カワサキ」

 

「おはよう、木目さん」

 

俺達の間には何とも言えない空気が流れる。彼女は今の状況を理解していないようで首を傾げていた。俺が彼女に何を言いたいのか分かったのかすぐに言葉を発する。

 

「すまぬ。私も初めはベッドの下るつもりだった。けどね、誰しも布団の誘惑には勝てない。だから勝手に使わせて貰ったよ……ふぁあ」

 

彼女は欠伸を一つすると立ち上がり背伸びをする。その際に平たい胸元が見えそうになるが咄嵯に目を逸らして回避する。危ないところだった。

 

しかしなんか話し方に違和感がある。独特な緩さを持った少し子供っぽい喋り方だ。

 

「なあ、木目さん。その口調どうした?」

 

「寝起き、頭が回らないから」

 

そう言って上目遣いで見てくる。この口調の方が親しみやすいのだが、これはこれで好みだ。というかずっとこれでいい。暫く見守っているとまたもや彼女は布団にもぐり始めた。流石に11時になって2度寝は不味いだろう。彼女を無理やり起こして家で遊ぶことにした。

 

ー--

 

「初めてのゲームだが案外面白いな」

 

「そうだな。けど壁に当たり過ぎじゃない」

 

俺達は今、テレビゲームの対戦をしている。ジャンルはレース系である。二人でプレイしているので協力プレイも可能だ。俺の操作する車と木目さんの操る車がコース内を走り抜ける。

 

「あ、崖から落ちた」

 

木目さんの操作していた車はコースアウトしてしまう。ハンドリングが上手くいかず苦戦しているらしい。彼女のゲームセンスが悪いのか感覚がつかめていないと本人は苦笑している。が、そろそろ俺の手加減が効かないレベルに到達しつつある。

 

「よし! 勝った!」

 

「おめでとう。経験の差が生きているな。羨ましい限りだよ」

 

木目さんは悔しそうにしている。うーむ、これは本格的に彼女に操作を教えるべきだろう。彼女に俺のコントローラを貸してみる。

 

「まずはプレーを観察したいからちょっと走ってみて」

 

そう言うと彼女はコントローラーを握りレースを開始する。スタート直後画面のからアクセルを大きく踏み込み圧倒的な加速でスタートダッシュを決める。そして第一コーナーに差し掛かっても速度を落とすことなくそのまま突っ込んでいく。そして勢いのままカーブを曲がっていく。

 

「おい、木目さん!? それは無理だろ!?」

 

「? これでは何か不味いのか」

 

曲がりきれずダートに突っ込んで壁に衝突。がりがりと音を立てて減速していく。それでもなおスピードを落とさずに走っていたためその間にCPUが横を走り去った。

 

「……駄目だな。やはり私はこういうものは向いてないかも」

 

「成程、早急に基礎を叩き込んだ方がよさそうだ」

 

こうして俺は彼女への特訓を始めることになった。

 

「はい、そこもっと早くハンドル切って」

 

俺は今、木目さんに運転を教えている。というのも彼女があまりにも下手なので何とかしなければと思ったからだ。

 

「こ、こうか?」

 

木目さんはぎごちなくハンドルを切る。が、明らかに遅すぎる。

 

「ううむ……どうにも感覚がつかめない」

 

彼女は困ったように頬を掻く。俺はそれを見て頭を抱える。このままだと俺が教えることなんて何もない。どうしたものか……。すると彼女は俺の膝の上に乗ってきた。突然の行動に動揺するが、彼女は気にすることなく体を預けてくる。

 

「木目さん!? 一体何を!?」

 

「もう直接指示してくれ。ほら、一緒にコントローラを握れ」

 

そう言いながら彼女は俺の手を掴んでくる。彼女を抱きかかえるように手を回されて、そこから柔らかな感触が伝わってくる。俺はその手を振り払うことが出来ずに結局、彼女の指導をすることになった。

 

「とりあえず練習だ。まずはゆっくり走らせてみよう」

 

俺は木目さんの後ろに立ち、彼女の手に自分の手を重ねる。細く温かい指を包み込むようにしてしっかりと固定させる。

 

「まずはここのボタンを押して」

 

俺の指示に従ってボタンを押す。途端に画面内の車が動き出す。ゆっくりとした速度で走行する。

 

「じゃあ次はここからここまでのコースをなぞっていこう」

 

俺の言葉に合わせて彼女は画面上のコースを走る。がしかし、やはり木目さんの運転は危なっかしい。コースアウトして壁に激突。木目さんは落ち込んでいる様子だった。

 

もっとしっかりコントローラを制御できればいいのだが。俺が更にコントローラを固定するために体勢を変える。すると彼女からふわっと甘い香りが漂ってくる。

 

「(ちょっ!?めっちゃいい匂いする!?)」

 

「おお!見てみろ、今度はしっかり曲がれたぞ」

 

彼女は嬉しそうな表情を浮かべる。が、俺の心はそれどころではない。彼女の体の一部が俺に触れており、柔らかいものが押し付けられている。この密着具合はまずい。何がとは言わないがやばい。俺の心臓がバクバクと鼓動する。

 

「カワサキ?どうしたんだ?」

 

木目さんが不思議そうに見つめてくる。この距離でその無防備な視線は反則だ。俺は思わず目を逸らす。木目さんは首を傾げながらもゲームを再開し始める。

 

「カワサキ? おーい、カワサキ?」

 

木目さんはこちらの様子を窺っているようだ。俺は気恥ずかしくなり、彼女の頭を撫でた。彼女は少し驚いたような顔を見せた後、にへらと微笑む。まるで猫のように目を細めて気持ちよさそうだ。って、少し軽率に動きすぎたか?しかしついやってしまったけれど彼女は喜んでいるようだし別にいいか。

 

「木目さん、ちょっとそのまま動かないでくれ……」

 

「? ああ、ゲームに集中しなくてはな」

 

彼女は俺の言う通りじっとしている。俺が教えたかいがあってか彼女のドライビングテクニックは上達している。木目さんは真剣な眼差しで画面を見据える。とはいえマイナスが普通になってくれただけなので気合が入りすぎている気もしなくもない。

 

 

まあ、これで最低限楽しめるようになったならそれでいい。彼女には退いてもらって普通にプレイを再開しよう。そう思い、彼女に声を掛けようとすると、木目さんは俺の方に体重をかけてきた。

 

「木目さん、悪いけどちょっとどいてくれ」

 

俺がそう言うと木目さんは首を振る。そして俺の腕を抱きしめて放そうとしない。

 

「駄目だ。ここがいい」

 

木目さんは俺の体にぴったりとくっついて離れようとしなかった。彼女は俺の胸に顔をうずめると、甘えるようにすり寄ってくる。

 

「包容感、だろうか?とにかくここが落ち着くのだよ」

 

木目さんは俺の服を掴み、ぎゅっと抱き着いてくる。

 

「わ、分かったよ。そこでいいから」

 

俺は観念して彼女の好きにさせることにした。木目さんは満足気に笑みを浮かべると再び画面へと向き直った。

 

ーーー

それから暫くしてゲームを変えて1時間経。普段俺がするゲームに興味が湧いた木目さんはニューデータのオープンワールドの世界を楽しんでいる。しかしゲームでも閉所を求めておりタンスやトイレを見かける度に扉を見つけては入っていた。

 

俺も彼女を抱きかかえる状態に段々慣れてきた。最初は緊張していたが今はもう大丈夫だ。それに木目さんの温もりを感じるのも悪くない。むしろ心地よくなってきたかもしれない。

 

俺は木目さんに気付かれないよう、こっそりと彼女を眺める。ついでに木目さんの髪を弄ぶ。さらさらとした髪質に心奪われ中々に止められない。暫くの間そうしていると木目さんが口を開いた。

 

「んっ……あっ……」

 

艶めいた声が漏れる。彼女の方を見ると耳まで真っ赤にして俯いていた。

 

「すまない、嫌だったか?」

 

俺がそう聞くと彼女は小さく首を振った。

 

「いや、そういうわけじゃない……ただ、その……なんだ……くすぐったくてな」

 

彼女は頬を紅潮させながら答える。

 

「そ、それより私の髪で遊んで楽しいのか?」

 

木目さんは不思議そうに聞いてくる。俺は正直な感想を述べた。

 

「いや、手持ち無沙汰なだけ」

 

「……」

 

俺の言葉を聞いて彼女はジト目で睨んできた。

 

「悪かったよ」

 

俺が謝っても彼女はしばらく口を利かなかった。どうしたものかと考えているうちに木目さんの方から話しかけてくれた。

 

 

 

「……安堵と興奮、か。時が経つのは早いものだ」

 

「木目さん?」

 

「いいや、何でも。ゲームはいい物だな」

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