TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話   作:妄想癖のメアリー

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瓦解

 

 

 

テントの中で眠りについていた水無瀬は、外から聞こえてくるざわめきでで目が覚める。外に出てそちらを見ると、そこには不機嫌な様子を丸出しにしている女子たちが居た。

 

「あ、水無瀬。おはよう」

 

「どうしたんだい。こんな早朝に?」

 

 テントから出てきた水無瀬に気づいた綾小路が、困った顔をしながら話しかけてきた。珍しい彼女の様子に、面倒ごとの予感がする水無瀬。

 

「こんな早くにごめんね水無瀬君。……悪いけど、男子全員起こして貰っていい?」

 

 実際それは正しかったようで、篠原が申し訳なさそうな表情で声をかけてきた。その様子からして、ただ事ではないようだ。

 

「どうしたの?」

 

 少し遅れて話しかけてきたのは平田。先ほどまで眠そうな表情をしていたが、すっかり覚めてしまったようだ。

 

「詳しい話は皆を起こしてからにしよう。今声をかけてきたから、すぐに出てくるはずさ」

 

 それから1、2分ほどして眠そうな男子が集まってきた。それを見て水無瀬は説明を求める。

 

「それで。一体何があったのかな?」

 

「ごめんね水無瀬君。水無瀬君とか平田君には関係ない話なんだけど……どうしても確認しなきゃいけなくて」

 

 傍にいる2人を除いた男子たち全員に対して、侮蔑の眼差しを向ける篠原。

 

「今朝、その……軽井沢さんの下着がなくなってたの。それがどういう意味か分かる?」

 

「え……下着が……?」

 

 いつも冷静な平田も、思いがけない事態に動揺した様子を見せた。

 

「今、軽井沢さん、テントの中で泣いてる。櫛田さんたちが慰めてるけど……」

 

「え、それってヤバくね? 普通に俺らが疑われる流れじゃんこれ」

 

「そんなの決まってるでしょ。夜中にこの中の誰かが鞄を漁って盗んだんでしょ。荷物は外に置いてあったんだから盗ろうと思えば盗れたわけだしね!」

 

「そういや池、おまえ昨日……遅くにトイレに行ったよな。結構時間かかってたし」

 

「いやいやいや! あれは、その、暗かったから苦労したんだよ!」

 

「ほんとかよ。軽井沢の下着盗んだのおまえじゃないの」

 

「ば、違うって! 大事な試験中にそんなことするわけねえだろ!」

 

 男子たちの中で罪の擦り付け合いが始まる。

 

「とにかく。これ、凄く大問題だと思うんだけど? 下着泥棒がいる人たちと同じ場所でキャンプ生活するなんて不可能でしょ」

 

 今にも感情が爆発寸前になっている篠原。かなりキツイ言い方で忠告する。

 

「だから水無瀬君。何とかして犯人見つけて貰えないかな?」

 

「ふむ。確かに状況を考えるに容疑者として一番挙がるのは僕等だろうね。だが軽井沢さんがなくしたって可能性は無いのかな?」

 

「そうだそうだ! 俺たちは無関係だ!」

 

 彼の後ろから男子一同声を張り上げ無実を訴える。

 

「……僕もこの中に犯人がいるとは思いたくないよ」

 

 平田もクラスメイトを疑うのが嫌なようだ。

 

「2人が犯人じゃないのは分かってるけどさ……とりあえず男子の荷物検査させて」

 

 どうやら女子一同の考えは変わらないらしく、男子側に犯人がいると信じて疑わないらしい。

 

「うん、いいよ。じゃあ今からここでやろっか」

 

「は!? 何言ってんだよ水無瀬! 断れって!」

 

 理不尽に疑われている事実を認めた水無瀬に対して、山内は怒りの声を上げた。彼にとって到底受け入れられることではないらしい。

 

「春樹、これ多分受けねえとヤバいことになるぞ?」

 

「お前もかよ寛治!? こんな疑われて悔しくないのか!?」

 

「いや、女子の下着がなくなったってなると、疑われるのは男子しかいないだろ。……それに、俺らこんだけ一緒に頑張って試験やってきたんだぜ? そんな中下着ドロボーがいるなんて考えたくねえだろ……」

 

 悲しそうに語る池。実際に彼はサバイバルの面では相当クラスを助けているのだ。彼の言葉は、まぎれもない本心であろう。

 

「……それで。お願いできる? 水無瀬君」

 

「……ああ。少し待っててくれ」

 

 まるで葬式のような雰囲気の中で、水無瀬は自分の鞄を持ってくるために男子のテントに戻って行った。

 

「っていうか。ホントに軽井沢がなくしたってことは無いのかよ? 全然あり得るだろ?」

「あんたは黙っててよ山内。そんなそうそうなくなってたらたまんないわよ」

「はぁ? 元はと言えば下着が盗まれただけでそんなに騒いでんのが悪いだろ!」

「なにそれ!? 信じられないんだけど! あんたホント最低。だからモテないんじゃないの?」

「関係ないだろ! 第一お前だってワガママばっか言ってたじゃねえかよ!」

 

 彼が離れたとたんに、山内と篠原が筆頭に言い争いが始まるDクラス。

 

「ほら。まずは僕から。大したものは入ってないし適当に調べて」

 

 そう言って篠原に鞄を渡す水無瀬。それを怒りの表情で受け取る篠原。

 

「別に水無瀬君のことはだれも疑ってないけどね。……あんた達のせいで、水無瀬君はこんな事させられてるんだから────って、え?」

 

 ブツブツと語りながら中身を確認する篠原だったが、突然驚いたような表情をして手を止めた。

 震える声で小さく呟きながら、篠原は布状の()()を取り出す。

 

「……ど、どういう事。水無瀬、君?」

 

 

 

 ────彼女の手に握られていたのは女性物の下着だった。

 

 

 

「どういう事!? 水無瀬君が私の下着を盗んだの!? 説明してよ篠原さん!」

 

 いつの間にか戻ってきていた軽井沢が動揺したように叫ぶ。その一方で先ほどまで刺々しい態度だった篠原は、現実を受け入れたくないのか呆然と立ち尽くしている。

 

「な、何かの間違いじゃないか? お前ら、水無瀬だぜ? こいつがそんな事するわけねえだろ?」

 

「そ、そうよね。軽井沢さん。これは多分事故じゃない?」

 

「……いや。これは、ちょっと予想外だったな……」

 

 池、篠原に続き、水無瀬が呟いた。予想していたものと異なる状況に、酷く驚いた様子がうかがえる。

 

「ふざけないで! 水無瀬君なら絶対ないって信じていたのに! 最悪なんだけど!?」

 

 そう言いながら軽井沢が水無瀬に鞄を投げつける。それを受け止めた水無瀬は少しよろめいてしまった。

 

「随分とおめでたい頭をしているのね? 軽井沢さん」

 

 彼女がさらに詰めようとした時、それを止めるように堀北が強く言い放った。

 

「はぁ? 何言ってんの堀北さん。鞄から出てきたんだから水無瀬君しかいないでしょ。何かおかしな所でもあったわけ?」

 

「あるに決まっているでしょう? そもそも水無瀬君の鞄からあなたの下着が出てきたとして、それが彼を犯人だと決定付ける要因にはならないわ」

 

 恐ろしく冷たい声で言い返す軽井沢だったが、それに構わず堀北は続ける。彼女の表情には、先ほどまで一切なかった怒りが分かりやすく見て取れた。

 

「第一、鞄に下着が入っているなら一番最初に手荷物検査を受けたりしないんじゃないのかしら? さっき鞄を取りに行った時点で、他の誰かの鞄に入れるなり適当に捨てるなりすれば良かったものを、そのまま篠原さんに見せたのでしょう? ……そこから考えられるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり誰かに下着を勝手に入れられたと考えるのが自然じゃない?」

 

「確かにそうじゃねえか! そもそも水無瀬が犯人だとして、盗んだ下着をカバンに入れたままにするなんて馬鹿な奴じゃないと思うぜ!」

 

「確かに堀北さんの言う通りかも!」

 

 池や櫛田もそれに賛同するように声を上げる。それを始めとして、水無瀬の無罪を訴える声がポツポツと上がり始める。

 

「なによ。なんで加害者の水無瀬君が擁護されて、私がこんな扱いなの? 水無瀬君じゃなかったら他に誰がやったっていうのよ!?」

 

「勘違いしないで頂戴。さっきも言ったけど、私はこのクラスで下着泥棒が出た可能性を否定していないわ。それも水無瀬君に罪を着せようとする最低な犯人がね」

 

 ここで落ち着いて考え直せば良かったものの、堀北の理論を崩せない軽井沢は、他の視点で彼女を攻撃し始める。今の彼女には、それがどれだけ悪手かと理解できるほどの理性は残っていなかった。

 

「……随分と早口で言うじゃない堀北さん。そりゃそうよね、愛しの水無瀬君が疑われていたら嫌だもんね? 平田君と一緒で信用してたのに、裏切られた気分」

 

「呆れたわ。一体その話と何の関係があるのかしら? そもそもとして平田君と水無瀬君だけ信用するというのもおかしな問題よね? 平田君が犯人の可能性も否定できないはずよ」

 

 突然そんなことを言われた堀北も、売り言葉に買い言葉で言い返す。

 

「平田くんが犯人なんてこと絶対にない。彼氏どころか、まともな友達も綾小路さんくらいしかいないあんたにはわかんないかも知れないけどね。っていうか、綾小路さんはどうなのよ? 幼馴染の彼がこんな事してるだなんて」

 

 そうして軽井沢の矛先は、傍でずっと静かにしていた綾小路にも向かった。しかし一切動揺する様子も見せずに、淡々と返答する綾小路。

 

「ん? 水無瀬がこんなことするはずないから、特になんとも」

 

「……とにかく、下着泥棒なんかとこれから3日間一緒なんて無理だから。水無瀬君はリタイアでもしといてくんない?」

 

 そんな彼女の返答に、呆気にとられらがらも、そう締めくくるように言い放つ軽井沢。しかし、周りの反応は余り芳しくないようだ。急に押し黙る皆に対して、軽井沢は不機嫌さを隠さずに話す。

 

「……何よあんた達。私そんな変なこと言ってる?」

 

「当たり前だろ。1人がリタイアすることでいくらポイントが減ると思っているんだ」

 

 そう返したのは幸村。普段全く会話することもない2人だが、彼的に譲れないものがあったそうだ。

 

「はあ? 何よガリ勉。多少低くなるくらい、どうってことないでしょ」

 

「そんなわけないだろう。その30ポイントのために俺達がどれだけ努力してきたと思ってる。そしてその中心に立って、一番努力してきたのは紛れもない水無瀬だ。更に堀北が言っていた通り、彼が犯人である可能性は限りなく低い。冷静になって考えれば分かるはずだ」

 

「……軽井沢さん。よく考えなおしてくれない? 水無瀬君が犯人だなんて、やっぱりおかしいよ」

 

 男子だけでなく、女子からも彼を擁護する声が上がり始める。しかし、それは軽井沢にとって()()()()を思い出させてしまったようだ。落ち着きを取り戻そうとしていた軽井沢だったが、そんな状況に声を荒げる。

 

「信じられない。皆誰も私の事考えてくれないの!? 下着が盗まれたんだよ!?」

 

「だから! その犯人が水無瀬っていう考えがおかしいって言ってんだよ!」

 

 また感情的に叫ぶ軽井沢に、我慢の限界だと言ったように池が言い返す。先程までは男子対女子の言い争いだったが、今度は軽井沢とその他の生徒達という構図となってしまった。

 

「……分かった。誓って盗んでいないと言えるけど、この試験が終わるまでは僕はここから離れるよ。それで許してくれないかい?」

 

「水無瀬君? 何を言っているのかしら。あなたが居ないと試験どころではなくなると思うのだけど」

 

「そんなことないって。下着泥棒の容疑者がいる方が、クラスに良くないだろう? ちゃんと点呼の時には戻るからさ」

 

 そう肩をくすめて語る水無瀬。しかしその表情は露骨に悲しそうだ。自分が疑われたという事実よりも、そのせいでクラスの関係が悪化しそうになっている現状を憂いてだろう。

 

「……あなたがそうしたいのなら、私は止めないわ。ただ忘れないで、あなたを待つ相手がこのクラスには大勢いるということをね」

 

「ああ、ありがとう。鈴音ちゃん。……軽井沢さんもそれでいいかな?」

 

「ふん。私は別にあんたから離れられればそれでいいわよ」

 

「てめぇ。さっきから黙って聞いてりゃふざけた事言いやがって!」

 

 あくまでも犯人だと決めつけるスタンスの軽井沢に、須藤が怒りを放つ。しかしあくまでも手を出すつもりはないらしい。これも彼が水無瀬と過ごしてきた上

 

 明らかに憔悴しきっている水無瀬の様子に心配の声を上げる須藤。

 

「軽井沢さんを責めちゃだめだよ。あくまでも彼女は被害者なんだから。軽井沢さん?」

 

「……何よ」

 

「僕が不甲斐ないせいでこんな事になってごめん。必ず解決できるように努力するから、その時はまた友達として過ごしてほしい。どうかお願いだ」

 

 そう願う水無瀬であったが、 返事は一切無かった。彼女はそのまま彼に背を向けて戻ってしまった。

 それを見て苦笑いをした水無瀬は、一人でテントに向かう。早くも朝の点呼を終えたら出ていくつもりらしい。

 

 

 

 

 

 

「災難だったな」

 

「あはは。ありがとう伊吹ちゃん。……でも、やっぱりキツイなぁ……」

 

 笑って語る水無瀬であったが、その笑顔が取り繕ったモノだと、伊吹は簡単に察することができた。

 

「実際はやってないんだろ。その、犯人についてどう思ってるんだ?」

 

 何故か不安げに聞いてくる伊吹に、苦笑いをしながら水無瀬は答える。

 

「どう……って。僕は別に謝って、なおかつ反省しているのであれば、別に許すつもりだよ。ただ本当に謝るべき相手は、軽井沢さんだろうね。どんな理由があったとて、やってることは最低だよ」

 

「……そうか。それで、犯人に心当たりはあるのか?」

 

 どこか試すように問いかけて来る伊吹に、水無瀬は考えるように顎に手を置いた。少し間が開いた後、伊吹はこう続けた。

 

「もし男子たちが犯人じゃないとしたら、次に疑われるのはよそ者の私。疑う声だって出たはずだ。そしてお前が盗んだように仕向けたかもって。違う?」

 

 自分が疑わしいことは百も承知なのだろう。自嘲気味に笑って言った伊吹だが、水無瀬はそれを否定するように語る。

 

「少なくとも僕は信用してるよ。短い間だけど、君がそんなことする人だとは思っていない」

 

「……ありがと」

 

 真っ直ぐにこちらを見て感謝を告げる伊吹。水無瀬は、その様子にある一つの確信を持ちながらも、それを表に出すことは一切無かった。

 

 

 

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