TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話   作:妄想癖のメアリー

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堀北。落ちます


融解

 

 

 

 茶柱が言った通り水無瀬は静かに待っていた。それから程なくして指導室のドアが開く音が聞こえる。

 

「率直にお聞きします。何故私が、Dクラスに配属されたのでしょうか」

 

 入ってきたのは堀北。心底納得がいかないという雰囲気を感じる。

 彼女の話を聞くに、成績優秀で面接での態度も問題なかった自分が、何故Dクラスなのかが分からないようだ。

 そんな彼女の話を聞いた茶柱だが、その答えは余りよろしくないものであった。

 

 

 

「────お前の学力が優れている点は認めよう。確かにお前は頭が良い。だけどな、学力に優れた者が優秀なクラスに入れると誰が決めた? そんなこと我々は一度も言っていない。お前がDクラスに配属されたのはこちらのミスではない。なるべくしてなったんだよ。お前は」

 

「……今日のところは、これで失礼します。ですが私が納得していないことだけは覚えておいてください」

 

 そう言って退出しようとした堀北を止める茶柱。彼女は何かバックの中をいじり、タブレットのようなものを取り出した。

 

「少し待て、お前に良い情報をやろう。この映像を見てみろ」

 

 そう言って彼女は映像を流す。そこに映っているのはいつかの教室。監視カメラの映像だった。

 

 

 

『説明してくれないか? 水無瀬。なぜお前がこのシステム──』

『──あなたが無駄に広めたその交友関係でね』

『そうだそうだ! 自分だけいい気になりやがって!』

 

 

 

「これは……」

 

 その見覚えのある光景に苦い顔をする堀北。

 

「見ればわかるだろう? 随分と可哀そうなことをしたじゃないか。最終的に彼自身のおかげで収まったといえるが、事が発展して問題になる可能性だってあったぞ?」

 

「……確かに後に彼に謝ろうと思っています。ですが言い方は別にせよ私は間違ったことをした覚えはありません」

 

 やりすぎだったという自覚はあるのだろう。特にこの1か月、少なくないやり取りを続けた水無瀬には。

 しかし、やったこと自体が間違いであるという認識はないようだ。

 

「本当にそう言えるか? ……これは何年か前の話だが、クラスポイントを決める試験の最中、とある生徒が重大なミスをし、そのせいで大きくポイントを下げる結果となった。その後彼はどうなったと思う?」

 

 そんな含みを持たせた聞き方をする茶柱に、眉をひそめる堀北。

 

「……どうって、普通に学校生活を送ったんじゃないですか?」

 

 少し悩んだ後、堀北はそう返答した。当時を思い出したのか、嘆かわしい様子で茶柱は続ける。

 

()()退()()()()()、責任が重すぎて耐えられずにな……今回は運が良かった。私の経験上の話だが、矛先が彼以外の生徒に向いていれば、()()()()()()()()退()()()()()()()()()()だ。事の重大さがわかったか?」

 

「……」

 

 堀北はその状況を想像して顔を青ざめた。

 そんな堀北に対して茶柱は何かを思い出したかのようにふと語る。

 

「ああそうだった。もう一人生徒指導室に呼んでいたんだった。お前にも関係のある人物だぞ」

 

「関係ある人物って……? まさか、兄さ──」

 

「出てきていいぞ水無瀬、出てこなかったら退学とする」

 

 そう言われてはどうしようもないのか、指導室へと戻った水無瀬。

 その顔には苦笑いが浮かべられている。

 

 

 

「……水無瀬君。私の話を……聞いていたの?」

 

 プライベートな話を聞かれて激高すると思いきや、先ほど映像のことを事もあり気まずそうにしている。

 

「……ああ、すまないね」

 

「先生、どうしてこのようなことを?」

 

 この仕組まれた流れに気が付いた堀北は、怒りを隠し切れない様子で茶柱へと問う。

 

「必要なことと判断したからだ。さて水無瀬、お前を指導室に呼んだワケを話そう。「私はこれで失礼します」待て堀北。最後まで聞いておいた方がいいぞ? Aクラスに上がるために彼は必要不可欠な存在だ」

 

 部屋から出ていこうとした堀北だが、それを言われては弱いようだ。

 

「手短にお願いします」

 

 話を聞く気自体はあるのか、不機嫌そうにしながらもその場に立っている。そして、話題は水無瀬の方へと向かう。

 

「お前は優秀な生徒だな? 本当に。……私は入試の結果を元に、毎回個別の指導方法を思案しているんだが、お前には必要ないようにさえ感じるよ」

 

 彼女はクリップボードから見覚えのある問題の解答用紙を机に並べる。

 

「国語、数学、英語、社会、理科、全て満点。おまけに小テストも満点とはまあ恐ろしい生徒だよ。特に今回の小テストは大学数学の応用問題。問題作成担当の教師が絶対に100点を取らせないつもりで作ったと意気込んでいた上でこれか……話が逸れたな。

 

 そしてお前につけられた総合評価は()()()()()()()。あの最高の生徒会長と名高い現生徒会長よりも高い評価を得ている。随分と立派だな?」

 

「それって……」

 

 それを聞いた堀北は驚くように水無瀬を見つめる。数秒の間の後、観念したのか彼はため息を吐いて語り出した。

 

「……別に努力した結果ですよ。幼少期から厳しい環境に育てられたのでね……用が終わったなら僕は帰りますよ」

 

 そんな彼の様子を気に掛けることなく茶柱は返答した。

 

「ああ、そうしてくれたまえ」

 

「……では、さようなら」

 

 そう言って教室を出ていく水無瀬。その姿がどこか苦しそうに見えた堀北は、たまらず彼のことを追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

「待って! ……その、さっきの点数は……いえ、何でもないわ。それよりあなたに言いたいことがあるの」

 

「ああ。どうしたんだい堀北さん?」

 

 申し訳なさそうに顔を俯かせ、震える声で答える堀北。

 

「さっきの話を聞いていたならわかるでしょう? ……私はあなたに取り返しのないことをしてしまったわ。私の数少ない友人であるあなたに」

 

「おや。友人だと思ってくれていたのかい? 嬉しいね」

 

「からかわないで頂戴……その、ごめんなさい。今はそれしか言えないわ……」

 

 その言葉と同時に頭を下げる堀北、それを見た水無瀬は少し間を置いて彼女の肩にポンと手を置いた。

 

「……ここじゃなんだ、屋上へ行こうか?」

 

 

 

 

 

 そう言って屋上へと来た二人。下では生徒たちが下校をしている。気まずい沈黙が流れる中、先に切り出したのは堀北だった。

 

「……その、あの話って本当なの? ……歴代最高の生徒っていう話」

 

「ああ、入試や小テストで満点だったのは事実だよ」

 

 その言葉を聞いた堀北は少し迷った後、ぽつぽつと語りだした。

 

「私が……私がこの学校に入学したのは、現生徒会長の兄さんに追いつくためだったの。最後に会った時まで兄さんは私を認めてはくれなかったけれどね」

 

 普段ならこのような深い話をする彼女ではなかったが、水無瀬の放つ雰囲気に当てられてしまったのだろう。それほどまでに、今の彼は弱って見えたのだ。

 

「あなたから性格は全く違うけど、どことなく兄さんと同じような雰囲気を感じるわ。そう思っていたから、私はあなたを受け入れたのかもしれない……ねえあなたはどうしてそこまで優秀になれたの?」

 

 縋るような視線を向けられる。それを受けた彼は、屋上の柵を背に地面へと座り込んだ。

 

 

 

「……座りなよ。話すと長くなる」

 

 そう言って自分の隣の地面をポンポンと叩く水無瀬。堀北が隣に座ったのを見た後、ポツポツと語り出した。

 

「────僕は……小さい頃から何をしても褒められたことは一度もなかった、誰にもね。今思えばあれは虐待というものだったのかもしれない、何か気に入らなければ怒鳴られ、叩かれ、体中痣だらけで生活していた」

 

「それって……」

 

 思っていた以上に壮絶な過去を聞いた彼女は驚きを隠せないようだ。それをどうと思ったのか、水無瀬は慌てて否定する。

 

「いや、君の兄さんがそうと言っているわけではない。まあ最もそれは君が一番わかっているであろうけどね」

 

「まいったなあ。ちょっと調子狂うよ」と苦笑いを浮かべる水無瀬とは対照的に、堀北は泣きそうになっている。

 

 

 

「……話を続けようか、教育方法としては間違っていなかったのだろう。僕は確かにその努力は様々な分野において数多の結果を残した。が、そんな努力をしてきた先にはコレ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。笑える話だろう? 

 

 ……僕は少し疲れたよ。両親から逃げてきた先で、こんな事が起こるなんて」

 

 座りながら上を向く水無瀬。その瞳は、言葉以上に哀しみを記していた。

 それを見た堀北は言い知れぬ激情に襲われ、大声を出していた。

 

「あなたはモンスターなんかじゃないわ! ……あなたは周りを思いやれる素晴らしい人よ……私とは違って」

 

「……君は優しいんだね。堀北さん」

 

 水無瀬は自分の肩より少し上。その隣にある堀北の頭を撫でた。それを払おうとはせずに、堀北は震える声でこう語る。その姿は、どこか自分の罪を懺悔する罪人のようにも見えた。

 

「私は……私は優しくなんてないわ。私はあなたにあんなにひどい事をしてしまったのだから」

 

 ────顔を下げながら語る堀北。その瞳には涙が浮かんでいた。

 

「ごめんなさい……! 謝って許されるべきことではないけど、私はあなたに悲しい想いをさせてしまった……! ごめんなさい」

 

 もはや泣いていることを隠そうともせず、堀北はしゃくり上げながらひたすら謝罪する。

 その様子を見た水無瀬は彼女の前に座り、震える肩を優しく掴んだ。

 

 

 

「顔を上げてくれないかい? 堀北さん……ふふふ、きれいな顔が台無しじゃないか」

 

 吹き出す水無瀬。彼の言う通り、堀北の端正な顔と表情は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 

「……」

 

 無言で顔をそらして泣き続ける堀北。その顔を両手で包んで、目を合わせた状態で語りかける。

 

「君がやった事は何一つ間違っていないんだよ? 堀北さん。確かに言い方はちょっとキツかったかもしれない。だがあんな状況だったら誰だってそうなるさ。誰でもね」

 

「だけど、私がやった事は誰にも許されるべきではないわ! あなたは何も悪くなかったのに!」

 

 どうしても水無瀬の話を受け入れない堀北。強く罵倒された方が楽なのだろう。

 だが水無瀬はそれを許さない。座った状態で堀北を抱きしめた彼は、優しく頭を撫でながらこう言った。

 

 

 

 

 

「────だったら僕が許そう。世界中のだれが君を責めたとて、僕は君の味方さ。さぞかし辛かっただろう、大変だっただろう……今までよく頑張ったね。今は誰も居ないし、思いっきり泣いてもいいんだよ?」

 

 

 

 

 

「……! ううっ……」

 

 

 

 

 

 ────堀北の泣き声が屋上に響く。それには小さい頃からため込んでたであろう、様々なものが籠っていたように感じた。それを聞いた水無瀬は、何一つ話すことなく、ひたすら彼女の頭をなで続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたかい? 堀北さん?」

「……早く離しなさい。そうしないと刺すわよ」

「はいはい。仰せのままに……まったく。かわいいお嬢さんだこと」

 

 

 




他人から認めて貰えなかった過去を持っている水無瀬君は、同じ思いをしている人に甘いです。特にそのために努力を続けてきた堀北は、彼にとっては眩しく見えたのでしょう。

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