辺境領の業務日誌 あるいは新人領主とその秘書官のドタバタな日常 作:雅媛
朝食を食べたら早速初仕事だーと張り切るアーシェロットを引きずって、ツバキがまず取り掛かったのは広場の掃除だった。
昨日は遅い時間からどんちゃん騒ぎをしたのだから、片付いていないのは当たり前である。
虫や野生生物がわき始める前に片づける必要があった。
広場には肉のかけらやら、骨やら、血やらが散らかっている。
また、調理に使った簡易的なかまども残ったままだ。さすがに調理器具などは皆持って帰ったようだが、雑然としたゴミが、かなり広範囲に色々落ちていた。
だがまずは、残っている死骸をどうにかしないといけない。
かなり肉は剥され、骨格標本みたいになっているが、まだ肉が全体的に骨にこびりついているし、何よりも骨が大量にある。
これらをどうにかしないといけないと思うとため息しか出ない。
アーシェロットが骨に手をかけ、引っ張り始める。
「ぐぎぎぎぎ」
「どうしたいんです?」
「ひとまず関節を取り外して、骨1本1本ごとにすれば、あとは肉をはぎ取って綺麗にするだけなんだけど…… やっぱり関節が固いなぁ」
骨と骨をつなぐ関節部分は、軟骨と筋で繋がっている。
5mもある熊となると、その部分も非常に丈夫であり、引っ張った程度では容易には外れない。
どうするかと悩むアーシェロットの隣で、ツバキが骨を手にかけると……
バキッと容易に腕関節をもぎ取った。
「えっ?」
「そこまででもないですね。関節全部、もげばいいです? 注意点は?」
涼しい顔をしてもぎ取ったツバキにアーシェロットは驚いていた。
兎とか小動物の関節ではないのだ。鍛えられた騎士たちの馬鹿力であったとしてもできる芸当ではない。
それをインドアに見えて細身なツバキがやったのだから信じられない光景である。
「えっと、骨自体も乾かせば薬になって売れるから、骨はあんまり傷つけないほうがいいかな」
「了解」
ツバキは淡々と関節を外し続け、すぐに骨が1本ずつになっていく。
そんな骨を受け取ったアーシェロットは、聖剣で骨にくっついている筋や軟骨をはぎ取り始めるのだった。
朝の早い時間から始めた作業は日が登り切る前には全部終わった。
途中から町の人も掃除に現れ、かまどの片づけや石畳の掃除なんかをしてくれたので、アーシェロットが予想していたよりも時間がかからなかった。
山のような骨も、町の人たちの協力もありすべて倉庫へと運ばれていく。
「陰干ししたかったから助かるけど、ずいぶん広い倉庫だね」
「もともと冒険者ギルドだったんですよ、この建物。迷宮ができたので冒険者が集まるのが期待されたらしいですが、迷宮自体小さくて大したものも取れず、すぐに廃れて建物は町役場に流用されたわけです」
「それは、保管場所には困らなそうだね」
冒険者ギルドとは、魔獣や動物の狩りをしたり、採取をしたりするギルドである。
害獣の討伐をして報酬を受けたり、狩った獲物の素材を売ったりするのが主な収入源であるため、そういった素材を保管するための施設が整っている。
ツバキは食料品なんかを保管するためだけに使っていたが、アーシェロットは狩りもするので、保管場所に困らないのは助かる。
こういった素材は高く売れるが、一方で処理や保管が難しく、失敗すると一気にゴミになってしまうのだ。そのため、加工や保管の設備を作る必要もあるかとアーシェロットは考えており、もともと存在しているのは嬉しい誤算だった。
そうして骨や昨日川に沈めた毛皮を保管すると、桶一杯分のくず肉が残った。
スジや軟骨も混ざっており、そのまま焼いて食べるのは難しそうだ。
「どうするんです? それ」
「全部とかも合わせてミンチにして、ハンバーグかな。臭み消しの香草とかある?」
「そこに生えている花と葉っぱ、臭み消しにも使えますよ」
ツバキが指さしたのは、ただの原っぱであった。野草の知識が多くないアーシェロットには区別がつかなかったが、ツバキが無造作に生えている葉っぱをむしり始める。
「ちょっと苦いですけど、二日酔いにも効いて、整腸作用もあります」
にがっ、といいながらその葉っぱをかじりつつ、ちぎった葉っぱをアーシェロットに差しだす。食べてみると確かに苦いがスッとした清涼感のある香りを持っていて、頭が冴える気がする。
ひとまずそれを一束持ち帰り、お肉に混ぜてハンバーグにすることにした。
大量にできそうなので、今夜もまた配るとアーシェロットが掃除を手伝ってくれた人に告げると、みな喜んでいた。