辺境領の業務日誌 あるいは新人領主とその秘書官のドタバタな日常 作:雅媛
新領主の初仕事 1
ツバキが目を覚ますと、目の前には美少女のだらしない寝顔があった。
仰向けに寝ているのにアーシェロットの顔が目の前にある理由は、彼女がツバキの上に乗っかって寝ているからであった。
柔らかく、生ぬるく、そして重いなと思いながら寝ていたが、まさか新領主さまが自分の上に覆いかぶさっているのは全く予想していなかった。
しかも全裸である。
まさか夜這いでもされたのか、なんてことを考えながら、昨日のことを思い出そうとするツバキ。
酒を飲んでしまったあたりまでの記憶は鮮明だが、そこから先は結構あいまいになり、アーシェロットの上に倒れこんでしまったところで完全に記憶が途切れていた。
おそらく記憶が途切れているタイミングで潰れてしまったのだろう。
起きるために自分の上に乗っているアーシェロットをどかすと、彼女はそのまま転がってベッドの下に落ちて、「ぐえっ」と蛙が潰れたような声を上げた。
「んにぃ、あさぁ?」
目をこすりながら、起き上がってくるアーシェロットをスルーしながら、ツバキは自分の状態を確かめる。
服は昨日の夜着ていた服のままだ。潰れてしまった後そのまま寝てしまったのだろう。
体は、頭が重い以外は特に異常はない。これが話に聞く二日酔いという奴だろう。強い酒を飲んだのは初めてであり、それで酔いつぶれたのも初めてであった。
特に変なことはされていなさそうだ。そんな確認をしていると、アーシェロットがのっそりと起き上がってベッドの上に戻り、ツバキに寄りかかってきた。
一人用のベッドなのでかなり狭いのだ。
「何してるの?」
「新人領主さんに手籠めにされたかと思って確認を」
「そんなことしないよぉ」
「そうよね、同性だもんね」
「いや私は女の子の方が好きだけど」
ツバキは後ずさった。
「特にツバキちゃんみたいなかっこいい系の女の子が好き」
「恐怖しか感じない!」
「そんな、昨日の夜、あんなにあんなことやこんなことをしたのに」
「何したっていうのよ!」
「そ、それは……」
急に赤くなったアーシェロット。肌が白いせいか、顔だけでなく体もほんのりピンク色になっている。
「ちゅ、ちゅーを」
「ちゅー?」
「ツバキちゃんがいきなり覆いかぶさってきて、ボクの唇を奪ったんだよ。ファーストキスだったのに」
「いや、全然覚えてないわ」
完全に酔い潰れるまでの記憶はおぼろげだが、好きでもない彼女にキスするほど前後不覚にはなっていない。
捏造か、もしくは運んでもらった時に偶然当たったとかそういう事故だろう。
そんな事故で唇が接触したことをファーストキスに数えていいなら、ツバキは羊や猫と何度もキスしているし、小さい子供とも時々している。
「あと、責任取って養えとかも言ってきたし!!」
「それも…… それは言ったかもしれない」
否定したかったが、薄ボンヤリした記憶の中で、そんなことを叫んでいた記憶がある。さすがに嘘はつくつもりはなかったが、だが特に深い意味はないし、そういう関係になりたいという意味では全くない。
「だから、結婚しよ」
「判断が早すぎる」
えらいことを口走り始めるアーシェロット。
会った日の夜に事故チューをしたから、責任取って養えといわれて結婚とか、意味がわからなすぎる。
表情からうかがう限り、ふざけてからかっているのは明らかであり、徐々にツバキの中に怒りが溜まってくる。
そうしてツバキが感情のまま投げつけた枕は、アーシェロットの顔面を直撃し、そのまま仰け反ったアーシェロットは再度ベッドから落ちた。