幻のウマ娘Tさん   作:クソザコナメクジ

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整理分、新規はないです。
次話は今日の朝6時くらいに予約投稿しています。


5R:愛が少し重いです。

 年末年始。皆が帰省したり、初詣に向かう中で私はトレーナーの女子寮の自室に引き篭もる。

 私には、こんな時に会って出掛ける相手はいない。今日も今日とてチームに所属するウマ娘の映像を観察し、手元のデータと見比べながら走り方の研究をする。……そうして分かるのは、やはりトキノミノルの走りは別格という点だ。ぼんやりと分かったつもりになっていた事が、彼女という到達点を見た事で他のウマ娘に対する目線も変わってしまった。

 走り方に粗が見えるようになった、もうウマ娘が走る姿を見るだけでは満足できない。

 

「……正月太りをして帰ってくるんだろうなあ。春までにちゃんと絞れると良いんだけど」

 

 年末に実施した体重測定、ノートPCに書かれた数字を見つめながら溜息を零す。

 私が所属するチームでは現在、6名のウマ娘が活動している。勝ち上がっているのは半分の3名であり、オープンクラスはエースが一人。とはいえだ、私の助手として受け入れてくれたトレーナーは過去に一度、GⅠレースにも勝利した経験を持っているし、毎年のように重賞レースにウマ娘を送っていたりする。重賞以上のレースに勝つというよりも勝ち上がり率を優先するトレーナーだ。

 そんな彼の補佐をするのが私の役目、今は4名のウマ娘の体調管理を任せられている。

 トレーニングのメニューやスケジュールはチームのトレーナーが決めており、基本的に彼の指示に従っているだけだ。

 それでも彼のやり方は、指示を受ける事で学んで来た。

 

 事務仕事の片手間にトキノミノルの映像を流す。

 見惚れる走りに口元が緩む、彼女の担当になれるだなんて夢のようだ。

 デュフフと含み笑いを零す。

 そうして時間を潰しているとピンポンと部屋のチャイムが鳴った。

 

 陰気な私に友達と呼べる相手はいない。でも時折、部屋まで来るウマ娘は居た。

 

「失礼してもよろしいでしょうか〜?」

 

 ひとりでに鍵が開けられた。返事もしていない内に入ってきたのは鹿毛のウマ娘、彼女は私が体調管理をしているウマ娘の一人だ。

 

「……初詣とか行く予定はないんです?」

 

 プライベート空間を侵されて、ジトッと睨み付けてやる。

 しかし彼女は勝手に作った合鍵を人差し指でクルクルと回し、陽気な口笛を吹き鳴らす。

 そんな彼のウマ娘の名は、サージュウェルズ。今年からシニア2年目となる。

 

 彼女は炬燵に引き籠る私の背後から脇下に手を突っ込めば、私のモヤシな体を軽々と持ち上げた。

 そのまま膝に上に置いて、背中越しに抱き締められる。後頭部に顔を埋めて、臭いを嗅ぐのは本当にやめて欲しい。

 振り解こうにも人間がウマ娘の膂力に勝てるはずもなく、なすがままにされるしかなかった。

 

「炬燵よりも私で温めてあげますよ〜?」

「……邪魔なんだけど?」

「年末年始くらいはゆっくりとしましょうよ〜」

 

 話を取り合うつもりはないようだ。

 彼女は、のんびりとした走りをするウマ娘で、エンジンの掛かりが非常に遅い。そのせいもあって実力を発揮する前にレースが終わってしまうのもまた彼女が伸び悩んでいる理由のひとつである。……今はダートの中距離を走る事が多いけど、芝を走らせてでも長距離の方が彼女の気性に合っている気がする。

 事のついでだったので、彼女の情報が入ったファイルを開いた。

 

「……今朝、ちゃんと体重計には乗った?」

「乙女にそんな話をするなんて悪い助手さんですね〜」

 

 そう呟いて、彼女は前に回した手で私のお腹を弄り始めた。

 私はアスリートじゃないんだし、お腹のお肉を掴んで意地悪しないで欲しい。

 

「あ、そうそう伝えたい事があったんですけど〜」

 

 アイルランド育ちのせいか、距離感バグってる。

 この子を止める事は私には出来ないので、もう耐える方向に頭をシフトする。

 トキノミノルの動画を開いて、大きく深呼吸。

 

「……この人、誰ですか?」

 

 声色が、低くなった。お腹の肉を掴む手が、ちょっと痛いです。

 

「新しくチームに入る予定の子、私がスカウトしました」

「スカウト? 助手さんに、そんな度胸ありましたっけ?」

「な、半ば成り行きみたいなとこあるけど……私だって、頑張ってるんやい」

 

 語気を強くすれば、まあまあ、と頭を撫でられる。

 年下に宥められるのは、ちょっと屈辱的。でも抵抗もできないので耐え忍ぶしかない。

 ムスッと頰を膨らませて、無言で動画を流し続ける。

 

「……この子、凄いですね。本当にスカウトできたのです?」

「うん、スカウトできた。私も信じられてないけど……」

「それで……担当に持つつもりですか〜?」

「もちろん」

 

 元気よく答えた時、お腹の肉を千切れるかって程に抓まれた。

 なんでこんなことをするの? と涙目ながらに後ろを見ると不機嫌に耳をキュッと絞っていた。

 なんで〜?

 

「まあ、これほどの素質ウマ娘であれば……簡単に話が進むとも思えませんが〜」

 

 そう言って彼女は先程までよりも力強く抱き締めてきた。

 ウマ娘の学寮にトレーナーが入る事は禁じられているが、ウマ娘がトレーナー寮に入る事は申請を取る事で承諾される。

 とはいえ男子寮に入る時は厳正であり、ウマ娘の独断で認可される事はない。しかし女子寮はウマ娘と同性という事もあってか、認可される基準がガバガバだ。

 

 正直、勝手に合鍵を作るようなウマ娘を女子寮に通さないで欲しい。と私は切に切に願うのです。

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