TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話   作:妄想癖のメアリー

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かの行く末は地獄か否か

 

 

 

「やられたわ……テスト範囲が変わってた。今までの努力が水の泡よ」

 

「ん? テスト範囲の変更? どういう事だい堀北さん?」

 

 彼らが勉強会を始めてから1週間がたった頃の昼休み。教室で須藤達の問題集を作っていた水無瀬の元へ駆けつけてきたのは堀北だった。

 いつになく慌てている彼女の様子に、驚きながらも説明を求める水無瀬。

 

「もちろん気にせずに皆しっかりと勉強してたわよ。そうしたら範囲を見た1人がこう言ってきたの。『お前らが勉強しているところは範囲外だ』って。嘘をついているようには見えなかったから、茶柱先生に確認に言ったら……」

 

「テスト範囲の変更が、その場で告知されたと」

 

「……そうよ。本当は先週の金曜日に言うはずだったのに、伝えるのを忘れただなんて信じられないわ」

 

 怒りを隠さずに堀北は語る。しっかりと努力してきた彼らを一番近くで見てきたため、よほど悔しいのだろう。

 

「あと1週間か……いや、大丈夫。みんなが頑張って勉強してきた様は僕は良く知ってるつもりだ。とりあえず対策を明日までに立てる。今日の所は皆の説得だけでいい、新しい範囲はまだ手を付けないでくれ」

 

「……わかったわ」

 

 急いでやらなくて良いのかと思う堀北だったが、素直に従うようだ。

 水無瀬は図書室へと戻る堀北を見届け、茶柱の不可解な行動について思考を巡らせていた。

 

 

 

 

(妙だな……何故あれだけAクラスへの執着がある彼女が、テスト範囲を伝え忘れるだなんて。というと、可能性としては()()()()()()()()()。つまり正攻法でテスト対策をするなという事)

 

 そう。以前茶柱との契約を行った水無瀬は、異常ともいえるAクラスへの執着を知っているのだ。

 それこそ、生徒を退学にすると脅してまで。そんな彼女がただミスをしたとは考えられなかった。

 

 そして思い出されるのは、5月の始め、茶柱が言っていた事だ。

 

 

 

『中間テストまでは後3週間。まぁじっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると()()している』

 

 

 

(熟考、確信……ああ。なるほど。そういう事か)

 

 そして一つの結論に至った水無瀬は、行動を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「────欠席者は無し、ちゃんと全員揃っているみたいだな」 

 

 朝、茶柱が不敵な笑みを浮かべながら教室へやって来た。

 

「お前ら落ちこぼれにとって、最初の関門がやって来たわけだが、何か質問は?」

 

「僕たちはこの数週間、真剣に勉強に取り組んできました。このクラスで赤点を取る生徒は居ないと思いますよ?」

 

「ええ、僕たちの頑張りを目に焼き付けてください」

 

「随分な自信だな平田、水無瀬」

 

 他の生徒たちの表情にも自信が窺える。茶柱はトントンとプリントの束を揃え配り出す。

 1時間目のテストは社会。勉強した中では容易い部類の教科と言える。

 

「もし、今回の中間テストと7月に実施される期末テスト。この2つで誰1人赤点を取らなかったら、お前ら全員夏休みにバカンスに連れてってやる」

 

「バカンス、ですか」

 

 それを聞いた男子たちは、一体何を想像したのだろうか? 

 

「な、なんだこの妙なプレッシャーは……」

 

 茶柱が、生徒(主に男子)から発せられる気迫に一歩後退した。

 

「皆……やってやろうぜ!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

「変態」

「水無瀬、終わったら一緒に水着買いに行こう?」

「こんな時にも君はブレないね」

 

 

 

 

 

 

「楽勝だな! 中間テストなんて!」

 

「俺120点取っちゃうかも」

 

 テストを終え、第一声は池の余裕の言葉。山内も手ごたえはばっちりなのか、その表情には笑顔が浮かんでいる。

 

「須藤、次で最後だ。ちゃんと言われた通りやってきたかい?」

 

 英語以外のテストが終わった事により、少し余裕ができていた須藤に水無瀬は話しかける。

 

「おう! 昨日の間にバッチリだぜ!」

 

 そう威勢よく答える須藤。そうしながらも、最後の確認は怠らない。

 

「よし、でもしっかり最後に確認をするんだ。英語は単語のスペルミスで意外とたくさん持ってかれるからね」

 

「分かってる! お前は俺の母ちゃんかよ!?」

 

 その言葉にクラスで笑いが起こる。そんな雰囲気の中英語のテストが始まった。

 所々詰まりながらも、スラスラとペンを進める3人。水無瀬の()()は功を奏したようだ。

 

 

 

(────この様子だと皆ちゃんとやってきたみたいだね。()()()()()()()()()を)

 

 

 

 

 

 

 時は1日前、茶柱によってテスト範囲の変更が知らされた3日後の木曜日。その放課後までさかのぼる。

 

「皆少し聞いてくれないか。なるべく手短に終わらせるから」

 

「何だ水無瀬。皆テスト対策で忙しいんだ」

 

 テスト範囲の変更で余裕が無くなったのか、クラスにはピリついた雰囲気が漂っていた。

 それもそうだろう。1科目でも赤点を取れば問答無用で退学になるのだ。

 

「そのテストについてだよ。ちょっと多いんだけど、これを後ろの人たちに配って欲しい」

 

 水無瀬は一番前の席に、人数分の問題を配っていく。

 

「これは……テストの問題? もしかして水無瀬が作ってくれたのか? 」

 

 後ろの席の池が声を上げる。他の生徒達も同じ考えだと言う様に頷いている。

 

「いや。それよりももっといいものだ。これはテストの過去問だよ。一昨年のね。この学校の1年前期中間は、ほぼ同じ問題が出るらしい」

 

「先輩にも確認取ったよ」と語る水無瀬の言葉に、クラス全員が浮足立っている。

 

「おいおいマジかよ!? って事は、これやっとけば問題ないって事か!? サンキュー水無瀬! やっぱお前が一番だぜ!」

 

 もう既に合格した気分でいる池。しかし、翌日にテストを控えている状況で、過去問がある安心感はとても大きいだろう。

 

「……それにしても、よく分かったね。過去問だなんて」

 

 驚きが大きかったのか、苦笑いを浮かべている平田。

 確かに、今まで中学生だった彼らは、過去問だなんて思いもしなかっただろう。

 

「茶柱先生が言ってただろ? 『お前らが退学を回避できると確信している』って。だから、何かしらの方法があるって考えたんだ」

 

「流石だね……助かるよ水無瀬君。これで皆乗り切れる」

 

「クラスの為なら、これくらい何てことないよ。よし! 皆、気張っていくぞ!」

 

「「「おー!」」」

 

 水無瀬の掛け声を筆頭に一致団結するDクラス。確かに、そこには今までにない団結力が存在していた。

 

 

 

 

 

 

 最後のテストが終わった後、水無瀬達は再び須藤の周りに集まっていた。

 

「お疲れ! 一時はどうなるかと思ってたけど、誰も退学せずに済みそうだな!」

 

「ああ、ありがとな。お前ら」

 

 そう言って感謝を告げる須藤。それに対して堀北が照れくさそうに返す。

 

「……テストまでの勉強期間、あなたはあなたなりにやれることをやってきた。手を抜かなかったことも分かってる。精一杯の力を振り絞ったのだから胸を張っていいと思うわ」

 

「ああそうさ。結果が楽しみだね。それは君たちが自分自身の手で掴みとった物なんだから」

 

 そう続ける水無瀬。そうして、前期中間テストは幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 教室に足を踏み入れた瞬間、茶柱は驚いたように生徒たちを見回した。生徒たちが、中間テストの結果発表を固唾を呑んで待っていたため、只ならぬ気配が蔓延していた。

 

「先生。本日採点結果が発表されると伺っていますが、それはいつですか?」

 

「お前はそこまで気負う必要もないだろう平田。あれくらいのテストは余裕のはずだ」

 

 そんな茶柱の冗談にも、クラスの空気は緩まない。皆それだけ真剣に対策をしてきたのだ。

 

「……いつなんですか」

 

「喜べ、今からだ。放課後じゃ、色々と『手続き』が間に合わないこともあるからな」 

 

 手続き、と言う単語に、一部の生徒は敏感に反応する。

 

「それは……どういう意味でしょうか?」

 

「慌てるな。今から発表する」

 

「正直、感心している。お前たちがこんな高得点を取れるとは思わなかったぞ。数学と国語、それに社会は同率の1位、つまり満点が10人以上もいた」 

 

 100と言う数字が並び、生徒たちからは喜び、歓喜の声があがる。

 肝心の須藤達の点数だが、皆75点前後と、過去問があったと言え大健闘だろう。彼らが油断せずに努力したことが良く分かる。

 

「見ただろ先生! 俺たちもやるときはやるってことですよ!」 

 

 池がドヤ顔を決める。

 

「ああ、認めている。退学者に関してだが────」

 

「……あ?」

 

『退学』その言葉を聞いた瞬間浮かれていた空気が一気に静けさを取り戻す。赤点候補筆頭の須藤も不安げだ。

 その様子を見た茶柱は、からかうような表情を浮かべている。

 

 

 

 

 

「────退学者は0。全員合格だ」

 

 そう言って赤点のライン、43点にラインを引く茶柱。その様子に皆息を漏らす。

 

「そりゃないぜ先生! ってあれ? 赤点のラインって31じゃないの?」

 

 そう言って不思議そうにする池。確かに前回の小テストとは少し違った。

 

「前回、そして今回の赤点基準は、各クラスごとに設定されている。そしてその求め方は平均点を2で割ったもの、つまり86÷2で43だ」

 

「前と同じように安心してたら危なかったって事か……」

 

 クラスの誰かがそう言った。確かに、赤点の基準が前回より10点以上上がっている。

 

「私からは以上だ。何か質問はあるか? ないなら失礼する」

 

 

 

 

 

 そう言って茶柱は教室を後にした。

 テストが終わり浮かれた空気を後に、水無瀬は彼女を追いかける。彼女は1階の廊下で窓の外の景色を見つめて立ち尽くしていた。まるで誰かが来ることを待っていたかのように。

 

「……水無瀬か、どうした? 聞きそびれた事でもあったか」

 

「ええ。なぜあなたは『意図的にテスト範囲の変更を教えなかったのか』ということを聞きに」

 

「……全体でも説明しただろう。()()()()()とな」

 

「忘れていた? 貴方にしては珍しいですね。ただの生徒を退学という言葉で脅し、クラス間闘争に協力させた貴方にしてはね」

 

 そんな痛い所を突かれた茶柱だったが、特に反応を返すことはない。

 しかし、水無瀬には1つ確信している事があった。

 

 

 

「あなたは()()()()()()()()()()()()。そして、あえて僕らを焦らせて、そこにたどり着かせようとしましたね?」

 

「……もしそうだとしたらなんだ? 遅れた代償でも払えと?」

 

 大げさに肩をすくめた茶柱だったが、水無瀬がここに来たのは請求の為ではなく、注意喚起であった。

 

「そうは言ってません。ただ今後このような不確定な要素を持ち込むのはやめていただきたい。今回は偶然他クラスの知り合いに範囲の変更を教えてもらった為対策が立てられましたが、次も事が上手く進むとは限りません。そこを重々承知の上でよろしくお願いします」

 

「そうか……いいだろう。だがこちらからも一つ言わせてもらう」

 

 ゆっくりと寄ってきて彼のすぐ横で小さく語る彼女。

 

「なぜ綾小路に本気を出させなかった? 彼女なら全教科100点も簡単に取れたはずだ、まさか手を抜いていられる状況だと思っているわけではないよな?」

 

()()()()()()()ですよ」

 

 そう含みを持たせて話す水無瀬。掴みどころのない答えだったが、茶柱は理解したようだ。

 

「……そうか。だがお前達2人が円満に学生生活を送れるかどうかは私がすべて握っている。そのことを努々忘れないように」

 

「……」

 

 そう言って職員室へと戻る彼女。その場に立ち尽くしていた水無瀬が何を思っていたのかは、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「────ふう。自分の部屋にあんなに人を呼んだのは久しぶりだよ」

 

 そう言って食器を片付ける水無瀬。前回のテスト発表から2日後の夜、彼ら赤点組は水無瀬の部屋にて打ち上げを行いその片付けの最中だった。

 

「お疲れさまです。水無瀬君」

 

「水無瀬。何か手伝うことある?」

 

 散らかったお菓子のゴミや紙コップなどを片付ける中、ちょうど外から帰ってきた坂柳や、片付けを手伝っている綾小路が話しかける。

 

「ああ、有栖ちゃん。ごめんね外出てもらってて、それにしたって神室さんだっけ? あんまりこき使っちゃ駄目だよ? ……っと清楓ちゃんはそこの皿片付けて」

 

「ええ、分かっていますよ。彼女も奢りと聞いて喜んでいましたし」

 

「1万ポイントで足りたかい? 残りは好きに使っていいからね」

 

「ありがとうございます」

 

 一息ついたのか、水無瀬は坂柳から聞いていた『とあること』に対して言及した。

 

 

 

「……それにしたってそっちのクラス。派閥争いを終わらせたそうじゃないか? 妥協点を見つけるだなんて君らしくもない」

 

 そう、彼女が所属するAクラスでは彼女、坂柳有栖による『積極的に他クラスに対して攻撃すべき』という考えの派閥と、葛城康平による『他クラスへの攻撃は控えるべき』という考えの派閥の争いをしていた。

 そこに彼女が譲歩するという形で()()()()治まったのだという。

 

「そうですね。あなたが本腰を入れてAクラスに行こうとしているのですから、私も本気を出さないといけませんしね。それに策はあります。私がクラスを掌握するのも遠くはないでしょう。

 

 葛城君には補佐的な役割が一番合っていますから。今までのように私に勝てると思わないでくださいね?」

 

 好戦的な笑みでこちらを見つめる坂柳。

 

「それは困った。こちらも退学にならないようにしっかり頑張らないとね」

 

「よく言います。退学する気なんてさらさらないのに」

 

「水無瀬、運び終わった。次は何すればいい?」

 

 皿を運び終えたであろう綾小路が戻ってくる。

 

「ああ、もう大丈夫だよ。疲れただろう? ゆっくり休んでて」

 

「はーい」

 

「……それで? 茶柱先生は掌握できたのでしょうか?」

 

「ああ。ほとんど完璧に終わったよ。彼女は僕が牙をむく可能性を微塵も考慮していない。退学によって縛り付けれると思っている。

 

 適当に成果を上げ続ければこちらの味方になるだろうさ。最終的な相手は綾小路先生になる。その時までに、味方を増やした方がいい」

 

 

 

 

 

 

「『実力至上主義』か。全く……そういう世界から離れたはずだったんだけどね? 僕も彼女も、最早呪われているみたいだ。だが、そんな世界だからこそ僕らは愛を見つけられるんだ。

 ────この世で最も尊く、おぞましいモノである、愛をね」

 

 

 




一巻おしまい!ここまでありがとうございます!
これからもどうぞよろしくお願いします!

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