幻のウマ娘Tさん   作:クソザコナメクジ

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第1章「魔王降臨へのカウントダウン」
7R:何時の日か、頭上に輝く太陽のように。


 去年の3月の話、私は選抜レースに出走した。

 その時にはシーキングザパールの2着と善戦したが、注目されるのは優勝した彼女ばかりで私にスカウトの話は来なかった。6月に開催された時も3着と善戦したが、やっぱり注目されるのは優勝したウマ娘──かと思えば、2着に入ったマチカネフクキタルにもスカウトの話が来ていた。9月の選抜レースでは2着になったが、やはりスカウトは来ず、3着に入ったウマ娘がスカウトを受けている所を見た。

 私は、中央トレセン学園に入る前から地味な子だとよく言われていた。

 基本的にウマ娘は美人な容姿をしている事が多いので、凡庸な私が周りに埋もれてしまうのも仕方ない。実際、選抜レースを終えた後に「アイツには光るものがない」と言われていた事を思い出す。それは自分でもよく分かっている事だ。シーキングザパールのように佇まいだけで他者を圧倒する風格もなければ、メジロ家のような個性的でもない。走る姿を見るだけで目を奪われるサイレンススズカやタイキシャトルのような華もなかった。

 だから私は地味な努力を積み重ねる。

 何処かの物語にあるような主人公のように輝かなくても良い、私が宝石に成り得ない事は私自身が一番良く知っている。劇的に伸びる脚もない私は、ただ地道に積み重ねる事しかできない。だから積み重ねる。それが結果に繋がるかどうかなんて、そんな事はどうでも良い。それしかやれる事がないから、それを実行する。突き詰める。それだけの話、やれる事をやるというだけの事だ。

 9月の選抜レースを終えた後も、昨日の自分よりも少しだけ強い私を目指して今日を走る。

 

 走って、走って、走り続ける。

 自分で決めた事は貫き通す。雨の日も、風の日も、例え雪が降ろうとも、どれだけ体調が悪くとも何時も同じようにトレーニングを続ける。

 私の名前は、サニーブライアン。走り続ける道の先には、どんな景色が待っているのか。

 その事に想いを馳せるだけで脚が軽くなった。

 

 とある日の話、私がいつものようにトラックコースでトレーニングをした休憩中、寡黙な女性が私の前に立った。

 

 彼女の顔は何度も見た事がある。

 初めて選抜レースの時から何度も顔を見せており、私の方を一瞥しては気恥ずかしそうに目を逸らす。それから先もトラックコースなんかで練習する時に何度か見かける事があり、視線が合う事もあった。だけど、それはきっと偶然で、何故なら彼女は私から顔を背けて、すぐ別のウマ娘を眺めてしまうのだ。

 私には華がない。しかし私には走る事以外で自己表現をする術を知らない。

 走るだけで誰もが見惚れるような走りが出来れば良かったけど、そんな才能が私にはなかった。だから私は結果を追い求める。誰もが認めざる得ないような結果。それは夢のまた夢、日本一のウマ娘になる事だ。

 東京優駿に勝つ事ができれば、それは誰もの記憶に残る走りになる。

 

 誰もが私の存在を認めざる得ない。

 今はまだ雑草に過ぎない。虎視眈々と石を積み重ねる、高く、より高く積む為には土台から、しっかりと組み立てないといけないから、だから私は今日もしっかりと身体を作る走りをする。私には未来を見通す力すらもないけど、だから後の為に丁寧に積み重ねるのだ。

 そんな私に差し伸べられた手、トレーナーは重い口をゆっくりと開いた。

 

「勝とう」

 

 たったの三文字、それが口下手なトレーナーとの出会いだった。

 

 私のトレーナーは寡黙だ、必要最低限の言葉しか喋らない。

 代わりに彼女の意見は、文書として提出される。トレーニングを終えた後、プレハブ小屋で彼女の計画書に目を通す。そこには朝日杯FSを想定したスケジュールが書き記されていた。

 彼女がジッと私を見つめている。私の反応を窺うように、確かめるように、ジッと目を逸らさない。

 

 彼女の分かりにくい本気は短い期間で伝わっている。

 どれだけ私の事を考えてくれていたのかも理解したつもりだ。

 

「目先の勝利に興味はありません。目指すのはクラシック3冠、中でも大切なのは東京優駿(ダービー)です」

 

 だから私も彼女に遠慮せず、本気でぶつかることができる。

 

「私は、日本一のウマ娘になりたい」

 

 彼女は私の瞳を覗き込できた。暫しの沈黙、彼女は小さく頷くと私に手渡した資料をびりびりに破り捨てる。

 

「今のままじゃ無理」

 

 彼女は本当に必要な事しか喋れらない。

 カタカタとノートPCに何かを打ち込んだ後、そのディスプレイを私に見せた。

 キンイロリョテイ、シルクジャスティス、シルクライトニング、メジロブライト、サイレンススズカ、マチカネフクキタル。

 今年、デビューするウマ娘の名前が書き込まれている。

 

「キンイロリョテイ?」

「たぶん一番、ヤバい」

 

 次点、とサイレンススズカとマチカネフクキタルを指で叩いた。

 そしてノートPCをパタンと閉じて、私を見据える。

 何かを問いかける、その瞳には強い意思が込められている事だけは分かった。

 

 数日後、手渡されたスケジュールはガラリと変えられていた。

 全ての照準が東京優駿に定められる。その為に乗り越えなくてはいけない課題が新たに書き加えられている。

 ジュニアのレースは全て、東京レース場。クラシックは皐月賞まで、全て中山レース場。クラシック3冠を勝つ為だけに特化したレースプランだ。

 

「勝つよ」

 

 本気で勝ちを目指す彼女の瞳を見て、裏切れない。と、そう決意を改めた。




没サブタイトル案「太陽の勇者」
没になった理由、モンテプリンス。
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