日本国召喚 × The new order: last days of europe   作:アレクセイ生存BOTおじさん

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第一話

1963年6月1日午前3時

 

帝都東京

 

東京の街中は普段であれば夜が遅くてもネオン管が輝く賑やかな街だ。

アジア随一の経済力を牽引する日本帝国の象徴ともいえるこの都市が、久しぶりに静まり返っていたのだ。

賑わっているはずの新宿駅周辺の飲み屋の殆どが閉まっており、まだ営業を続けている飲み屋でも、サラリーマンなどが千鳥足になってしまう勢いで日本酒を浴びるように飲んでいた。

 

「くそっ、もう財閥は終わりだ……こんなひどい結果になるなんてな……」

「あはは……もう会社はおしまいだぁ……昭南島向けの資材関係の会社も連鎖倒産しているよ……」

「……明日会社から退職金出るかな?」

「会社があれば出るかもな……親父、つくねと冷酒をもう一つもらおうか」

「兄さんたち、辛いのは分かるけど飲み過ぎたら毒だよ……」

ああ……どうしてこうなっちゃったんだ……

 

居酒屋の店主は気の毒だと思いながら、サラリーマンに酒を提供する。

こうして酒に逃避できるだけでもまだマシだからだ。

大日本帝国の経済を牽引していた四大財閥の一つで、特に太平洋戦争後に獲得した中国大陸や東南アジア諸国の利権を保有していた靖田財閥の幹部が深く関わっていた汚職事件と殺人事件が白日の下に晒し出されたのだ。

 

『靖田財閥だけではありません。陸海軍幹部、憲兵隊、総理やその取り巻きである各大臣も一連の汚職事件に関与しており、こちらに保管されているファイルの中に、その汚職事件に関する確実な証拠が存在します!』

 

しかも、これらの事実はNHK公共放送を通じて日本本土だけではなく、大東亜共栄圏内全ての地域で同時放送されたことにより、一斉に報道機関が汚職に関わった人物の名前が読み上げられたのだ。

関わっていた人物は帝国の政治・経済・軍事といった国家の基盤に関わる人間たちであり、その当事者として首相も含まれていたのだ。

 

陸海軍の有名な提督や将校も不当な手段で優遇してもらい、その際に生じた利益は莫大な金額となっていた。

 

東南アジア諸国から巻き上げた金を更に不当な手段を講じて搾取していたという発表は、人々を恐怖と怒りに駆り立てるには十分であった。

汚職事件が公表された翌日の東京証券取引所では早朝の営業開始直後から売り注文が殺到して靖田財閥の株価は大幅に下落していた。

 

「頼む!売ってくれ!靖田の株を売らせてくれ!」

「全売りだ!金ならやるから俺を優先してくれ!」

「やばい!どんどん下がっているぞ!」

「売れ!とにかく価値のあるうちに売るんだ!」

 

余りにも大規模な株価暴落により、東京証券取引所の取引がストップする事態に陥ったのだ。

東京では、多くの投資家やサラリーマンが絶望の末に、電車に飛び込んだり、ビルから飛び降り自殺を図って大勢の死傷者を出していた。

 

特に霞が関などにそびえ立つ証券会社のビル群からは一時間に数人もの人が身投げをする程に、日本経済に既に直接的な影響が出ている現状、政府も躍起になって対応に当たっていたのだ。

もう財閥はお終いだ……。

そんな声が聞こえてくる中、一瞬だけ日本の空が発光する現象が起こる。

 

その現象が起こったのが寝静まった夜だったこともあり、殆どの市民はその現象を見ていない。

見ていたのは夜間警備員や夜間当番の警察官、夜遅くまで大東亜共栄圏の経済を牽引してきた靖田財閥の起こした経済危機を処理しようと奮闘していたサラリーマン達であった。

 

「おい、今空が光らなかったか?」

「ああ……まるで一瞬カメラのフラッシュを焚いたみたいな光だったな……」

「軍の照明弾か?いや、それにしてはかなり眩しかったような……」

「隕石による流星ってやつじゃないかな?」

「あー……たぶんそれかもしれないな……さぁ、仕事に戻るぞ」

 

彼らは一瞬だけ眩しくなった空を怪奇であると感じつつも、直ぐに自分達の職務を遂行するために戻っていく。

それは飲み屋でも同じであった。

 

「あれは一体何だったんだ……?さて、兄さんたち、そろそろ店じまいだからお会計して帰ってくださいね!」

「うぅぅ……まだ飲めるぞ……」

「でも店じまいじゃあどうしようもねぇなぁ……親父、お会計頼むわ」

 

飲み屋の親父がそろそろ店を閉めようとして、先ほどまで愚痴を言いながら酒を飲んでいたサラリーマンも会計を済ませようとしている時。

店に設置されているラジオから聴こえてきたのは、不穏な事故のニュースであった。

 

えっ、今は放送中ですけど……これが速報ですか?ええ、分かりました……番組の途中ですが、ここで速報をお伝えいたします。日韓トンネルで走行していた博多発の釜山行き特急列車「大陸2号」が、先程トンネル内で大量の海水が流れ込んできているという状況を受けて、急きょ引き返したとのことです。国鉄では国の運輸安全委員会に報告を行い、調査に乗り出すとのことです。また、釜山発、博多行きの「はかた」に関しては現在連絡が取れない状況だという事です……』

 

不気味な予兆だ

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