夢の旅人は仮想に生きる   作:窓風

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FLOWもいいけどASCAもいいよね


EPISODE38 Howling

 

 

2025年8月7日 17:00

ALO ウンディーネ領西部 『虹の谷』南部

 

ウンディーネ領はそのほとんどが湿地帯で、その土地柄から他の領地と比べて若干湿度が高い。旧ALOでの一人旅で立ち寄った時は、湿気で耳や尻尾が心なしか少し萎んでいたような気がした。

 

内地へ向かうほど湿地の割合は減り、山脈を割る『虹の谷』周辺になると草原が広がっていく。中ボス2匹を従えた大ボス『フローズヴィトニル』はそこにいた。

大ボスは特に目立ったアクションを起こしていなかった。その代わり中ボスの『炎狼スコル』『氷狼ハティ』は活発に活動しており、先んじて戦闘していたプレイヤー達によって大ボスから南北にそれぞれ引き離されていた。微動だにしない大ボスの様子を見るに、おそらく中ボスを倒して初めて動き出すパターンだろう。

 

俺たちは分断された中ボス2匹の中で、HPの減りが比較的遅い『氷狼ハティ』から討伐することにした。

中ボスの強さはアインクラッドのフロアボス相当だが、レイド戦用に調整されているのか、HPがかなり増えている代わりに攻撃力は少し低く感じた。行動パターンは狼らしく純粋な体当たりと噛みつき攻撃、遠吠えによるスタン、そして地面から突き出る無数の氷の槍の広範囲技。さらに霧状になって高速移動もするその姿は、旧SAO28層ボスの『ワヒーラ・ザ・ブラッドウルフ』を彷彿とさせた。

 

『グオオォォォ…』

 

3段あったHPバーを全て失い、断末魔をあげて氷狼は消滅。現地に集まった即席のレイドパーティだったが、なんとか倒すことができた。前衛部隊を俺が、後衛部隊をアスナが中心に指揮することで、ローテーションを組みながら戦えたのが大きい。そういや、かつて旧SAOのボス戦でも似たようなことをしてきたな。懐かしい。

 

「お疲れ。」

「キリトもお疲れ。」

「こんな長時間ボス戦したのは初めてだ。」

「アインクラッドのボスでも1時間もかかったことなんて……そんななかったからな。」

 

座り込んで背中を預けながら互いの健闘を称え合う。旧SAOの75層ボスで1時間やそこらだったはずだから、今回のレイドボスが特殊なのだろう。視界右上にあるレイドボスのHPバーを確認すると、『氷狼ハティ』のHPバーが黒く塗りつぶされていた。大ボスの『フローズヴィトニル』は微動だにしていないが、『炎狼スコル』のHPは残り10%程といったところだった。

 

「向こうはあと2,30分ってとこか。」

「この調子ならなんとか大ボスも倒せそうだな。」

「そうだな。」

 

中ボス2体を倒した戦力と、まだ姿の見えない各種族の精鋭部隊など、このALOにいるほとんどのプレイヤーがここに集まることを考えると、数の暴力で難なく倒せるだろう。ただ、そのまま倒せたとしたら…。

 

「うぉっ?!」

 

そこまで考えたところで、背中を支えていたものが消えて倒れこむ。背中を預けていたキリトが横にズレたのだ。

 

「ソーマ君聞いてる?」

「わ、悪ぃ、考え事してたわ。」

 

どうやらアスナが話しかけていたのに気づかなかったため、強引にこちらに引き戻したのだろう。時計を見ると時刻は17時過ぎ。晩御飯にするには少し早いが、ここを逃すとまともにご飯を食べる時間が取れないだろう。

 

「キリがいいから、30分くらいご飯休憩にしよ?」

「ローテアウトか。オッケーよ。俺は後でいいから、お先にどーぞ。」

「じゃあお言葉に甘えて。今日飯当番なのさっきまで忘れてたんだよなー。」

 

そう言ってキリトはログアウトし、残ったアバターは待機姿勢になった。周りを見ると、同じようにローテアウトするプレイヤーもチラホラおり、身内だとリズ、シリカ、フィリアも休憩に入ったようだ。

 

座ったままメニューを開き、レイドイベントの告知で何か見落としがないか確認する。テストイベントだからなのか『レイド参加者はHPが全損してもデスペナルティはない(意訳)』という文章に珍しさを感じつつ読み直す。しかし一言一句注視しても、『クエスト失敗時、世界樹を中心に一部ワールドマップが変化します。』という注意書き以外は、よくあるイベント告知のお知らせだということしかわからなかった。

 

「何か気になることでもあるの?」

 

うーんと唸る俺が気になったのか、アスナが尋ねてきた。その後ろには待機組だったリーファとストレアも合流していた。

 

「あー、大したことじゃないんだけどさ。ロキが言ってたことが妙に引っかかって。」

「ロキはなんて言ってたんですか?」

「……『僕を愉しませてくれ』ってさ。」

「如何にも神様って感じだったよね。」

 

ロキのあの口ぶりからして、これがただのレイドイベントじゃないような気がする。その不安に拍車をかけるようにあの謎のメッセージが脳裏をよぎる。もしあれが本当だとしたら…。

 

「ねぇソーマ~」

「な、なんだストレア。」

「疲れてるでしょ?膝枕させて?」

「ここで?!」

 

ストレアの突然の提案。またいつもの甘えたモードなのか、単なる気まぐれなのか、無邪気な笑顔からは読み取れない。というか身内以外のプレイヤーも少なからずいるこの場で膝枕されるのは恥ずかしい。

 

「落ちるまでの間だけでいいからさ~。」

「いやでも、アスナやリーファもいるし…」

「…ダメ、かな?」

 

腕を掴まれて上目遣いでそんなセリフを言われたら断りにくいだろぉ!

 

そういうわけで衆人環視の中、大人しく膝枕されました。加えてストレアが耳を触ってくるのもあって、あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆う情けない姿を晒しています。

 

「ストレアさんって押しが強い時がありますよね…」

「というよりソーマ君がチョロすぎるの。」

 

やめてアスナさん。俺のライフはもう0よ。

 

膝枕(羞恥プレイ)されること10分後、本人の強い希望により今度は俺がストレアを膝枕することになった。彼女が連日で甘えたモードになるのは珍しい。おそらくMHCPとして俺を癒そうと思って出た行動だったのだと思う。

その後、戻ってきたリズ達に茶化されながらログアウトし、晩飯を食べるべく近所のコンビニへとダッシュ。廃棄時間が迫っていて50円引きシールが貼られているカレーライスとカツサンド、そして気合注入のエナドリを購入し、帰宅早々レンジにカレーを突っ込む。温めている間にカツサンドを平らげてエナドリを呷り、カレーも一緒に流し込んですぐにアミュスフィアを被る。再ログインした頃には『炎狼スコル』も討伐されており、大ボスがゆっくりと動き出したらしい。全員再集合し、大ボス目掛けて飛び立ったのが18時ちょっと前くらいだった。

 

余談だが、ALOに戻ると今度はなぜかフィリアに膝枕されている状態だった。あまりに突然かつ早い復帰だったせいか、かなり驚いたフィリアにビンタを1発もらうということがあった。「ストレアだけズルい」とトレジャーハンターは供述している。

 

「見えたよ!」

 

10分ほど飛んだあたりからようやく大ボスのHPバーが見えるようになった。数は5本。本数だけでいえば旧SAOのクォーターポイントのボス-記憶に新しいのは75層のスカルリーパー-と同じだが、中ボス2匹のことを考えるとHPの総量は遥か上だろう。

 

「最低でも1時間1本か...!」

 

レイドイベントのタイムリミットは今日の23:59まで。残り6時間を切っている。本当にALO全土の総力戦になりつつある。実際、既に我先にと大ボスに攻撃しているプレイヤーがかなりいる。その中には種族混合パーティであるハルカ達や、ユージーン将軍率いるサラマンダーの大部隊など装備を統一したグループも見受けられた。

 

「ねぇ、戦ってる人たちの装備、なんか偏りすぎじゃないかしら?」

「たしかに。メイジが少なすぎる。」

 

リズの気づきにキリトが推察する。リズの言う通り、前線で戦っているプレイヤーの多くは剣、斧、槍など近~中距離武器がほとんどだった。ハルカ達みたいなグループを除けば、治療師(ヒーラー)はいても魔術師(メイジ)が圧倒的に少なすぎる。

 

ふと視線を大ボスの左後脚の付け根部分に移すと、見知った顔が指揮を執っているのが見えた。

 

「ちょっと知り合いがいるから聞いてみるわ!」

「あっ、ちょっと!」

 

飛翔スピードを最大にしてかっ飛び、ものの数秒で辿り着く。

 

「シャルル!」

「お?おぉ!ソーマか!」

 

ケットシー近接部隊隊長であり、ケットシーの中だと上位の実力をもつ男はホバリングしながら、今もなお攻撃し続ける隊員の様子を見ていた。

 

「なぁシャルル、メイジ隊はどうした?ケットシーに限らず全然見当たらないぞ。」

「あぁそれなんだけどさ、どうやらモーティマーから提案があったらしくてな。」

「あの智将モーティマーから?」

 

なぜメイジが少ないかという答えは、どうやらサラマンダー領主のモーティマーが絡んでいるようだった。

大ボスが世界樹を狙っている以上、『虹の谷』を通らないことはありえない。したがって『虹の谷』に集められるだけのメイジを集め、谷を挟むようにして魔法の一斉総射をする。さらに織田信長の三段撃ちよろしく、ローテーションを組んで弾幕を張る。これにより攻撃の手を緩めずにダメージを与えられる、というのが智将の策らしい。「どうせ他種族の戦力を炙り出して情報を得たいんだろ?」というツッコミにも「仮にクエストが失敗し、世界樹が喰われて世界が滅茶苦茶になるのが本当であれば、出し惜しみはしないほうが後悔しない」ともっともらしい反論をしていたようだ。それを聞いたルーさん、サクヤさんを筆頭に、『虹の谷』で待ち伏せしているのだそう。

 

「なるほどなぁ。さすが頭のいい人は考えることも違うねぇ。」

「んで、近接武器のプレイヤーは先に削れるだけ削ってこうってことで、将軍を筆頭に猛攻中。」

「やっぱあの人すげぇな。」

「ちょ、ソーマ、速すぎ…!」

 

後ろからフィリアが遅れてやってきた。さらにその後ろからキリト達も追いつく。

 

「あ、悪ぃ。」

「お、仲間か?」

「あぁ。俺の友達。」

「ほーん…みんな強いな。」

「わかる?特に黒いのは俺と同等以上だぞ。」

「ほぅ…?」

 

キリト達の息が整うのを待ってから、軽くシャルルを紹介して先ほどの作戦を共有する。内容を把握したみんなは「なるほど」と納得したようだ。

 

『ウオオォォォン!!!』

 

その時、耳をつんざくほどの咆哮が響いた。あまりの大きさに思わず耳を塞ぎ、音の出所を探ろうと目を向けた瞬間、大ボスの身体が震えた。『犬ドリル』とも呼ばれるそれは、まるで体についた汚れを振り払うように、至近距離にいたプレイヤー達を次々とリメインライトに変えていった。

 

「なっ?!」

「一撃…!?」

「いや、4、5回ヒットしてる。」

「だとしてもだろ、あれは!」

 

散々比較対象としてスカルリーパーを挙げていたが、無法具合は奴以上かもしれない。こいつがSAOに現れたら絶望で剣を落としていたかも。死に戻りあり&デスペナなし(イベント中限定)で本当に良かった。

 

「すまん!あいつら拾うの手伝ってくれねぇか!?」

「えっ、でもデスペナはないんですよね?」

「デスペナがなくても時間がもったいねぇ!頼む!」

 

手短に要件を伝えてシャルルは山吹色の耳を揺らして頭を下げる。ALOでは、リメインライトになってから600秒間はその場でふよふよ漂い、蘇生されなければリスポーン地点まで飛ばされる。リス地がアルンだろうがフリーリアだろうが、移動するだけで30分以上は確実に時間をロスする。だったらアイテムを惜しみなく使ったほうが効率的だろう。

 

「わかった。リーファ、雫は?」

「あるよ!」

「アスナ、蘇生魔法(リヴァイヴ)は使えるな?」

「いけるよ!」

「よし、リーファとアスナは蘇生用意!俺とシャルルで回収するから、他はボスを頼む!不用意に近づきすぎるなよ!」

「「「了解!」」」

 

最低限の確認を行い、即座に指示を飛ばす。身内でよく後衛に回る俺、アスナ、リーファは蘇生アイテム『世界樹の雫』を1つ以上常備するようにしている。決して安くないが、使わないよりはいいだろう。そして攻撃の手を緩めないためにキリト達に追撃を頼んだ。さっきのドリルは全員見ているため、適切な距離をとってくれるだろう。

 

「さ、サンキュー。すげぇなお前。」

「あ、いや、まぁ…癖になっちゃってんだよなこれ。」

 

シャルルから感謝され頬を掻く。SAO時代から培われた判断力はALOでも存分に発揮されているのだろう。もちろん、みんなの理解力の良さも流石と言いたい。

抜剣していくキリト達と別れて6つの黄色く燃えるリメインライトを拾うべく速度をあげるのだった。

 

 

 

蘇生したシャルル直属の近接部隊と手を組み、不意の攻撃に気を付けつつローテーションしながら攻撃すること30分。あれ以降約5分おきにドリル攻撃が起きたが、全員なんとか耐えることができていた。他のプレイヤーも立て直し、1本目のHPゲージを半分にまで減らせている。しかしボスは一切その脚を止める素振りを見せず、『虹の谷』のど真ん中にまで移動していた。

 

「やっと10%かよ……」

 

30分で10%。つまり時間あたりでHPバー1本が本当にギリギリのラインだということだ。

先が思いやられるな...と汗を拭ったところで、谷の内地側に色とりどりの大きな2つの塊を発見する。谷を挟むようにして待ち伏せしているのは、シャルルの話にあったメイジ混合部隊だ。いくつも存在する浮遊する足場に降りて、固定砲台として待っていたのだろう。

 

「シャルル、あれだな?」

「あぁ。こりゃ壮観だな。」

 

ボスはそれすらも気にせず谷間を突き進み、5分程でメイジ混合部隊に挟まれる形になった。

 

「照準固定!詠唱開始!」

「…!総員攻撃中止!ここを離れるぞ!!」

 

サクヤさんのよく通る号令により、固定砲台の一部分が淡く光り出す。それと同時に攻撃をやめ、近接部隊を巻き込まれないようにメイジ隊の後ろにまで退避させる。

俺はそのまま最後列に着地し、剣から弓へと持ち替える。2本の矢をつがえ、詠唱を始める。

 

「|エック・ヘッジ・ヒム・ゼム・ストルム・グオーン《我、二大神に奉る》」

 

式句が揃い、矢が白く輝く。これで俺も準備完了だ。

 

「放て!」

 

サクヤさんの発破により火球が、風刃が、光の槍が、無数の魔法が放たれる。それに合わせて俺も矢を放つ。弾幕がボスの横っ腹に当たり爆発を起こす中、俺の矢はボスの上空を突き進む。空気抵抗と重力で速度が0になった瞬間、2本の矢は豪雨となってボスの背中に降り注ぐ。

世界樹攻略でも放ったこの『ポイボス』の射程はかなり広範囲のため、通常であれば他のプレイヤーの位置を気にしないといけないが、広いフィールドに巨大なボスとなれば問題ないだろう。というか、数の暴力すぎて普段使いできない。消費MP多いし。

 

「次に交代だ!詠唱用意!」

 

メイジ隊は次弾を放つべく、スムーズに隊列を入れ替えて位置についた。俺もそれに倣って最後列にまで下がり、すっからかんなMPを補充するべくMPポーションを取り出してコクコクと飲み干していく。ちなみにレモン風味のHPポーションと違いMPポーションはちょっと甘いピーチ風味だ。

 

「よぉ、随分派手なの撃ったな。」

 

背後から太い男の声で話かけられて振り返ると、禿頭のノームと陣羽織のサラマンダーが降り立った。

 

「やっと来たな社会人共。」

「しゃーねーだろ!これでも全速力で帰ってきたんだぜ?」

「遅れた分はきっちり働くぞ。」

「お、そしたら1本ずつHP削ってもらうか。」

「そりゃねぇだろ!?」

「嘘だって。」

 

エギル、クラインを加えたキリト達も合流し、ようやくいつものメンツが揃った。他の社会人プレイヤーもこれからぞろぞろ集まってくるだろう。

メイジ隊は射程範囲外になった列から次の足場まで飛んでいき、次弾の発射準備を行う。それを繰り返すこと10分後、ようやくボスのHPバーが1本黒く染まり切った。そこで一瞬だが歩みが止まり、強制スタンが付与される咆哮を放った。周囲を囲んでいたプレイヤーは一人の例外もなくスタンを受けて完全に無防備になるが、ボスはそれ以上何かするわけでもなく、また世界樹を目指してのそっと歩き始めた。

 

俺は簡易砥石で剣の耐久値を回復させつつ、このレイド戦が終わるその時のことをまた考えていた。

 

 

緊急レイドイベント制限時間、残り4時間。

 

 




リアリゼーションをDLCまで終えてアクセルソードとフェイタルバレットまでやっちまいました。いつの間にか新作ゲームも出たしリアル時間でOSどころか異界大戦も終わったし。

詠唱は日→英→古ノルドと翻訳してるので若干文法とか読みが違うでしょうが、まぁええでしょう。そして戦闘描写から逃げるな(戒め)
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