これといったこともない夏のある日   作:カンキツf

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これといったこともない夏のある日②

「あ〜、アイス美味しい〜!」

 

 手に持ったソフトクリームを舐めつつ阿賀野はしみじみと言い放つ。

 

「あんなところにアイスの屋台なんてあったんだね」

「夏の間だけらしいですよ」

「ふ〜ん……」

 

 阿賀野の隣で、阿賀野同様にソフトクリームを舐めつつ長良がそう言い放つ。

 鎮守府からそう遠くないスーパー。その近くにあるキッチンカーで売られているソフトクリームこそ阿賀野の目的の一つだった。

 

「食べてみたかったんですよねー。これ」

「そっか……」

「……長良さん?」

 

 食べる手を止め、阿賀野は妙に反応が薄い長良の方へ視線を向けると長良とカチリと目が合う。黙々とソフトクリームを食べる長良と数秒間見つめ合う。

 

「なにじっと見てるんですか……」

「阿賀野が食べてるとこ見るの面白くて」

「……は?」

 

 予想だにしなかった長良の一言に阿賀野は首を傾げる。

 

「……阿賀野そんな変な顔してました?」

「全然。いつも通りだよ」

「じゃあ何が面白いんですか……」

「何かね、最近阿賀野を見てると楽しい」

「え? 見てると楽しいって……どういうことですか?」

「う〜ん……表情がコロコロ変わるところとか? 見てて飽きないっていうか……」

「はあ……」

 

 長良の説明に最低限の納得を得る阿賀野。いつもならここで会話が終わるが今回は違った。

 

「それと、阿賀野のこと見てて思ったんだけどさ……」

「……何ですか?」

「やっぱり買いすぎじゃない?」

 

 長良が指差した阿賀野はスーパーの買い物でパンパンに膨張した買い物袋を一つは手で持ち、もう一つは肘にかけていた。そして、肩にはクーラーボックスまでかけている。

 

「長良も一つ持ってるし……」

 

 そう言って長良が自分の手にある、阿賀野の袋を持ち上げて見せる。

 

「それで、中身は全部お菓子とかジュースだもん。どうせ1人で食べるんでしょ? 絶対買いすぎだって」

「違いますよ〜。妹達の分とか、お客さん用のお茶菓子とかも入ってますよ〜」

「本当?」

「本当です〜」

「それにしたって多すぎ……」

「多くないです普通です」

「え〜……」

 

 頑なな阿賀野に半笑いする長良。そんな長良を横目に阿賀野は残り僅かな手持ちのソフトクリームを口に放り込むと持っていたクーラーボックスからあるものを取り出す。

 

「まだ食べるの?」

「食べますよ」

 

 阿賀野が取り出したのは先程スーパーで購入したビニールに包まれた棒アイスだった。

 

「えへへ〜、これ当たりつきなんですよ〜♪運が良ければもう一本食べられる〜……」

 

 そう言って阿賀野がビニールを開きそこからアイスを取り出すがそこにアイスは存在せず、ただの棒切れだけが引き抜かれ、ビニールには冷たい重みが残っている。

 

「…………」

 

 その光景に阿賀野が少し硬直した後、静かに木の棒をビニールに戻す。そしてビニールをまるで果物の皮を剥くようにして破き、剥がしていくと待望のアイスが姿を表す。

 

「よし!」

「当たってた?」

「……外れてました」

「ははは、そっか」

「食べる前に分かるのはテンション下がっちゃう〜……」

 

 そう言ってモソモソとアイスを食べ始める阿賀野の表情はソフトクリームのときより明らかに沈んでいた。

 

 

 

「暑い〜……」

「そーだね〜……」

 

 アイスも食べ終わり、セミの鳴き声が反響し陽炎がゆらめく炎天下のアスファルトの上、汗を滲ませてぐったりとした表情で歩く阿賀野と汗を滲ませつつも暑さを殆ど感じていないような表情で空を眺め歩いている長良。

 

「いい天気だね……」

「そうですね〜……良すぎですよ〜……」

 

 独り言のように呟く長良とそんな長良の言葉に恨めしげな口調で返す阿賀野。

 

「ねえ阿賀野……」

「なんですか……」

「ちょっとこの辺歩かない?」

「え、嫌です。暑いし」

「そっか……」

 

 自分の提案を一片の迷いも無く即答で否定する阿賀野に長良は思わず口をつぐむ。

 

「ねえ阿賀野……」

「なんですか?」

「ちょっと散歩しない?」

「は? 嫌です! 暑いし!」

「そっか……」

 

 長良の提案を一片の迷いもなく力強く否定する阿賀野に口をつぐむ。

 

「ねえ阿賀野……」

「……なんですか?」

「ちょっとフィールドワークを……」

「ちょっともうしつこいですよ! 嫌だって言ってるじゃないですか!!」

「そっか……」

 

 声を荒げて拒絶の意思を示す阿賀野に三回同じことを言った長良は残念そうに俯く。

 

「ちょっとくらいいいじゃん……」

「だってこの辺特に面白いもの無いし暑いし、買ったジュース暖まっちゃうし暑いし、早く帰って涼みたいし暑いし、荷物も重いし暑いし、何より暑いし」

「…………」

 

 阿賀野の間髪入れない言葉の連続に長良は再び口をつぐむ。

 

「大体なんで散歩?」

「いやほら、天気の良い中風に吹かれて歩いたり走ったりするのって気持ちいいと思わない?」

「……風、吹いてませんけど」

「そうだけど……そうじゃなくて……」

 

 いまいち真意が伝わっていない阿賀野に長良は言い淀む。

 

「……あんまりこの時間を終わらせたくないんだよね……もうちょっと味わっていたいっていうか……分かる?」

「……いや全然」

「ああそう……」

 

 長良の言い分を毛ほども共感出来ていない阿賀野にあっさり切り捨てられる。

 

「……ほら見てよ阿賀野。あの雲、さっき食べたアイスにちょっと似てない?」

「はあ……そうですね……」

 

 空に浮かぶ入道雲を長良が指差す。

 

「…………」

「…………」

「え、終わり?」

「う、うん、まあ……」

「だから何なんですか!?」

 

 しかしそれ以上広がらない会話に阿賀野が困惑したような声で叫ぶ。

 

「いいじゃん阿賀野〜! ほら、寄り道したらなんか良いことあるかもしれないじゃん!」

「良いことってなんですか」

「あの〜……え〜と……。困ってる人を助けてなんかお礼してもらう!!」

「ある訳ないでしょそんなの。童話ですか」

 

 阿賀野を誘うとあれこれと言い分を継ぎ足していく長良を阿賀野は容赦なく切り捨てていく。

 

「そんなの行ってみないと分からないじゃん!」

「分かります。ありえませんそんなの」

「そんなことないよ! ほら! ここにも困ってる人がいるかも……しれな……」

 

 長良が適当に自販機の方を指差す。そこには地面に顔を擦り付けて自販機の隙間を覗き込んでいる浜風がいた。

 

「……浜風? どうしたの?」

「あ、長良さん。阿賀野さんも」

 

 長良達に気づいた浜風が立ち上がると事情の説明を始める。

 

 

 

「すいません……」

「いーよ、あれくらい」

 

 自販機の下から掻き出した硬貨で買った四本の飲み物を抱えた浜風の謝罪に掻き出す為に使った丸めたチラシを持った長良が軽く言い返す。

 

「でも浜風ちゃんどうしてここに? 十七駆のみんなもいるの?」

 

 阿賀野が浜風に尋ねる。

 

「この辺にかき氷の屋台が出てるらしいので、みんなで食べに来たんですよ。でもあまりにも暑いから少し飲み物飲んで休憩しようということで私が買いに行ったんですけど……」

「手が滑って自販機の下にお金を落としてさっきまであの姿勢だったと……」

「はい……」

 

 長良が浜風の話を補足するように割って入る。

 

「へえ〜……かき氷の屋台なんてこの辺にあるんだ……」

「はい。夏限定らしくて、氷も天然の氷を使ってて美味しいらしいですよ」

「へえ〜……そうなんだ……」

 

 阿賀野が浜風の話を興味深そうに聞いている。

 

「……食べに行く?」

「はい!!」

 

 伺うように言った長良に阿賀野は勢いよく返事をした。

 

 

 

「だから戻ってきたとき長良さん達も一緒だったんだな」

 

 ベンチに座った谷風が口にかき氷を運びつつ独り言のように言う。その隣では浜風・浦風・磯風の十七駆に長良と阿賀野が並んで同様にかき氷を食べていた。

 

「ん〜! 美味しい〜! 長良さんもそう思いません?」

 

 満面の笑みを浮かべてイチゴシロップがかかったかき氷を味わっている阿賀野がそう言って長良の方を向くとイチゴシロップのかかったかき氷をちょうど口に含んだ所の長良とカチリと目が合う。数秒見つめ合った後、長良がゆっくりと目線を正面に戻す。

 

「うん、確かに。美味しいよこれ」

「ですよねー! でもこんなところがあるなんて知らなかったー」

「来たのは2、3日くらい前らしいんじゃよ」

「そう、それでこの辺に来たのは今年が初めてらしい」

「それでいて夏の期間限定だそうだ」

 

 阿賀野の言葉に浦風・谷風・磯風がそれぞれ補足するように説明を差し込んでいく。

 

「へー。みんな詳しいんだね」

「浜風が言っとった」

「浜風が言ってた」

「浜風が全部調べてたぞ」

 

 浦風・谷風・磯風の三人が一斉に浜風の方を指差すと抹茶に練乳のかかったかき氷を黙々と食べていた浜風の手が止まり、ゆっくりと阿賀野達の方へ視線を向ける。

 

「……何か問題ですか?」

 

 キョトンとした顔をして長良達を見る浜風。

 

「ううん! 全然そんなことないよ浜風ちゃん! むしろありがたいくらい!」

「ですよね。何もおかしいところなんて無いはずです」

 

 阿賀野のフォローに浜風はハッキリとした口調でそう言い放つ。

 

「そういうことじゃ……まあいいか」

 

 そんな二人に長良達は苦笑していた。

 

「しかし……長良達は何か用事でもあったのか? 随分と荷物がいっぱいあるが……」

 

 磯風が長良と阿賀野の二人に問いかける。

 

「それは……」

「アイス食べに行ってたの! アイス!」

 

 長良の話を遮るようにして阿賀野が笑顔でそう言い放つ。

 

「アイス?」

「そう! スーパーの近くにソフトクリームの屋台が出てたから食べに行ったの! 長良さんも一緒に!」

「なるほど……それで……いや待て、それとその荷物が繋がらないんだが……」

「え、これ? これはスーパーで買ったお菓子とかジュース!」

「……全部?」

「全部!」

「…………」

 

 さも当然のように答える阿賀野に磯風は沈黙してしまう。

 

「……買いすぎじゃないか? 1人で食べるんだろう?」

「違うって〜。妹達の分とか、お客さん用のお茶菓子とかも入ってるの〜」

「それを含めても多すぎでは……」

「ほら阿賀野。磯風もそう言ってるよ」

「ちょ、長良さんやめてくださいよ!」

 

 ここぞとばかりに磯風に同調する長良に阿賀野は抗議の声を上げる。

 

「これくらい普通よ〜。浦風ちゃんもそう思うよね!」

「いや……流石に多すぎじゃ思う……」

「え〜……谷風ちゃんは!?」

「多すぎると思いますね〜……」

「……浜風ちゃんはどう思う!? 普通だと思う!?」

「はい。普通だと思います」

「ほら〜!」

「おお……」

「迷いがない……」

 

 阿賀野の言葉に真っ直ぐな目で即答する浜風に磯風と長良は少したじろいでしまう。

 

「でも6人中4人はおかしいと思ってるんだよ?」

「そうですけど……。長良さんのこの暑い中散歩しようなんてのよりはマシだと思いますよー?」

「えー? そんなことないよ。みんなもそう思うよね?」

「いや……それは……」

「流石に暑すぎるけぇ……」

「遠慮するかな……」

「熱中症になっちゃいますし……」

「…………」

 

 十七駆の全員から否定され、五体一になった長良は黙り込んでしまう。

 

「勝った……!」

「くやし〜!」

 

 そして悔しがる長良と勝ち誇る阿賀野。

 

「何をしちょるんじゃあの人達は……」

 

 そしてそんな二人を十七駆は呆れたように眺めていた。

 

 

 

「しかし用事ってこれだったんだねー。そりゃあ掃除なんてしないよねー」

「はい……?」

「掃除……?」

「…………?」

「なんのことだ……?」

 

 全員がかき氷を半分以上食べ終えた頃。唐突に言い放たれた阿賀野の一言に一斉に首をかしげる十七駆の面々。

 

「え? だって長良さんが屋外プールの掃除断られたって……」

「……そんな話知りませんけど。磯風は?」

「知らない。浦風は?」

「知らん。谷風は?」

「知らない」

「……え?」

 

 口々に否定する十七駆に阿賀野は一瞬固まると長良の方へ振り向く。

 

「どういうことですか長良さん!?」

「んー……だって断られたのは十駆の子達だし」

「あー!」

 

 長良のその一言に阿賀野は手を叩く。合点がいったようだ。

 

「そろそろ行こっか阿賀野。かき氷も食べ終わったし」

「そうですね。これ以上居たら浜風ちゃん達の邪魔になっちゃうし。それに……ジュース温まっちゃうし!」

「ははは……」

 

 荷物を持ってそそくさと立ち上がる長良とゆっくりと荷物を持ち上げ、肩にかける阿賀野。

 

「それじゃあまた鎮守府で、お邪魔しました」

「お邪魔しましたー!」

 

 そう言って皆に手を振ってその場からその場から離れていく長良と阿賀野。そんな二人に十七駆の全員が手を振りかえしていた。

 

 

「なあ……さっきの断られたところなんだが……」

「嘘じゃの。絶対」

「長良さんが十駆にそんな話してるの見たことないぞ」

「そもそもプール掃除の担当予定って長良さんじゃなかったですよね?」

 

 そしてそんな二人を見送った十七駆は顔を見合わせてそんな話を始めるのであった。

 

 

 

「美味しかったですね〜」

「そうだね〜」

 

 十七駆と別れた長良と阿賀野は帰路についていた。

 

「結構遊んじゃいましたね」

「確かに。プール掃除と称して水遊びしたり、その後はアイス食べてかき氷食べてで……食べてばっかりだね……」

「いいじゃないですか。長良さんは意識しないと食事が栄養摂取になってこうやって味を楽しむなんてことなんてなくなるんだから!」

「いや、そこまでじゃないから……」

「えへへ〜」

 

 悪戯っぽく笑う阿賀野を見て長良もフッと笑うい口を開く。

 

「……今度はちゃんと予定決めて2人でどっか遊びに行こっか」

「いいですね〜! 行きましょう行きましょう!」

 

 少し傾いた太陽の下、そんな会話をしつつ二人は鎮守府へと戻っていくのだった。

 

 

「──という話を阿賀野ちゃんから聞いたの」

 

 ある日の屋外プール。海防艦の引率として競泳水着を着た那珂と五十鈴がプールサイドでそんな話をしていた。

 

「なるほど……合点がいったわ……結局プール掃除と称して遊びたかっただけね……」

 

 五十鈴が腕を組んで納得したような仕草を見せる。五十鈴は知っていた。本来ならプール掃除の担当は五十鈴と隷下の駆逐艦だったのだが、前日になって長良が唐突に自分がやると言い出したことを。理由を聞いても曖昧な返事ではぐらかされ、腑に落ちないまま長良に引き継いだのだが今の那珂の話で納得がいった。

 結局、長良はプール掃除と称して阿賀野と遊びたかっただけなのだ。本人なりのプライドや気恥ずかしさからプール掃除の建前を使ってまで。阿賀野の買い物に付き合ったのも、それの延長でしかないのだろう。

 

「しかしわざわざそんな回りくどいことしてまで連れ出すなんて……よっぽど気に入ってるのね〜阿賀野のこと……」

「ねー」

 

 太陽の光できらめくプールではしゃぐ海防艦達を眺め、那珂と五十鈴はそんな会話をするのだった。

 

 

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