ドラコネ!も投稿しなきゃ…
高校生活の二日目、司波兄妹の朝は早い。
起きるのもそうだが、行動力。
深雪はローラーブレードで、達也は自慢の体力で魔法を使いながら60km並の速度で移動するなり着いた場所は「寺」。
だが、そこに集う者たちの面構えは「僧侶」や「和尚」、
あるいは「(小)坊主」にさえ、到底見えない。
そこで達也は中学一年生の頃から体術の稽古を受けていた。
もちろん一人で行うものではない。
最初は一人ずつの掛かり稽古だったのが、今では中級以下の門人約ニ十人による総掛かり。
達也はこう見えてある程度の体術は得意であった。
深雪によると敵う者は居ないらしい。
そして達也に体術を教える「師」でもあるこの男。
実年齢はともかく見た目と雰囲気は、まだそれほど老いていない。きれいに髪を剃りあげ細身の身体に悪戯が好きそうな顔をしている、名を『九重八雲』と言う。
自称で言うには「忍び」と言うが、一般的な呼称は「忍術使い」。身体的な技能が優れているだけの前近代こ諜報員とは一線を画する、古い魔法を伝える者の一人だった。
達也の朝稽古が終わり三人は深雪の持参していた朝食を摂る事にしていた。
達也「師匠。折り入って話があります。」
八雲「うん?珍しいね。君がそこまでかしこまった態度をとるだなんて。なんだい?聞かせてご覧?もしかして深雪ちゃんが関係するのかい?大丈夫!深雪ちゃんの身の安全は僕が守るッ!」
達也「普段の俺はどんな態度なんですか。それと深雪に関係するものですがそこまでしなくて大丈夫です。興奮しないでください。」
一瞬、達也の中には怒気が感じられ八雲は「失敬、失敬」と軽いノリで反省を促していた。
達也「入学して気になる生徒が。」
八雲「えっ!?あの達也くんが!?伝説のシスコンが!?気になる生徒だって!?」
達也「いい加減話を進めさせてください。」
またも達也の中に怒気が入り混じり八雲は今度こそ反省したのか少し大袈裟に反省する態度を見せる。
そしてここで本題に入るのだが…
深雪「お兄様、それについては私の方からお伝えさせてください。」
深雪本人が話を持ち出すことにした。
そして八雲が茶を一口啜り本題に入る。
深雪「はい。先程お兄様が述べた通り少し気になる生徒が居まして…『トキタオウマ』という人物はご存知でしょうか?」
八雲は深雪の話を聞くときもところどころ茶を啜り、たまに湯呑を揺らしたり中の茶を楽しんでいた。
八雲「トキタオウマ…ねぇ…ふぅん〜。」
二人は八雲の顔に穴が空くほど見つめ、それに対して八雲は気にしていなかった。…が、少し眉が歪んでいた。
八雲「名前だけ聞いてみても分からないなぁ…字は分かるかい?それなら近づけるかもしれないから。」
深雪「すみません。流石にそこまでは分かりません。」
八雲「あちゃ〜…そっか。まぁ、本当に困った時は頼んでおいで、それ以前に達也君が解決するだろうけど。」
達也「なるべくそうさせていただくおつもりです。」
八雲「あ、やっぱりそうなんだ。」
二人は朝食を済ませたあと通学するため達也は着替、八雲に軽く会釈をして門をくぐり抜けていく。
深雪も軽く会釈をし、兄、達也と同じく通学する。
八雲(いや〜それにしてもあの二人も高校生かぁ…僕も爺さんになっちゃうな〜。こんなナリだけど。)
去っていく二人の背を見ながら懐かしく思う。
中学一年生の頃に達也が来て、早3年。短いようだがとても長く。達也の日々の腕のこなしは達人の才の如く上達していった。今では八雲のほうが少し上かもしれないが、もうじきすれば達也は余裕で八雲を越えるだろう。
八雲(トキタオウマかぁ…結構カッコいい名前だな〜、じゃなくて……う〜ん……思い当たらないなぁ……)
二人の言うトキタオウマという人物について首を傾げる。
司波兄妹が注意?する謎の人物。確かに入学したてなので謎は多い訳なのだが、どうにも腑に落ちない。
八雲(トキタ…トキタ………………いや、まさか……そんなはずがあるわけ無いか…
あの区域の人間が高校に入れるなんて…無いよね
九重八雲の推理は如何に…?
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登校したばかりの一年E組の教室は雑然とした雰囲気に包まれていた。多分、他の教室も似たようなものだろう。
エリカ「オハヨ〜」
声の主は相変わらず陽気な活力に満ちたエリカだった。
美月「おはようございます。」
その隣では、美月が控えめながら打ち解けた笑みを向けてきている。すっかり仲が良くなったようで、エリカは美月の机に浅く腰掛けているような格好で手を振っている。
シバとシバタ、偶然というより五十音順という要因が働いたのだろうが、達也の席は、美月の隣だった。
達也「また隣だが、よろしくな。」
美月「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
達也の言葉に美月が笑みを返す。と、その隣でエリカが不満そうな顔をしていた。……多分、わざとだが。
エリカ「何だか仲間はずれ?」
声もどこか、からかっているような響きがある。
達也「千葉さんを仲間はずれにするのはとても難しそうだ。」
エリカ「…………どういう意味かな?」
達也「社交性に富んでいるって意味だよ。」
エリカ「…司波くんって、実は性格悪いでしょ。」
こらえ切れずに美月が笑いをこぼしているのを横目に、達也は端末にIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。
達也「……別に見られても困りはしないが。」
「あっ?ああ、すまん。珍しいもんで見入っちまった。」
達也が話している生徒は男性であり、それなりに体格は良いような気はする。長身でいかにもスポーツ得意としたような爽やかな感じがする。
彼の名は『西城レオンハルト』。父親がハーフで、母親がクォーター。外見は純日本風だが名前は洋風。
得意な術式は収束系の硬化魔法、志望コースは身体を動かす系、警察等の機動隊、山岳警備隊。
レオ「レオでいいぜ。」
達也「司波達也だ。俺のことも達也でいい。」
二人で得意な分野は、など談笑を交えながらお互いの事を探っていく。…と、横からやりを入れてくる者が一人。
エリカ「え、なになに?司波くん魔工師志望なの?」
レオ「達也、コイツ、誰?」
エリカ「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し?失礼なヤツ、失礼なヤツ!失礼な奴っ!モテない男はこれだから。」
レオ「なっ!?失礼なのはテメーだろうがよ!少しくらいツラがいいからって、調子こいてんじゃねーぞっ!」
エリカ「ルックスは大事なのよ?だらしなさとワイルドを取り違えているむさ男には分からないかもしれないけど。それにな〜に、その時代を一世紀間違えたみたいなスラングは。今時そんなの流行らないわよ〜」
レオ「なっ、なっ、なっ…」
とりすました嘲笑を浮かべて斜に見下ろすエリカと、絶句が今にも唸り声へと移行しそうなレオ。
達也はそれを見ながら「意外に合うかもしれないな。」と心の中でつぶやく。
エリカ「ほんっとうむさ苦しいわ。達也くんや
エリカが指す方向を見ると達也は驚く。
居るじゃないか…彼が。
今朝、相談していた内容の人物が…
達也「…トキタ…オウマ…」
エリカ「あれ?『トキタオウマ』くんって言うんだ。へぇ〜、それにしても良い顔してると思わない?男っていうのはああやって寡黙な方がモテるって言うのに〜」
レオ「〜〜〜〜〜ッ!!!」
美月「…エリカちゃん、もう止めて。少し言い過ぎよ。」
二人を制止する美月の横に目を見開きながら彼を見つめる達也。まさか、同じクラスだとは思いもしなかっただろう。昨日、深雪が彼に近づき、名前を聞き出した。
それと同時に人間とは思えない程のプレッシャーを感じた。と、深雪が言っていた。
そんな彼は今眠っている。
こんな騒がしくなってきている教室で一人熟睡出来るのは流石だな…と思いながらまた前を向く。
次第に予冷が鳴り、皆々が蜘蛛の子を散らすように席二着く。
王馬(…………あいつは昨日の…)
深淵を覗く時、深淵もまたコチラを覗いている。
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達也はカウンセラーの『小野遥』について頭を抱えながら、一人 考えの海に浸っていた。
…が、レオの一声で現実に戻される。
内容はこの後についてだ。
教室で食事をする、という習慣は、今の中学、高校にはない。耐水、耐塵性が向上したとはいえ、情報端末は精密機器だ。うっかり汁物でもこぼそうものなら、結構悲惨な羽目に陥らないとも限らない。
食堂へ行くか、中庭とか屋上とか部室とか、何処か適当な場所を見つけるか。
そして食堂が開くまで、まだ一時間以上ある。
達也「………」
ターゲットの彼の席を見るともぬけの殻。
既に居なくなっていた。
まぁ、彼が何処に行こうが勝手だが出来るだけ距離を詰めておきたい。それは決して良い意味では無いが。
達也「ここで資料の目録を眺めているつもりだったんだが…OK、付き合うよ。」
楽しそうに輝いていた目が達也のセリフで落胆に曇る。
実に分かりやすいレオの表情に、達也は苦笑していた。
入学して二日目、早くも行動を共にするメンバーが固まりつつあった。皆、自分とは違って明るく前向きな性格で十中八九のアタリだった。しかし完璧なものでは無いが…
達也「謝ったりするなよ、深雪。一厘一毛たりとも、お前の所為じゃないんだから。」
深雪「はい、しかし…止めますか?」
達也「……逆効果だろうなぁ。」
深雪「…そうですね。それにしてもエリカはともかく、美月があんな性格とは…予想外でした。」
達也「…同感だ。」
一歩引いた所から眺める兄妹の視線の先には、二手に分かれて一触即発の雰囲気で睨み合う新入生の一団がいた。
その片方は深雪のクラスメイト、もう一方の構成メンバーは、言うまでもなく、美月、エリカ、レオだった。
昼食時の食堂、何も知らぬ新入生が勝手知らずという事情から、この時期は例年混雑する。
だが見学を切り上げ食堂に来た達也たち四人は、それほど苦労することも無く四人がけのテーブルを確保した。
半分ほど食べ終わった頃、男子女子両方のクラスメイトに囲まれて食堂に到着した深雪が、達也を見つけて急ぎ足で寄ってきた。
そこで一悶着あった。
達也と一緒に食べようとする深雪、クラスメイトの交流を拒むような偏屈な性格ではないが、深雪にとって最優先すべき相手は達也だった。
このテーブルに座れるのはあと一人。クラスメイトと達也とどっちを選ぶか、深雪は考えることすらしなかった。
しかし、深雪のクラスメイト、特に男子生徒は、当然、彼女と相席を狙っていた。
最初は狭いとか邪魔しちゃ悪いとかそれなりにオブラートに包んだ表現だったが、深雪の執着が意外に強いと見るや、二科生と相対するのは相応しくないだの一科と二科のけじめだの、果ては食べ終わっていたレオに席を空けろだの言い出す始末。
身勝手で傲慢な一科生の言い種にレオとエリカはそろそろ爆発しかけていた。達也は急いで食べ終わると、レオに声を掛けまだ食べている最中のエリカと美月に断りを入れて席を立った。深雪は達也たち四人に目で謝罪して、片側が空いたテーブルには座らず、達也と逆方向へ歩み去った。
王馬(…………肉はどこにあるんだ…?)
深雪「!」
深雪が王馬を見つけるが、クラスメイトの男子と女子に質問攻めであったり、一科は一科で居るべきだ、などと理想論を述べて声を掛ける暇も無かった。その時深雪の周りが少し寒かったとか何とか…
そして次に午後の専門課程見学中の出来事だった。
通称「射撃場」と呼ばれる遠隔魔法用実習室では、3年A組の実技が行われていた。
生徒会長、七草真由美の所属するクラスだ。
生徒会は必ずしも成績で選ばれるものではないが、今期の生徒会長は遠隔精密魔法の分野で十年に一人の英才と呼ばれ、それを裏付けるように数多くのトロフィーを第一高校にもたらしていた。
その噂は新入生も耳にしている。そして噂以上にコケティッシュだった容姿も、入学式で見ている。
彼女の実技を見ようと、大勢の新入生が射撃場に詰め掛けたが、見学できる人数は限られている。こうなると、一科生に二科生が多い中で、達也たちは堂々と最前列に陣取ったのだった。当然のように、悪目立ちした。
王馬(なんでこいつらこんなに並んでんだ…?)
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そして現在、美月が啖呵を切っている最中だった。
美月「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう!」
相手は一年A組の生徒。昼休みに食堂で見た面子だ。
つまりどういう状況かというと、放課後、深雪を待っていた達也に、深雪にくっついて来たクラスメイトが難癖を付けたというのが発端だ。ちなみにそのクラスメイトは女子。男子生徒はさすがに周囲の(あるいは深雪の)目が気になったなか最初の内は黙っていたが、既にそんな遠慮、あるいは良識はこの場から立ち去っていた。
美月「別に深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!」
達也「引き裂くとか言われてもなぁ…」
深雪「美月は何を勘違いしているのでしょう…」
司波兄妹は美月の言う二人の仲について少し困惑する。
別にただの兄妹関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。健全な関係だ。
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
深雪のクラスメイト、その一。
「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
深雪のクラスメイト、女子生徒その二。
彼らの勝手な言い分をレオは威勢良く笑い飛ばした。
レオ「ハン!そういうのは自活(自治活動)中にやれよ。ちゃんと時間がとってあるだろうが。」
エリカも皮肉成分たっぷりの笑顔と口調で言い返す。
エリカ「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」
相手を怒らせることが目的のようなエリカのセリフと態度に、注文通り、男子生徒その一が切れた。
「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」
差別的ニュアンスである「ウィード」といつ単語の使用は校則で禁止されている。半ば以上有名無実化しているルールだが、それでもこれだけ多くの耳目を集めている状況で使用される言葉ではない。
この暴言に真正面から反応したのは意外であった美月だった。
美月「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ!?」
達也「…あらら。」
まずいことになった、という思考が達也の口から短い呟きとなって漏れた。
「…どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ。」
美月の主張は校内のルールに沿った正当なものだが、同時に、ある意味でこの学校のシステムを否定するものだ。
レオ「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか。」
一科生の威嚇に対しレオは挑戦的な態度をとる。
「だったら教えてやる!」
学校内でCADの携行が認められている生徒は生徒会の役員と一部の委員のみ。
学外における魔法の使用は、法令で細かく規制されている。だが、CADの所持が校内で制限されているわけではない。CADは今や魔法師の必携ツールだが、魔法の行使に必要不可欠、ではない。CADが無くても魔法は使える。だから、CADの所持そのものを、法令は禁じていない。
故に、CADを所持している生徒は、授業開始前に事務室へ預け、下校時に返却を受ける、という手続きになっている。またそれ故に、下校途中である生徒がCADを持っているのは、別におかしなことではない。
達也「特化型っ?」
だが、それが同じ生徒に向けられるとなれば、非常事態だ。向けられたCADが、攻撃力重視の特化型なら尚のことだ。
深雪「お兄様!」
深雪が達也に対してこの場を収めてほしいように言葉を上げる。それを目で感じ取った達也は右手を付きだそうとしたが…
王馬「楽しそうな事やってるねぇ…俺も混ぜてくれよ。」
その場の誰もが彼の声に反応した。
先程までレオは銃口を突きつけられていたが、即座に声の主の方向を見る。
達也は驚く、よりにもよってこの場でこの男が現れる事に。深雪は驚きと少しの希望を抱いていた。もしかしたら収めてくれるんじゃないかって。
王馬「お、シバミユキじゃん。」
深雪「王馬さん。」
エリカは伸縮性の警棒を出そうとしていたが、彼の声によって懐に戻す。
「な、なんだお前は!?いきなり出てきて司波さんと話てんじゃねぇよ!」
そうだそうだ、と言わんばかりに外野からヤジが飛ぶがそんな事お構いなしに彼は知らんふりをすると、深雪の顔を見る。
王馬「知ってんのか?」
深雪「え…え、えぇまぁ…」
エリカ「知ってるっていうか、あたし達二科生と一科生の違いがあーだこーだ〜!とか言ってうっさいのよ!」
王馬「ふ〜ん…」
エリカの発言に対し、特に興味の素振りすら見せない王馬。関心が無いのか、どうでも良いのか。
「邪魔するならお前に見せてやるよ!一科と二科の違いをなっ!」
今度は王馬に対して銃口が向けられる。
それに対して一同はまたピリッした空気になる。
今度はレオよりも近い距離、一メートルも無いくらいの距離で先ず避けきるのは不可能だろう。
達也はジッと観察するような眼差しを送るが、深雪は焦っている。まさか巻き込んでしまったんじゃないかと思うと、額に汗が落ちる。
だが、そんな心配も杞憂に終わる…
何故なら…
ガンッ!
「ヒッ!」
先ず攻撃などさせないからだ。
特化型のデバイスは宙を舞う、良く見ると元の綺麗だった形が一瞬にして脆く、ボロボロに成り果てていた。
そう、男はCADを蹴り上げたのだ。
これには一同も驚く。
達也「ッ!?」
達也(あんな距離で蹴り上げた!?それに一撃でボロボロに………あの距離で迷いなく蹴り上げるだと……あいつ、相当な腕前だな……)
普通CADを向けられると湧いてくる感情はなにか、答えは恐怖と焦りだ。達也からするとそんな事は無いかもしれないが、普通の者なら確実に怯む。
だが、男は一切の迷い無く、しかも余裕の表情でノールックで蹴り上げたのだ。
深雪「…え、えぇ!?」
驚いてあたり前か、普通そんな強引に対処するものでは無いからな。
このおかげで周りの一科生は彼から少しずつ距離を空けていく。CADを構えていた生徒も腰から崩れ落ちれ、ジリジリと後ろに引き下がっていく。
王馬「…で、どうすんだい?」
王馬の視線は後ろに居る一科生達に向けられる、全員ポカンとした顔になり、一瞬理解出来なかった。
アンタ等も闘るのかい?
全員「!?」」
深雪はこれに対して二度目だったか、殺気に似たような感覚に陥る。これに対して達也ですら頬に汗が伝っている。
美月はこの圧迫感に耐えられなかったのか尻餅をついて、目尻に涙を浮かべていた。
一科生達は顔を横にブンブンっと音が出そうなくらいに振る。
王馬「……そうかい。」
男はまた残念な気持ちになった。
「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」
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その後、生徒会長の七草真由美と風紀委員長である『渡辺摩利』という三年生が駆けつけてきた。
早速、一のAと一のEは事情聴取を受けることになってしまった。これには一同言葉なく硬直している。
王馬「…」
彼一人を除いて。
傲然と虚勢に胸を張ることもなく、悄然と萎縮し項垂れることもなく、達也は泰然とした足取りで、摩利の前へ歩み出た。
達也「すみません、悪ふざけが過ぎました。」
摩利「悪ふざけ?」
達也「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので。」
王馬にCADを蹴り壊された男子生徒が目を大きく見開いた。
摩利は視線を巡らせ、拳銃携帯のデバイスを一瞥する。
痛々しく、凹むというかえぐられているような、言葉に出来ない程に壊れていた。
摩利「ほう…ではなぜ、このCADはここまで破損しているのか聞かせてもらおうか?」
達也は次の事に対してどう伝えようか困っていた。
彼の気が動転してCADを蹴り壊しました、と言っていいのだろうか、時間にして2秒。達也の頭に思考が駆け巡る。
王馬「俺が壊しといたぜ。」
今度は摩利が王馬に対して冷たい視線を送る。
それを浴びている訳ではないがエリカはゾッとし、達也はしまった、と声に出そうになっていた。
摩利「…壊したか…そうか…何故そうする必要があった?」
王馬「…何故…?…ハッ、
摩利「…
この状況に耐えれる者が居るだろうか。
一年生にして、ここまで三年生に突っかかっていく者など見たことは無いだろう。
深雪もアワアワとなって焦っている、レオに関しては「おいバカっ!よせっ!」と、言ってしまっている。
美月はもう意識がシャットダウンされそうな状況だ。
真由美「摩利、もういいんじゃない?こんな所で長々としても、ねぇ?」
突如真由美が割って入る。
真由美「きっと達也くんが言ってる事は本当よ。昨日喋った時、この人嘘つかないだろうなぁって私、思ってたから。」
一同はそんな事で、と思ったと同時に早く開放してくれ、という気持ちでごっちゃ混ぜになっていた。
王馬「ネェちゃん分かってんじゃねぇか。」
摩利「貴様!会長に対して、いや、上級生に対しての態度は何だ!」
またもや二人は噴火する前の火山のようにヒートアップしていた。皆「やめてくれよ…」という顔になり、青く染まっていた。だが、達也は「えぇ、その通りです。」と返す。
摩利「…ハァ…会長がこう仰っているんだ、今回は不問にする。以後このようなことのないようにな。」
慌てて姿勢を正し、呉越同舟ながら一斉に頭を下げる(王馬を除く)一同に見向きもせず、摩利は踵を返す、が、一歩踏み出したところで足を止め、背中を向けたまま問いかけを発した。
摩利「…お前、名前はなんだ。」
首だけで振り向いた切れ長の目は、その端にいる王馬の姿を映している。
王馬「十鬼蛇王馬。」
摩利「…トキタ…王馬、か。覚えておこう。」
王馬「あぁ、覚えといてくれよ。ネェちゃん達。」
達也は余計だ、と心で呟く。
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王馬「ふ〜ん…モリサキシュン、か。」
最初に手を出した、つまり達也たちに庇われた形になったA組の男子生徒が、棘のある視線を向け、同じく棘のある口調で、達也達に向けて自己紹介をした。
王馬はカタコトになっているが、実際は『森崎駿』だ。
森崎「僕はお前を認めないぞ、司波達也。そして十鬼蛇王馬!特にお前は、だ!兄妹でも無い癖して男なのにズカズカと司波さんに言い寄って!しかも面識があるみたいじゃないか!司波さんは、僕たちと一緒にいるべきなんだ!」
王馬「シバミユキ、腹減らねぇか?」
深雪「いえ、私は減っておりません。」
森崎「人の話を聞けっ!!」
まるで漫才でもしているかのような空間に一同は先程とは違って笑みが溢れる。
達也「いきなりフルネームで呼び捨てか。」
森崎「僕も"そいつ"に言われてたけどな!」
深雪「…そう言えば私も。」
三人は一斉に王馬を見るが、一人欠伸をしてどうでも良さそうだった。
王馬「…終わったか?なら帰ろうぜ。」
お前はいつの間にこの輪の中に入ったんだと、皆が思う。
出会い方は最悪で、無愛想な様にも見えたが、意外にも気さくで積極的な方で皆、困惑する。
達也「……そ、そうだな。深雪、レオ、千葉さん、柴田さん、帰ろう。」
とにかく精神的に疲れた、という実感を共有していた二人は、どちらからともなく頷きあって、その場を離れることにした。
行く手を遮るように、事態を悪化させかけたあのA組の女子生徒が立っていた。
王馬「てめぇは?」
「『光井ほのか』です。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした。」
いきなり頭を下げられて、正直なところ、皆が面食らっていた。先程までは控え目に言ってもエリート意識を隠しきれていなかった少女のこの態度は豹変と言えた。
ほのか「庇ってくれて、ありがとうございました。森崎君はああ言いましたけど、大事にならなかったのは十鬼蛇さん達のおかげです。」
王馬「…王馬で良い。」
ほのか「分かりました。それで、その…」
ほのかはもじもじとして王馬に対して上目遣いを使う。
普通の男ならイチコロだが、そうじゃないのがこの男。
ほのか「…駅までご一緒してもいいですか?」
恐る恐る、だが何かある種の決意を秘めた顔で、同行を請うほのか。一瞬だけ深雪の方へと向いたのは間違いない。
王馬「あぁ、良いぜ。」
だからお前はいつから指揮を取るようになったんだ、と改めて思う、達也であった。
深雪「…」グッ
別に拒む理由など無いだろう、王馬にも達也にもレオにも、美月にもエリカにも………深雪は何故か、何処か決意をした様な顔になり拳を握る。
深雪(何ででしょう…このモヤッとした気持ち…別に彼に対してそんな………だって、出会って間もないのに………でも、
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駅までの帰り道は微妙な空気だった。
メンバーは先頭に王馬、そして後々に深雪、ほのか、達也、レオ、エリカ、と、ほのかと深雪に同じくA組の女子生徒『北山雫』。
ほのか「王馬さんは向けられた時怖くなかったんですか?…それも攻撃特化型を向けられるなんて早々無いことですし…」
王馬「別に怖くなんてねぇよ…あんな玩具。」
ほのか(玩具って…)
雫(えぇ…)
エリカ(流石にそれは無いでしょ…)
美月(嘘でしょ…)
レオ(どんだけ肝据わってんだ…)
達也(そういう風にしか見てない……よっぽどの自信家か。)
深雪(…)
王馬「そういやお前、何か出してただろ。」
達也が後ろの方にいるエリカを見る。
事実、あの時レオに銃口が向けられていた時エリカは警棒のデバイスを出そうとしていた事は本当だ。
本当ならエリカはあそこで銃型のデバイスを打ち落とそうとしていた。
だが、突然の王馬の乱入でそれは免れたというか何というか、非常識者が蹴り壊したのだが…
エリカ「すっご!良く気づいたわね!あっそれとあたしはお前じゃなくてエリカ。千葉エリカよ。」
王馬「チバエリカって言うのか。」
達也(あの時エリカと王馬の距離はかなり離れていたはずだ。それに現れた角度からして、まともに目視出来ないはずだが…分からんな。)
美月「えっ?その警棒、デバイスなの?」
美月が目を丸くしたのを見て、エリカは満足げに二度、ウンウンとばかり頷いた。
エリカ「そうそう、普通の反応をくれてありがとう、美月!」
レオ「…何処にシステムを組み込んでるんだ?さっきの感じじゃ、全部空洞ってわけじゃないんだろ?」
エリカ「ブーッ。柄以外は全部空洞よ。刻印型の術式で強度を上げてるの。硬化魔法は得意分野なんでしょ?」
レオ「…術式を幾何学紋様化してら感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するってアレか?
そんなモン使ってたら、並みのサイオン量じゃ済まされ無いぜ?よくガス欠にならねぇな?
そもそも刻印型自体、燃費が悪過ぎってんで、今じゃあんまり使わてねぇ術式のハズだぜ。」
エリカ「おっ、さすが二得意分野。でも残念、もう一歩ね。強度が必要になるのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捉まえてサイオンを流してやれば、そんなに消耗しないわ。
兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」
逆に感心と呆れ顔がブレンドされた空気にさらされて、居心地悪げに訊ねたエリカ、そして特に興味の無さそうな王馬に…
深雪「エリカ…兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ。」
全員を代表して深雪が答えた。
だがエリカの強張った顔は、彼女が本気で焦っていることを示していた。
王馬「ふ〜ん…そんなにすげぇ事なんだな。」
深雪「ふ〜んって…王馬さんは得意分野はあるんですか?」
ほのか「た、確かに気になります!」
エリカ「あ!あたしもあたしも!そういう王馬くんはどんなCADを使うの?」
美月「汎用方ですか?特化型ですか?」
目をキラキラさせながら質問する美月は、深雪、ほのか、エリカに負け劣らないくらいにグイグイと質問していく。
すると王馬が後ろに振り返り…
この後、ここにいる誰もが驚愕するだろう…
達也でさえも目を見開く事になるだろう…
何故なら…
王馬「使った事ねぇぞ。そんなもん。」
彼はCADの携行どころか、先ず手にすらしていなかったのだから…
深雪「…え。」
ほのか「…え?」
エリカ「…は?」
美月「…ふぁ?」
雫「…嘘…」
レオ「はぁ?」
達也「!?」
ええええええええええええ〜〜〜〜!?!?
この先どうなるのだろうか…
台風に気をつけてくださいね?