日本国召喚 × The new order: last days of europe 作:アレクセイ生存BOTおじさん
1963年6月8日午後2時
日本帝国 帝都 赤坂高級料亭
技術官僚派の長である賀屋は、同じく技術官僚派に属し、満州において巨大な権力を有して影の皇帝として恐れられている革新系技術官僚派の大物フィクサーであり「昭和の妖怪」としての異名が名高い岸*1との会談が行われている最中であった。
賀屋としても、彼との面会をするには理由があった。
日本が異世界に超常現象によって飛ばされて一週間が経過し、日本国民の多くが理不尽な転移現象に関して半ば諦めた状況で、現実と向き合いながら行動をしていた。
そんな中で、技術官僚派の国会議員を中心に異世界への入植計画を立案し、各財閥企業を中心に調整を行ったのが岸であった。
財閥企業は軒並み経済的悪化の一途に転落しており、靖田財閥に至っては靖田ホールディングスの関連企業の株価は5分の1にまで下落している有様であった。
そんな瀕死の財閥企業に起死回生の切り札ともなり得る「大規模入植計画」を提示し、従業員などをクワ・トイネ公国に派遣する手筈を整えたのも岸である。
岸がいなければ、賀屋も自分達の派閥の影響力を行使することは出来なかっただろう。
岸は賀屋に提案し、賀屋はその提案と計画を高木に報告したところ、その高木が採用してくれたこともあり、岸に関しては現在では頼りになる政治顧問としての役割を担っていたのである。
賀屋は岸を労うために政治家御用達の高級料亭に招いてサシの会談を行っていたのである。
「それにしても、岸さんも大変でしたね……満州における官僚の国家体制の見本としてきた地域が失われてしまったのですから……」
「全くだ。幸い家族に関しては実家の方にいたから離れ離れになるようなことは無かったが、満州時代に築き上げた人脈の大半は失ってしまったよ……」
岸は悲しそうな表情をしながら、日本酒をゆっくりと飲んでいた。
本来満州での職務を行っていたが、5月31日に靖田財閥の汚職事件が発覚したことを受けて、対策のために急遽帝都東京に赴いていたことで、今回の転移現象に巻き込まれてしまったのだ。
彼の築き上げていた人脈の大半は失ってしまったが、それでも知恵や発想が衰えていたわけではない。誰も経験したことがない甚大な状況の中でも、岸はフィクサーとしての仕事をこなしていたのである。
「それでも、靖田財閥をはじめとした各企業の復興を条件としてクワ・トイネ公国への入植計画を提案するのはお見事でした。お陰様で技術官僚派の評価が成されています」
「あれは満州時代にやっていた満蒙開拓団をより条件を良くしたやり方でやっているだけだよ。満州の大規模農園事業の大半は満蒙開拓団が行っていた事業から由来しているからね……クワ・トイネ公国の農業事業は、これまでの満蒙開拓団とは比べ物にならない程の利益と経済効果を生み出すのは確実だよ」
病害や害虫を寄せ付けないとされるクワ・トイネ公国の特殊な土壌の効果は、日本にとって救世主となり得る存在であった。
そのため、失業者対策と食糧事情対策の為にクワ・トイネ公国の農業生産地の22パーセントを日本領にする事が出来たことにより、技術官僚派による経済システムの構築が行われようとしている。
「外交官の田中君がうまい具合にやってくれたお陰です。クワ・トイネ公国側への政治工作なども着々と行われております」
「うむ、同じ道を志すものが窓口の交渉を担ってくれたのは有り難いことだ……田中君へのサポートは賀屋君に任せよう」
「はっ、田中君にはクワ・トイネ公国への状況を常に探らせておきましょう」
クワ・トイネ公国の担当外交官として、既に田中は公都の日本大使館に赴いている。
外部発電機を使った通信システムを確立していることにより、彼らへの指示を取り付けることは何時でも行えるようになった。
それは岸が満州ですら成し得なかったシステムを、岸をはじめとする技術官僚派によって行う。
おまけに、これは日本政府公認というお墨付きまでも貰っている。
技術官僚派によるクワ・トイネ公国への大規模な介入を行うことが決定された瞬間でもあった。
「まだまだ満州では私のやりたいことが存分に行えなかったからね……これで開拓先遣隊が到着して街を作りあげた時点で、次の段階に移行しようと考えている」
「……次にやるのは、クワ・トイネ公国への政治と民間への浸透ですね……」
「その通り、日本の技術力と開拓力を見せつけることにより、日本の技術の虜にするのだ……」
「日本の技術や環境に依存させて、政治的な判断を鈍らせる……中々に恐ろしいものですね……」
二人は、着々とクワ・トイネ公国への介入を粛々と実行していくのである。
浸蝕