TSした綾小路ちゃんを転生オリ主が愛でまくる話   作:妄想癖のメアリー

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愛と嫉妬は表裏一体

 

 

 

「────ほら。早く帰ろう? 水無瀬!」

 

 そう言って早足で先を行く綾小路。

 水無瀬は唇に感じた感覚が記憶に残って消えなかった。

 呆けた顔で唇を触り、その感触を思い出しながらその後を追う水無瀬。

 

 

 

「……全く……これは1本取られたな。これは、私より先に行ってしまう日もそう遠くはないかもな……」

 

 どこか懐かしそうに語る水無瀬だったが。その顔はどこか希望に満ちたように感じる。

 

「清楓ちゃん」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

 笑顔で感謝を伝える水無瀬。その表情はどこか憑き物が取れたようにも感じる。

 

「ふふふ。それはこっちのセリフ。……ねえ水無瀬、私はあなたに出会えて本当に幸せなの。

 

 あなたがいなかったら私はあの白い部屋で、父の傀儡としてその人生を終えていた。そして人として当たり前の幸福を感じられずに、そのまま死んで行ったんだと思う」

 

「清楓ちゃん……」

 

 昔のことを思い出しているのか、目を閉じながら胸に手を当てる綾小路。

 

「……私は多分あなたの愛を知ってから弱くなってしまった。人の温かさを知ってしまったから。でも私はそれを後悔していない。私はあなたに人肌の温もりは、けっして悪いものでもないという事を教えて貰えた」

 

 

 

「────私は今とても幸せ。それは水無瀬、あなたが私に愛を教えてくれたから。私は成長できた……だからあれは私のほんの些細なお返し……迷惑だった?」

 

 不安そうにこちらを見つめる綾小路。その視線を受け、覚悟を決めたように強く足を踏み出す。

 そしてその柔らかい頬に手を添えて水無瀬は言う。

 

「覚悟は決めた。私は君をもう手放すつもりは無い……もう私から離れられると思わない方がいい」

 

「え? 水無瀬何をんん!?」

 

 今度はお返しというように彼女にキスをする水無瀬。

 そのキスは力強く。絶対に、二度と離さないという固い意思が込められていた。

 

 

 

 

 

 一体それから何秒経ったのか? 離れた両者の唇からは白い糸が垂れていた。

 腰が抜けたのか上の空で地面に座り込む綾小路。彼女に対して、水無瀬はしゃがみこんで彼女を抱き寄せ耳元で囁く。

 

「いいかい? 君が悪いんだ。君があんまりにも愛らしいから、私は君が本当に欲しくなってしまった。今から君は私のだ。いいね? 

 

 ……まぁ、だからなんて言うか……その、これからもよろしく頼むよ」

 

 真面目な表情からいってん苦笑いで語る水無瀬。締まらない男である。丁寧な口調とは裏腹に、かなり動揺しているらしい。

 その言葉を聞いた綾小路は、頬を赤らめ涙目になっている。

 

「……元から私はあなたのもの。私は今までもこれからも変わらずあなたを愛する」

 

 だが続けて抗議する綾小路。

 

「たださっきのキスはずるいと思う……舌を入れてくるなんて反則、今までした事ないくせにそういう所まで優秀さを示さなくて良い……おかげで私は腰が抜けてしまった。もう暫く立てない」

 

「参ったな……じゃあ僕がおんぶしていくよ」

 

「ん。ありがとう」

 

 しゃがみ込んで背中を向ける水無瀬。その上に乗った綾小路は、昔よりも大きく、がっちりとしたその背中に顔をうずめている。

 

「……懐かしい。小さい頃、よくやってた」

 

「あの時は身長もほとんど変わらなかったからね。結構大変だったんだよ?」

 

 後ろに感じる暖かさに、懐かしさを覚える水無瀬。廊下をおんぶして回っていたら、綾小路父にこっぴどく叱られたのは記憶に新しい。

 

「……それって、私が重かったって事?」

 

「一言も言ってないでしょ。そんなこと」

 

「そう。ならよかった」

 

 それからしばらくの間沈黙が続く。もう立って歩ける綾小路だったが、再び降りて歩くという選択肢はないようだ。

 

 

 

「ねえ水無瀬」

 

「ん?」

 

「好き」

 

 おんぶし始めて5分が経過した辺りで、綾小路は唐突に話しかける。いつもより呂律が回っていない。水泳の授業とカラオケで眠くなってしまったようだ。

 

「僕もだよ。清楓ちゃん」

 

「……そっか。良かった。でも、何時か()()()()()()()()を返して欲しいな」

 

 この『答え』が何を意味しているか。分かるのは2人だけだろう。

 

「……ごめん。いつか、必ず返すから。それまで待ってて……って清楓ちゃん?」

 

 急に反応が無くなったため、振り返って確認した水無瀬。そこには、安心したように目を瞑っている綾小路が居た。

 

「ははは。こいつ、言いたいことだけ言って眠りやがって

 

 ────ありがとう。清楓ちゃん」

 

 

 

 

 

 ────そう語る水無瀬の表情は、いつもの取り繕った笑みではなく、心の底からの笑顔であった。

 

 

 

 

 

「ほら。もう寮につくから、起きて清楓ちゃん」

 

「ん。まだこのままがいい……」

 

 それから少しの間綾小路を背負っていた水無瀬。しかし流石に寮の前まで行くのはまずいと感じたのか、近くの公園のベンチで一度休憩する。

 

「ダメだって。周りの人に見られたらどうするんだい?」

 

「うるさい……キス魔の水無瀬に言われたくない。脳内ピンク色」

 

 寝ぼけているのか、先ほどの行為を蒸し返す綾小路。少しだけイラついた水無瀬は、あるいたずらを思いついたようだ。

 

「ほら、寝てるとまたキスしちゃうよ。いいの?」

 

「水無瀬にそんな度胸な……ええ!? ほ、ホントにしたの!」

 

 彼の発言を冗談だと思ったのか、余裕そうに目を瞑っていた綾小路だったが、唇に感じた感触で目を開ける。

 しかし、目の前にあったのは水無瀬の顔ではなく、掌だった。

 

「残念。指でした。脳内ピンク色はどっちかな? 清楓ちゃん」

 

「……ムカつく」

 

 余りに典型的な手口に引っかかった綾小路。目が覚めてしまったのか、ずんずんと先に歩いて行ってしまった。

 

「あ。ごめんって! ちょっとー」

 

 こと恋愛において、水無瀬はまだ綾小路には勝てないらしい。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

 元気いっぱい叫ぶは綾小路。ここは男子のフロアなのだが、気にする様子は全くない。それをソファに座って端末を見ていた坂柳が答える。

 

「……おかえりなさい」

 

 そんな坂柳だったが、どこか様子がおかしい事に水無瀬は気が付いた。

 

「あれ、有栖ちゃん具合でも悪いのかい?」

 

「いいえ、お気になさらず……今日は多く外に出て疲れているだけなので」

 

「……そうか、分かった。今日はチャットで送った通り焼肉だよ。食べやすいように脂身の少ない部位も買ってきたから、これを食べて体調整えようか。ほら、早く着替えてきなさい。臭いが着いたら大変だ」

 

「はーい!」「分かりました」

 

 元気いっぱいの綾小路と、どことなくしおらしい坂柳。やはりおかしいと確信する水無瀬だったが、本人が言いたがらない為深く言及することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ────私が初めて彼に出会ったのは、私が7歳の頃。『ホワイトルーム』という施設に、父に連れられて見学しに行ったときでした。

 

 ホワイトルーム。()()()()()()()()()()()()という。あまりにも馬鹿げた目標を大真面目に行っているという施設に、興味が湧いたのです。

 

 当時の私は、人間は刻まれたDNA以上のことはできず、生まれた瞬間にそのポテンシャルは決まると結論付けていました。そのため、いくら凡人が努力をしようと、その才能には勝てない。なので当時の私の心境としては、恐らく冷やかしの意図が大半だったでしょう。

 

 ですが、その施設での出会いは、凝り固まった私の価値観を、大きく変えるほどものでした。

 

 

 

「────あれ? お父さん。お客様ですか?」

 

「……今日は出て来るなと行ったはずだ。後お父さんはやめなさい。虫唾が走る」

 

 

 

 第一印象は、平凡で人畜無害の少年。厳重に私生活を管理されているこの施設で意味もなく出歩き、最高責任者に軽口を叩けるその度胸は評価に値しましたが、それ以上思う事は無く、不思議な少年だという結論に至ったと思います。

 

「申し訳ございません。邪魔が入りました……水無瀬、お前は早く戻れ。今日は来賓の方々にカリキュラムをお見せするんだ。最高傑作の名を無駄にするな」

 

「……へいへい。必死なこって」

 

 想像していた上下関係と違ったため、驚いた記憶がありましたが、私はそれ以上に聞き逃せない発言がありました。

 

「……()()()()? 彼がですか」

 

「……はい。問題行動が多く、反抗的な態度が多くみられますが、間違いなくこの施設で突出して能力が高い生徒です」

 

 そこで始めて興味を持ちました。それまで見てきた生徒は、天才とまでは行かないものの、及第点を上げてもいいくらいの生徒たちばかりでした。

 その中での最高傑作。中々惹かれるものがあります。

 

 

 

 

 

「────では。これからお見せするのは4期生のカリキュラムです」

 

 それから少し施設を回ったのち、4期生の見学となりました。

 そこでは彼、水無瀬君が他の生徒と対局をしています。

 

 そして、上から私が見ている事に気が付いたのか、こちらに手を振って何かを話す彼。

 

『あ、さっき会った子だね。こんにちは』

 

 ガラス越しなので声は聞こえませんでしたが、口の動きからしてこのような事を言っていたのではないでしょうか。

 

「……失礼しました。彼にはしっかりと注意しておきますので……」

 

 そう私に謝っていましたが、私の注目は彼。正しくは彼の行っているゲームに向いていました。

 

「チェス……をしてらっしゃるのですか?」

 

 そう。彼は女子生徒。後に分かったのですが綾小路さんとチェスをしていました。

 余程差をつけられていたのか、彼女は涙目になっています。

 

「はい。カリキュラムの一環として、こちらで組んだ相手同士で対局しています」

 

「彼は……先ほど廊下であった彼は、どの程度の強さなのでしょうか……?」

 

 そう質問する私に、少し間を置きながら答えます。

 

 

 

「……少なくない対局を行いましたが未だ無敗です。また……将棋で言うところの3面指しを行いましたが、一面も彼に勝てたことはございません」

 

 3面指し。つまり1対3の盤面でも、彼は負けたことがないそうです。同時に3つの盤面を理解し、制限時間内に最善の手を打てる人間は、そう多くはないのでしょう。

 

 当時はチェスのルールすら知らなかった私ですが、彼に影響されて始めました。大人になってから、彼と戦うために。

 ────凡人が天才に勝つことなど、出来ないと証明するために。

 

 そんな10年、20年先を見据えた行動でしたが、再会は意外と早いものでした。

 

 

 

 

 

「……君は、あの時の子か! ちょっと君のお父さんに用があってね。申し訳ないけど、ここを開けてくれないかい?」

 

 それから3年と少し経った後。自宅の前で、砂と泥にまみれたボロボロの彼と再会した私は、柄にもなくこう思いました。

 

 ────ああ。この方が、私の運命の人なんだ。と

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。夕飯を奢っていただいた上、部屋まで送って頂いて」

 

 水無瀬の部屋で夕飯を食べ終わった3人は、それぞれ解散という形になった。綾小路は部屋に帰り。坂柳に関しては彼女からの要望で、部屋まで付いてきたようだ。

 

「良いってこれくらい。僕たちは家族だろう?」

 

「家族……ですか」

 

「?」

 

 そう。血のつながりこそないものの、彼らは4年間同じ屋根の下暮らしてきた家族なのだ。

 

「……すみません。少し相談したいことがあるので、部屋に来ていただけませんか?」

 

「ああ。あんまり遅くは居られないけど、それでいいなら」

 

 坂柳が同意したことを確認して、部屋に上がる水無瀬。女子の部屋に上がるという緊張の瞬間だが、この2人に限っては全く気にしていないようだ。

 というより、部屋に物を運んだり、家具の組み立てをしたのは綾小路と水無瀬の2人なので今更だろう。

 

「わざわざすみません。さっき言えばよかったのですが、綾小路さんが居ると話づらくて」

 

 ベットに腰掛けるように促した坂柳に、疑うことなく座る水無瀬。

 

「それで、相談って何だい?」

 

「……何も言わず、そこに寝てください。水無瀬君」

 

 話が始まるかと思いきや、何故かベットの上で横たわるよう指示をされた水無瀬。

 訝しげに思いながらも、ベットの上にあおむけに横たわる。彼が使っている柔軟剤と同じ香りが立つ。

 

「僕はどうすれば……って。どうしたんだい? 坂柳さん」

 

「うるさいです。何も言わず、そのままで居てください」

 

 そのまま水無瀬の上に跨り、上体を倒す坂柳。互いの心音がはっきりと聞こえてくる。

 

 

 

「……初めてチェスをした時のことを、覚えているでしょうか?」

 

「勿論。小学生だと侮っていたら、相当強くて驚いたからね。記憶に残ってる」

 

「あなたも同い年じゃないですか」

 

 そう、初めて水無瀬と会ったその日。坂柳はチェスの対局を申し出たのだ。

 結果は坂柳の敗北。その日から、彼に勝つことを人生の目標として生きてきた坂柳。

 

「私がどうしてこんな事をしているか、分かりますか?」

 

「……もしかして、見られちゃったかい?」

 

 こくこくと頷く坂柳。その手に握られていたスマホの画面には、夕陽をバックに綾小路にキスをする水無瀬の様子が映っていた。

 

「8年前……私はあの白い部屋であなたを見てから、ずっとあなたに焦がれて来ました。それを恋だと自覚したのは割と最近でしたが、どうやら私は存外チョロい女だったのかもしれません」

 

 小さくボソボソと語る坂柳、その目には小さな涙が浮かび上がっていた。

 

「私は沢山我慢してきたつもりでした……彼女が、綾小路さんがあなたに会えない中、抜けがけするのは良くないと思いまして。そしてここで決着をつけ、あなたの隣に並ぼうと思っていました。私は……私にはその資格すらないのでしょうか?」

 

「有栖ちゃん……それは「聞きたくありません」……」

 

「言葉ではどうとでも言えます。態度で示してください……綾小路さんにやったのと同じように。あなた達の雰囲気で、まだ交際していないのは分かっています。付き合っていないのであれば特に問題はありませんよね?」

 

 そう言って2人の鼻が付く距離で目をつぶった坂柳。彼女の白くサラリとした頬は、赤く色づいていた。

 覚悟を決めた水無瀬は、その小さな唇にそっと口付けをする。

 

 

 

 ────目を開けた坂柳。先程の表情とは真逆で、してやったりと言った表情が浮かんでいる。

 

「ふふふ……やはり優しいのですね? 水無瀬」

 

 その変わり様を見たら嘘泣きであったことは容易に見て取れる。

 

「私はあなたを諦めたつもりはございません。先手は譲りましたが、いつか彼女に勝って、必ずあなたを愛する権利をいただきます」

 

 そう言って名残惜しそうにベットから出ていく坂柳。それを止めたのは水無瀬だった。

 彼女の小さな体を優しく包み、サラサラとした頭を撫でながら彼は告げる。

 

 

 

「ごめんね……有栖ちゃん。言い訳はしない。ただ1つ、一つだけ見逃せない事がある。

 

 人を愛することに権利なんて要らないんだよ? 有栖ちゃん。私は君を愛してる。でも一方通行の愛は寂しいよ、だから君も僕を愛して欲しい。どうか僕のワガママを聞いてくれ」

 

 そう言って強く抱きしめる水無瀬。坂柳は彼の胸に顔を伏せ、小さく震えていた。

 

「今日は一緒に寝よっか。君が眠る時まで頭を撫でてあげよう。好きだっただろ? 撫でられるの」

 

 水無瀬は胸に濡れた感触を感じながら、彼女を撫で続ける。

 

 

 

 

 

「……ずるいです。これじゃあ私がバカみたいじゃないですか。意気地無し、童貞、女たらし」

 

「童貞は関係ないだろ、全く……」

 

 そう言って彼女の頬を両手でそっと支え、こちらを向かせる、こちらをむく彼女の目元は確かに赤く腫れていて、その頬には一対の涙が落ちていた。

 その涙を親指で払った水無瀬は、彼女の小さな顔を両手で優しく包んで囁く。

 

 

 

 

 

「────愛してるよ有栖ちゃん。次は君から来てくれると嬉しいな」

 

 

 

 

 

 ────それは偶然にも、彼が綾小路にしたものと同じ、強く、絶対に離さないという意思が込められたキスだった。

 

 

 




言ってませんでしたが、水無瀬は中学の時、親しみを込めて『女たらしのクソ野郎』といわれていました。



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