俺らガンプラ楽しみ隊   作:ディニクティス提督(旧紅椿の芽)

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悪質なのはいらんの三話

『なんで…………どうして…………』

 

そう思ったのは、今日が初めてじゃない。もっと前から、ずっと前から続いている、悲しい連鎖。

でも、私は悪くない。ただ、自分の好きなようにしてきただけ、それだけなのに…………。

それなのに、なんで…………なんで私だけが!

もう嫌だよ…………やめてよ…………私のガンプラに手を出さないでよ…………。

お願い…………誰か、助けて…………。

 

 

 

 

 

「む?」

「どうしたの、急に」

「いや、俺のニュータイプなのかイノベイターなのかよくわからんところに声が聞こえてきた気がしてな…………」

「はいはい。それよりも、作業の手が止まってますよー」

「ぬおっ⁉ やべえ! 今週中にはテスト稼働させてロールアウトしないといけないのに!」

 

ちょうど俺とリンで、ガンプラの改造をしている時だった。俺の頭に声が聞こえてきた気がした。別に俺はニュータイプでもないし、イノベイターでもない。人の心を感じることはできないはずなんだがな。しかし、確かに俺の耳には聞こえた。弱々しくなってしまった声で『助けて』と、な。何だったんだろうか、今のは…………。

 

「というか、もうこれベース機の面影無くない? 殆ど別の機体になってるよ」

「いや、これでいいんだ。あ、パテとプラ板取って」

「はーい、っと」

 

現在行っている改造は相当な物だ。既に二機分のパーツが組み合わさって一つの機体になった物を、さらに強化している。この瞬間、自分の手で強化されていくガンプラを見ていると心が踊るのだ。というか、ガンプラは本来組み立てて楽しむ物だからな。これが普通の楽しみ方。

 

「肉抜き穴を埋めてーっと…………ところでさ、リン」

「何? あ、ここも合わせ目消していいよね?」

「いや、合わせ目は全部消せ。あのさ、うちの高校、ガノタ暗部出てきたらしいぞ」

「それマジ? また厄介なことになりそうだねぇ。あ、プラセメント無くなった」

「予備を継ぎ足せ!」

 

ガノタ暗部。まぁ、短絡的に言えば、自分の好きなように言い聞かせる駄々っ子の集まり。自分が気に入らない作品のガンプラを破壊、窃盗をする集団。ガノタ自体はいい人達もちゃんといるが、暗部の汚なさは普通じゃない。容赦無くボロクソいいまくった挙句に、対戦相手のガンプラを破壊する始末。その度に器物損壊罪により逮捕され、警察が多大な迷惑を受けているのが実態だ。

 

「さーて、改造パーツの接着も一通りきたし、あとはサフ吹いて塗装だけど、もう遅いから帰るね」

「おう、気をつけて帰れよ」

「それじゃ、また明日」

 

いつの間にか時間が大変なことになっていた。まぁ、親父もお袋も地区の飲み会に行っているわけだし、問題は無い。それでもまぁ、女の子を一人で夜道を帰らせるのも忍びない。といっても、ここから五分だし、それにリンは

 

『しつこいんだよ、この変態!』

『ひでぶっ!』

 

蹴りが半端無く強いから、迂闊に手を出せないんだよなー。

 

(さてさて、俺もそろそろ寝るとするかな)

 

明日は学校だ…………休日なのに休んだ気がしないのは何故なんだろうか。

 

 

翌日。

まぁ、予想できるだろ。俺は学校にいる。俺は高校二年。リンも同じ学校で同学年同クラス。なんの因果だ、これは。

まぁ、そういうのはさておき、この学校、ガンプラに何故か力を入れている。授業とかそういう意味合いでは無いのだが、この高校のフリールームにガンプラバトル用の筐体がおいてある。勿論俺も使用済み。ガンプラの持ち込みなんて普通にオーケーだし…………どうなってんの、この高校。入って二年もした俺がいうのもなんだけどさ。

 

「レン、そろそろご飯にする?」

「そうだな。てか、飯食わないと死ぬっつーの」

 

という事で、ラッカー系塗料を持ちながら屋上で飯。いやー、サフ吹きがなかなか終わらないんだよな。面倒だから飛ばせって? 無理無理、サフ吹きしておかないと塗料のノリが悪いんだわ、これが。面倒な一手間があるからガンプラも美しく仕上がる。それは料理にも言えることだな。

 

「今日も煮物はうまくいったかな?」

「いつもじゃなくて? レンは煮込み料理が得意だよね」

「じっくり仕上げる派の人間だからな。そういうお前は」

「一気に仕上げる派の人間。でも丁寧作業だよ」

「だから揚げ物焼き物が得意なわけだ」

「あまり関係ないと思うけどなぁ…………」

 

まぁ、いいんじゃないの、そういうことにして。リンは料理がうまいからそういうことが言えるんだ。俺なんて…………家庭科の評定2だぜ? よくこんなもので料理ができたものだよ…………。

 

「さて、飯も食い終わったところだし、俺はこれの乾燥を待ってから行くから先に教室戻っててくれ」

「はいはーい、おおせのままに」

 

一旦リンに塗料を全て預け、俺はサフ吹きが完了したパーツの乾燥を待つことにした。まぁ、あと五分もすれば乾くはずなんだろうけどさ。なんとなく、待ち遠しい。あと少しで、俺の思い描くガンプラができる、そう考えたら尚更だ。そんなこんなで、長いようにも思える五分が過ぎた。だいたい乾いたとは思われるので、パッケージに入れて、教室に戻ろうとした時だ。

俺の目に一人の少女が映った。普通ではまずあり得ない蒼の髪に黄色のピン留めをつけている、俺から見てかわいいと思える女の子だ(内心AGE-FXみたいと思ったことは黙っていてください)。その手には一体のガンプラが持たれている。少し時間もあることだし気になった俺は、その少女に話しかけて見ることにした、

 

「なぁ、そのガンプラ、君が作ったのか?」

「…………!」

 

突然話しかけられて驚いたのか、少し怯えられてしまった。でも、そんな風に怯えられると俺も困るんだよ。

 

「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだ。ちょっと気になってさ、そのガンプラ」

「…………私の、AGE-FXが?」

「ああ、基本に忠実、モールドには墨入れしてある。上手にできているな」

 

流石に、俺のようにパーツを完全接着はしてないようだが、最近のガンプラはスナップフィット式が多いから、接着剤がなくても十分組み立てられる。それに、細かいモールドの一つ一つが墨入れしたおかげで上手く浮き上がっている。普通にいい作品だ。

 

「…………そ、そうかな? で、でも、私、ハジロ君みたいに上手く作れないし…………」

「そんなことはない…………って、俺の名前知ってるのか?」

 

ちなみに言っておくが、俺はこいつと会うの、今日が始めてだからな。

 

「…………うん、学校でも有名な、ガンプラマイスターだって」

「よせよ、俺はただガンプラが好きなだけだから、好きなようにやった結果さ」

「…………そう、なんだ…………」

 

俺がそう言った時、彼女は自分の膝の上にAGE-FXを置き、視線を下に落とした。あ、あれー? 俺、なんかまずいこと言った?

それと、さっきから気づいたことがあるんだが、彼女、まだ冬服のシャツを着ている。今は七月、もう夏服になっていなければならないのに。それに、女子は夏服になった時、黒のハイソックスを履かなければならない(リンがそう言ってた)のだが、彼女は太腿まで覆える白のニーソックスを履いている。って、俺は何を観察しているんだ。そんなの別になんの問題もなかろう。

 

「あー、なんか済まん。とりあえず、そろそろ時間だから俺戻るわ。ガンプラ、見せてくれてありがとな」

 

俺はそう言って屋上をそそくさと退散した。だって、そうでもしなければ彼女の辛い表情を見てなければならないからな…………俺には無理だぜ。

 

 

「なぁ、リン。俺さっきさ、会った」

「誰に? ガノタ共?」

「違う違う、AGE-FXを持っている人」

「マジ⁉ え、誘ってみた⁉」

「いや、なんか空気的にそんな状況じゃなかった」

「そ、そうなんだ…………」

「…………なんか済まん」

 

 

下校。特に何もなく、平和な一日が終わろうとしていた。夕暮れの下、俺とリンは帰路についていた。昔から続く変わらぬ習慣だ。俺が帰る頃にリンはついてくる。まるで某オトモよろしく、ピッタリとな。なんなんだ、こいつは? と一時期本気で思ったが、今じゃこれが当たり前と化している。

 

「えー、それでその人の特徴教えてよ」

「なんでだよ」

「会って、話して、誘ってみる」

「まぁ、いいか。確かな、蒼髪で目も髪と同じく蒼。背はお前より少し高いくらいか? あとはーー」

 

俺はそこまで言って言い止まった。確かにあの少女は少し様子がおかしかった。同じ女子であるリンも半袖ワイシャツに夏服スカートという涼しげな装備だ。というか、これじゃなければ暑くてしんどいらしい(リン曰く)。だが、あの少女はあれだけ暑いのにも関わらず、長袖のシャツに足も殆ど出ないようにニーソときている。なんだろうか、俺の直感が、彼女は何かを隠したくて長めの服を着ている、そう言っている。

 

「レン…………?」

 

リンに話しかけてもらうまで、俺はずっと考えていたようだ。いかんな、少し頭から離しておこう、今のうちだけは。

 

「いや、なんでもないよ。多分、二年生だと思うぜ」

「よっしゃー! 早速明日から行動だ!」

「まぁ、期待しないで待ってるよ」

「ちょ、どういう意味⁉」

 

リンがムキーっ、と言った感じで言ってくるのを軽くあしらいながら、俺はガンプラの構想と頭から離れなくなっている彼女の事について考えていた。少しだけ離そうとも思ったが、離れないものだから困る。

 

「それじゃ、また明日ね」

「おう、またな」

 

ここで一旦リンと別れる。リンの家は結構な金持ちだ。そこそこの豪邸に住んでいる。模型店の息子とじゃ、いささか釣り合いが取れない。でもまぁ、リンの親父さんも親父と古くからの知り合いらしいし、仲もいいからな、問題はないのかもしれん。

というか、リンの金の使い道がガンプラが大半だからな。この間に至っては、改造パーツを大量購入していた。小遣いがギリギリの俺には羨ましい限りである。

そうこう考えているうちに、俺も自宅に着いた。さてさて、作業を開始するとしますかな。

 

(バックパックに3ミリを空けて…………これ取り付け。プラ版のフルスクラッチにはこれを貼り付け、っと。あとは…………オリジナルウエポンだけだな)

 

ピンバイスやドリル、ルーターを使う作業だけは俺の手でする必要がある。ここの作業では、ビルダーの感性が発揮されるからな。リンにやらせると貫通する可能性も否定できん。あいつの対違法武装ガンプラであるガンダム試作3号機スティメン改『デンドロビウム・ファレノプシス』の背部大型クローアームの取り付けだって、俺が手を貸してやったからな。…………あいつは1/550より1/144のクローアームがいいと言っていたが、サイズ的に無理だわ。バランス悪くて転ぶ。

とりあえず、バックパックへの穴あけは無事完了してパーツも取り付けてある。後は塗装待ちといったところだな。ただ、オリジナルウエポンのデザインに少し悩んでいる。左のシールド内部にしかけたいのだが、イマイチ思いつかない。ジャンク品でもあさって試作品作ってみるか。

 

(カラーはどうしようか…………というか、この残ったパーツどうしようかな…………)

 

半ジャンクと化した残りパーツ。もしかすると、何か使えるものがあるかもしれない。

 

「ふっ、案の定あるじゃねえかよ。これだ、これ」

 

俺はツイているのかもしれないな。中々にいいパーツが、残り部品から取り出せた。これは使えるぜ。

と、アイデアがまとまったところで時間を見てみると現在12:35分。無論、夜中だ。焦った俺はすぐに布団へとダイブ、その勢いで一気に寝た。…………週末まで後五日もある、余裕で組みあがるさ、きっと。

 

 

とんでもないアイデアが思いついた俺は、リンのサポートを受けながらも学校までジャンクを持ってきて、全力改造中。勿論、屋上でだ。

 

「パーツ組み上がったよ」

「サフ吹いて乾燥させておいて。あと、このパーツもちょっと確認しておいて」

「はいはーい、お任せください」

 

俺は主に切り出しからゲート跡消し、表面加工。リンはそのパーツを組み立てて、サフ吹き。アセンブルまではまだまだかかりそうだが、なんとかなるだろう。オリジナルパーツも削り出さなければならないし、使える時間はとことん使う。

 

「し、しかし、この機体は、完成したらスティメンを超える化け物になるよね?」

「まぁ、ターンエー対策だな。化け物級の能力があればなんとかなる、俺の体以外はな」

「振動が半端じゃないんだ…………」

 

一応、体感バトルという事でガンプラバトルの筐体には必ず被弾時、加速時などのアクションがあった際に連動して振動する機能がある。勿論、ガンプラの精度が高ければ高いほど、振動も激しくなる。スラスターを強化しすぎると、放送禁止レベルの物が口から出てきちまう。知らなかったバカがスラスターを二十個も取り付けてきて、げぼった事なんてよくある事だ。処理が大変だから、気をつけて欲しいぜ。

 

「まぁ、それはさておいて、俺の後ろに誰かいるだろ?」

「…………!」

「レンってさ、なんで見なくても誰かいるかどうかわかるの?」

「あ、やっぱりいるんだな」

 

俺は後ろを振り返った。するとそこにいたのは、昨日会ったあの蒼髪の少女だ。

 

「君は、昨日の」

「…………ちょっと気になったから見にきて見たんだけど…………邪魔だったかな?」

「別に問題ないよ。減るもんじゃないしね」

「まぁな。そういえば、聞いてなかったな、君の名前。なんていうんだ?」

 

そろそろ少女という呼称も疲れてきた。名前聞いておこう、できれば俺らのチームに勧誘という事も考えて。

 

「…………キリシマ・ルリアです。学年は二年です…………」

「ルリアか、いい名前だな。俺は知っていると思うが、ハジロ・レン。同じ二年だ」

「あたしはカガミ・リン。同学年だからリンって呼んでもかまわないよ」

 

簡単に自己紹介が終了。流石にこの間は作業も中断する。まぁ、中断しても遅れは出ないし、今日の夜のうちにロールアウトできそうな気もしてきた。てか、できる、武装は完成、塗装もあと少しだからベースへの接着で全てが終わる。

 

「ところでさキリシマさんーー」

「…………る、ルリアで、いい」

「おっけー。それじゃ、ルリア、ガンプラ持ってる?」

「…………AGE-FXのこと?」

「そうそう、持ってたら見せてくれないかな? 少し気になるんだ」

「…………わかった、ちょっと待ってね」

 

少女改めルリアはバッグの中を探し始めた。

 

「…………あ、あれ…………?」

 

だが、中を探す度にその顔には焦りがで始めている。

 

「どうしたの?」

 

不審に思ったリンがルリアに尋ねる。

 

「…………ない…………」

 

その問いに返ってきた声は、小さかったが、俺の耳にはしっかりと聞こえてきた。

 

「…………ないの…………AGE-FXが…………朝、鞄にいれてきたのに…………」

 

今にも泣き出しそうな声で、ルリアは言ってきた。入れた筈なのに入ってない、って

 

「ま、まさか、盗まれた⁉」

 

リンが言ったとおり、盗まれたとしか考えようがない。だが、いつの間にやられていたんだ?

 

「…………そ、そうみたい…………」

 

というか、マジで盗まれたようだ。

すでに彼女の瞳からは涙がこぼれ落ちてきている。それだけ大切にしていたのだろう。俺はそれをみるのが忍びない。

 

「じゃ、取り返しに行くとするか」

 

俺は独り言にも似たような声でそう言う。

 

「当たり前でしょ。人の物を盗む奴は万死に値する」

「お前が言うと死刑執行の未来が見えるぜ…………」

 

リンも俺の呟きを拾ったのか、俺の考えに賛同する。まぁ、正義感の強い奴だしな、こういうことには人一倍全力で叩き潰そうとする。物理的にも社会的にも。

 

「…………そ、そんな…………いいよ、別に…………なんか、悪いし…………」

「いいも悪いもないって。あたしはそういうことをする人が嫌いなだけだし」

「そういうことだ。まぁ、俺らが勝手にやらせてもらうことだしな」

「…………ごめんなさい…………」

「謝ることなんてないよ。それよりも、早く探そ、ね?」

 

ルリアはリンに引っ張られながら、自分のガンプラを探し始めた。俺はその後ろを着いて行くとしよう。勿論、探し物の手伝いをしながらな。

 

 

そんでもって、ガンプラは教室で見つかった。結構あっさりと見つけることはできたのだが

 

「…………Cファンネルが無い…………」

「これはひでぇ…………」

「窃盗罪だよ、これ」

 

AGE-FXの目玉である、Cファンネルが全て取られていた。ライフルはもとより装備させていなかったらしいが。

俺は怒りを覚えた。人が心を込めて作り上げたガンプラにこんな事をする奴を、何があっても許す事はできない。

 

「警察に通報してやろうぜ。完全に犯罪の域だ。見過ごすわけにはいかない」

「…………そ、それだけはやめて…………」

 

俺が携帯を取り出して警察に通報しようとした時、ルリアが必死の表情でやめるように言ってきた。

 

「なんで⁉ こんな事をされたままでいいの⁉」

「…………だ、だって…………そんな事したら、また…………」

「…………どうやら、きな臭え臭いがしてきた。何があったのか、俺らに話してみ? その様子だと、誰にも話してないんだろ?」

「…………(コクッ)」

 

ルリアは頷き、椅子に座った。そして、今までの事を話し出してくれた。

 

「…………私、去年ここに転校してきたの…………でも、友達なんてできなかったし、話す事もできなかった…………そんな時、ガンプラと出会ったの…………私の髪と同じ蒼いガンダムに…………でも、学校に持ってきてガンプラバトルをしようとした時に、あの三人組に捕まって…………AGEを散々バカにされて、挙句イジメられて…………」

「よりにってあいつらかよ、アッシマーしか使わないZ大好き厨」

「この学校、最悪のガノタ共だよ」

「うん…………物を隠されたり、お金を取られたり、ある時は殴られたりもした…………傷が消えないんだ…………私が長袖の服を着てるの、それが理由…………」

「前からいけすかねえ連中だとは思っていたが…………何をここまでする必要ねえだろ」

「…………それに、逆らったらどうなるか…………それが怖いんだ」

「レン、そいつら潰そうよ、物理的にも社会的にも」

「そうするか。じゃないと、こいつも安心できなさそうだしな」

 

やっぱりさ、悪人てものはさっさと消した方がいいんだよな。確かに向こうも好きなものを主張しているだけにしかすぎない。だが、だからと言って他人の好きなものにケチをつけて、自分の理想を押し付けていいわけではない。限度ってものは何にだってある。それを守れないのであれば、退場してもらうほかない。

 

「まぁ、今日は遅えし、俺は帰るぜ。リンもそれでいいだろ?」

「えー、もう少しAGE-FXを見ていたーー」

「い い だ ろ?」

「さ、サー、イエッサー!」

「よろしい」

「…………二人って仲良いんだね…………」

「幼馴染だからな。普通だよな、リン」

「まぁね。小さい頃からガンプラ作ってたもんね」

「…………なんか、羨ましいな、そういうの…………」

 

ルリアはどこか遠い目をして、そう呟いた。何故だろうか、地雷原に踏み込みそうな状況なんだが…………。

 

「…………そ、それじゃ、またね…………」

 

ルリアは鞄を持ち、そそくさと教室をあとにしていった。

 

「帰るか、俺らも」

「そうだね。…………レン、やっぱりルリアをこっちに入れようよ」

「俺も思うぜ。無理矢理でもこっちに引き込むぞ」

「前は無理矢理はやめろって言ってたくせに」

「いいんだよ、前の事は」

 

とりあえず、俺らも家に帰る事にした。

 

 

「うおっしゃぁぁぁぁぁっ‼ 遂に完成したぜぇぇぇぇぇいっ‼」

 

叫んでしまった。そんな日曜の夕方。塗装に時間がかかってしまったが、出来栄えはかなりいい。その気になればもう少し強化できそうだが、とりあえずはこのままだな。予算ねえし。

 

「お、やっと完成したのか。父さんのヘビーアームド・カスタムは完成済みだぞ」

「やかましいねん、俺は学校とかその他諸々で時間が無いの。でも、それにしてはよくできてると思わね?」

「確かにな…………性能的にもビジュアル的にもまとまっている。やはり俺の息子だな」

「まあ、とにかく試験運用してくるわ。筐体使ってくるぜ」

 

親父にそう告げて、ガンプラバトル用の筐体に入る。無論パイロットスーツも忘れずにだ。ハロスキャナにガンプラをセットし、開始の合図と共にスロットルを踏み込んだ。

…………それがいけなかった。

 

「うぼぉぅぅぇぅえっうぉぅっ⁉」

「…………激しく揺れすぎだろうよ、それ。とんだじゃじゃ馬だな、ハハハ」

 

安定性能皆無! ちょっとスラスターふかしただけで、まるで缶の中に入れられてバットで殴られた気分だ。それだけ気持ち悪い。だが、火力については申し分無い。まぁ、なれる事だけを祈るしかないと、俺はこの時思った。

 

 

 

 

 

月曜日の放課後。

学校内に設置されているガンプラバトル用の筐体がある多目的フロアに、ルリアは来ていた。その手に持つ鞄の中には、彼女が初めて作ったガンプラ、ガンダムAGE-FXが入っている。Cファンネルを全て失われてしまっているが、代わりにシールドを持たされており、性能低下を補おうとしているのがわかる。

普段このようなところに来ない彼女が何故今日に限っているのか。理由は簡単だ。

 

『週明け、ガンプラバトルしよう!』

 

リンと約束してしまったからだ。既に仲が良くなり、友達となっている彼女の約束だ、破る事などあり得ない。そういうわけで、筐体の前で待っていたわけだ。

だが、その選択がいけなかった。

 

「あれ〜? そこにいるのキリシマじゃない?」

 

見るからにして不良臭がする女子三人組が彼女に絡んだ。

 

「…………!」

「ヘェ〜、なにあんたもガンプラバトルをしに来たんだ、クズの分際で」

「…………」

「というか、お前髪の色直せよな。蒼なんて、調子乗ってんな」

「…………」

「おいおい、私達を無視するとはちょっとおいたが過ぎないかしら、キリシマさん?」

「…………」

 

ルリアは三人組に散々バカにされているが、それでも無言を貫き通した。いや、通すしかなかった。何故なら彼女、以前抵抗してイジメられた事があるのだから。

 

「ふーん、あなたもガンプラバトルをするのなら、私達と対戦しなさい」

「…………さ、三対一…………⁉」

「あら、クズに拒否権があるとでも?」

「…………っ!」

 

その事にルリアはただ唇を噛み締めてこらえるしかなかった。

 

「ーー話を聞いてりゃ、救いようの無い物言いをするんだね」

「…………リン…………」

 

その場にリンが現れるまでは。

 

「悪いけど、友達をバカにされて気分のいい奴はいないから。あたしはあんたらにバトルを申し込むわ」

「ヘェ〜、そのクズの肩を持つの。いいわ、その挑戦受けてたとうじゃない。ま、勝つのは私達だけど」

「勝手に言ってろ。勝つのはあたし達よ」

 

それぞれが思いを持ちながら筐体の中へと入っていく。その思いが詰められたガンプラがハロスキャナに入れられる。

 

「ガンダム試作1号機フルバーニアン、出るよ!」

「…………ガンダムAGE-FX、行きます!」

 

そして、各々が思いと共にバーチャルの戦場を駆け抜けた。

 

「さぁ、いくわよ。アッシマー隊、全機出撃!」

 

勿論、汚れた思いを持った者もいるのが事実であるが。

 

 

 

 

 

「さぁーて、本日のバトラーはいるのかなー?」

 

若干上機嫌で、フリールームのガンプラバトル筐体ゾーンにきた俺。無論、左手に持つ鞄の中には、昨日完成した飛んでもないじゃじゃ馬が入っている。フルアーマーガンダム7号機なんて比じゃない。ターンエーを持ち出されても勝てる気がする。

 

「お、レンじゃん。お前もきたのか?」

 

そう俺に話しかけてきたやつは、ヒエイ・ムサシ。まるで戦艦みたいな名前である。まぁ、同じガンプラ仲間だ。と言っても、同じチームにいるというわけでもないが。単なる仕事の関係上のつながりみたいなもんだ。こいつの親父、ヒエイ・ヤマトは警察のガンプラ課と呼ばれる部署のトップだからな。親父とも繋がりはある。

 

「ああ。建造が完了したこいつのテストも兼ねてな、適当な奴とバトルしようかなと」

「そいつは是非、手合わせ願いたいとこだけどな…………モニターを見ろよ」

「モニター? どれーーっ‼」

 

ムサシにそう言われてモニターに目をやる俺。そこには見覚えのある二機とアッシマー三機が戦闘している様子が映されていた。間違いない、あのオレンジのフルバーニアンはリン、そしてAGE-FXはルリアだ。二機ともダメージを派手に受けている。アッシマー三機は専用のビームライフル以外にも、何か鈍く光る武装が持たされている。あれは恐らく

 

「違反武装装備のガノタ暗部か…………厄介ごとばっか引き起こしやがって‼」

「俺の機体で行ってもどうせ返り討ちに合う。レン、頼めるか?」

「おう! 仲間があんなんなってるのを、見捨てるのはできねえからな!」

 

俺はガンプラバトル筐体に入り、さっきのガンプラをセットする。全ての数値が異常な値を示しているが、当たり前だ。心血を注ぎ込んだ俺のカスタム品だ。

ここの筐体、スーツがなくても反応するから、こういう時には嬉しいもんだ。

 

「フルパワード・ジム、ハジロ・レン、出るぜ!」

 

一気にカタパルトから射出された俺は、あいつらのいるフィールドに降り立った。

 

 

 

 

 

状況は劣勢。

三対二では如何しても厳しいところがある。リンとルリアはかなり追い詰められていた。それぞれビームライフルは撃ち抜かれ爆散、装甲の一部も抉れている。それもそのはず。相手のアッシマー三機は、専用のビームライフルの他にナイフ型違反武装を装備している。えぐられる事は避けられなかった。

 

「ルリア! 全力で避けて! 相手は違反武装を使っているから、ダメージを受けたらただじゃ済まないよ!」

「…………わかってる…………! わかってる…………けど!」

 

何故かリンではなくルリアの方にアッシマーは集っている。まるで、ルリアを一方的に攻めるように。

 

「くっ…………こんな時、レンがいたら!」

 

そんなリンの呟きも消え、ルリアのシールドも吹き飛ばされた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

「お呼びか、お前ら?」

 

 

 

 

 

聞き慣れた声と共に飛んできた三発の砲弾。それは集っていたアッシマーを蹴散らし、ルリアを解放した。二人はその砲弾が飛んできた先を見る。そこには、完全武装のジムが存在していた。

 

 

 

 

 

「へっ、待ってろよ。今、蹂躙してやるぜ!」

 

俺はスラスターを全開にする。無論、昨日のようにげぼったりはしない。体を少し筋トレして強化してきたからな。それよりも今は

 

「円盤野郎ども、さっさと落ちやがれ!」

「「「私達は野郎じゃない‼」」」

「知るか!」

 

あのアッシマー三機にキャノンの砲弾を当てないと。今は右手に持つ180mmキャノンのみアクティブ。その他はまだ起動させてない。

 

「っち、弾切れかよ」

 

ちょうど五発一マガジンを撃ち切り、デッドウェイトとなったキャノンを捨てる。代わりにウエポンラックに持たせておいた、ビームアサルトライフルを装備する。連射に特化したライフルだ。使い勝手は非常にいい。だが、一発一発が弱いんだな、これ。

一方のアッシマーといえば、変形して飛んでいやがる。ビームアサルトライフルの射程外だ。こういう時は

 

「落ちろ、蚊トンボ!」

 

背部キャノン砲、左腕のシールド内蔵二連装ビーム砲を放つ。テスト時にはとんでもない射程を誇った武装だ。というのも破壊力が半端じゃねえ。だって、ビーム砲一の発がアッシマーを貫いちまった。ま、マジかよ。

 

「そ、そんなぁぁぁーっ‼」

 

悲痛な叫びをあげて落ちるアッシマー。乙です。残りは二機か。

 

「こ、この、ジム風情が! あのAGE-FXの様に武装をもぎ取ってやるわ!」

「ーーやっぱり、てめえらだったか。主犯はよ」

 

ナイフ型違反武装を掲げて切りかかるアッシマー。だがな、知る由もねえか。このフルパワード・ジムはな、ターンエー対策じゃねえ。対違反武装用に作り上げた、ハジロ模型店の番犬だ。

俺は左腕のシールド内蔵ビーム砲で違反武装を弾き飛ばし、腕部内蔵ビームサーベルでアッシマーの胴を貫いた。無論、落ちていくアッシマー。追加でその貫いた部分にビームアサルトライフルのグレネードを叩き込む。アッシマーは爆散、破片となって落ちていく。

 

「このっ! たかがジムごときに!」

 

ラスト一機。恐らくこいつがボス。ビームライフルを放ってくるが、各所に追加されたスラスターが生み出す推力とバトル慣れしている俺にかかれば余裕で回避できる。

 

「ーーなぁ、なんでルリアだけを過剰に攻撃していたんだ? あいつのガンプラ、もう大した武装もないはずだが?」

「そんなの決まっている! あいつがAGEのガンプラを持っていたから! AGEはクズだ、そしてそのガンプラを持つ人間も同じクズだ! 私達は神聖なガンプラバトルから彼女ごと排除しようとした! お前だってわかる! そのジムも宇宙世紀シリーズのものだから!」

「ーー意味わかんねえなぁ」

 

俺はビームアサルトライフルをとにかく撃つ。弾切れなったって、予備の100mmマシンガンがある。

それよりも俺はストレスが限界値を超えてしまった。あの女の言ったことがさっぱり意味がわからん上に、相当な侮辱を言いやがったからな。

 

「何がクズだって? お前がガンプラを楽しんでる様に、AGEのガンプラを楽しんでいる奴らもいるんだ! こないだだってな、AGEシリーズを買いにきた客も何人かいた。てめえはその客すら差別してんだぞ!」

 

俺はさらに両背部のキャノン砲を交互に撃ち、さらに削って行く。今、左腕をふきとばした。

 

「な、なによ、貴方はあいつの肩を持つの⁉ あののろまで愚図でドジしか踏まない、あの女の⁉」

「ああ! 言っておくけどなぁ、ガンプラを楽しむのに、んなことどうでもいいだろうがよ! 勝手に人を貶すな!」

 

俺はビームアサルトライフルをウエポンラックに格納、左腰に装備させたあるものを装備する。

 

ドラゴンフライ・カッター(蜻蛉切)

 

薄いプラ板を何層も重ね、チタニウムフィニッシュコートを施した日本刀。ガーベラ・ストレートよりも大振りなのが特徴だ。

 

「だからなぁ、俺はてめえを許す事なんざ、出来ねえんだよ!」

 

縦一文字、蜻蛉切りを振り下ろした。こっちに向かってきたアッシマーは見事、真っ二つに切られ爆散、落ちていった。ふぅ、こいつで俺の仕事は完了っと。

 

「さて、残りは頼むぜムサシ」

 

 

 

 

 

「くっ、こうなったら逃げてでもーー」

「まぁ、逃げられはしないんだけどね」

 

筐体から逃げ出てきたガノタを待ち構えていたのは、ムサシであった。

 

「さてさて、お前さんらにはかなりの容疑が掛けられている。逃げようなんて思うなよ? すでに証拠はレンが回収した。それに今までの分も含むとまぁ、親父の世話になるな。とりあえず、応接室で親父を待っていやがれ」

 

一瞬、睨みつけられるような視線をムサシに送ったガノタだったが、渋々職員室脇の応接室まで向かう事にしたのだった。

 

「ふぅ、めんどくせえ連中だぜ、全く」

"仕方ないさ、あいつらはもう、自分たちさえよければいいって思考の持ち主しかいないからな"

 

彼の頭には彼のガンプラ(スレイヴ・レイス 警察仕様)の声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

「ふーっ、疲れた。体にやべえ負担かかるわ、これ」

「レン、ありがとね。まさか違反武装が使われるとは思っていなかったから」

「あ、それなら問題ねえ。今回バトルシステムのアップデートがあってな、違反武装を使用するとバトルできないプログラムが入ったから」

 

正直俺は思う。あのプログラムが導入されたのは俺たちマイスターにとっても負担が減る。違反武装装備機を倒すのも一苦労するし、下手するとこっちがやられかねん。ハイリスクな仕事なんだ。

 

「そういえばさ、レン。 ルリアの事なんだけど…………」

「わかってるって。引き込むか、俺らの仲間にさ」

「だってさ。よかったね、ルリア」

 

リンがそう言うと、その背後からルリアが出てきた。

 

「…………そ、その…………あ、ありがとう…………」

「まぁ、いいってことよ。だけどな、一つだけ条件がある」

「…………条件?」

「いつかは、はっきりと話せるようになれ。それまでは俺たちが手伝うぜ」

 

ルリアはさ、正直もう少しはっきりとしたようになればいいんだと思うんだ。ついでに、この辛気臭い空気も消せるだろうしな。

ルリアは俺の言葉に大きく頷いた。その顔は、今まで見せなかった笑顔。その瞬間、俺は胸をビームサーベルで貫かれた感覚に襲われた。一体、なんなんだ、この感じは?

 

「さてさて、それじゃこれでルリアもあたしたちの仲間だね!」

「おう。改めて言おう、ようこそガンプラ楽しみ隊へ、歓迎するぜ」

「…………うん! 二人とも、よろしくね!」

 

少しだがルリアもはっきりと話す努力をしているようだ。これならいい傾向なんじゃないだろうか。

 

「あ、そうだ。こいつを渡し忘れていたぜ」

 

そう言って俺は鞄の中へ手を突っ込み、あるものを取り出す。

 

「こいつ、受け取ってくれや」

「…………こ、これを、私に?」

「これって、ドラゴンフライ・カッター⁉」

 

俺が使ったブレード、ドラゴンフライ・カッター。しかも鞘付きだ。俺はこれをルリアに渡した。

 

「まぁ、何つうんだ? あれだ、近づきの印と、FXへのプレゼントみてえなもんだ。好きなようにしてくれ」

「…………ありがとう、ハジロ君」

「レンだ」

「え?」

「名前で呼んでくれ、それ以外は認めん」

 

なんだなんだ、自分でも何を口走ってんのかよくわからねえ。なんなんだ本当に…………

 

「…………わかったよ、レン」

「あ、ああ。そ、それでいい」

「レン〜? 顔、赤いけど、もしかして…………」

「うっせやい!」

 

リンに茶化され、過剰反応する俺。もしかして、俺、ルリアに惚れたのか…………?

俺はこの時まだ知らないことではあるが、確かにガンプラ以外の楽しみを一つ見つけたのかもしれない。そう考えると不意に笑みがこぼれた。まぁ、こんな事があっても悪くはない、か。

 

"不思議な縁があるものだな、俺たちの主は"

 

普通なら聞こえるはずのないガンプラの声、それが俺の頭の中に響き渡っていた。

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