辺境領の業務日誌 あるいは新人領主とその秘書官のドタバタな日常   作:雅媛

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新領主のお仕事 10

 帝国において、領主とは領内において絶対的な権力を持つ存在だ。

 だから、住民としてだれを迎え入れようと、他の住民は文句を言う権限はない。

 だが、権限がないことと問題がないはまた別なのだ。

 不満が溜まれば、反乱などが起きる可能性がある。

 そうでなくても、生活圏内がギスギスしているのは気持ちのいいものではないだろう。

 だからこそ、アーシェロットは町の人の意見をちゃんと聞くことにした。

 

 町の見廻りの翌日、朝から山に入って狩ってきた鹿をアーシェロットが振舞いながらの会議である。

 町の人間がやはり全員集まってきているが、今回意見を聞くのは各家庭の代表者である。

 残りは鹿を捌いたり料理したり食べたりしている。

 人口は100人弱だが、家庭数になれば30弱だ。それでも結構な人数になるが……

 みな広場に集まり、円形に座る。

 

「移住者が来ると、私たちにどんな得があるのですか?」

 

 アーシェロットからの説明が終わると、ドワーフのターニャさんがさっそく聞いてきた。

 確かに人が増えるとどういう利点があるか、彼女のような農業従事者にはあまりピンとこないだろう。

 

「今回の移住を受け入れれば帝国から援助がもらえます。そうすれば税も安くできますし、物も安く手に入りやすくなるでしょう」

 

 ひとまず即物的な利益をアーシェロットは答えるが、いまいちピンとこないようで反応は悪い。

 

「あとは男性も増やせますから、お相手を探すのも簡単になりますよ!」

 

 この町の人口の9割近く女性だし、男性は子供か老人だけだ。

 結婚適齢期の相手を連れてくるのは結構重要だと思うのだが、そのあたりも反応が薄かった。

 うむむ、人を増やすのは難しいか…… 田舎はやっぱり排他的なところがあるからなぁ…… と悩むアーシェロットだったが、ツバキがフォローを始めた。

 

「今回お願いされている騎士様たちも、流民の方々も、行き先がなくて困っているそうです。人数も普段町に流れてくる人よりは多いですが、できれば受け入れてあげたいと思うんです」

「ツバキちゃんがそういうなら…… 困っているときはお互い様だしね」

 

 空気感が一気に変わる。

 もともとずっと頑張っていた少女と、ぽっと出の領主様ではこういう時に信頼の違いが出る。

 

「できれば呼ぶ人は、農業を仕事にする人以外がいいですね」

「え、でも今の町のみんなの助けになるような人の方がいいんじゃない?」

 

 ツバキの提案はアーシェロットにとっては意外だった。

 農業従事者を増やして、既存の住人の労力を減らした方がいいと考えていたのだ。

 だが、町の潜在的な要望はそこではないのはツバキは気づいていた。

 

「よその違う方法を入れられると嫌がる人もいます。それに、森でも山でも、仕事にできるような場所はあるんです。残念ながら技術も人手もないので、現状どうにもできていませんが」

「ふむ……」

 

 町を囲む山からは木材や鉱石が取れるかもしれないし、南の森からは獲物が取れるかもしれない。

 現にアーシェロットがちょっと森に入るだけで、獲物となる動物はすぐに見つかる。

 大きくて危険な獣が多いが、腕があればいろいろ確保できるだろう。

 

「じゃあ狩人か樵か鉱山系の技術がある人か、そういう人を呼ぶことにするよ。ほかには?」

「種族は特に限定はありません。ここの町にはいろんな種族の人が居ますし。性別は男性がいいですね」

「ほむ?」

「さすがに女性ばかりですし、適齢期の女性の相手がいた方がいいと思います」

「ツバキちゃんもお相手を探したいのかな?」

「私は領主さまのお相手でいっぱいいっぱいです」

 

 ツバキを揶揄う妖精の女性に、ツバキは肩をすくめてそう返した。

 お仕事として、アーシェロットをフォローするのはかなり重要だとツバキは考えていた。

 付き合いにくい相手ではないし、頭もよい。人付き合いもよく明るい性格だが、都会の人間であり個々のことに詳しいわけではない。しかも権力者だ。

 現地の人と彼女との摩擦はできるだけ避ける必要があり、それができるのは自分だけだという自負があった。

 四六時中彼女にべったりくっつかなければならない仕事をしている限り、男性との縁は難しいだろう。

 

「じゃあ受け入れるのは、傷病騎士が5名に、独身男性15名ぐらいかな。農業従事者以外で、と」

「それでいいかと思います。皆さんも大丈夫ですかね?」

 

 ツバキがまとめると、他の町の人もうなづく。特に異論はない様だ。

 話がまとまったところを見計らって、鹿料理が出てくる。

 刺身に鹿汁に串焼きと、バリエーション豊かである。

 生の鹿肉をおっかなびっくり食べるアーシェロットを笑いながら、酒を飲む大人たち。

 

 ひとまずはうまくいったとツバキは息を吐くのであった。

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