TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話 作:妄想癖のメアリー
「ええっと……綾小路さん? 内縁の妻というのは、一体どういう事なのかな? 話す必要はないんだけど、みんな気になっているみたいで」
自己紹介を提案した彼。平田が苦笑いで質問してくる。
一体どういう事と言われても、そのままの意味でしかない。
そう伝えると、私がそれ以上言う気がないことを悟ったのか、平田の視線はそこで頭を抱えている水無瀬の元へと向かう。
私という将来を誓った女性が居る中で、他の子に現を抜かしていた罰である。しっかり反省しなさい。
4年間片思いだったくせに? うるさい、黙れ。
私は脳内の理性を押さえつけ、騒ぐ女子たちを尻目にふて寝を決める。
優良物件である水無瀬に目を付けておいたのか知らないが、ここで慌てているようでは女としての器が足りていない。
……よし。私は入学式が始まるまでふて寝を決め込もう。
暇そうにしてると私まで被害を食らう。
ふふ。本気で焦っている水無瀬は珍しい。
クラスが自分たちの話題で持ち切りになっている中ふて寝するのは、なんとも言えない優越感を感じる。
それに関してだが、カクテルパーティー効果という現象をご存じだろうか。
────カクテルパーティ効果とは「人間は音声情報を無意識に選択して聞き取ることができる」という事。
カクテルパーティーのように大勢の人間がバラバラに話をしている中でも、自分に関連する会話だったり、関心が高い会話は聞こえやすいと言う事だ。
皆も一度は経験したことがあるんじゃないかな。それまで全く聞こえてこなかった誰かの会話でも、自分の名前が上がると途端に聞き取れるようになる。みたいな状況。
名前というのは自分に大きく関連している。だから聞き取れるし、自分が話題になっている会話は気になるから、そこからもちゃんと聞こえるというわけなのだ。
「……いやいや。そんなに騒がないでくれよ池君。綾小路さんとはただの幼馴染みたいなもんだよ」
「いや、だからホントだって。嘘つく必要なんかないだろう?」
「え? だったら彼女のことをどう思ってるかだって? そりゃあ、大事に思ってるにきまってるじゃないか」
その点において、私の関心度は全て水無瀬に向かっているのだろう。なんと言うか、周りのクラスメイト達の会話がノイズにしか聞こえない。
って。今私のこと大事に思ってるって言ったってことは……マジ? プロポーズされちゃった……! (されてない)
えへ、えへへへ。どうしよ、顔がニヤついて仕方ない。
ふて寝を決め込んで正解だった。初日から1人でニヤけてるだなんて、変人にもほどがある。
……でもそろそろ入学式か。結局、話しかけに来てくれなかったな……
────やっぱり特殊な学校とはいっても、入学式は世間一般のもの特に変わりはないみたいだね。
偉そうな人たちのノイズを右から左に聞き流し、私は教室に戻っていた。
特に何かをするわけでもなく、周りからの視線から逃れるためにふて寝を決め込む。
「そうだ皆。クラスのチャットのグループを作らない? あった方が何かと便利な気がするな」
平田が何か興味深い提案をしている。
良かった。ちゃんと水無瀬以外の声も聞こえるようになった。
「いいね。僕も入りたいから招待してくれないかい?」
……水無瀬も入るのか。じゃあ私も後で入れてもらおう。
ってどうやって? あの人たちの輪に入っていくの? ……無理無理。ちょっと清楓ちゃんにはハードルが高すぎる。
そんなこんなで悩んでいたら、彼らのチャットの話はもう終わってしまったらしい。
陽キャの会話は展開が早いと聞いたことがあるが、あながち間違いではなさそうだ。
「ねーねー平田君。これからみんなでカラオケ行くんだけど、一緒に行かない?」
次に出てきた話題はカラオケに関して。彼らと話していた女子がおもむろに提案する。
あの女は……水無瀬に積極的に絡んでいたヤツか。
ロングの金髪をポニーテールでまとめているギャルだ。
……多分私の自己紹介を聞いて、狙いを水無瀬と平田の2人から平田に絞ったのだろう。
意外と物分かりがいいらしい。仲良くしてあげても良い。
「カラオケか。楽しそうだね! 水無瀬君もどうかな。一緒に行かない?」
「そうだよ! 一緒行こうよ水無瀬君!」
……マズイ、非常にまずい。一体平田は何をしてくれるんだ。
確かにこの短い間で一番仲良くなった水無瀬を誘うのは、何ら不思議ではない。
他の女子たちもぜひ来てほしそうに続いている。
え、行かないよね? この可愛い清楓ちゃんを置いて。
だって今日タイミング逃したら、いつ話しかければいいの?
いや、水無瀬はこういう誘いを断らない。人との付き合いを大事にしてるから。
……くっ! かくなる上は私もあそこに乱入するしかない!
「ごめんね皆。これからちょっと用事があって、今度必ず行くから、また誘ってくれない?」
助かった……
「じゃあ皆。また明日ね」
そう言って水無瀬は、先ほど話していたクラスメイト全員と連絡先を交換した後、教室から出て行った。
付いていこうと焦ったのか、そこそこ大きな音を出してしまう。
……恥ずかしいが、背に腹は代えられない。
思いのほか会話が盛り上がったせいか、時間は既に4時を回っている。
この時期はまだそんなに日が長くないからか、太陽も沈み始めている。
オレンジの光を照り付ける太陽を恨めしく思いながら、私は目の前の道を1人で歩いている水無瀬を見つめていた。
新入生たちは既に帰ったか、軽井沢たちと同じようにカラオケに行っている。
2、3年生も今の時間帯は部活に勤しんでいるのか、そこそこ広い道には私と彼以外誰もいなかった。
しかけるなら、今しかないだろう。
「み、水無瀬!」
自分の声とは思えないほど上澄んだ声が聞こえる。
おかしい。イメージトレーニングは今まで何回もやってきた。
丁度こんな感じで、夕陽をバックに2人を差す影は、地面に長く伸びている。
────何回も、何回も夢に見てきた。
「ひ、久しぶり……その、えっと……」
「そんな付いてくるくらいなら、もっと早く話しかけてきてくれればよいものを。僕のことが嫌いになってしまったのかな? 綾小路さん」
笑いながらそう言うと、こちらをゆっくりと振り返る水無瀬。
ああ、駄目だ。こんなの、ちょっと耐えられない。
──視界が滲んで良く顔が見えない。
4年という年月をかけて、成長した顔を早く見たいのに。
──鼻をすする音が止まらない。
久しぶりに会って、ちょっとだけ低くなった私の声を、ちゃんと聞かせたいのに。
きっと彼なら、きれいな声だと言ってくれるはずだ。
いつの間にか、私は彼の胸に向かって抱き着いていた。
あの時よりもがっしりとしたその体を、強く。強く抱きしめる。
もう、私は彼を手放したくない。
「おいおい、4年ぶりに合って最初にすることがこれかい? ほら、こっち向いて顔を上げてくれないか? 卸したての制服が濡れてしまうじゃないか」
顎を優しくつままれ、至近距離で目が合う。
ちょっと待ってほしい。流石にいま顔を見せるのは良くない。
……つけてきた化粧だって落ちちゃってるし、前髪も多分酷いことになってる。
「────久しぶり、綾小路さん。大きくなったね」
「……うん」
だから、私は水無瀬の胸に顔を押し付ける。
夕陽も差してるし、ちょっと
「もうちょっと。もうちょっとだけ、このままで居させて」
「いくらでもどうぞ。時間はたくさんあるんだから」
────私の頭を撫でてくれたその手は、4年前と比べて少しだけ大きくなっていた。
それから私たちは、近くにある公園のベンチで、4年間の間にあったことを話した。
4年間で水無瀬に一度も彼女が出来なかったことは、私にとってはかなり意外だった。
「……水無瀬なら彼女くらいいくらでも作れると思う。何回告白されたの」
誤魔化すのは許さないと、ジト目で睨みつける私に水無瀬は指を折っていく。
5回、10回、15回……多すぎ。
「もういい! ……手、おっきいね」
その何往復も折られる指が見ていられなかった。
水無瀬の右手を無理やり両手で掴んだが、昔よりも少し骨ばった手に視線が釘付けにされる。
「別にされた数が多くても何も変わらないよ。断り文句が上手くなっただけさ」
水無瀬の掌を、私の左の掌に合わせてそのまま指を絡める。俗にいう恋人つなぎだ。
特に顔色を変えることなく弁明を続ける水無瀬。……ちょっとくらい動揺してほしいかも。
……そうだ。いい事思いついた。
「……何してんの?」
「んっ、んん……じゅる、んぅ♡」
唐突に指をなめ始めた私に、水無瀬は困惑したように呟いた。
ちょっと口調が荒くなっているのは、本心で動揺しているときの特徴。
流石にこれは効いただろう。……ちょっとしょっぱいな。
それに、ちょっとだけゴツゴツしてる。
「はしたないからやめなさい。ほら」
「あぅ」
空いた左手で頭にチョップを入れて来る水無瀬。
確か昔寝込みを襲った時もされた気がする。
「……興奮した?」
「してない」
なんだ、残念。
「それにしてもやっぱりおかしいよねこの学校。見てこの商品。
「ああ。月10万円ももらえるはずなのに、日用品はほとんどここで揃えられる」
私は手に取った歯ブラシを『1か月3点まで』と書かれていたワゴンに戻す。
まるで
「使いすぎた人に対しての救済処置にしては甘すぎる」
「ああ。ただ、『本当に毎月10万ポイントが支払われる』ならの話だけどね」
流石に無料のシャンプーを使うわけにはいかない。
これから水無瀬と住むんだし、安い女だと思われたくない。
私はコスパの良い商品をかごに入れていく。この時のためにネットでリサーチしたのだ。
「あれ、洗濯用の洗剤とか買わなくても良いのかい?」
「うん。大丈夫」
何故洗剤を買わなければいけないのだろう。水無瀬のカゴには、もうすでに入っているのに。
まあどうせ。私が転がり込むつもりなのに気づいていないとか、そんなもんだろう。
そんなこんなで買い物を終わらせた私たちは、自分の家となる寮へ帰り着いた。
1階フロントの管理人からカードキーと、生活上の注意点がまとめられたマニュアルを受け取る。
「……清楓ちゃんが1人で生活できるか、僕凄い心配なんだけど」
「余裕。私はとある作戦を思いついているから、心配いらない」
……失礼な男。まあどうせ生活に関してはおんぶにだっこするつもりだから心配なんてない。
こんなかわいい女の子と一緒に暮らせるんだ。ありがたく思うといい。もちろん、ちゃんとお手伝いはするつもりだ。
……って。私今から水無瀬と同じ屋根の下で生活するの?
ヤバ、どうしよう。自分を抑えられる自信がない。
「そっか。流石に心配しすぎたね。もう高校生だし、夜中寂しくなって部屋に来たりしないでよ?」
問題ない。だって一緒に寝るもん。
「──別に部屋まで付いてこなくてよかったのに。女子のフロアはもっと上だろう?」
「大丈夫」
だってここが私の部屋だもん。
「そっか、ありがとう。じゃあ、また明日ね」
そう言って扉を閉める水無瀬。そうはさせない。
手際よく靴を差し込み、左手で扉を押さえる。
「……綾小路さん?」
「閉めないでよ。同居人を差し置いて」
「……え?」
「だから。一緒に住むんだから、私も入れてよ」
「……マジか」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする水無瀬。あんまりこういう顔を見る機会がないため、脳内の清楓ちゃんメモリーにしまっておく。
……記憶なんてできるわけない? 私を誰だと思ってるのかしら?
4年間小さな水無瀬を脳内に住まわせていた私にかかれば、これくらい赤子の手をひねるより簡単。
呆けたまま立ち尽くす水無瀬の隙をついて、私は部屋に入る。
これ、一回言ってみたかったんだよね。
「ただいま」
「綾小路さん。流石にね?」
「ただいま!」
両者の間に微妙な空気が漂う。
決断の遅い男は嫌われる。早く腹をくくって欲しい。
そこから数秒経った後、水無瀬は諦めたようにため息を吐いた。
「……おかえり。全く……食材多めに買っておいて良かったよ」
大成功。なんだかんだ、水無瀬は私に甘いのだ。
靴を脱いで上がる私に続く水無瀬だったが、やはりこのやり取りは欠かせないだろう。
「待って」
「?」
首をかしげて言われた通りにその場に立つ水無瀬。
ビニール袋を手に取って玄関に立つその姿は、まるでお使いを頼まれた夫のようだ。
「『ただいま』って言って」
その言葉に、私が何をしたいのか理解したのだろう。
呆れたように苦笑いをするも、しっかりと乗ってくれる水無瀬が、私は大好きだ。
「……ただいま」
「────おかえり!」
私の夢の生活は、まだ始まったばかりだ。
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たくさんの人に読んでいただくには、タイトルにある程度情報を入れた方がいいと聞いたので迎合させていただきました。元の方が良かったら戻します笑
リメイク前の方を読んだことありますか?
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リメイク前読んだことあるよー
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リメイク後初めて読んだよー