AIオーバーロード 作:匿名
アインズ・ウール・ゴウンとニグン・グリッド・ルーインの戦いが始まった。
しかし、その戦いは一方的な戦いだった。
それは当たり前だ。
何しろ相手はユグドラシルで最強の存在であり、ワールドチャンピオンを何度も獲得しているプレイヤーなのだ。それに対してこちらはただの一般人であり、職業だって単なる魔法使いである。
そんな者が勝てるわけが無い。
「……終わりか?」
アインズはつまらなそうに問いかける。それに対してニグンは無言のまま、血走った目を向けるだけだ。その顔には驚愕の色がありありと浮かんでいる。
魔法詠唱者とは戦士系や騎士系の職業と違い、接近戦を行うような能力は無いに等しい。だからこそ、距離を開けて戦うべきなのに、それが出来ていない。
(やはり無能だ)
アインズが思った通り、ニグンという男は使えない男であった。いや、もしかするとこの世界では優秀な方かもしれない。だが、ユグドラシル基準での話でしかない。それに──
(私の部下としては役不足すぎる……)
自分の下に付いているからこそ、分かるのだ。目の前の男程度であれば、ナザリック大地下墳墓にいる全てのシモベ達と比べても、まるで話にならないほど弱い。つまりはゴミ屑にも劣る。
「まだだ!まだ戦いは終わっていない!」
ニグンは決死の思いでデッキからカードを引いた。引いたカードは『連鎖する炎』。そしてカードを場に出し発動させる。『連鎖する龍火』。これはモンスター二体を生贄に捧げることで、攻撃力一〇〇〇ポイントのモンスターを召喚するものだ。しかし、発動した瞬間に、そのモンスターは消滅する。
「ばかな!?」
驚くニグンに対して、アインズは冷笑を浮かべた。
「私の罠カード《ファイヤーボール/火の玉》により、お前の場にあるモンスターは全て破壊され、同時に墓地に送られた」
ニグンの手札に新たな手掛かりはない。ここはモンスターを守備表示にして耐えるしかないのだ。
「しかたない......。私はモンスターを守備表示に変更してターンエンドだ」
「…………」
無言でアインズは自分のターンを開始する。ドローし、さらに一枚引く。
今度の手札には強力な呪文がある。それを行使すれば、この程度の雑魚など一瞬で片がつくだろう。だが、それではつまらない。
アインズの脳裏に浮かぶのはかつての仲間たちとの思い出だ。かつて共に遊んだ記憶。笑い合った日々。楽しかった時間。それらは今ではもう決して手に入らない過去の栄光だ。だからこそ、その輝かしい過去を思い出しながら、目の前の弱者を痛めつけるというのは、あまりにも惨めな行為のように思えた。
「魔法を発動しよう。《イビル・オーラ/邪悪のオーラ》」
ニグンの顔色が変わる。それはまさに絶望という言葉に相応しいものだった。
《イビル・オーラ/邪悪のオーラ》は相手の防御能力を五分間、半分にする魔法である。しかしそれだけではない。攻撃してきた相手には追加ダメージを与えてくる効果を持つのだ。
魔法の効果によりニグンのモンスターは墓地に送られた。これでニグンを守るものは無くなったことになる。
「これで終わりだな」
アインズはそう言うと、魔法の力を解放する。
「魔法を発動する。《イビルタッチ/邪悪な接触》」
その言葉と同時に、ニグンの首筋に紫色をした手が触れる。
「ダイレクトアタックだ」
アインズの言葉と共に、首筋から血が吹き出る。それは致死量といっても良いほどの勢いだ。
「うぐぁあああ!」
苦痛の声を上げながらも、ニグンは倒れなかった。その瞳には未だ諦めの色は無い。むしろ燃え上がるような憎悪があった。
(なんだ?何故、こんな目が出来る?)
理解できないものを前にしたとき、人は恐怖を覚えるものである。それが人を超えた存在であるならばなおさらのことであろう。
しかしながら、ニグンという男からはそういった感情は一切感じられない。
あるのは純粋なまでの殺意のみ。
もはや、そこには自らの命すら考慮されていない。
「俺のターン!ドロー!」
血を吹き出しながらニグンはカードを引いた。
「魔法発動!《リザレクト/蘇生》!この効果はライフを全損した時、一度だけ生き返ることができる!俺は復活!さらに死者の復活の効果により、墓地より蘇れ!最高位天使『ドミニオン・オーソリティ』!」
その瞬間、空から光の柱が落ちてきた。
そしてそこから現れた存在を見て、アインズは思わず驚きの声を上げる。
「……あれは!?」
それは美しい女性だった。背中から生えた四枚の翼。流れる金髪。整った顔立ち。それら全てが美の女神を思わせるほどに整っている。そんな女性が微笑みながら、ゆっくりと地面に降り立つ。
「……天使だと?」
呆然とした声はアインズから漏れ出たものだ。
己が持つ最強のカードに勝利を確信したニグンは止まらない。
「そして、魔人すら消滅させる神の一撃をくらうがいい!ドミニオンはアインズに攻撃!《ホーリースマイト/聖なる極撃》!」
光の奔流が放たれ、アインズの体を飲み込む。しかし、その光景とは裏腹に、ニグンは安堵のため息をつく。
神の攻撃を食らったのだ。いかに死の王であろうとも、この攻撃を受ければ無事ではすまない。そう思い、ニグンは勝ち誇る。だが──
「……なんでだ!どうして、生きているんだ!!」
驚愕に目を剥き、ニグンはその光景を見つめていた。なぜならば、光が収まった後、そこに立っていたのは漆黒のローブを身に纏い、禍々しいオーラを放つ魔法使いの姿だったからだ。
そしてアインズは軽く手を振ってみせる。するとその動きにあわせるようにして、巨大な炎の塊が出現し、そして弾ける。
「ば、馬鹿な……」
ニグンは信じられないものを見るように、アインズと魔法の余波によって発生した煙を交互に見やる。
「ふぅん。なかなか面白い能力じゃないか」
アインズは自らの能力に満足げに呟いた。
《ファイヤーボール/火の玉》 レベル三〇 自分のモンスター一体を生贄に捧げることで、攻撃力一〇〇〇ポイント以下のモンスターを破壊する。また、モンスターを破壊したとき、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える。
「これが私の力だ。お前程度では私を殺すことなど不可能だぞ?」
「……」
ニグンは何も答えない。ただ黙ってアインズを睨んでいるだけだ。
「さて、では私のターンだな。まずは魔法を発動しよう。《クリエイト・ウォーター/水創造》。そして《フロスト・ペイン/氷結の剣》。さらに魔法を発動する。《サモン・デスナイト/死の騎士召喚》」
呼び出された騎士は全身鎧に身を包み、手に持った武器もまた同様に、冷気を発する白銀の大鎌であった。
「さらに魔法を発動する。《マジック・ミサイル/魔法の矢》」
魔法の力が込められた六本の魔法の矢がニグンに向かって飛ぶ。それを必死の形相を浮かべながら、ニグンは回避しようとする。
「無駄だ」
その言葉と共に魔法の矢は全てニグンに命中した。
「ぐあぁああああ!」
悲鳴を上げ、ニグンはその場に倒れる。
「止めだ」
アインズはそう宣言すると共に、追加で魔法を発動する。「《クリエイト・アース/土生成》《アクア・インフェルノ/火球》《ウィンド・ストーム/風嵐》《ライトニング/電撃》《ダーク・パワー/闇吸収》《ファイヤ・ウォール/火炎壁》《ストーン・バレット/石礫》《エア・バースト/空気爆発》《スネークバイト/蛇の牙》《スリープ/睡眠》」
合計九種類の魔法の力を込めた攻撃が一斉に襲い掛かる。それはまさに地獄のような光景だった。
轟音と閃光。そして遅れて爆風が辺りに吹き荒れる。静寂が支配する中、アインズがぽつりと言葉を漏らす。
「……やりすぎたか」
爆心地となった場所は、もはや原形を留めていなかった。地面は溶け、溶岩のようにどろりと赤熱している。草木は焼け焦げ、もはや炭となって崩れ落ちている。
アインズは目の前に広がった光景に、少しばかり後悔していた。
この世界の人間は脆弱すぎるのだ。だから手加減というものを忘れてしまうと結果がこれである。
「……まぁ、いいか」
そんなことを考えながら、アインズはその場を後にしようとした。
「待ってくれ!」
その声に振り返ると、そこには先ほどまで瀕死の重傷を負わされていたはずの男が立っていた。