日本国召喚 × The new order: last days of europe 作:アレクセイ生存BOTおじさん
1963年6月1日午後6時
帝都東京の街頭テレビジョン放送前には仕事帰りのサラリーマンや講義を終えた学生や主婦など、多くの群衆が集まっていた。
群衆の多くが集まっていたのは、午後3時の国会中継が突如として中止された後、午後4時に全国の市町村に設置された有線放送を通じて午後6時から緊急の特別放送を行うことを発表したためである。
本来であれば、この時間帯には内務省が大東亜共栄圏向けのプロパガンダの一環として、大物漫画家が起業した制作会社に出資して作らせた科学アニメーション作品「鉄腕アトム*1」の放送時間だ。
アニメが特別放送によって中止になってしまったことで子供達は残念そうにテレビを見ていたが、大人たちは目を釘付けにして、時計の秒針が6時に指すのを待っていた。
午後6時……。
秒針が動いた瞬間に、全国のラジオ・テレビから一斉にチャイムが鳴り響く。
『……臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。これより帝国政府、及び帝国陸海軍より重大発表がございます。ラジオ、テレビをご覧になられている国民の皆様方は、出来るだけ多くの人に放送を傾聴するようにしてください』
NHKのアナウンサーは緊張した様子で、重々しい様子で原稿を読み上げる。
その横には、内務省事務次官と陸海軍より派遣された将軍と提督が毅然とした態度で座っていた。
だが、彼らの表情はアナウンサーよりも暗い。
事務次官に至っては、遠い場所を眺めているような半ば放心状態に近い様子であった。
事務次官はカメラが向けられている事を察知して、すぐに手元にある原稿を手に取り、現在日本で発生している大規模な通信障害に関する事を読み上げる。
「現在、我が国で発生している外地との大規模な通信障害に関する件ですが、千島列島から沖縄以外との連絡網は遮断されている状態であります」
帝国内でも、日本本土以外との通信網が遮断した事は、NHKの朝と午後のニュース速報でも通知されていた事実だ。
ここまではいい。
問題はその後であった。
「……また、樺太や朝鮮半島、台湾、中国大陸といった近隣の大陸や島が消失している事を、先程陸海軍の偵察機が確認致しました。これに関しましては空想科学小説や出鱈目な話ではなく、今この瞬間に起こっている事実でございます」
事務次官は日本の直接支配地域である近隣の島や大陸が消失したと公表したのである。
その発言の直後、街頭テレビジョンを見ていた群衆の頭上に浮かんだのは「?」であった。
やがて、事務次官がテーブルの上に置かれた水の入ったコップを震える手でゆっくりと飲んでいる間に、群衆にざわめきが沸き起こった。
「樺太や朝鮮の消失……?一体何を言っているんだ?」
「有り得ないだろ、火山噴火とかで大変動が起こったならともかく……」
「これって、一体全体どういうことだよ?」
スタジオからもどよめきが上がる中、事務次官に代わって陸軍省から派遣された牛島*2将軍と、海軍軍令部から派遣された栗田*3提督がそれぞれ続けて会見を行った。
「帝国陸軍では、現在本土以外に駐留している各部隊との応答がありません。これに加えて、海軍も外地にある各基地との通信が途絶した状態に陥っております」
「陸海軍共同で偵察機を飛ばした所、京城*4付近には島が存在し、さらに沖縄より南には大きな大陸がある事が確認できました」
「さらに、富嶽による上空偵察の際に、水平線の異常な拡大が確認されるなど、地球の物理学的な側面からも不可解な状況が起こっている事が判明しました」
「……これらの情報を照らし合わせた結果、軍部としては日本列島が何らかの超常現象によって地球の環境によく似た別惑星に飛ばされた……可能性が高く、現状ではこの超常現象に対応できる手段はありません」
「あまりにも突拍子もないことを、この場で申しても信じ難いのは我々軍人も同様です。日本列島が何の前触れもなく飛ばされる……さらには靖田財閥から端を発した経済危機の状況での事態……我々としても事態の収集の為に最善を尽くす次第です」
「また、今から3時間後の午後9時までに皆さんは自宅に戻ってください。今後不用意な混乱を避けるためにも、当面の間は午後9時から午前5時まで夜間外出禁止令を発令致します」
「夜間外出禁止令に違反したり、流言飛語な噂などを流した場合には戦時関連法に則り、憲兵隊による厳しい処罰の対象にいたします」
軍の幹部がそう言って放送が終わり、最後に君が代の音楽が流れて放送は終了した。
その瞬間、テレビやラジオを傾聴していた国民に鈍器で殴られたような衝撃がもたらされた。
政府は転移現象を正式に発表した。
日本列島が丸ごと別の世界に飛ばされたとしか言いようがない状況であったのだ。
都市部で働いていた大勢のサラリーマン達にとって、靖田財閥によって経済が悪化している上に、千島列島から沖縄諸島に至る日本本土地域が超常現象によって、さらに頭を抱えることになる。
そしてラジオやテレビで夜間外出禁止令が発令された事が発表されると同時に、全国の陸海軍の基地から兵士達がトラックや小型軍用乗用車の車列に乗り込み、街中で交通規制を始めた。
兵士達も放送内容を聞いて、これが夢なのか現実なのか分からないままに、ただ黙って軍の命令に従って治安維持のための行動を開始した。
東京駅の前には、陸軍の装甲列車や戦車が鎮座し、横須賀や佐世保では海軍陸戦隊の部隊が軍関連施設の周辺を封鎖し、有事に備えた。
市民は発表と同時に混乱とどよめきの中で帰宅し、午後9時の夜間外出禁止令になる頃には、路上には実弾を装填した兵士達だけとなった。
時折、陸軍管轄の偵察ヘリや偵察機がひっきりなしに帝都や大都市圏の上空を旋回飛行し、呉では海軍管轄下の海上警備艇や駆逐艦の多くが出航を開始していた。
ネオン管によって灯されていた東京は一斉に建物の灯りが消灯され、街灯と警戒中の部隊が手にしているライトだけが光っている。
放送で述べられた通り、帝都東京を中心に、札幌、仙台、大阪、広島、福岡、佐世保といった大都市圏では、関東大震災や二・二六事件の時以来に【夜間外出禁止令】が発令されたのであった。
街は沈んでいく