AIオーバーロード   作:匿名

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ジャンケン

ザナックとバルブロがどんな手を打とうとも、王国最強と呼ばれる騎士ガゼフ・ストロノーフがいるのだ。そして何より、王国の王女たるラナーが殺されるようなことがあれば、アインズ・ウール・ゴウン魔導国との戦争が勃発するだろう。

 

「……お聞きしたいのですが」

 

「なんだね?」

 

「何故、そこまでして王派閥の方々は今回の件で、あの方のお怒りを買いたくないんですか? 確かにあの方は凄い方です。私もお会いしましたが、あれほどの魔法を使う存在など初めて見ましたよ。しかし、だからといって王国最強の騎士や、貴族の姫を殺すというのはやりすぎではないですか?」

 

「ふむ……クライム君は確か冒険者だったな。彼が主催するジャンケン大会に出たことはあったか?」

 

「はい。数度ありますけど……」

 

「なら知っているはずだ。彼の強さを」

 

レエブン侯の言葉にクライムは息を飲む。

 

「……知っています」

 

「ならば分かるはずではないか。彼が本気で怒れば、都市一つが簡単に滅ぶということを」

 

「……本当なんですか?」

 

「……君には信じられないかもしれないが、事実だ。彼はあのチョキだけで一つの国を滅ぼしたことがあるんだぞ」

 

クライムはその話を聞いても、いまいち理解できない。そんな馬鹿げた話を信じるなんて出来るわけが無いからだ。しかし、目の前にいる人物が嘘を言うようにも見えない。そもそもジャンケンと言えば『グー、チョキ、パー』だ。武器になるとは思えない。

 

「まぁ、そういうことだ。我々の目的は君にも理解できると思うのだがね」

 

「……えっと、辺境候の機嫌を取るために、魔導王のお力を借りるということでしょうか?」

 

「そうだ」

 

そう答えた男に対し、クライムは頭を下げてレエブン侯にジャンケンを挑んだ。しかし当然のごとく勝てる訳が無かった。

 

 

ラキュースの部屋を出たあと、ラナーは廊下を歩きながら考え込む。

 

(どうすれば良いのかしら?)

 

正直なところ、ラナーとしても今回の一件は非常に不味い事態だと認識している。だからこそこうして色々と動いているのだ。ラナーは世界中の人間とジャンケンをしなければならない。それは非常に困った状況である。

 

(やっぱり、まずは帝国へ行かないと駄目よね)

 

だが、その前に王国内でどうにかしなければならない問題が残っている。その問題を片付けなければ、ラナーがどれだけ頑張っても、帝国の方まで手が回らない可能性が高かった。

ラナーはメイドを呼び止めて自分とジャンケンをするよう命じた。

 

「畏まりました」

 

メイドはラナーの前に立つと手を出す。その手にラナーは手を乗せる。そして互いに握り締め合った。

 

「最初はグー!」

 

ラナーの言葉に合わせてメイドの手が動く。しかし、メイドの手の動きはラナーが予想していた動きとは違った。拳を握った状態から人差し指だけを立てた状態──つまりは親指以外の四本の指を伸ばしたのである。その結果、メイドの勝利に終わる。

 

「お嬢様。私の勝ちですね」

 

「……」

 

「では失礼いたします」

 

ぺこりと一礼したメイドが去って行く中、ラナーは眉を寄せた。

 

(……どうしてこんなことをするんでしょう?)

 

ラナーは首を傾げるばかりであった。

 

 

退室したラナーを見送ったラキュースは、自分の部屋に戻る途中、偶然通りかかった一人のメイドの前で足を止めた。

 

「あなた」

 

「はい?」

 

「ジャンケンしましょう」

 

「畏まりました」

 

メイドはラキュースが出した手の上に己の手を乗せた。そして二人は同時に手を握る。

 

「最初はグー!」

 

メイドの声に合わせるようにラキュースの手が動く。しかし、メイドの手の動きはラキュースが想像していなかったものだった。メイドは握っていた手をほどくと、その手で相手の手を包み込んだのである。結果、ラキュースの敗北となった。

 

「……どういうことかしら?」

 

「申し訳ありません。お嬢様がどのような反応を示すか試させていただきました」

 

「私をからかったってこと?」

 

「そういうことです」

 

「……」

 

「お許しください」

 

「いいわよ。それで結果は?」

 

「残念ですが、お嬢様の負けでございます」

 

「そうなの?」

 

「はい。お嬢様がどの程度の強さなのか知りたかったのです。ですからわざと負けたということになります。それと……お気をつけ下さいませ。お嬢様が本気になれば、私は絶対に勝てませんので。私も死にたくはございません」

 

「……肝に命じておくわ。ありがとう」

 

「いえ、それでは失礼致します」

 

再びぺこりとお辞儀をして立ち去るメイドを見送った後、ラキュースは唇を噛み締める。

悔しさがあった。そしてそれ以上に恐怖だ。あのメイドの目を見ていれば分かる。あそこでラキュースが何を言い返そうとも、彼女は決して嘘をつかない。それが分かるほどの意志を感じた。あのメイドは強い。

ラキュースにすらはっきりと分かるほどの実力差が二人の間にはあった。

 

「……」

 

ラキュースは先ほどのメイドが消えた場所を睨み付ける。

その目に宿るのは嫉妬だ。

ラキュースは思う。あのメイドにジャンケンに勝てれば、ラナーの護衛として付くことが出来るだろうと。しかし、現実には無理だ。

ラキュースとクライムの差は、まさにこのジャンケンにおける強さの違いのように思えた。

 

強くなろう。

ラキュースは決意を新たにする。

自分は弱い。その弱さを自覚した上で、それでもなお、強さを求める必要がある。ラキュースは心に誓う。

 

 

クライムは一人、ラナーの部屋を出て廊下を歩く。その顔に浮かぶのは苦渋だ。

 

「……」

 

その脳裏に浮かんでいるのは自分の手。それを包むラナーの手だ。

あれだけの力を持つ存在を前にして、何も出来なかった。そんな自分が腹立たしい。

 

「……もっと鍛えないとな」

 

呟きと共にクライムは拳を握り締める。その手に込められた力の大きさは、廊下を歩く他の使用人達が怯えるほどだった。

 

「おんやぁ? 面白い事になっていんすね」

 

その声の主は壁に背を預けたまま、じっと部屋の中を眺めていた。その視線の先にいるのは、一人のメイド。

 

「さて、どうしんしょうか」

 

メイド──シャルティア・ブラッドフォールンはその美貌に悪戯っぽい笑みを浮かべ

ると、その場を後にした。

 

 

ランポッサⅢ世は玉座の間にいた。

そこにあるのは豪華な椅子。そこに腰掛けているのは、このリ・エスティーゼ王国の支配者たる人物、ランポッサⅢ世その人である。

王が見つめている先では、守護者統括であるジルクニフが楽しげな表情で立っていた。

二人の目の前には一枚の羊皮紙が広げられており、そこには細かい文字がびっしりと書き込まれている。それは報告書であり、アインズという人物について書かれているものだ。

その羊皮紙の一番上には『アインズ・ウール・ゴウンのジャンケン成績表』と書かれている。

 

「ふぅん。これがアインズとかいう男の情報か?」

 

「そうだ。それで?」

 

「何々……勝率九割五分だと!?」

 

「ほう! 凄いな!」

 

「次にパーとグーの組み合わせなら、ほぼ必勝」

 

「ほぉう?」「そしてチョキは苦手としているのか、勝率は一割以下。しかし、チョキが苦手ということは、相手からすればパーを出した方が勝ちやすいということだ。これはチャンスがあるぞ」

 

「なるほど。確かにそうかもしれぬな」

 

「それにしても、チョキが一割以下の勝率とは……。これならば、私が出れば確実に勝てるな」

 

その言葉を聞き、王は目を大きく広げ、驚きの声を上げた。

ジルクニフの言葉が真実であれば、王と守護者統括が共に出て、勝利することが出来る。それほどまでに強大な力をアインズは持っているのだ。

だが、王はそんな事実を認めたくない。

自分の命が懸かっているのだから当然だろう。

そして、王の頭の中では様々な考えが浮かんでくる。

もし仮に守護者と自分が出た場合、どの手を出すか。

それによって相手の出す手がある程度、予測できるのではないか。

いや、それよりも重要なことがある。

もしも自分が出るとしたら、誰を連れて行くべきかという問題だ。

王として考えるのは己の命が大事だということだ。

そしてそれは至極当然のことであり、誰も責められるものではない。

しかし、それとは別に、武人としての欲求も湧き上がってきた。

強者を自らの手で倒すという欲求だ。

 

「……」

 

「どうした? 何か質問でも?」

 

「あ、ああ。……一つ聞きたいのだが、私達が出なかった場合はどういう結果になるんだ? やはり負けるのか?」

 

「まぁ、そうなるか。お前が出ないとなると、守護者は二人出るわけだし」

 

「そうか」

 

「ただ、その場合は相手がチョキを出してくる可能性が高くなるがな」

 

「何故だね?」

 

「簡単な話だ。アイツの性格を考えろよ」

 

言われてみれば納得せざるを得ない答えだった。

 

「……つまり、アインズという人物は我々がジャンケンで負けたときのことも考えているということかね?」

 

「そういうことだろうな。奴は自分が勝てる勝負しかしないタイプに見える。逆に言えば、勝つ自信がない戦いでは絶対に手を出さないってところじゃないか?」

 

 

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