日本国召喚 × The new order: last days of europe   作:アレクセイ生存BOTおじさん

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第二話

1963年6月1日正午過ぎ

 

財閥だけではなく、政府首班までもが関わった大汚職事件が発覚してからまだ時間はそれ程経っていない。

総理大臣らが辞任してしまったことにより、政府内は総理大臣がいない空席の時になってしまっている。

そんな状況であるにも関わらず、帝国議会では誰を首相にするかで議論が沸騰していたのである。

 

「このような国家の存亡の危機である以上は、大多数で決めるべきであろう!」

「いや、それよりもここは陛下のご進言を賜った上での決定がよろしいかと……」

「しかし、木戸派が陛下を言いくるめて首相の座に就けば、他の翼賛会の保守派改革派……それに技術官僚派が猛反発するだろう?」

「大日本帝国の政治史で、これほどまでに混迷した状態は初めてだ……」

 

現在の大日本帝国の政治体制は大政翼賛会であり、挙国一致体制下の中で歩んできた統一的な内閣制度である。

戦前の日本の国家政治体制は、国家の象徴たる天皇の信任を経て、内閣総理大臣が就任される仕組みになっていたのだ。

つまり天皇が「この人物を首相に任命したい」と命ずれば、それが通ることができていたのである。

 

だが、昭和天皇はあくまでも民主主義を重視していた為、与党の党首を首相に任命することにより、疑似的な議院内閣制を実現していたのである。

平時であれば、それほど重大な事ではないように思えるが、今は状況が状況なだけに、時局は時を追うごとに切迫していたのだ。

 

なぜなら当初は大政翼賛会の中でも木戸*1らが推薦した人物を首相に任命するように天皇と謁見するも、天皇は民主主義に反するとしてこれを拒否。

これにより、大政翼賛会の中で誰を首相にするべきかで、各派閥が論争を繰り広げていた最中であった。

 

現在の日本を取り巻いている靖田財閥の汚職発覚による経済危機。

それに伴う政界への政治不信。

極めつけは今朝9時頃からNHKで朝鮮半島や台湾、樺太などの地域からの連絡網が遮断されているというニュース速報であった。

 

朝方には日韓トンネルでの崩落事故により、鉄道が通行不能となったというニュースで騒ぎになっている上に、通信までが不通になるという状況は通常では考えられない事である。

 

特に、日韓トンネルは昔からあるわけではなく巨額の資金を投じ、1963年の4月に日本帝国の技術力を国内外に見せつけるために開通したばかりの新しいトンネルだ。

 

何らかの事故でトンネルだけが不通になるのはまだ理解できる。

 

しかし、大東亜戦争後に通信インフラを整備した朝鮮半島には、多くの財閥企業の製造拠点があり、企業側も通信が出来ないと郵便・通信インフラを担う通信省に相次いで相談が寄せられている状態だ。

 

(これは一体どういうことだ?まさか、軍部でそのような事は……)

 

政治改革を執り行うことを目標としている高木*2率いる改革派の所属議員たちは、このNHKのニュース速報を聞き、まず軍部のクーデター疑惑を疑った。

高木本人も、一斉に通信網が遮断されるようなことは、通常ではありえないと判断し、海軍経由での情報収集をするように秘書に命じた。

 

秘書は高木の友人や現役の海軍将校らに連絡を取り、昼休憩に入る少し前までに佐世保の海軍基地に停泊している戦艦大和を旗艦とする第一艦隊や、呉の海軍司令部から最新の情報を受け取った。

だが、その連絡内容が正気とは思えない驚愕するような内容だったために、高木に真っ青な顔をして収集した情報を手渡した。

 

書類を受け取った高木は、これまでにも海軍内の派閥争いや戦争中に何度も修羅場を掻い潜った経験のある実力者だ。

そんな高木ですら、今回の案件は自分の力では解決することが出来ないと悟るほどに、絶句するような代物であった。

 

下手をしたら、満州帝国の軍隊が突如として反乱を起こしたほうがマシだと思えるほどの異常事態が既に襲っていたのである。

高木の身体を全身から震え上がらせるほどの衝撃であり、あまりにも一人で抱えきれるものではない。

 

事態が深刻すぎたこともあってか、高木は国会の休憩時間中に改革派の議員らを集めて、緊急のミーティングを行ったのだ。

 

「まさかとは思いますが……軍部内部でクーデターを起こそうとしている者がいるのでしょうか?」

「いや、それは無いだろう。今朝のNHKのニュースを聞いて、私の同僚や部下に尋ねたが、軍部のクーデターよりも事態は深刻だ。ニ・二六の時のほうがマシだと思うぐらいには最悪の事態が発生した」

「……軍のクーデターよりも深刻な状況なのですか?」

「これは先ほど秘書が持って来てくれた海軍による情報だ……皆も読んでほしい。ただし、これを読めば正気ではいられなくなるぞ」

 

ミーティングで、高木は最も信頼している改革派の筆頭議員たちが、震える高木の手から渡された機密資料を目にする。

それを見た議員たちはあまりにも突拍子もない内容に、震えはじめた。

 

大東亜共栄圏内のサンフランシスコ、ロサンゼルス、ラバウル、インドネシア、マレー半島、自由インドに至るまでの軍民間の通信だけではなく、ドイツやアメリカ等との連絡も不通。同時に我が海軍も本土にいる艦隊以外との通信も途絶し、海軍の偵察機より朝鮮半島ならびに樺太の物理的消失を確認。然るに、早急なる対策を政府に求む……

 

誉れある帝国は物理的に孤立した

*1
宮中において影響力があり、昭和天皇からの信頼のあった人物。史実では太平洋戦争中に和平工作を行い、極東裁判では保身による政府及び軍部の内情を暴露して死刑をギリギリ回避したものの、その暴露内容が軍人たちから大顰蹙を買い、その後は隠居生活を送った

*2
元海軍将校であり、史実では1944年に東条首相暗殺事件を立案したり、海軍の米内から終戦工作を命じられて黙々と従事。終戦間際までの日本の政界情報を記録したことにより、戦後における戦時資料を遺すと同時に、終戦に関する重要な役割を果たした人物

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