がーりっしゅみみっきずむ!!!〜俺の彼女はどこにでもいてどこにもいないです。見つからないから〜   作:囚人番号虚数番

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箱の中の禁域

今日は珍しく図書室にいる。今は放課後で普段はこの時間は部活がなければ帰宅をしている時間だ。本にも人並みにしか興味はない、用があるのは自習スペースである。最近自宅での勉強ができないのだ。 

 

問題の渦中は勿論木目さんである。あまり言いたくはないけれど最近の彼女は少しおかしい。元からおかしいというのは置いておいて元から異常なまでに執着する傾向が更に強まっている。

 

まず帰宅すると部屋にいる。ベッドや棚、机の下、果に天井裏。本当にどこにでもいて驚かされるのにも慣れてきた。最近は俺の漫画を読んでいたりゲームをしていたりする。見ているだけだとそんな彼女も可愛らしいのだけど……

 

まあ、実はここまでは別に大した話ではない。本題はここからで家族も懐柔する気でいるらしい。ある日の自宅にて、彼女は俺の部屋で自分でもどこから出しから分からないアルバムの数々を広げていた。

 

主に俺が彼女と出会う前、幼稚園から小学生位の俺の写真を見ていた。理由を聞くと好きな人のことは知りたいと思うのが筋だろう、とか言っていた。しかし友好関係まで根掘り葉掘り聞くのはどうかと思う。

 

さて、という訳で洗い浚いにされる前に逃げるように俺は図書室にやって来たのだ。実際学校という場所のおかげかいつもよりかなり集中できる。これならしばらくの間はここに通うのも良いかもしれない。ペンをスラスラ動かし問題を解きながらそう思う。

 

そうして勉強を続けて一時間が経過、集中がそろそろ切れてきた。情けない話だが勉強に関しては少し飽きっぽい、それに本に囲まれたこの場所なら楽しめるものも多いのだ。適当に面白い本を探しに席を立つ。

 

改めて図書室の蔵書のラインナップを棚を見ながら確かめる。しばらく見ないうちに品揃えがだいぶ良くなった。最近の小説が純文学からライトノベルまで揃い、どれも魅力的である。が、俺の好みではない。

 

……あ、「世界のバッグクロージャー大全」って本が入荷されてる。こういうのが読みたかった。棚から本を出し机に戻る。

 

「……?」

 

何か違和感がする。視線というか誰かから見られてる感じ?辺りを見回すが特に誰もいないし、そもそも図書室には司書と俺以外に人は居ない。首を傾げながらも本をパラパラとめくっていく。成程、表紙の通り中々にシュールで尚且勉強になる。

 

が、やはりそれよりもこの違和感は気になる。一体どこからするのだろう……まさかね。俺は恐る恐る机の下を覗く。

 

「…………」

 

「うわぁ?!な、木目さん!?」

 

そういう彼女の手元を見るとハードカバーの本を持っていた。どうやらこっちの方が得意らしい。まあそれはそれとしてだ。

 

「あのさ、さっきから見てたけどずっとここにいたよね?」

 

「ああ、君を観察していた」

 

「でも何で隠れてたんだ?」

 

「何度も言わせないでくれ、ただの趣味だ」

 

「いや、そうじゃない。何で態々気配がバレバレなのに隠れてたのかって」

 

俺の言葉を聞いて彼女は一瞬固まる。普段の彼女であれば隠れる場所はまだしも共通して気配だけは完全に消してどこにいるのかを全く予感させない。だから逆に今の彼女の行動が気になるのだ。彼女は指摘をされて小さく溜息をつく。

 

「私もまだまだ甘いな」

 

それだけ言うと彼女は席を立つ。その顔は何時もの余裕のある表情に戻っていたが何時もよりどこか焦りを感じる。まるで何かを逃さんとするかのように。

 

「木目さんってどんな本が好きなんだ?」

 

俺は空気を変えようと彼女に話を振る。

 

「基本的に物語であれば何でも、必要であれば純文学でもライトノベルでも漫画も読む。それでも基本は小説だ」

 

「へー、結構何でもなんですね(幼女みたいなのに教養はしっかりしてるんだな)」

 

「今失礼なこと考えなかったか?」

 

鋭い眼光で睨まれる。彼女は背が低いため迫力はないが威圧感はある。

 

「いえ何も考えてませんよ?どんな本を見てるか気になるだけです」

 

「ふむ、まあ良いだろう。そうだな……」

 

彼女は少し考える素振りを見せると指折り数えていく。

 

「思えば色々読んでは来た。恋愛系、これは男女問わず好きかな。次にファンタジー、これも好きだ。あとSFとかホラーとかサスペンスとかミステリーとかも好きだぞ。それから歴史物とか時代物……有名どころは一通りだな」

 

意外と幅広いジャンルを読んでいることに驚く。これだけ多くに手を出しているとどれだけの読書量があるのか恐ろしい。

 

「因みに君はどういうのが好きなのかね?媒体は問わない、この際アニメ漫画でもいい」

 

彼女が興味深そうな顔を向けてくる。確かに自分の好きなものを聞かれたら誰だって気になるだろう。俺は顎に手をやり、最近読んだもので面白かったものを思い出す。

 

「ん~、最近は推理小説が多かったですけど、やっぱり一番好きなのは冒険譚ですかね。あ、でもアニメとかだとロボットものも好きでした。後は……」

 

そこまで言って気づく。目の前の少女が期待するような目をしている事に。いや、別に悪いことではないのだけれど……少し恥ずかしい。

 

「えっと、一応漫画とラノベを少々……。最近だと異世界転生モノが好きです。あとは現代ファンタジーも」

 

そう言い終えると彼女は満足気に微笑みを浮かべる。

 

「成程、実に興味深いな。では君が好きなジャンルを教えてくれたお返しに私の好きな話を君に教えよう……君は聞きたいか?」

 

そう言うと彼女は席を立ち、俺の横に来る。そして耳元で囁くようにこう言った。

 

「私が君を求めるみたいに、ね」

 

心臓がドキリとした。彼女の声はいつもより低く艶っぽく、恐ろしかった。俺は咄嵯に距離を取ろうとするが既に彼女の腕が俺の肩に回されていた。

 

「君も飽きないね、いつも私でここまで興奮出来るなんて」

 

彼女は俺の隣に座る。

 

そういえば俺は彼女の好きな物を閉所以外には全く知らない。形式上であっても木目さんは彼女なのだ、無意味かも知れないけれど俺にも責任がある気がする。

 

「まあ、好きな話とはいえ実は只のノンフィクションなのだが。だが事実は小説より奇なりとも言える、ぜひ聞いてくれ」

 

彼女は俺の手にそっと手を重ねる。冷たい筈なのに何故か熱く感じる。

俺はその言葉を聞きながら、彼女の話を聞くことになった。

 

「彼はとある名家の跡取りで、唯一の男児だったんだ。山の上の広大な屋敷で彼は幼少期を過ごしていた」

 

彼女は淡々と話し始める。その語り口はとても落ち着いており、眠ってしまいそうな程に心地よい。

 

「しかしある日事件が起きた。彼が3歳の夏、彼が親戚の子供と屋敷で遊んでいた時に彼らは古い離れに入ったんだ。老朽化が激しく立ち入りを禁止された場所というのは子供の隠れ場所には打ってつけだったんだ」

 

木目さんはまるで子供に絵本を読み聞かせるように話す。彼女の話は続き、物語は進んでいく。

 

「月が上り大人たちが寝静まる夜、彼らはふたりだけで飛び出した。誰にも見つからない様に夜闇に紛れて離れの窓から中に侵入してまだ見たことの無い子供心のお宝を探した」

 

その情景を思い浮かべるとワクワクしてくる。まるで自分もそこにいたかのような気分だ。

 

「しかし残念な事に彼らは何ひとつ面白い物を見つけられず帰ったんだ。親戚も次の日の早朝に帰った」

 

彼女はそこで一度言葉を区切る。

まるでこれからが本題であるかのように。

 

「しかしその日を境に彼の生活は一変してしまった」

 

話が急に不気味になる。それは一体どういう事なのか、何故そんな事が起ったのか。疑問が頭を過る。

 

「親戚が帰った後に彼は行方をくらました。親戚の子供は決して口を割らず、それどころか離れの事も忘れてしまった。彼の家族は広大な家中を探し回ったそうだが結局見つからなかったらしい」

 

そこまで聞くと嫌な予感がしてきた。

 

「それから暫くしてだ。彼が見つかったのは3日後だ。離れの床が抜けた拍子に床下に落ちたらしく、そのまま栄養失調状態で見つかったらしい」

 

それを聞いてゾッとする。もし自分が同じ状況になったらと思うと想像したくない。

 

「しかも不運にも瓦礫のせいで声も届かない、むしろ3日で済んだだけ幸運だったともいえる……最も彼はその事件以降の扱いを考えれば幸運すぎたがな」

 

彼女は悲しげな顔を浮かべる。

 

「彼は瓦礫のせいで臓器のいくつかを損傷してしまったんだ。鋭く尖った床材が下腹部を突き、幸い動くことができないせいで相当量の出血は免れたがそれでもかなりの重傷だった」

 

いつの間にか俺は黙って彼女の話を聞いていた。おぞましい事件が語られているのは頭では理解している。なのに彼女の語りに釘付けになっていた。

 

「だが彼にはそれだけで十分すぎる程致命傷だったのだ。彼は跡継ぎだと説明したね、傷ついた彼の体は跡継ぎに相応しくないとして……」

 

俺はゴクリと唾を飲み込む。

 

「処分されたんだよ」

 

思わず息を飲む。まさかとは思っていたが、本当にそうなるとは思わなかった。

 

「勿論親族たちは猛反対した。いくら跡継ぎとは言えまだ幼い子供を、それもたったひとりの子を切り捨てるなど正気の沙汰ではないと。しかし当の本人は死にかけながらも笑ってこう言ったそうだ。『これでいいんだ、僕は元からこうだったでしょ?』って」

 

木目さんは目を瞑り、まるで自分に言い聞かせるように語る。

 

「話はこれで終わりだ。ご清聴感謝するよ」

 

彼女は俺の手を強く握ってくる。そしてゆっくりと瞼を開き、俺の目を見つめてくる。

 

「どうだったかな?私に惚れたか?」

 

俺は目を逸らす。彼女の目は俺の心まで見透かしているようで怖かった。それを見かねてか彼女はクスリと笑う。

 

「実はまだ一つ、締めのセリフが残っていてね。そ

れを言わないと締まらないんだ」

 

彼女は俺の顔に自分の顔を近づけてくる。そして俺にしか聞こえないように囁く。

 

「『ところで、君は覚えているか物心がつく境界の自分を』」

 

俺はビクりと震える。心臓の音が大きくなる。体が熱くなる。この感覚はなんだ。俺には分からない。

ただ凄惨さからくる感覚とは全く違う事は分かる。呆然としている内に彼女は図書室の出口の扉を開いていた。

 

「話疲れてしまった。今日は私は帰る。また今度、ね」

 

そう言って彼女は俺の前から去って行った。俺は暫く動けなかった。

 

Prrrrr prrrrr

 

静かな図書室に無機質な電子音が響く。佐藤からの携帯の着信だ。俺は電話に出る。

 

「もしもし」

 

俺の声は自分でも驚くほどに弱々しい。さっきあんな事があったから少し気分が乗らないのだ。

 

「随分と元気がないみたいじゃないか。いつもの馬鹿さはどうした。何かあったのか?」

 

「いいや、何でも。それより今図書室だからあと30秒待ってくれ」

 

一度連絡を切り荷物を纏めて廊下に出る。そして俺から佐藤に電話をかけなおしした。

 

「で、何の用だ?」

 

「木目さんの新しい情報が見つかったんだ。とは言っても俺自身も人づてに聞いた話だから信用に値するかは分からないけど」

 

何か凄くふわふわした情報だな。

 

「分かった。それでどんな内容なんだ」

 

「関係者か誰かは知らないけど『黒姫』ってのと関わりがあるらしい」

 

「誰だそいつ」

 

「さあ、俺から話せない。でも確実なのはまだ彼奴は黒姫って名乗る場所があるってことだ。そろそろ切るぞ」

 

俺は返事も聞かずに通話を切る。

 

黒姫……どこかで聞いた事があるような気がするが、思い出せない。まあいい、明日どこかで出会ったら聞いてみよう。俺は学校を出ると真っ直ぐに家に帰る。

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