がーりっしゅみみっきずむ!!!〜俺の彼女はどこにでもいてどこにもいないです。見つからないから〜 作:囚人番号虚数番
週明け、月曜日の昼休み。俺は木目さんに呼び出され屋上近くに訪れていた。
日曜の夜に俺はいつものように過ごしていると「何故か」寝間着姿で部屋にいた木目さんと会ったのだ。
「突然だがカワサキ、明日のお昼に用事はあるか?」
「あの、今深夜帯ですよね。何で音もなく俺のベッドの中にいるんですか?心臓止まるかと思いましたよ」
「普通に入った。それより君はどうなんだ?答えるまで私はこのベッドを占領し続ける」
「空いてます。だから早くそこをどいて下さい」
「ありがとう。明日屋上前の階段の上に昼休みに会おう。昼食はそれと持ってこないでくれ」
それを最後に彼女は扉から部屋を出て忽然と姿を消した。ミステリアスな雰囲気とは相反する可愛らしいピンクのフリフリには中々嬉しい物があった。が、問題は別の話である。約束通り俺は何も持たず昼休みに屋上前の階段にやってきた。
ここには滅多に人が来ない。何故ならこの学校の屋上は封鎖されていて使用が出来ないからである。だから多くの生徒からは無用であり故に人は寄り付かない。雰囲気だけなら木目さんがいてもおかしくはない。が、彼女好みの閉所も無いからいないだろう。
屋上への道を塞ぐ扉に手をかける。当然開く筈も無く施錠されたままであった。当たり前だが封鎖されている場所がそんな簡単に入れる筈はない。約束の場所とはいえここは一度引き返して連絡を入れるべきだろうか。階段を降りつつ俺は携帯を取り出す。
が、その前に俺の名前を呼ぶ声が廊下から聞こえた。
「おーい、こんな所でなにしてるの?」
「あ、先輩」
ノートパソコン片手に望月先輩が駆け寄ってきた。ここは主に俺と先輩には無縁の3年の教室のある階だ。彼女は恐らく図書室やパソコン室目当てで常住している民だからいいとして俺はここはあまり使わない。
「実は木目さんに呼び出されて」
「へー、彼女さんにねー。それじゃ私はお邪魔しない方がいいのかな?」
「あー、どうしましょう。先輩って屋上入った事あります?」
「え?ないけど。もしかして入れたの?初耳なんだけどそれ!ちょっと見てくる!」
彼女は俺の言葉を待たずに屋上の階段に走って行ってしまった。ああ、また変な物目的で突っ走って行った。呆れながら歩いて彼女を追いかける。
階段を上り右往左往する先輩をどう慰めるか考えていると俺は異変に気が付く。階段の上から風が吹いており誰かのいる気配がしない。慌てて駆け上がると扉は開いていた。
「うわー!ここが屋上!青春って感じだね」
そこには屋上の風景を楽しむ望月先輩の姿があった。
「何かテンション高いですね」
「そりゃ、私だって女の子だし青春なシチュエーションに憧れてるんだよね。それにほら、折角だから一緒にいたいし」
……この人の意外とロマン至上主義な側面は今に始まった事ではない。最近増えた良く分からないアレよりかは扱いやすい。それより木目さんは一体どこに?周りを見渡すと……特に隠れられそうな場所はない。
すると先輩は屋上の柵に近づき身を乗り出すように下を見た。
「おぉー、絶景かな絶景かな」
呑気に景色を見る彼女に俺は声を掛ける。
「あの、木目さんはどこに行ったんですか?」
「ん?あの子もここにいるの?でもさっきから全然姿が見えないよ」
おかしい。いくらなんでもここまで来て気付かれない訳がない。なのに彼女の姿は見当たらないのだ。嫌な予感が頭を過った時だった。
携帯に一通の連絡が入る。木目さんからだ。
『カワサキ、早く』
メールの内容と共に添付ファイルが送られてくる。その画像は屋上の俺達を後ろから撮影した姿である。角度から恐らく入口の上から撮影されたようだが……何もない。
「あれ?誰もいないよ?」
先輩も同じ事を思ったのか首を傾げていた。俺はもしやと思い木目さんに電話をかける。
prrrrr prrrrr
ガタッ
電話は繋がったが切られてしまった。だが着信と同時に入口の上から物音が確かに聞こえた。俺は梯子を伝い急いで屋上に向かう。
そこには給水塔と給水塔の壊れ、廃棄されたタンクだった。俺は壊れたタンクを中の中を調べると
彼女は壁際に座り込み膝を抱え込んでいた。
「木目さん、大丈夫ですか」
「……平気では無いな」
そう言いつつも彼女はゆっくりと立ち上がり制服についた汚れを払う。平気ではないと言いつつ身体的には目立った変化はみられないが。
「何があったんですか?」
彼女は梯子を下りつつこちらに視線を向ける。
「少しばかり驚いただけだ。昼食の指示は守ったと思ったら女性の方を連れてくるとはね、やはりゲーム部らしくバグには気を付けないとだな」
そして彼女はいつものより不機嫌そうに呟く。
「……私はただ、君と二人きりになりたかっただけなんだがな」
「木目さん?」
「何でも無い!」
……対応もいつもより遥かに雑だ。もしかして怒ってる?
梯子を下り切り適当な段差で座る。隣には木目さんと望月先輩、俺は彼女らに挟まれている。望月先輩は場所が変わったからかいつもよりキーを打ちこむ速度が速い。一方で木目さんは2つの弁当箱を持っている。もしかしてお昼を一緒に食べたかったのだろうか。
「(素直じゃないけど……それはそれで可愛いなこの人)」
そんな事を考えながら俺は彼女から渡された弁当を開ける。中身は唐揚げ、卵焼き、ほうれん草のおひたし、プチトマト、白米というメニューであった。彩りもよく栄養バランスにも優れた弁当だ。
「美味しそうだねー、そのおかず」
望月先輩が覗き込んでくる。効率重視で万年のコンビニ食の彼女には珍しい物だろう。
「じゃあ、頂きます」
「駄目だ、やっぱり返してもらう」
「え?」
俺が食べようとした瞬間に木目さんが俺の手を抑え箸を奪う。そして唐揚げを取り俺の口元に近づけてきた。
「はい、あーん」
「え?」
「二度は言わない。手が疲れる前に食べてくれ」
俺は素直に口を開けてそれを頬張る。味は普通だ。衣はしっかりしていて歯ごたえがある。肉汁がじゅわっと溢れ出しご飯が進む味付けだった。
「どうだい?」
彼女が感想を求めてきたので俺は率直な意見を言う事にした。
「とてもおいしいです」
それを聞くとさっきまでの不機嫌さが無かったかのように彼女は満足そうに微笑む。
「そうか、口に合ったようで良かったよ。態々作らせたかいがあった」
俺が咀噛している間に木目さんはもう一つのお弁当に手を付ける。そちらは彼女の分らしい。
「私が作ったんだ、そっちの卵焼きとか自信あるぞ」
そう言って彼女は俺の方に卵焼きを差し出してくる。
「はい、あーん」
「(え、まだこれやるの?)」
流石に恥ずかしくなり俺は周りを見る。するとニヤついた望月先輩と目が合う。
「(ちょっ、助けてくださいよ!)」
俺は助けを求めるように彼女の方を向くが彼女はパソコンを操作していてこちらを見ていない。俺は祈るように彼女に恨みを込めた視線を送る。
「……あーんは?」
彼女は上目遣いで見つめてくる。
「……いただきま「失礼!」
望月先輩が割り込んできた。
「その卵焼き貰うよ」
そう言うと俺を押しのけて彼女が差し出した卵焼きを食べる。
「うん、甘くておいしぃー」
先輩は幸せそうな顔をする。まあ、良く分かるよ。味は美味しいし見た目も良い。俺の恥もどうにか出来たし助かった。
「んんん?もしかしてこの保存料の味のしない感覚、作ったなコイツ!」
「え、そうですか?木目さん、どうです……」
木目さんの方を見ると彼女はいつの間にか彼女自身の弁当を食べていた。
「ああ、確かに甘いなこれは」
木目さんは淡々と答えた。
「……そうだ、すっかり失念していた。そろそろ時計を確認した方がいいかもしれない。望月先輩だったか、今何時ですか?」
「え、12時15……ってもうそんな時間!?」
望月先輩が答えた瞬間に木目さんは立ち上がった。
「ちょっと!早く食べないと昼休み終わっちゃうよ!」
「マジっすか!?木目さん、箸!」
「ふふ、慌てなくてもいい。ゆっくり食べようじゃないか」
そう言いつつも彼女は弁当を素早く口に放りこんでいく。
ー--
弁当を食べ終え空の弁当箱を木目さんに渡す。彼女はそれを大事そうに抱えている。
結局あれから俺は木目さんの箸を使い卵焼きやほうれん草のおひたしなどを食べた。というか途中先輩が卵を食べたあとそのままの箸だったから関節キスだったな。そう考えるとちょっとドキドキしたが先輩は平然としていたのでそういうものなのかと思った。
ちなみに木目さんから貰った弁当だが、望月先輩が羨ましがったので半分あげたら喜んで食べていた。彼女らしい元気な笑顔を浮かべながら食べる姿を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。
「じゃあまた部活で!」
弁当箱を抱えながら手を振る彼女を見送り俺は教室に戻った。
「…………」
「…………」
屋上には今、望月と木目の女二人だけ。昼食を終えた二人は先程から一言も発さずにただ黙っている。
沈黙を破ったのは望月である。
「メールアドレス、どうやって知った?」
「……別に普通教えてもらいましたよ」
「そうかなぁ。私、ケータイのアド以外は教えた覚え無いけど?」
木目は少し動揺するが、すぐに冷静になる。
「……まあ、手段は教えられないな。だから君はこうして残ったのだろう?」
「パソコンで突然メールが送られてきたと思ったら君からだったからね。『話したいから今すぐ食事を切り上げさせる。話を合わせろ』って、ちょっと物騒じゃない?」
「それはすまなかったな。でも、こうでもしないと君は私の誘いに乗らなかったろう」
木目は表情を変えずに続ける。
「さて、本題だ。望月、君は何故私の邪魔をする。君がここに来ても何も有益な事はないだろう?」
「そうだねぇ。でも皆で騒いでた方が楽しいじゃん」
「私は楽しくないな。むしろ迷惑だ」
木目ははっきりとそう告げる。その顔はいつもの余裕のある雰囲気とは打って変わり、焦りを感じる暗いものだった。
木目は普段見せないような冷たい眼差しを向ける。
「君、彼に何かするつもりかい?」
「いや、何もしないよ。ただ……まぁね、意地悪だった。嫌だったなら私も止めるよ」
望月は何も悪びれる事なく答える。木目はその態度を見てため息をつくと口を開く。
「……分かった。今回は許そう。やっと手に入れた大切な彼だ。二度目は無いと思え」
「へぇ、もっとごねると思ってたんだけど意外と素直なんだね」
「私もそこまで鬼ではないよ。ただ……」
木目が言葉を区切ると空気が変わる。彼女の体からはまるで化け物のようなオーラが出ているように見える。そしてその鋭い視線は真っ直ぐに望月を見つめていた。
「次、私を邪魔するのであれば容赦しない」
「ッヒ!?」
望月は思わず後ずさりする。木目から感じる殺気、それが彼女に向けられたものかそれとも自分に向けてのものかは分からない。しかしどちらにせよ彼女は動けなくなっていた。
「自慢じゃないが『隠し場所』には自信があるんだ。何なら今すぐ連れて行こうか」
「っ……!」フルフル
望月は一心不乱に首を横に振る。命乞いにも似たその姿に木目は再びため息をついた。
「分かったならいい。私は行くよ」
タッタッタ……
木目が立ち去ると同時に望月は膝から崩れ落ちるように座り込む。
「(なにあれ、ヤバすぎでしょ……)」
彼女は震えが止まらない。恐怖で体が動かなかった。
「(人は見かけによらないとは言うけどまさかあんなに怖い人だとは……でもこれで確信した。多分知っちゃいけないんだ)」
彼女は立ち上がると屋上を後にする。