夢の旅人は仮想に生きる   作:窓風

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EPISODE36 解呪行脚

 

 

 

 

『ミ ツ ケ タ』

 

あの影はそう言っていた。

 

見つけた。何を?俺は他のプレイヤーとは違う何かがあるのか?レアアバターだから?いや、違う気がする。もっと違う何かが……

 

「なっ?!」

 

そこまで考えたところで、急な脱力感に襲われる。片膝をつき、剣を杖代わりにして気合いでなんとか耐える。

 

(急に力が抜け…?いや、装備が重くなった!?)

 

何かしらのデバフを受けたのではと思い視界左上のHPバーを確認するが、特に目立った変化はない。

 

「ソーマ!」

「「大丈夫(ですか)!?」」

 

俺の異変に気付いたフィリア達が駆け寄ってくる。

 

「悪りぃ、ちょっとだけ、身体支えてくれるか…?」

「う、うん!」

 

3人に支えられながら、重い左手をなんとか振ってメニューを呼び出す。装備メニューを開き、装備一括解除をしてラフな格好になると、身体に圧し掛かる重みが消えた。

 

「一体どうしたの?」

「俺も何をされたんだか…。でも、さっきのは重量制限の感覚だった。まさかとは思うけど…」

 

再びメニューを開き、今度はステータス画面を覗いてみる。するとそこには、信じがたい数字が並んでいた。

 

「熟練度が、リセットされてる。」

 

『片手用直剣』や『疾走』、『武器防御』といった習得済みのスキルの熟練度が、ただ一つの例外もなく一律に0になっていた。弓兵用のスキルセットにしてみても同様。さらには種族経験値もリセットされており、画面上で数値化されたHPやMPも最大値が著しく低下している。それはつまり。

 

「ステータスが、初期化されている…?」

「えぇ?!」

「嘘…!」

 

流石に3人共信じられないようで、俺の画面を覗き見る。しかし見えているものは同じようだった。SAOでもステータスを一時的に下げてくる厄介なモンスターはいたが、ここまで理不尽にやってくるものはなかった。

 

「あれ?ソーマさん、これなんですか?」

 

そう言ってシリカが指さしたのは、ステータス画面の俺の名前『Soma』の欄の右端。そこには真っ黒な円のアイコンが浮かび上がっていた。

 

「こんなのあったか……?」

「わたしの方には何もついてないよ。」

「あたしもです。」

「じゃあソーマだけに付与された隠しステータスってことかな?」

「状況的にそうだろうけど、デバフすぎるだろ。」

「ヒッヒッヒ、呪われたねあんた。」

「!?」

 

金属を擦り合わせるような高い声が背後から聞こえて全員振り返ると、深緑のローブを羽織り、フードを目深に被った老婆が立っていた。頭上には【Sekk】という名前が浮かんでおり、カーソルが出ないことからNPCであることがわかった。

 

「(いつの間に…)婆さん、何か用か?」

「ヒッヒ、あんたらがさっき闘ったのは、昔この辺で大暴れした化け物狼の幽霊だよ。」

「「ゆ、幽霊!?」」

「そうさ。そいつに呪われた者は戦う力を奪われ、永遠に弱者として生きるのさ!あぁもちろん、呪いを解く方法はある。」

「その方法は?」

 

俺の問いにヒヒっと笑った老婆セックは続ける。

 

「ここより下の世界に、とある祭壇があるという。力が集まるというその祭壇へ行けば、何かが起こるやもしれんな。ヒーヒッヒッヒ……」

 

目的地のヒントを言うだけ言って、老婆セックは風となりどこかへ行ってしまった。そして唐突にクエストが始まってしまった。クエスト名は『悪評高き狼』。突然の出来事に全員唖然としてしまったが。

 

「つまり、下の世界にある祭壇へ行けと。」

「下の世界って、ヨツンヘイムですよね?かなり高レベルのモンスターが多いですけど…」

「あたし達はいいけど、ソーマはステータスが下がってるからかなり難しそうだね。」

「ハードモード上等だ。やれるだけやってみよう。」

「……ごめん、ちょっといいかな。」

 

さぁ行こうかと意気込んだところで、ストレアからストップが入った。

 

「どうした?」

「さっきのおばあちゃん、普通のNPCじゃなかったよ。」

「どういうことですか?」

「あたし達との会話にコアプログラムに近い言語化エンジンモジュールに接続して喋ってたみたいなの。」

「えっと、要はAI化されたNPCってことか?」

「そういうこと。」

 

AI化されていることにより、通常のNPCよりも自然に会話ができるということだろうか。そんなNPCなんて他に………あいや、ついこの間に会った海王リヴァイアサンとかがまさにそうか。

 

「ほーん……。ま、今はとりあえず、」

 

NPCについても色々考えたいが、すっかり蚊帳の外になってしまっていた2人組に視線を移す。

 

「諸々の準備は、あの2人をアルンまで送ってからだな。」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

やはり初心者だった2人をアルンまで送り届けた後、イグシティの自室で荷物の整理をした。『限界重量拡張』や『所持容量拡張』スキルが無いに等しい今、装備は慎重に選ばねばならなかった。しかし、いつも剣とは別に矢を大量に持ち歩いていたため、幸いにも防具は普段通りのものをギリギリ装備できた。ただ問題は武器で、剣か弓矢のどちらかしか持ち歩けなかった。しかもどちらも装備しても限界重量いっぱい。つまり実質アイテム縛りでもある。

 

装備の重量を落とせばいいと思うだろうが、これから行くヨツンヘイムはシリカの言った通り邪神級の強いモンスターがうじゃうじゃいる。元のステータスでも気を抜けば痛恨の一撃を喰らい、最悪ですする可能性があるそのフィールドを紙装甲で挑むほど俺は変態じゃない。さらにヨツンヘイムはノーム領北部のような寒冷地であるとともに、陽の光が一切差さないため翅による飛行もできない。ならば防御力を優先するのが筋だろう。

 

さて肝心の武器だが、弓にした場合はやはり消費アイテムの矢で残り重量を圧迫してしまうし、その矢も10本程度しか持てないという状態だった。したがって消去法で剣を持つことになるのだが、愛剣である『ウィンディア・スウィフト』は当然装備できず。売っていなかった適当なドロップ品の片手剣を渋々使うことになった。

 

そして現在、アルヴヘイムからヨツンヘイムへと下る階段ダンジョンを進んでいた。このダンジョンはアルンから東西南北に数キロ離れた場所にあり、1パーティでも最速で2時間近くかかるがごく一般的なルートだ。本当はアルンの街中からもっと早くヨツンヘイムに降りられる階段があるのだが、出口がヨツンヘイムの空中に出てしまう。飛び降りれば大穴に真っ逆さまに落ちて即死するのは目に見えているため空の移動手段が必須なのだが、前述の通り飛べないため、リーファにトンキーを呼んでもらうしかない。よって、一般に知れ渡っているこのルートで行くしかなかった。

 

ちなみにトンキーとは象水母型邪神級モンスターのことで、旧ALO時代にテイム-経緯が特殊なためそう呼んでいいのか怪しいが-したらしい。

 

「そういえば、あの幽霊って結局どうなったんですか?」

 

北の階段ダンジョンを進んでいる中、シリカのふとした疑問が飛んできた。

 

「3人には、どういう風に見えた?」

「あたしには、ソーマさんが幽霊に包まれたと思ったら、スッと消えたように見えました。」

「わたしもそう見えた。」

「あたしもー。」

「そうか…実は俺も同じ感想だ。特に何かされたわけでもないんだ。」

「そうなんですか…」

 

実際、何かされたのかと言われたら答えはNOだ。アレに一瞬包まれたと思ったら、すぐに霧散してしまったのだ。そしてそのすぐ後にステータスがリセットされた。

 

「今まで襲われたプレイヤーで呪われたって話はなかったよね?そしたらソーマが過去に何かクエストのフラグを立てたってことになるけど…何か心当たりはある?」

「ん-……」

 

フィリアの問いに少し考える。あの影は化け物狼の幽霊だとNPCは言っていた。狼関連のクエストなんて、割とどこにでもありそうだが。

 

……いや、1つだけ心当たりがある。なにせ半年以上も前の、それも旧ALO時代のものだったから、すっかり忘れていた。

 

「ないわけじゃ、ない。ただ半年以上前のことだから、すぐに思い出せなかったんだ。」

「聞いてもいい?」

「あぁ。」

 

 

まず、ALO事件は知ってるな?300人ものSAO帰還者が囚われていたアレだ。俺もその300人の中の1人だった。ただ何かの力が働いたのか、俺は完全なログアウトこそできないものの、ALO内で自由に行動できる状態だった。SAOがクリアされてからALO事件が解決するまでの2ヶ月半をこの世界で過ごしたんだ。SAOと変わらずクエストをこなしたりしてALO中を旅してたんだけど、思い返せばその中で1つ、異質なクエストがあった。

 

最近よくおねだりされる『獣変化』を習得できるクエストだったんだが、受注条件がケットシー限定かつソロ限定だった。しかも種族間競争が今よりも激しい旧ALOで、隣のシルフ領にまで行かないといけなかった。当時からシルフとケットシーは仲が良かったからまだマシだったけど。で、興味があってそのクエストをやってみた。内容は喋る狼型モンスターを討伐するものだった……多分。

 

多分っていうのは…………なんというか、変だったんだ。途中までは他のと何ら変わらない普通のクエストだったはずだ。でもHPを削り切ってモンスターがいつも通り消滅するのかと思ったら、そうじゃなかった。何か喋ったと思ったら、信じられないくらいでかく口を開いて、俺を丸呑みしようとしてきたんだ。俺のHPも残り1割くらいだったから負けイベかと思って死を覚悟してたんだけど、次の瞬間にはその狼はいなくなってたんだ。それでクエストクリア。変身魔法ゲットってわけ。

 

 

「だからもしかしたら、このクエストがその続きなんじゃないかって思ったわけだ。」

「あたしたちの知らないところで大冒険してたんだね。」

「なんか、前置きから色々初耳情報があった気がするんだけど。」

「あたしもです…」

「あれ、旧ALO時代のこと話したことなかったっけか。それはすまん。」

 

初出し情報で驚かせてしまったか。そしたら多分リーファ以外の女性陣はこのことを知らないということになる。折を見て説明するかと思ったところで、ダンジョンの守護ボスがいる部屋にたどり着いた。時刻は13時を回っていたため、ローテアウトで昼休憩をとることにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昼休憩の後すぐ守護ボスへ挑み、難なく突破することができた。いくらステータスダウンしてるとしても、テクニックでカバーしてやれば初期ステでも意外にやれるのだ。自分でもびっくりしたけど。

 

ボス部屋を抜けると、すぐそこから極寒の大地が広がっていた。この辺はまだ大したことないが、体感温度は氷点下、ところによっては猛吹雪だったりするため、防寒対策は必須である。

 

「相変わらず寒みぃなここは。まぁ今の季節的には涼s」

「「寒いよ(ですよ)!」」

「…ですよね。」

 

冷凍庫に入ってるようなもんだからな。そりゃそうか。

 

幸いにもフィリアが凍結耐性を上げる魔法を使えるらしく、詠唱するとそれによって体感温度が大幅に緩和された。本当は俺も使えたんだ。リセットされなければ。

 

マップによると、ここから西に進んだところに例の祭壇があるらしく、極力モンスターと遭遇しないように移動を始めた。道中、4本腕の邪神級モンスターやトンキーの仲間と思われる象水母型モンスターに遭遇しかけたが、無駄に体力を消耗しないよう氷柱の陰に隠れたりしてなんとかやり過ごすこと30分。目的地の祭壇に到着した。

 

『まじないの祭壇』と呼ばれるその場所は、白い石材で組まれたものだったが、全体的に損傷が激しかった。しかしその奥にある玉座のような椅子だけは不自然なほど綺麗だった。

 

「ここ、なんか気味が悪いね。」

「ピナもなんだか緊張してるみたいです...」

「きゅぅ...」

 

なんとも言い難い空気だが、この先がおそらくボスだろう。各々武器を構え、祭壇の中へ入っていく。しかし、中ほどまで入っても何も起こる気配がない。

 

「......。」

「...何も、起こりませんね。」

 

頭は動かさず、視線だけで周囲の様子を窺う。しかしそこには突入前と何ら変わらない景色が広がっていた。

 

「おや、遅かったじゃないか。」

 

突如、知らない声が響いた。視線を戻すと、空っぽだった玉座には随分だらしない恰好で座る男がいた。逆立った白髪に、やけに白い肌。着ているのは燕尾服なのだが、胸元のボタンは開いていてかなり着崩している。

 

「その口ぶりからして、主犯はあんただな?」

「おっと、神への口のきき方は注意した方がいい。ま、僕はまだ寛容な方だけどね。」

 

そう言って右手の指を鳴らすと、男の頭上に名前が表示された。その名前に、俺は目を見開いた。

 

「『Loki』...?!嘘だろ!?」

「ソーマ、あの人もおばあちゃんと同じ言語エンジンモジュールを使ってる!」

「なるほどな...!」

 

ロキ。北欧神話を引っ掻き回したといっても過言ではないトリックスター。その身に巨人の血を流しながら主神オーディンを義兄弟とする神々の中でも稀有な存在。ゲームのNPCとはいえ、それが今目の前にいる。

 

「さて、さっきの質問の答えだが、Yesだ。僕は君の中に眠る狼の因子が欲しかったんだよ。」

「因子...?」

「それって、この前リヴァイアサンが言ってた...?」

「おや、海王に会ったことがあるのかい?ま、因子(コレ)が手に入った今、別にどうでもいいか。」

 

そう言ったロキの左手には、いつの間にか蒼い結晶が浮かんでいた。あれがおそらく狼の因子というものだろう。

 

「そ、それを返してください!」

「え、なんでさ。」

「それはソーマのものだよ!」

「ソーマの力を返して!」

 

嬉しいことにシリカ達もロキに反発してくれたが、当の本人神は首をかしげていた。

 

「...…あぁ、そういうこと。君たちが探してるのってこっちの方か。因子はもう抽出したから処分に困ってたんだよね。もういらないからあげるよ。」

「……は?」

 

想定外の言葉がロキの口から出たと思ったら、ロキの右手から出てきた白い結晶を投げ渡された。アイテムの名前は『Somaの力』と、安直ながらわかりやすいものだった。結晶をタップしてみると消費アイテム特有の使用確認ウィンドウが出現、【〇】を押すと結晶は解けてなくなり、全身が軽くなったような感覚がした。ステータス画面を開くと、種族経験値やスキル熟練度が元の数値に戻っていた。あっさりとステータスが回復したことに驚きを隠せない中、ロキが玉座から立ち上がっていた。

 

「そぉ~れっ!!」

 

何をするのかと思いきや、左手に持っていた蒼い結晶を野球選手ばりの投球フォームで遠くの空へ投げてしまった。

 

「さてさて、あとは我が息子に任せるとしようか。そこの妖精。精々頑張って僕を愉しませてくれよ?」

 

理解できない展開が続く中、ロキは独り言のように話すと風になってどこかへ飛んで行ってしまった。神のいなくなった祭壇は、再び静寂に包まれた。

 

「えっと...」

「その、ソーマのステータスは戻ったんだよね?」

「お、おぉ。」

「ひとまず、元に戻ってよかったですね。」

「でもじゃあ、あの蒼い結晶は何だったの...?」

「ロキは狼の因子って言ってたよね。]

「あたしはてっきり、そっちがソーマさんの力だと思ってたんですけど...」

 

1つずつ、目の前で起こったことを4人で整理する。

 

・俺に呪いをかけたのはロキ

・ロキが欲しがっていたのは狼の因子

・狼の因子≠俺の力

 

と、ここまで整理したところで、フィリアが何かに気づいた。

 

「あれ?」

「どした?」

「ねぇソーマ、クエストクリアって出た...?」

「出て......……ない。」

「っていうことは...」

「まだ、終わってない...?」

 

その瞬間、ALO世界全体に聞こえるアナウンスが鳴った。滅多に鳴らないアナウンスは、全ALOプレイヤーにこう告げた。

 

 

『緊急レイドバトルが発生しました。レイドボス:フローズヴィトニル及びスコル、ハティを撃退し、世界樹を守護してください。』

 

 




そういやいつの間にかUA7000超えてた。あざす。
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