TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話 作:妄想癖のメアリー
「……にしても暑すぎないか。ここ」
水無瀬はあの後、特別棟へと足を運んでいた。特に普段と変わった様子は見受けられない。特別な授業、家庭科室や視聴覚室など、頻繁に利用しない施設が揃ったこの校舎は、授業が終わると殆ど人の気配がなくなるため誰に見られることもない。須藤を呼び出すのなら、学園の中でも理想的な場所の一つだ。
「やっぱり監視カメラは無いと……本当に良く調べてあるな」
天井付近にコンセントは設置されていたが、それが使われている形跡はなかった。 廊下は遮蔽物が何もないから、もしその位置にカメラがあれば、一部始終記録が残っていた可能性は高い。犯人たちCクラスの生徒が良く調べたという事実は、疑いようのないものであった。
須藤を完全に勝たせるための証拠があればと立ち寄ったのだが、特に収穫はなさそうだ。
「あれ? 佐倉さん?」
「み、水無瀬君!?」
「おっと、驚かせちゃったかな? ごめんね。どうしてこんなところに?」
「う、うん……大丈夫、です。あ、えと。私は写真を撮るのが趣味で、それで……」
そう言って携帯の画面を近づけて見せる佐倉。水無瀬は嬉しそうに話す。
「写真か、いい趣味だね。僕もよく自分で撮った写真を待ち受けにしてるから気持ちはよく分かるよ」
にっこりと語った水無瀬。彼も自分の端末の待ち受けを見せる。
そこには坂柳と綾小路と3人で桜の下で並んで撮ったものが映っていた。
「あはは……私はそういうのじゃないかも。窓から見える景色とか、かな?」
なぜか疑問形で答える佐倉。それに対して水無瀬は嬉しそうに話している。
「そうなんだね。いやー。佐倉さんの事を知れて少し嬉しいよ。クラスではほとんど話さなかったからね。あんまり話しかけないで欲しいーって感じだったから……」
「あはは……水無瀬君は他の人と違って、ちゃんと考えてくれてるんですね。それに須藤君のことに関しても聞いてこなかったし」
そう言って下を向く佐倉、その表情には影が差しこんでいた。
「私。ちゃんと説明した方が良かったでしょうか? ……その、クラスのみんなが頑張ってる中、私だけこんな」
(あくまでどちらでも通じるように言うのか、割と葛藤があるみたいだね)
『目撃者じゃないと伝える』ではなく、『説明する』といったあたり、最終的にどちらに傾いたとしても問題ないようにしている。
しかし水無瀬はここで押すのではなく、敢えて譲歩する選択肢を取った。
「無理はしなくていいんだよ? ……もし仮に君が目撃者で、証言してくれるとなった際は、君は必ず証言台に立たされることになる。それは僕の本意ではない。今日の放課後のことに関しては、僕が皆を説得しておくよ」
「そ、そうなんだ」
その態度が意外に感じたのか、呆ける佐倉。
「もし誰かに強要されたりしたら遠慮なく僕に相談してくれ。必ず全力をもって助けるよ」
そう言って締める水無瀬。佐倉は照れくさそうに頬をポリポリとかきながら、水無瀬に感謝を伝える。
「うん、ありがとう……その、証言台とかに立つのは厳しいけど、他の人に内緒にしてくれるなら、何があったのかは教えられるかも……それでも大丈夫ですかね?」
(お。うまくいった)
先ほどから一転『水無瀬にだけなら事情を教える』と態度を改めた佐倉。
しかし、この流れは水無瀬自身が想定しているものであった。
────水無瀬が仕組んだ流れというのは、そこまで難しいものではない。
『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』という交渉テクニックの応用みたいなものだ。
『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』とは、本命の要求を通すために、それよりも過大な要求を提示し、それが断られたら小さな本命の要求を出す方法だ。
具体的な例を挙げるとするならば、小売店で値切りをするときなどが身近だろう。最初に大げさな金額を提示して、それが断られたら小さい金額を値切るというのも、このテクニックを無意識に使用している。
この場合は『先に櫛田の要求を断らせておいて、譲歩した内容を水無瀬が提示する』という流れだ。
(あっちから言ってくれるとは思わなかったけど、嬉しい誤算だね)
「ああ、助かるよ。証言に関しては誰かに漏らしたりとかは絶対にしない。それは約束する」
「うん! えっと、写真を撮ったんだ。カメラに……あ」
カバンからカメラを取り出した佐倉だったが、先ほど教室で落としたせいで電源が付かなくなってしまっていた。
「あー、そっか……ごめんね。教室で聞いたばかりに。修理に出したりとかはできないのかい? 新しいモデルだったら保証が付いているだろう?」
申し訳なく謝る水無瀬に対して、佐倉は慌てたように返す。
「ううん! 水無瀬君が悪いわけじゃないよ……うーん、修理か……」
どこか不自然に修理を渋る佐倉、それを見た水無瀬はすぐさま提案する。
「佐倉さんが良ければ付き添うけどどうかな? 手続きとか分からないなら、代わりに僕がやっても問題ないだろうし」
少し悩んだ後、意外にもOKを出す佐倉。
「……うん! ありがとう。じゃあお願いしてもいい?」
「ああ、今週の日曜日に。具体的な連絡はチャットでするよ。グループから友達登録するけど大丈夫かな?」
「うん。じゃあ、私はこれで」
そう言って階段を下りていく佐倉。
(予想外の事態にはなったが、上手くいきそうだな)
流れが良い方向に向かいつつあるためか、その顔には笑みが浮かんでいた。
「────あれ? 水無瀬君じゃん! そこで何してるの?」
突然の声に振り返る水無瀬。そこにはストロベリーブロンドの美少女がこちらを向いて立っていた。
その顔には覚えがある。彼の知り合いである一之瀬というBクラスの生徒だ。
「ああ。一之瀬さん、こんにちは。須藤の件について、事件現場をちょっと見ていただけだよ」
隠すことなく答える彼に、一之瀬は納得したように語る。
「やっぱりねー。Bクラスでも聞き込みすごいしてたみたいだし。私も概要を聞いてちょっと疑問に思ったから。一度様子を見ようと思ってここに来たの。よかったら事情を聞かせてくれないかな?」
「うん、いいよ。ただここは暑すぎる。外に出ながら話そう」
彼の提案に同意した一之瀬と共に歩きながら、事情を語る水無瀬。
「ーーーーそれ酷くない!? ホントだったら須藤君何も悪くないじゃん!」
「あはは、そうなるね……この学校はクラス同士で競わせてるからこそ、トラブルの危険性をいつも孕んでいる。今回はその最初の事件のようだし。嘘をついた方が勝ったら大問題だ。それを抜きにしても友達がコケにされているのを見過ごすわけにはいかない」
そう強い意志で語る水無瀬に対して、一之瀬はこんな提案をした。
「もしよかったら私も協力しようか? 目撃者捜しとか。人手が多いほど効率的でしょ? さらに私たちBクラスが協力して証人になることが出来れば、信憑性はグッと高くなるんじゃない? ただ逆も然りで、真相を追い求める過程で、Dクラスが被害を受けてしまうかも知れないけど……水無瀬君は須藤君を信じてるし大丈夫でしょ?」
そう言った一之瀬に対して水無瀬は嬉しそうに感謝を告げる。
「ああ。助かるよ! ありがとう!」
思わぬ援護に、笑みを浮かべながら感謝を伝える水無瀬。
「連絡先って交換してたよね?」
「ああ、と言ってもだいぶ下の方にはなるけどね」
入学時に交換してから、クラス間闘争の件もあってかあまり話せていなかったようだ。
「あはは…5月からあんまり話せてなかったしね。よし。じゃあ改めてよろしくね! 水無瀬君」
そう言って右手を出してくる一之瀬、彼はそれに応じて握手をした。
「ああ。よろしく」
DとBクラスの同盟が設立された瞬間である。
その後送られてきたチャットによると、一之瀬は、信頼できる仲間と作戦を練り行動に移しているらしい。都度許可を求めた方がいいか聞かれた水無瀬であったが、任せておくことにした。
寮へと帰宅した水無瀬はその後夜食と風呂を済ませて就寝し、翌朝を迎えた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
寮の管理人にお礼を言い歩き出した少女は、水無瀬達3人の存在に気が付き声をかけてきた。
「やっほ、おはよう。3人とも朝早いんだね」
「おはようございます。一之瀬さん」
「ん、水無瀬。この人は?」
「Bクラスの一之瀬さんだよ。おはよう。一之瀬さん。管理人と何を話していたんだい?」
「うちのクラスから何人か、寮に対する要望みたいなのがあって。それをまとめた意見を管理人さんに伝えてたところなの。水回りとか、騒音とかね」
「一之瀬がわざわざそんなことを?」
不思議そうに問うのは綾小路。確かに普通、部屋のトラブルなんて個々で対応するものだ。
「おはよう一之瀬委員長~」
そんな時、エレベーターから降りて来た二人の女子に声をかけられ、一之瀬もそれに答える。
「流石一之瀬。クラスの人気者だね」
からかうようにしていう水無瀬に対して、一之瀬は抗議するように語る。
「からかわないでよ水無瀬君! 委員長やってるから、他の子よりは目立つのかも。それくらいだよ?」
彼女は急に真面目な雰囲気を出して水無瀬に話しかける
「あのさ……参考までに相談したいことがあるんだけど、いいかな? 水無瀬君」
「うん? いいよ。ごめん2人とも先に行ってて」
「わかりました。行きましょう綾小路さん」
「ん、おっけー」
2人を見送った一之瀬だったが、何故か不思議そうに顔を傾けている。
「あの2人って噂の綾小路さんと坂柳さんだよね? 水無瀬君を取り合ってるって聞いてたんだけど、2人とも仲いいんだね?」
「…まあね。それで、相談って何かな。答えられることなら答えるよ?」
あまりその話題には触れてほしくないのか、強引に本題に入る水無瀬。深堀されると困るのは彼だったので、仕方のないことだろう。
「女の子に告白ってされたことある? ……ないわけないか、水無瀬君だもんね」
クラスの女子たちの評判を思い出し、1人で結論を導きだす一之瀬。
「……まあ、無いわけじゃないけど。どうしたんだい? 誰かにでも告白されたとか?」
拍子抜けしたような水無瀬が問う。相談があると改まった表情で言われたため、何か問題でも発生したのかと思った彼だったが、どうやら違うようだ。
「え? あーうん。そんな感じ」
少し含みを持たせて一之瀬は返答した。どこか違和感を感じる水無瀬だったが、畳みかけるような一之瀬の言葉に思考を中断せざる負えなくなる。
「あのさ。良かったら今日の放課後少し時間貰えないかな? 告白のことでちょっと問題を抱えてて。事件のことで忙しいのは百も承知なんだけど…」
「ああ。それくらいなら構わないよ」
「ありがとう放課後……玄関で待ってるね」
(よりにもよってそれか……僕が聞きたいくらいだよ)
荷が重いと感じながら、その日の授業を終えた水無瀬であった。
「一之瀬さん」
「あっ、水無瀬君。こっちこっちー」
そう言って合流した2人は、人気のない場所へと移動する。
「それで? 僕は一体何をすればいいのかな?」
「ん、すぐ終わると思うから、ついてきて」
そう言って体育館裏へと移動した2人。一之瀬は振り返って水無瀬に一言告げた。
「私、ここで告白されるみたいなの」
その一言で何かを察してしまった水無瀬。額に手を置きながら上を向いている。
「……もしかして、僕に偽の彼氏役とかやらせるつもりでいる?」
「うん、そうだよ。色々調べたら、付き合ってる人がいるのが一番相手を傷つけないで済むって……すぐに別れたことにするとか。私がフラれたことにしてくれていいし」
そう言ってまくし立てる一之瀬。どこか焦っている雰囲気を感じた水無瀬だったが、どうしても彼には協力できない理由が複数あるのだ。
「第一に、僕が一之瀬さんと付き合ってるだなんて出まわったら、それこそ清楓ちゃん達に殺されてしまうよ」
「あ…確かに」
そこまで考えが及んでなかったのだろう。頭が良い一之瀬らしくないと思った水無瀬だったが、その手の話題に慣れていないのだろうとあたりを付ける。
「いいかい? 相手を傷つけたくないという君の気持ちは、確かに美しい。だが嘘はいけない。しっかりと相手と話し合った方がいい」
「でも……あっ!」
何かに気づいたように一之瀬がぎこちなく手を挙げる。告白相手が来たようだ。
手紙の内容はそのものであったが、まさか本当に女子が来るとは思わなかっただろう。水無瀬は驚きを隠しながら一之瀬の言葉を待つ。
「あの……一之瀬さん、そこにいるのってDクラスの水無瀬君ですよね? ……どうして彼がここにいるんですか? ……もしかして、2人は付き合っているんですか?」
困惑や悲しみを交えた声色で語る彼女に一之瀬は動揺している。
「あ……えと……」
「どうして、ここに水無瀬君がいるんですか……」
そう涙目で見つめて来る彼女に、一之瀬はさらにあたふたしている。
「あの、どこか行ってもらえませんか。私これから一之瀬さんに大切な話があるんです」
「わ、ちょっと待って千尋さん。その、えっとね……? 水無瀬君は、私の──」
「それはいけないよ、一之瀬さん。大丈夫、ただの友達だよ……ごめんね、これだけ言ったらすぐ立ち去るから」
焦りつつも答えようとした彼女の言葉を遮ったのは水無瀬である。少し語気を強めて彼女に語り掛ける。
「一之瀬さん。誰かに愛を伝えるなんて、相当の覚悟がいるものなんだよ? もしかしたら今までの関係でもいられないかもしれない。断られたらもう話すこともできなくなってしまうかもしれない。そんな不安を押しのけてまで君にそれを伝えようとした彼女の行動を、君は嘘で裏切るのかい?」
「それは……」
水無瀬にしては珍しく強い口調で咎められた一之瀬は、先生に怒られた子供のように言いよどむ。そんな様子の彼女を見ても、引き下がるつもりはないようだ。
「確かに君の行動は善意からのものだったのかもしれない。だがそれは独りよがりなものだ……愛された人間はそれに正直に答える
「っ……」
「……少し喋りすぎたね。僕はもう行くよ」
そう言ってその場から離れる水無瀬。その顔はどこか暗い。
(やっぱり安請け合いするもんじゃなかった……)
そんなことを思いながら数分ほど経った時、彼の傍を一人の少女が小走りで駆け抜けていった。
彼女の目に涙が浮かんでいた様子が、やけにはっきり頭に残る水無瀬。
「あ……」
そして少し経った後に一之瀬がやってきた。苦笑いをする水無瀬を見つけちょっと気まずそうに俯いた彼女だったが、すぐに顔を上げる。
「私が間違ってた。千尋ちゃんの気持ちを受け止めようとしないで、傷つけない方法だけを必死に考えて逃げようとしてた。それって間違いなんだね」
ベンチに腰かけていた彼の隣に座り、小さく続ける一之瀬。
「明日からはいつも通りにするからって言ってたけど……元通りやっていけるかな」
「それは君たち次第だよ」
「うん……」
「今日はありがとう。変なことに付き合わせちゃって」
そう言って申し訳なさそうに語る彼女に対して、水無瀬は少し考えた後に答える。
「……いいや、君がそれに気づけただけでも付き合ってよかったと思えたよ。君は他人を思いやれる素晴らしい子なんだ。大丈夫、きっと上手くいく」
「うん……ありがとう……私ったら助けてもらってばっかりだね。今度は私が協力する番。やれるだけのことはやってみるね!」
そう言って切り替えた彼女。それを笑って見ていた水無瀬は、西日のせいか眩しそうに少し目をそらす。
「……君は僕とは違うみたいだね、少し羨ましいよ」
乾いた笑いと共に小声で語る水無瀬。
「ん? 何か言った? 水無瀬君」
「……いいや。何でもない」
────そう言って立ち上がる彼の背は、いつもと違っていやに小さく目に残った。
リメイク前の方を読んだことありますか?
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リメイク前読んだことあるよー
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リメイク後初めて読んだよー