TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話   作:妄想癖のメアリー

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三人称と一人称を両方使うので、分かりずらかったら明記します。


成長

 

 

 

「おはよう山内!」

 

「おはよう池!」

 

 2人が教室へと入ると、満面の笑みで池が山内に話しかけていた。

 それを見た水無瀬は彼らに話しかける。イケメンのことが嫌いな池と、イケメンランキング1位の水無瀬。

 そりが合わなさそうな2人だが、意外とうまくやれているようだ。

 

「おはよう二人とも。今日は珍しく随分と速いんだね?」

 

 彼の言う通り、この2人はいつも遅刻ギリギリで登校していた。

 そんな彼らがそんなに早く登校してくるのは、かなり珍しいことだ。

 

「おう! おはよう水無瀬! いやー授業が楽しみで目が冴えちゃってさー」

 

「そうそう。この学校は最高だよな! ……っと綾小路! ここから先は女子禁制の場だ! シッシ!」

 

 そう言って虫を追い払うような動作をする山内。

 それを見た綾小路は頬を膨らませて拗ねたように語る。

 

「むう……私には堀北という親愛なる隣人がいる。別にそっちに行きたかったわけじゃない……堀北ー」

 

「……何かしら綾小路さん。急に抱き着いてこられると鬱陶しいのだけど?」

 

「ああ、行っちゃった……あんまり彼女をいじめないであげてくれよ? 彼女は友達が少ないんだ」

 

「っけ! こんな時にも心配かよ? いいよなー可愛い幼馴染がいてよ!?」

 

「堀北、私かわいいって言われた……でもうれしくない」

 

「……いい加減離れてくれないかしら?」

 

「まあ俺たちは優しいからな! 親愛なる我が友のお前には特別にこの特別な会に参加する権利をやろう」

 

 そうふんぞり返って池は続ける。

 

「おーい博士ー。ちょっと来てくれよー」

 

「フフッ、呼んだ?」

 

 太目な生徒が、あだ名なのか「博士」と呼ばれてゆっくりと近づいてくる。

 この1週間で、ほとんどのクラスメイトと話した水無瀬だったが、彼とはまだ話したことが無かった。

 

「博士、女子の水着ちゃんと記録してくれよ?」

 

「任せてくだされ。体調不良で授業を見学する予定ンゴ」

 

「記録? 何させるつもりだよ」

 

 何となく不穏な雰囲気を悟った須藤。この2人のことだ、可能性はかなり絞られるだろう。

 

「博士にクラスの女子のおっぱい大きい子ランキングを作ってもらうんだよ。あわよくば携帯で画像撮影とかもなっ! どうだ水無瀬よ、イケメンとはいえお前彼女いない歴年齢だと言っていたな? 気になるんじゃないか!?」

 

 いつになく尊大な態度でかたる池。まるで自分が世界で一番偉いと錯覚しているような様子に、面白そうに笑う水無瀬だった。

 周りの女子たちは水無瀬の彼女遍歴に驚きつつも、平田と並んでクラスの人気者の彼の行動を注意深く観察する。

 

「綾小路さん。そろそろ離れてくれないかしら。愛しの水無瀬君が下劣な行為に手を出そうとしているわよ? 止めなくていいのかしら?」

 

「ふふふ、私を甘く見ないで。水無瀬はぴゅあですけべな童貞だけど、やってはいけないことの線引きはできている」

 

 堂々と性事情をばらす綾小路。水無瀬はキレていいと思う。

 

「……随分と仲がいいのね?」

 

「ドヤァ!」

 

「皮肉よ。そして自分の口でそれを表現する人を、私は初めて見たわ」

 

 得意げに語る綾小路に、ツッコミを入れる堀北。

 

「で。どうなんだ水無瀬! お前は俺たちの仲間だ。何時でも受け入れる準備は出来てるぞ!」

 

「遠慮しておくよ。僕には怖い幼馴染が居るからね。ほら、行こう。須藤君」

 

「……おう」

 

 そう言って教室から出ていく二人。

 

「お前も大変だな」

 

「分かってくれるのかい?」

 

 感動した様子で語る水無瀬。外堀をガチガチに固められている、哀れな男である。

 

 

 

 それから無言の状態が続く2人だったが、ふと須藤が水無瀬に質問をした。

 

「なあ、俺の勘違いだったら悪いんだけどよ? 中3の中体連。全国バスケで当たった○○ん所トコのポイントガードってお前だったりするか?」

 

 訝し気に問う須藤に対して、思い出したかのように手を叩く水無瀬。

 そう。彼の居た中学校は、水無瀬が助っ人で試合に出た時の対戦相手だった。

 

「……ああ! 君はあそこの子か! どおりで見たことがあると思ってたんだよ。よく覚えていたね? 半年以上前の話なのに」

 

 嬉しそうに返答を返す水無瀬に対して、須藤は呆れたように語る。この男は自分の凄さを実感していないようだ。

 

「……お前自分がどれだけ注目されていたのか分ってんのか? ぽっと出の学校がいきなり県でぶっちぎりで優勝。そして一番重要であろうポイントガードの奴は今まで大会に出たことがないやつで、尚且つバスケ部ですらないんだぜ。あの試合では、皆お前のことを見てたぞ?」

 

 そう。須藤が所属していた、全国大会常連の中学校と、急に成果を上げてきたダークホースの試合は、一部の界隈では名試合となっているようだ。

 

「結局負けてしまったけどね。君のチームのほうが強かったさ」

 

 謙遜したように語る水無瀬だったが、記憶の中の彼を思い出してげんなりとする。勝利自体は納めることができたが、危ういところが多々あった。

 

「ほとんどお前のワンマンだっただろあれ……の割には的確に指示を出してたからな。俺とお前が逆の立場だとして、勝ててたかどうかは正直怪しいぞ……バスケ部には入るつもりはないのか?」

 

「今のところはないね。放課後は少しやることが多いから……」

 

「……それが山内の言ってたAクラスの女子か? この年で女と同棲なんてお前も中々だな?」

 

「そう言えばそんなこともあったな」と表情を歪める水無瀬。しかし何かを思いついたのか、手をポンと叩いて提案する。

 

「よし、今度時間あるときは1on1でもしよっか? 改めて自己紹介するよ。僕の名前は水無瀬柊。君は自己紹介の時に居なかっただろう? 下の名前を教えてくれないかい?」

 

 こんなやり取りをしているが、実はお互い下の名前を知らなかったのだ。

 それでもここまで会話が発展したのは、水無瀬のコミュニケーション能力と、バスケという共通の話題のおかげだろう。

 手を差し出した水無瀬に対し、ぶっきらぼうに呟きながらその手を取る須藤。

 

「……須藤健だ。ああいう雰囲気は嫌いだからな……あといくらお前でも負けるつもりはないからな?」

 

 好戦的な表情で語る須藤。やはり自分が認めた相手とはいえ、負ける気はさらさらないようだ。

 

「ああ、僕も負けるつもりはないよ。連絡先を交換しようか。まだ交換してなかったよね?」

 

「おう、よろしくな。水無瀬」

 

「こちらこそ」

 

 水無瀬のチャットの友だち一覧に須藤の名前が追加された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 ──そして時は経ち水泳の授業が始まる。

 

「うひゃあ、やっぱこの学校はすげぇなぁ! 街のプールより凄いんじゃね?」

 

 競泳パンツをはいた池が50mプールを見るなりそんな声をあげた。 水も澄んでいて綺麗そうだし、プールも屋内で天気の影響も受けない。環境は抜群である。

 

「女子は? 女子はまだなのかっ!?」

 

「着替えに時間かかるからまだだろ」

 

「なあ、もし俺が血迷って女子更衣室に飛び込んだらどうなるかな?」

 

「女子に袋叩きにされた上に退学になって書類送検といったところかな? あと清楓ちゃんの拳は重いよ? 一発で意識を持ってかれる」

 

 昔。自分たちを引き離そうとした職員を、一撃でノックダウンさせていた事を思い出し、にこやかに語る水無瀬。

 

「……リアルな突っ込みやめてくれよ……てか怖お前の彼女!?」

 

 池は想像して怖くなったのか、ぶるぶると身を震わせた。

 何となく怒らせたら怖いとは思っていたが、まさかそこまでとは思わなかったのだろう。

 

「ほら。変に水着とか意識してると皆に嫌われちゃうよ?」

 

「意識しない男が居るかよ! ……勃ったらどうしよう……」

 

 きっとその瞬間から卒業するその日まで、池は嫌われ続けることだろう。

 

 

 

 

 

「うわ~。凄い広さ、中学の時のプールなんかより全然大きい~」

 

 男子グループから遅れること数分、女子の声が耳に届いた。

 

「き、来たぞっ!?」

 

「長谷部がいない! ど、どういうことだ!? 博士っ!」

 

 授業を見学する博士が慌てた様子で見学用の建物の2階から、全貌を見渡している。 

 池たちが見逃した獲物を高台から、メガネの奥の小さな瞳で瞬時に見つけ出すはずだ。だが、その姿をどこにもとらえられない。 

 信じられないと言うように博士は首を左右に振る。

 

「う、後ろだ、博士」

 

「ンゴゴゴ!?」 

 

 池が指をさし叫び、事態が明らかになった。長谷部は博士と同じ見学組だったのだ。 

 続々と女子の面々が、見学組として2階に姿を現す。

 

「な、なんでだよ……これ、どういうことだよ!」

 

 池は信じられないものを見るかのように頭を抱えてその場に崩れた。

 その様子を見て苦笑いする水無瀬。

 

「そりゃそうだよ。あんなに露骨に賭け事なんかしてたらそうなるに決まってるさ」

 

 

 

「────そうね、当たり前の結論だわ……見直したわよ。水無瀬君」 

 

「みなせー!」

 

 いつの間にか隣にいた堀北とそれを追うように水無瀬の元へ駆け、飛び込む綾小路。

 

「おっとと……駄目じゃないか清楓ちゃん。プールサイドは走ったら危ないよ?」

 

「大丈夫、私の運動能力で「そういう話をしているんじゃないんだ」……はい。ごめんなさい」

 

「……まるで従順な犬と飼い主ね」

 

 呆れたように彼女を見る堀北。入学して1週間ほどしか経っていないが、初日に比べてかなり仲良くなれたようだ。

 綾小路に抱き着かれながら、彼は堀北に話しかける。

 

「いつも済まないね、堀北さん。多分この子は君をお姉ちゃんみたいに思ってるんだと思うんだ? これからもよろしく頼む」

 

 知らず知らずかそうではないかは知らぬが、堀北の地雷を踏みかける水無瀬。

 

(やはりキーワードは兄弟……生徒会長かな?)

 

 何時ぞやの部活動紹介の時を思い出し、あたりをつける水無瀬。

 

「……別にいいわ。でも突然暴走されると困るの。それだけは言って聞かせて置いてくれないかしら?」

 

「むぅ、堀北は私を水無瀬のペットだと勘違いしてる。私の愛は水無瀬には止められ「いいかい? 清楓ちゃん?」……はい……」

 

「ふふ、やっぱりペットじゃないの。バカみたいね? 本当に」

 

 そう言って笑う堀北。

 2人は目を丸くしてその様子を見つめる。

 

「あ、堀北が初めて笑った! 学校に来て初めて!」

 

「そうなのかい? それは良かった。笑うことはいい事だ。それだけで健康になれるし、心を豊かに出来るからね」

 

「水無瀬。今のちょっとジジくさいよ」

 

「……」

 

 何気ない一言だったのだが、水無瀬はかなり微妙な顔をしている。

 ここは年長者として耐えるべきという気持ちがせめぎ合っているようだ。

 

「……そんなずっと一緒にいられてるように思えるのは心外だわ。まあ事実私の知人と言える人は彼女だけなのだけど」

 

 今までの彼女ではその事実は認めてはいなかったのだろう。

 しかし入学から1週間で綾小路は図らずとも堀北の心の壁を少し溶かしたのだ。

 

「そうか、じゃあ僕と友達にならないかい? 清楓ちゃんのお世話をしてくれている君なら大歓迎さ!」

 

 嬉しそうにそう語る水無瀬。先の兄弟関係のワードを出してくるあたり彼も少し意地が悪いのだろう。

 綾小路は嬉しいような怒っているような表情をしながらこちらを向いていた。

 対象的な2人の顔を見て堀北は間を置いてこう言った。

 

「……遠慮しておくわ。第一私はあなたの事をよく知らないし……ただ、知人としては別に構わないわ」

 

 そんなことを言う堀北に対し2人は顔を合わせて同時に語る。

 

「「……悩んでたね?」」

 

「……うるさいわよ」

 

「水無瀬、私の堀北。可愛いでしょ」

 

「ああ、とても愛らしいよ」

 

 微笑ましいものを見るような目で堀北を見つめる2人。

 先ほどは綾小路が妹のようだったが、今度は逆転している。

 

「それ以上その目で見るのならぶつわよ。私にはその技術がある。2日3日は痛みが引かないわ」

 

「まずい、堀北が怒った。逃げろー」

 

「あ、こら! 待ちなさい綾小路さん!」

 

(2人とも愛らしいなぁ……)

 

 水無瀬。それは孫を見た爺と同じ感想だぞ。

 

 

 

 

 

 一瞬で、陸上選手顔負けの速度で逃げ切った綾小路。追ってこなかった堀北に残念そうな様子である。

 そんな彼女に呆れたような視線を向ける堀北だったが、

 

「綾小路さん。あなた何か運動とかしていたのかしら?」

 

「昔ちょっと色々やってたくらい。水無瀬のほうがすごい」

 

「その色々というのが気になるのだけど、確かに彼の体はすごいわね」

 

「堀北のエッチ」

 

「……一体あなたはその小さな脳みそで何を想像したのかしら? 答えによっては覚悟しておくことね?」

 

「あぅ……ごめんなさい」

 

 先ほど怒らせたばかりなのに、反省しない女である。

 

「そうかい? 割と普通だよ」

 

「……これのどこか普通か教えてほしいものね」

 

 水無瀬の体は、男性女性含めた理想の体と言えるだろう。

 八つに割れた腹筋、筋の浮き出た二の腕や、高低差のある胸筋等。アスリート顔負けの体系である。

 後ろから彼に抱き着き、形の良い腹筋をさわさわと触る綾小路はこう語る。

 

「説明しよう。水無瀬の身長は182㎝で体重は75㎏と少し重いけど、その実態は体脂肪率約5%の筋肉で出来ている。握力は80キロくらいで、ちゃんとしたところで走れば100メートル10秒前半も狙える。さすが私の水無瀬。それに……ふふふ、これは言わないでおこう」

 

 どこかで聞いたことがあるフレーズで語りだす綾小路

 だんだんと体を触る手つきがやらしくなっていく彼女に気づかず、水無瀬は聞く。

 

「一体何を言おうとしたんだい?」

 

 小声でボソッと答える綾小路

 

「……それは水無瀬のモノが「ああもういいよ、もう。何も話さないでくれ……全く」それにしても良い体……ちょっと興奮してきた。えへ……えへへへ」

 

 段々と腹筋をさする手がそれぞれ上下に移動し始める。

 

「おいやめろ」

 

「あう」

 

 そう言って軽くデコピンをする水無瀬。

 

「……公衆の面前でいちゃつかないでほしいわね」

 

「そうだぞ水無瀬!」

 

 池がヤジを飛ばしクラスで笑いが起こる。

 こんな事を毎日しておいて疎まれていないのは彼らの人徳が為す故だった。

 そこに櫛田が話しかけて来る。

 

「堀北さんは泳ぎは得意なの?」

 

「櫛田、居たんだ」

 

「あはは、三人とも仲良さそうだったから入りづらくて」

 

 苦笑いを浮かべながらそう語る櫛田。

 

「櫛田のような天使でもそんなこと思う……意外」

 

「そんな、天使だなんて。そんなことないよ綾小路さん」

 

 謙遜しながらも、どこか嬉しそうにしている。こういうところが、人に好かれる理由なのだろう。

 

「堀北さんは泳ぎは得意なの?」

 

 櫛田からの質問に少しだけ怪訝そうな表情を見せたが、堀北は静かに答える。

 

「得意でも不得意でもないわね」

 

「私は中学の時、水泳が苦手だったんだ。でも一生懸命練習して泳げるようになったの」

 

「……そう」

 

 先ほどとは打って変わって興味なさげに答え堀北は少し櫛田から距離を取った。

 その態度に一瞬違和感を感じた2人だが、自分達以外にはいつものこと。特に気にすることは無かった。

 

 

 

「よーし、お前ら集合しろ」

 

 いかにも体育会系といった体付きの男性教師が全員に集合をかけた。

 

「見学者は……16人か。随分多いようだが、まぁいいだろう」

 

 明らかにさぼりである生徒もいたが、彼は咎めることはなかった。

 

「よし。早速だが、準備体操を終えたら全員泳いでもらうぞ。お前らの実力が見たい」

 

「あの先生、俺あんまり泳げないんですけど……」

 

 一人の男子が申し訳なさそうにそう申し出た。

 それはそうだろう。25mでも素人には泳ぐのは大変だ。その倍の距離となるとなおさらだ。

 

「俺が担当するからには、必ず夏までに泳げるようにしてやるから大丈夫だ」

 

「別に無理して泳げるようにならなくてもいいですよ。海なんていかないし」

 

「そうはいかん。今は構わないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ? 必ず、だ」

 

 彼はそう意味深に締めくくると、準備体操に入るよう全員へ促した。

 

 

 

「────水無瀬」

 

「ああ、やっぱりあるだろうね。()()()()()()()()。泳ぎが大事になってくるのは、あの口ぶりからして確実だろう。僕らには必要ないけど。学んでおいて損はない」

 

 

 

 準備体操を終えた後は、皆50メートルほどを流して泳いだ。

 

「とりあえず殆どの者が泳げるようだな。では早速だがこれから競争をする。男女別50メートル自由形だ」

 

 彼のその言葉にクラス一同はざわつき始めた。

 

「1位になった生徒には、俺から特別ボーナスで5000ポイント支給しよう。ただし一番遅かった生徒は補習になるぞ。だから手を抜かず、覚悟して取り組むように」 

 

 その言葉にクラスでは泳ぎの得意な生徒と苦手な生徒ではっきりと違った反応が出た。

 

「悪くない報酬だ。僕ら2人でサクッと取って今日はご馳走にしよう」

 

「やった! 頑張る……1位になったら褒めてほしい」

 

「言われなくても」

 

 

 

 

 

 まず初めに女子たちの競争が始まった。

 

「櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん。はあはあはあはあ」

 

 池はすっかり櫛田にぞっこんだ。それを見た水無瀬はやんわりとなだめる。

 

「いったん落ち着きなよ池君。興奮した状態で水に入ると心臓に良くない」

 

 変な切り口から切り込む彼に、池は落ち着いてしまったのか、呆れたように返答する。

 

「……お前イケメンで頭よさそうなのに変わりもんだよな。だから彼女今までいないんじゃね?」

 

「どうして僕が悪いって話になるんだよ……」

 

 そう言って軽くキレる水無瀬。そんな様子がおかしかったのか、池は面白そうに見ている。

 

「なんか……お前って最初綾小路とイチャついてたし。いけ好かない感じかと思ってたけど、やっぱ面白くていいやつなんだな! 巨乳好きだし、お前とは親友になれそうだ!」

 

 そう言って肩を組んでくる池。水無瀬は嫌がることなく笑っていたが、一つ聞き流せないことがあった。

 

「そりゃどーも……って何それ? どこ情報?」

 

「え? 綾小路だけど」

 

 そう。綾小路は、水無瀬の話をせがんでくるクラスの皆に、あることないことを吹き込んでいたのだ。

 

「……それは間違いだよ。僕は愛した女性に胸の大きさは関係ないと思ってる」

 

「隠さなくていいんだよ! お前も恥ずかしがり屋だなあ!」

 

「……」

 

 ────そんなやり取りがあったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 そして時は流れ、第一レースがスタートする。

 

「おお! やるなあ堀北!」

 

 タイムは28秒とかなり速い方であった。見た目と雰囲気から文武両道な感じはしていたがやはり優秀らしい。

 

 続いて行われるのは第二レース、こちらには池のお目当てである櫛田と、綾小路がいた。

 男子たち皆に笑顔で手を振る櫛田と、水無瀬に凛々しい表情でサムズアップをする綾小路。実に対照的だった。

 

 そしてスタートした第二レース。この試合は盛り上がりに盛り上がりを見せた。綾小路と水泳部の女子のツートップ争い。最終的には指先一つの差で綾小路が勝ったが、最後まで結果は分からなかっただろう。タイムも25秒90と26秒で断トツであった。水泳部の女子は悔しそうに苦笑いを浮かべている。

 

「やったあ! みなせー!」

 

 プールから上がって一目散に水無瀬の元へ駆けよる綾小路。

 教師もそれをとがめることなく皆微笑ましい目で見ていた。

 

「おっとっと、頑張ったね。清楓ちゃん。流石だ」

 

 それを受け止め、くしゃくしゃと頭を撫でながら水無瀬は語る。

 

「うん! ありがとう!」

 

 少しの間嬉しそうに彼の胸板に顔を付ける綾小路であったが、一通りやって満足したのかふと彼から離れ1人の生徒の元へ向かう。

 その生徒は2レース目でトップを争った水泳部の女子。小野寺だった。

 

「小野寺」

 

「綾小路さん……?」

 

 クラスメイトと話している最中に来た綾小路に、訝し気に返事をする小野寺。それはそうだろう。今まで会話をしたことすらなかったのだ。

 そんな彼女に綾小路は右手を差し出し、力強く言った。

 

「いい試合だった。次もまたやろう」

 

「……! うん! 次は負けないからね!」

 

 そう言って握手をする2人。それを見ていた周りの生徒達は、興奮したように歓声を上げていた。

 

「うおおおおおおお! かっけええええ!」

 

 そう叫ぶのは、さっきまで櫛田の胸を見て興奮していた池。男子たちも、先ほどとは別の意味で興奮していた。

 

 

 

「はあ、全く。皆してくだらないわ……そう思わない? 水無瀬君」

 

 そのやり取りを、水無瀬は遠くから無言で見つめている。

 仲間を見つけたと語りかける堀北だったが、すぐ後に彼の顔を見て驚愕することになる。

 

「水無瀬君? どうして泣いているのかしら」

 

「……ああ、すまない……成長したんだね。清楓ちゃん」

 

 そう。後ろから話しかけたから分からなかったが、水無瀬は涙を流していたのだ。まるで、子供の成長を喜ぶ親の様に。

 その様子に呆れたように堀北は呟く。

 

「彼らは子供みたいだけど、あなたも大概親バカみたいね」

 

「……ああ、そうかもしれない。涙が止まらないよ」

 

 今回に関しては、素直に認める水無瀬であった。

 

 

 

 

 

「────やるじゃないか須藤。25秒切ってるぞ」

 

 そして後半は男子のレース。欠席者の少ない男子は、3組に分けて行われた。

 

 1組目の中でも、ぶっちぎりで泳ぎ切った須藤。

 バスケだけでなく、運動全般が得意ならしい。

 

「須藤、水泳部に入らないか? 練習すれば大会も十分に狙えるぞ」

 

「俺はバスケ一筋なんで。水泳なんて遊びっすよ」

 

 この程度の水泳は運動のうちにも入らないのか、須藤は余裕な様子で上にあがってくる。

 

「あーやだやだ、運動神経抜群なヤツって」

 

 池が妬むように須藤の肘を突く。

 

 

 

「きゃー!」

 

「みなせー! がんばってー!」

 

 女子から黄色い悲鳴が上がる。どうやら第2レースがスタートしたらしい。

 

 スタート台に立つのは、クラス人気ツートップの水無瀬と平田。

 

「あの野郎……! 裏切ったな水無瀬!」

 

 勝手に仲間扱いしていた池が、怒りに震えている。須藤も気に入らないのか、2人を睨んでいた。

 

 そんな彼らを尻目に女子たちは盛り上がっている。話題はもちろんこのレースの勝者についてだろう。

 

「ねえねえ、どっちが勝つと思う!?」

「やっぱり水無瀬君じゃない!? すごい体してるよ」

「私は平田君を応援するわ!」

「水無瀬が優勝するに私は今日の晩御飯を賭けてる。水無瀬が負けるはずがない」

「流石彼女さん。覚悟が違うわね!」

「……私は水無瀬の彼女ではない。大事な人で幼馴染」

「またまた照れちゃって、可愛い~綾小路さん」

 

「俺やっぱお前のこと嫌いだわ」

 

「……酷くない?」

 

 そんなことを言い合う池と水無瀬。

 

「でも俺はお前を応援するぜ! がんばれよ水無瀬!」

 

「ああ、できる限りのことはするつもりさ」

 

 平田と違い、イケメンや運動神経を鼻にかけない水無瀬は、池にとって相当好感が持てるのだろう。

 まあ最も平田もそんなつもりは一切ないのだが。

 

「おい水無瀬、今回は前哨戦だ。バスケで勝負する前に叩きのめしてやるから必ず決勝上がって来いよ?」

 

「ふふふ、いいね須藤君。決勝で会おうじゃないか」

 

 そう言って拳を交える2人。

 絶対に負けられない戦いが、ここにはあるのだろう。

 

 

 

 

 ────先生の笛が鳴り、きれいなフォームで飛び込む水無瀬と平田。

 最初は2人が水から顔を出すたびに黄色い感性と野太い声援が聞こえてきたが、半分の25mを過ぎたあたりで、その声は唐突に聞こえなくなった。

 

「第1位、水無瀬柊────23秒32……だ」

 

()()()()()()

 

「キャー!」

 

 Dクラスの生徒達の間で、大喝采が起こる。

 

「よし。どうだい? 応援には答えられたかな? 池」

 

 そう言って笑顔で男子の輪に入る水無瀬。さっきから泣いたり笑ったりと忙しい男である。

 

「すげえよお前! マジですげえよ!」

 

 無くなった語彙でひたすら興奮をあらわす池。

 ほかの生徒も彼に駆け寄って矢継ぎ早に話しかけていた。

 

「完敗だよ柊君、おめでとう」

 

 そう言って近づいてきたのは女子の話題に出ていた平田だった。

 

「ああ、ありがとう洋介」

 

 朗らかに水無瀬は返す。

 そして、彼の泳ぎに当てられたのは、平田だけではなかったようだ。

 

「素晴らしい泳ぎだ。称賛に値するよ」

 

「おお。ありがとう高円寺君」

 

 普段は全く話すことのない高円寺だった。

 

 そろそろ第3レースがスタートする。台に立った高円寺は、横目で水無瀬を見た。

 

 笛の音と共に、高円寺はお手本のようなフォームで水中へと飛び込んむ。

 

 皆の想像以上にアグレッシブな泳ぎを見せ、あっという間にゴールする。

 タイムを切った先生は、これまた動揺を隠せない。

 

「────23秒15……23秒台がこんなにも……恐ろしい学校だ」

 

「ふむ。いつも通り私の腹筋、背筋、大腰筋は好調のようだ。悪くないねぇ」

 

 ざばりと上にあがって来た高円寺は余裕の笑みを見せ、髪をかきあげた。息が切れている様子もなく、本気を出して泳いだとは思えない。

 

「燃えてきたぜ……」

 

 二人のタイムを聞いた須藤は、そう言って固く拳を語る。

 

 

 

 時は流れ決勝。授業の一部とは思えないような緊迫した空気の中、決勝に進んだ生徒はスタート台の前に並んでいた。

 

「水無瀬」

 

 右から2番目のレーンに並んでいた水無瀬に、綾小路は声をかける。

 

「ん?」

 

「頑張れ」

 

 綾小路は少し背伸びをして、水無瀬の頬にそっと唇を落とした。

 

「……こりゃ何が何でも優勝するしかなくなったね。ありがとう清楓ちゃん」

 

「ん」

 

 そう言ってサムズアップをする綾小路。

 

 

 

「これより男子決勝を行う」

 

 笛が鳴ったと途端に弾丸のように飛び出した水無瀬、高円寺、須藤の3人。

 平田を含む後の2人も少し遅れて飛び出したが、やはり首位はこの3人の痛烈な争いだった。

 固唾をのんでその様子を見守る全員。

 

 最終的に須藤が少し遅れる形となり、ほぼ同時に水無瀬と高円寺が向こうの壁にタッチした。

 

「どっちだ!? どっちが勝った!」

 

 池が大きな声で問いかける

 

「いや、結果は見えている。彼が本気を出したんだから」

 

「どういうことだよ綾小路!?」

 

「……! 結果は……」

 

 

 

「第1位。22秒70! 水無瀬柊!! 第2位高円寺……」

 

 

 

「うおおおおおおおお!!! 水無瀬が勝ったあああああ!!!!」

 

 第二位の結果を待たずして歓声と拍手が響き渡る。

 皆が駆け寄る中、彼に語りかけたのは高円寺だった。

 

「まさかこの私が本気を出し、それでも尚勝てぬ相手がいるとはね。完敗だよ」

 

「……勝負に運はつきものだ、今回は僕がそれに恵まれただけだよ」

 

「謙遜はしなくてもいいさ。先程の状況では私は間違いなく君に勝つことはできなかった。誇ると良い」

 

 敗北を喫したのにも関わらず、上から目線で、そしてどこか嬉しそうに高円寺は続ける。

 

「……この学校に私と同等以上の能力を持った人間がいるとはね。いいだろう。俄然面白くなってきた。次は負けるつもりはない。私は必ず君に追いついて見せよう」

 

「いいね、その時は受けて立とう。そう簡単に勝てるとは思わないほうがいいよ?」

 

 そんな彼の言葉を聞いて、彼の肩に手を置いてすれ違う高円寺。これ以上言葉はいらないようだ。

 

「水無瀬。お疲れ様」

 

「……ほんとにあなた達が何者なのか気になるところだわ。あなたの記録、一昔前の日本記録に匹敵する早さよ」

 

 彼のそばに駆け寄る綾小路と堀北。

 

「あはは、ちょっと柄にもなく張り切りすぎちゃったかな? だけどスポーツっていうのはやはりいいものだね。人類が生み出した素晴らしい文化だ。お小遣いも入ったし。今日はちょっとだけ贅沢しよっか」

 

「今日は坂柳も予定がないって言ってた。だから3人で行こう」

 

「……普通に夜一緒に食べてるのね……あなた達」

 

 

 




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リメイク前に比べて改行を多くしました。パソコンで書いてるので、塩梅が分かりません。改行の数についてです

  • (改行の数)めっちゃ少なくして欲しい
  • 少なくして欲しい
  • そのままでいい
  • もっと多くして欲しい
  • めっちゃ多くして欲しい
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