TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話 作:妄想癖のメアリー
「うおおおお! すげえええええ!?」
Dクラス一行が水無瀬についていってから数分後、生い茂る草や木を抜けたその先にあったなにかを見て、池が興奮したように叫んだ。
「これって……」
「ああ、これが先生の言っていたスポットだね……! すごいよ水無瀬君!」
彼らの目の前に広がっていたのは、きれいな水の流れる幅10mほどの川に、日光を遮るのに最適な日陰や地ならしした平坦な地面である。
さらにその川辺には不自然な大岩があり、そこに何らかの装置が埋め込まれていた。
「でもどうして分かったの?」
皆が嬉しそうに辺りを見回している中、そんな質問が飛んできた。
「最初に船で島の周りを見た時に大きな川が見えたんだよ。船内のアナウンスで言ってただろう? 非常に有意義な時間を過ごせるって。そして僕らが行うのはサバイバル試験。こんなに分かりやすいスポットなんて無いだろう?」
「お前スゲーな! 思いもつかなかったぜ!」
そう説明した水無瀬に対して、池は感心したように話した。
そんな皆の様子を尻目に平田はこう問いかける。
「さて、ここをベースキャンプにするのは確定として、問題は占領するかどうかだね」
そんなのするに決まってんだろ! しないなんて選択肢があるのかよ?」
「あるよ。ここを占有するメリットは当然、川を独占できることにある。それと占有権で入ってくるポイントの収入だね。でも、それには8時間に一度更新する必要がある。操作を許されているのはリーダーと定められた人だけだから、その姿を見られたら大変なことになる。どこで誰が目を光らせているかは把握しきれないよ」
「あー。でもこうやって俺らで囲むようにして隠せばいけるんじゃね?」
「僕も池の考えに賛成だ。占領すれば他のクラスはこの川の水を使えなくなる。逆に言えば、皆が寝ているときなどの隙をつかれて他クラスに占領されてしまったら、僕らは追い出されてしまうからね」
川の下流に刺さっていた看板について説明しながら池の考えに同意する水無瀬。
2人の考えを聞いた彼らは、占領するという意見に落ち着いた。
「うん。じゃあ後は、誰がリーダーをするかだ。肝心なのはそこだからね」
占有するかどうかより、リーダーを誰に据えるかが大きな鍵となる。ここでのミスは命取りになりかねない。誰もがその重役を避けたいと思う中、櫛田は皆に集まるように言い、円を作らせると小声で話し出した。
「私も色々考えてみたんだけど、平田君や軽井沢さんとか水無瀬君は嫌でも目立っちゃう。でも、リーダーを任せるなら責任感のある人じゃなきゃダメでしょ? その両方を満たしているのは堀北さんだと思ったんだけど、どうかな……?」
「櫛田さんの意見に賛成だよ。というより、僕もリーダーは堀北さんが良いと思っていたから。後は堀北さんさえ良ければ引き受けてもらいたい。どうだろうか」
そう提案する2人。だがそこに待ったをかけたのは水無瀬である。
「いいや、今回は別の人がいいと思うよ? もちろん鈴音ちゃんがリーダーに不向きだとは思わない。だが先ほどから彼女は少し体調が悪そうだからね。僕的にはあまり無理はさせたくない。僕的には清楓ちゃんがいいと思っている」
「えー、綾小路がリーダーかよ? うまくできんのか? 絶対水無瀬でいいって!」
彼の意見に異を唱えたのは池。綾小路はクラス内で少し抜けたような印象を持たれていることが原因の1つだろう。実際は全くそんなことないのだが。
「……それはどういう意味? 池」
その言葉を聞いて不服そうに問いかける綾小路。クラスで意見が割れ始めたその時、1人の生徒が意見を述べた。
「分かったわ。私が引き受ける」
「……大丈夫かい? 鈴音ちゃん」
そう言ったのは堀北。心配そうにする水無瀬に目を向けて、彼女は強気にこう言い放つ。
「ええ、これくらい出来ないとAクラスには上がれない。それに心配されるようなものでもないわ。さっきも言ったけど、少し体が冷えただけだから」
「分かった。君がそう言うなら止めないよ」
どこか焦りのようなものが見受けられた堀北だったが、水無瀬はそれをあえて無視して話を進める。
平田が茶柱の元へと行き堀北の名前を伝える。それから程なくしてカードを受け取り、堀北へと託す。もちろん誰かに見られている可能性を考慮し、全員がそれとない動作で装置に触れて誰がリーダーかを分からないようカモフラージュした。
「よし! これでベースキャンプについては解決だね。もう一つ皆にやってほしいことがあるんだけど」
「何かしら? 水無瀬君」
そう語った水無瀬に対して質問したのは堀北。リーダーなりにこの場をまとめようとして頑張っているようだ。
そんな彼女に微笑みながら水無瀬は答える。
「僕らと同じように、どのクラスもスポット探しをしているはずだ。そこでクラスの誰かに他のスポット探しをお願いしたいんだ。もしも占領しているところを見ることが出来たらリーダーを当てられるかもしれない」
「ん、確かに。今のところDクラスが一番乗りだから、有効かも」
水無瀬の意見に補足する綾小路。彼はそれに同意して続ける。
「ああ、皆が頑張ってまとまってくれたおかげで、このクラスは一歩リードしている。これを逃す手はないと思う」
「良いじゃん! 良いじゃん! AもBもCも全部当ててやろうぜ!」
そう語った水無瀬。池もそれに乗り出した。
クラス内で反対意見が出なかったため、平田は皆に呼びかける。
「この中にサバイバルに精通した人とか……いないかな?」
「池は良くキャンプに行っていたのだろう?」
少し前にした会話を思い出した水無瀬は、池に問う。
気まずそうな表情をした後に、池は弱々しく語った。
「……まああるっちゃあるけどよ」
「じゃあ頼むよ。お願いだ」
そう言って両手を合わせてお願いする水無瀬。その様子に笑いながら池はこういった。
「ぷぷ、お前それ似合わねえよ。いいぜ、少しだけだけど力になるぞ!」
意外にもたくましい池の反応を見て感心した女子達。そんな雰囲気が功を奏したのか、皆が続々と手を挙げた。
「私も行く……水無瀬はクラスの方針を相談しといて」
ある程度まとまってきた辺りで平田が呼びかける。
「11人かな。あと一人参加してくれれば、4チーム作れそうなんだけど……」
そう語った平田。少し経った後、その傍で控えめに手が上がった。
「ありがとう佐倉さん。これで12人。3人ずつの4チームで行こう。どういう予定で行こうか? 水無瀬君」
「そうだね……今の時刻が1時30分か……じゃあ30分後にもう一度ここに集合しようか。短いとは思うけど、ベースキャンプ自体は見つけたから、そこまで焦らなくても大丈夫。本格的な探索は、クラスの方針がまとまってからにしよう……じゃあお願いできるかい?」
「おう! 任せとけ!」
そう言って探索組は池を筆頭に森へと入って行った。そんな彼らの様子に一抹の不安を感じながらも、水無瀬は池の成長に嬉しそうに微笑んでいた。
「……彼、随分とたくましくなったわね。4月の頃からは考えられないわ」
「ああ、彼の成長が見れて嬉しい限りだ」
「……私も負けてられないわね」
「ん? なんか言ったかい? 鈴音ちゃん」
「いいえ……何でもないわ──」
「──それで、どうだった? 清楓ちゃん」
探索組が出発してから少し経った後、水無瀬と綾小路は皆から離れた場所にて話していた。
池たち
「……Aクラスの生徒2人が洞窟から出てきた所を見た。1人は葛城で、もう一人は戸塚という生徒」
「戸塚? 聞いたことない名前だね」
「船で私の事突き飛ばしたヤツ」
「……ああ、あいつか。うーん、だとしたら恐らくAクラスのリーダーは戸塚君だろうね」
確信した様子で語る水無瀬、綾小路もそれに同意する。
「でかしたよ清楓ちゃん、この情報は使える」
ニヤニヤと語る水無瀬。それに対して綾小路はその表情を一切変えることなく彼に要望を伝える。
「じゃあ何かご褒美欲しいなー?」
「……また後で考えるよ」
こんな場所に来ても平常運転の綾小路であった。
そんなやり取りを終えて皆の所へと戻る2人、そこで池が何やら嬉しそうに話していた。
「よーしこれで風呂と飲み水の問題は解決したよな!」
目を輝かせながら、池はポイントの節約を訴える。
「はあ? 川の水飲むとか、あんた正気?」
どうやら、池はこの川を飲み水と風呂の両方で活用するつもりらしい。
一方篠原たち女子にはそんな考えはなかったらしく、呆れたように川を一瞥した。
「そりゃさ、泳いだりする分には良さそうだけど……飲むのは、ねえ?」
「なんだよ、全然いいじゃんか。綺麗な水だろ」
「そう、だね……。確かに飲めそうだけど……」
節約を訴えてやまない池を見て篠原が平田に小声で訴える。
「ねえ平田君……ほんとに大丈夫? 川の水飲むとか……」
更に数人の女子が集まり、不安そうに平田に相談を持ち掛けて来た。
穏やかに流れる川の水を見て、女子たちは首を左右に振って無理だと抗議する。
「飲めるとはとても思えなくて……」
こそこそと相談しあう様子を見て池は苛立ちながら口を開く。
「そうかあ? 水は凄く透き通ってるし、天然水のようなもんだろ」
「こらこら、自分の価値観を通そうとしちゃだめだよ?」
そんな池に対してなだめるように言う水無瀬。そんな予想外からの加勢に女子を始めとした反対派は喜びを浮かべる。
しかし彼女らの期待に反し、水無瀬は予想外のことを言った。
「飲むように説得したいなら、安全と言える根拠が必要じゃないかい? どうやって説明しようか」
「え……水無瀬君も飲むつもりなの?」
「だったら俺が先に飲んでみるぜ!」
困惑した様子の女子を尻目に、手ですくった川の水を飲む池。
「かー! キンキンに冷えてて気持ちいいぜ! うめぇ!」
「うわマジドン引き。無理無理、そんなの飲むなんて。気持ち悪い」
「はあ!? 別に飲むくらいなんてことないだろ!」
「やだやだ。私が一番嫌いなタイプね、あんたみたいな野蛮人」
そう言ってまた喧嘩になりそうな2人である。
「……まあ川の水を飲みたくないって気持ちはよーく分かる。ただよく考えてほしい、ここは学校がわざわざ開拓して機材の設置まで行ったスポットだよ? 僕達が川の水を飲むことくらい想定してきれいに管理していると考えられないかな?」
「でも……」
理解はしたが、納得はしてないようだ。そんな彼女たちの様子を見て水無瀬は続ける。
「池、君はキャンプ経験があったと言ってたよね。そこでは川の水を飲んでいたのかい?」
「ああ! そうだぜ! 腹壊したりとかもしなかったからなー。全然問題ないと思うぜ!」
自信満々に語る池。譲るつもりは一切ないようだ。
「ああ、だがそれが分かるのは経験と知識があったからだ。未経験の人に説明もせずに飲ませようとするのは、少し酷じゃないかい?」
「う……そりゃそうかもしれねえけどよ!」
そんな彼の言葉に押し黙る池。しかしやはりポイントは節約しておきたい様子だ。
「話割る感じでわりぃけどよ、確か水って沸騰させたら殺菌できるんだよな? とりあえずそれで試してみるってのはどうだ?」
「沸騰って……化学の実験じゃないんだから。思いつきで適当発言やめてよね」
そう強気に対して言い放つ篠原。こちらも譲る気は一切ないようだ。
「いいや、案外悪い話でもないと思うよ……ただやっぱり僕たちが毒見した見た方が良さそうだね」
そう言っておもむろに川辺に歩みを進める水無瀬。足をまくって川に入った彼は、両手で水を救い上げて浴びるようにして飲んだ。
「……うん! 良い感じだ。池が言ってた通り、冷たくておいしいよ」
振り返って無邪気な笑顔でそう語る水無瀬。その様子に篠原含む女子たちは見入るように黙ってしまった。
「うわぁ……改めてみるとめっちゃかっこいいね……」
「おい! てめぇ俺の時とは全く反応違うじゃねえかよ!?」
「イケメンは何しても許されるのよ!」
「んだてめぇ!? 俺がブサイクみたいに言いやがって!」
そんな女子たちの様子に憤慨したように叫ぶ池であった。
「────おいおい、一番最初に動き出したのが不良品共だと聞いて見に来たら、こんなしょうもねえことで言い争ってんのか?」
そんな事を言って彼らの傍に近づいてくる一人の生徒がいた。大きい声で言い争っていていた池と篠原もしんとしてその声の主を見る。
「……何の用かな? 龍園君?」
警戒したように問いかけるのは平田、それもそうだろう。たった今話しかけてきた彼、龍園翔の周りには悪い噂ばかりが立っているのだ。
「俺の用があるのはお前みたいなザコじゃねえ。このクラスの代表者を呼べ、そいつに話がある」
そう言い放つ龍園。それに対して自然と水無瀬へと視線が集まった。水無瀬は龍園の元へと歩み寄る。
「お前がこのクラスの
「君が言った
凄みのある眼光で問いかける龍園に、水無瀬は飄々と返す。
その様子を面白そうに見る龍園がこう提案した。
「面白れえじゃねえか。おい、水無瀬と言ったか? お前に提案がある。2人で、だ」
そう言ってはずれの人がいない場所を指さす龍園。
「……駄目よ水無瀬君。1人でなんて行かせられない」
「そうだね。これは僕達Dクラスの問題なんだ」
堀北と平田はありえないと強く否定した。
「外野は黙ってろ。それに悪い話じゃない。もしこの取引を飲むなら、お前らは1ポイントも使わずにこの試験を終えれるんだぜ?」
したり顔でそう語る龍園。その話から大まかに内容の予想が付いた水無瀬は問いかける。
「物資提供か……何が望みだい?」
「この少ない情報でそこまでたどり着いたか、やるじゃねえか。Dのザコと言えどアタマ張ってるだけあるみてぇだな? だがここから先はお一人様専用だ」
そう言い放つ龍園。水無瀬は少し間を置いて了承した。
「お前、大丈夫なのかよ!?相手はあの龍園だぜ!?」
心配そうに叫ぶ池に対して、水無瀬はにこやかに返す。
「大丈夫だよ。こう見えて喧嘩も結構強いんだ。殴られたって逃げるくらい余裕だよ」
そう冗談めかして言う彼に、Dクラスの生徒は無言で見送る事しかできなかった。
「さて、話を聞こうか? 龍園君」
皆の心配ような視線を受けながら、水無瀬は会話を切り出した。
少し考えたように間をおいて龍園は答える。
「俺からの要件は2つだ。1つ、Dクラスは今から卒業までに毎月80万支払って、俺ら
そう語った龍園。水無瀬はその言葉の意味を理解したのか、感心したように答えた。
「……なるほどね。君の計算だと、僕達Dクラスは残したポイント300と、クラス当てによる100で合計400クラスポイントを獲得。そして君たちCクラスはクラス当てによる100ポイントに300クラスポイント分のプライベートポイントを卒業まで獲得できると」
「ああ、悪い話じゃねぇだろ? さらに2クラスから当てられたAとBに関しては、占領ボーナスを含むほとんどのポイントを溶かして最下位。クラス間の格差は大幅に縮まる」
ニヤニヤと語る龍園。しかしその反面水無瀬の表情は渋い。
「1つ目は良いとしよう。だが2つ目の他クラスのリーダー情報の取引に関しては君が集められるという確信はあるのかい?」
「さあな。だが俺達Cクラスは初日で全員リタイアするつもりだ。つまりリーダーを当てられなかったらポイントは0。この意味が分からないほど馬鹿じゃねえだろ?」
そう言い放った龍園。彼には水無瀬がこの取引に応じて来るという確信があった。
(今現在のDクラスのポイントは95。前期中間で予想以上に上げてきたが、それでもクラスポイントは欲しいはずだ。そして実質DとCの2人勝ちになるこの取引に、
前回の須藤事件にて、屈辱の敗北を期した龍園は、その復讐に燃えていた。
「……いいよ、僕が責任をもって契約しよう……ただし条件がある。2つ目の他クラスのリーダー状況についてだが、『最終的に違うリーダー情報を報告した際は、全ての支払いは無効とする』これを付け足すんだ。そして情報が取れなかった場合も、2つ目の40万ポイントの取引は無しにしてくれ」
そうして契約の穴を突くように付け足す水無瀬。龍園はその様子に興味深そうに答える。
「ほう? 随分とデカい態度じゃねえか? こっちは別のクラスに話を持ち掛けてもいいんだぜ?」
「当たり前じゃないか。もし君が意図的に虚偽の報告をした場合、僕らがもらえるクラスポイントは200。クラスポイントはプラスだが、Cクラスへと支払う金額は300ポイント分。これではただの負債になってしまう」
水無瀬の言っていることは至極当然のことだ。相手は須藤事件で虚偽の訴えをしてきたCクラス、簡単に信用しろというのは難しい。
結果的に不利な条件を足された龍園だったが、面白そうに喉を鳴らして語った。
「おいおい、これから
そうして彼が取り出したのは契約書。よく見ればCクラス担任の坂上の印鑑が押してある。これに水無瀬の名前をサインし、Dクラス担任の茶柱の印鑑を押せば契約は遂行されるだろう。
「その前にクラスの皆に確認を取る。これは絶対だ。いいね?」
その水無瀬の発言を心底面白そうに笑いながら承諾する龍園。
そして彼は皆の元へと戻り、持ち掛けられた契約内容を伝えた。
「……悪くないんじゃないかしら。もし仮に龍園君が虚偽の報告をしたとしても、こちらは想定よりもかなり多い200ポイントを無条件で手に入れられるわ。彼、かなり頭が回るみたいね」
堀北は、龍園の持ち掛けた内容に感心した様子で語る。
「……だが危険ではないのか? 相手はあのCクラスだぞ? 一体いつ裏切られるか分かった物じゃない」
渋い顔をした幸村が反論する。
「でもよ、これ聞いた感じだとDにもすげぇメリットあるんじゃねえの? 裏切るって言ったって、何も出来ねえだろ?」
「そうだね池君。僕もそう思う……恐らくだけどCクラスは、他クラスと比べてかなり遅れているDクラスならこの条件を飲むだろうって分かってたんじゃないかな。そして双方にメリットがあるいい落としどころを見つけたみたいだね」
池と平田も契約に賛成だそうだ。幸村も渋々といった様子で納得した。
「反対意見はないみたいだね。じゃあ茶柱先生の所に行ってくる」
水無瀬達はその内容をしっかりと確認した後、サインをして茶柱の元へと届ける。
その内容を見て驚いた様子の茶柱だったが、特に何も言わずにサインをする。
「よし。これで俺達の契約については保証された。いい取引だったぜ?」
「こちらこそ、感謝するよ。龍園君。購入する物資に関しては、明日君のクラスの所に言って伝えるよ」
「ああ、いいだろう……ところでだが、お前らこの辺りでCクラスの女子生徒を見なかったか? 伊吹っていうやつなんだが」
唐突にそう語る龍園。水無瀬はクラスの皆に目を配るが、誰も反応しない。
「その伊吹さんがどうかしたのかい?」
「この契約を持ち掛ける案に反対したからな、灸をすえてやったらいつの間にか居なくなってたんだよ。まあもしお前らが見つけたら速やかに俺の元へ来る用に言っててくれ」
「……ああ、分かったよ」
何か思うことがあったのか、間をおいて答える水無瀬。
「じゃあ俺はこれで失礼するぜ。お前らと違って素敵なバカンスを送りたいからな。せいぜい暑苦しい森の中で一週間頑張れよ?」
そう言って立ち去る龍園。去り際の捨て台詞に、クラスの何人かは怒りを示している。
「何だよアイツ」
「まあまあ、これで僕たちはこの試験で大量にポイントをゲットできるんだからさ、龍園君にも感謝しないとね」
(……そう簡単にはいかないだろう。彼のようなタイプの人間が、この程度で引き下がるはずがないからね)
────だが僕も負ける気はないよ、龍園君。Aクラスだろうが、BだろうがCだろうが、僕ら愛の前に立ちはだかるなら、一切容赦する気は無い。
これで試験を乗り越えれると喜ぶ彼らの傍らで、そんな不穏なことを思う水無瀬だった。
────時は夏休み前日。終業式の日までさかのぼる
「水無瀬。帰る前に少し話がある、指導室に顔を出すように」
ホームルーム終了直前、茶柱がそう言い残し教室を後にする。
「なんだよ何かやらかしたのか?」
帰り支度を済ませた須藤が鞄を肩にかけながら聞いてきた。
「うーん……特に身に覚えはないけどね」
「当たり前でしょ。水無瀬君はあなたと違って野蛮じゃないの」
「誰が野蛮だよ!?」
そんなやり取りを続ける2人。犬猿の仲とはこの事である。
「水無瀬、時間かかりそうだったら先帰るね」
「ああ、頼んだよ。清楓ちゃん。今日は記念日だからね。少し高いお店にでも行こうか」
「やったー! 坂柳も喜ぶよ!」
そんなやり取りをして綾小路と別れた水無瀬は、指導室前へと向かう。
着いた先には、扉にもたれかかって俯いている茶柱が居た。
「入れ」
「呼ばれた理由が全く分からないのですが」
「中で話す」
明らかに面倒ごとだと悟った水無瀬。げんなりした様子で彼女についていく。
「指導室と聞くと嫌なイメージがあると思うが、ここは存外に悪くない場所だ。何故なら監視の目がない。個人のプライバシーに多くかかわる話をすることが多い故の配慮だ」
「僕も嫌いじゃないですよ? あの取引をしたのもここですからね……それで、話って一体何でしょうか?」
「今日は少し、私の身の上話を聞いてもらいたいと思ってお前を呼んだんだ……教師になってから、今まで誰にも話したことがない話だ。戯言と思って聞け」
「ふむ……」
そう言って隣の扉を開いた水無瀬。中には誰もいない。
「この話を他の人間に聞かせるつもりはない。納得できたなら席に戻れ」
「……そうですね」
そのまま給湯室の扉を閉め茶柱の前に戻る水無瀬。
「おまえたちDクラスには、担任の私はどんな風に映っている?」
「Dクラスという言い方ですと、僕個人の視点は入れませんよね?」
そう言って確認する水無瀬。彼女がうなずいたのを確認した後に語る。
「僕達が感じている事をまとめるなら、Dクラスの行く末などどうでもいいと感じている、生徒に興味のない冷たい担任。といったところでしょうかね? 間違っているでしょうか?」
「いや、その通りだ。否定するものは何もない。だが、それは真実とは違う」
一度そこで言葉を区切ると、茶柱は何かを思い出すように少しだけ天井を見上げた。
「私は以前この学校の生徒だった。おまえたちと同じDクラスだった」
「意外、というべきでしょうか。もっと優秀な人だと思ってましたよ、茶柱先生は」
「フッ……。私たちの時代は今のように極端な差のある状態ではなかった。三つ巴ならぬ、四つ巴とでも表現しようか。卒業が迫る3年の3学期まで、AとDの差は100ポイントもなかった。些細なミスひとつで均衡が崩れるほどの接戦だったわけだ」
「なるほど、で些細なミスがあったと?」
「ああ。ミスは突然やって来た。私の犯した過ちによって、Dクラスは地獄へと叩き落されてしまったということだ。結局Aクラスになる目標も、夢も崩れ去った」
「話が飲み込めませんね。その身の上話と僕に一体何の関係があると言うんでしょうか?」
「おまえの存在は、Aクラスに上がるために必要不可欠だと私は感じている」
「……何を今更。その結論は5月ですでに出ているのでは?」
不自然な語り口の彼女に、水無瀬は1つの想像をした。しかしそれは彼にとって、到底受け入れられるものではなかった。
しかし現実は残酷のようで、彼女はとある情報を話す。
「数日前、ある男が学校に接触してきた。綾小路清楓を退学にさせろ、とな」
「────ほう?」
その瞬間、彼。水無瀬の元から発せられる雰囲気がガラリと変わった。
そんな彼の様子に狼狽えながらも、茶柱は続ける。
「もちろん。第三者が何を言っても退学になど出来ない。この学校の生徒である限り、おまえはルールによって守られている。しかし……問題行動を起こしたら話は別だ。喫煙、苛め、盗み、カンニング。何らかの不祥事を繰り返せば退学は避けられない」
「焦らさないで早く言ったらどうでしょうか? 何が目的で?」
「……もうじきこの学校の上の者にも干渉してくるはずだ。そうすれば私とお前で交わした秘密裏の契約も公の場に出され、お互いに何らかの処分を受けるだろう。そうすれば私達は2人纏めてお陀仏だ。だがまだ現時点ではその心配もない」
「……」
「これは取引だ。それも前回のような公的な契約なんかではなく、私とお前の口約束だ。お前は今まで以上にAクラスへと向かう姿勢を見せろ。そうすれば私の力の及ぶ限りでお前の
「話にならない。それはすべてあなたの裁量次第だ……自分で言うのもなんですが、僕は今まで相当クラスに貢献してきた自覚があります。まだ足りないので? 強欲が過ぎる」
「…そうだな」
その言葉と共に強気だった彼女の勢いは落ちる。
そして自嘲気味に笑った彼女は、ぽつりぽつりとこう語った。
「私は私自身に驚いている。まだAクラスを諦めきれていないことに気づかされてな。そしてお前の手の上で転がされているのも、うすうす気が付いている」
「……なるほど」
「今ここで決断しろ。
「……あなた、後悔するかもしれませんよ。僕を脅したことを」
「安心しろ。私の人生は、既に後悔だらけだ」
────その一言が、いやに水無瀬の耳に残って消えなかった。
リメイク前の方を読んだことありますか?
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リメイク前読んだことあるよー
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リメイク後初めて読んだよー