日本国召喚 × The new order: last days of europe 作:アレクセイ生存BOTおじさん
中央暦1639年/西暦1963年7月2日正午
クワ・トイネ公国 公都 蓮の庭園
【ロウリア戦役終結】
その第一報が伝えられると、クワ・トイネ公国中の街から大歓声が挙がった。
「戦争が終わったのか?!」
「ロウリア王国は滅んだ!臨時政府が降伏に調印したらしいぞ!」
「そりゃよかった!これで平和が訪れるんだからな!」
「やった!やったぞ!」
人々は家を飛び出し、街道に躍り出て大いに喜んだ。
ロデニウス大陸における最大の軍事国家との戦争は、僅か半月で終結した。
それもクワ・トイネ公国側の損害は国境警備隊及びギムの街にいた住民が虐殺されるという被害が出たものの、国の大部分は無傷でありギムの街が被った損害も数年で回復できる見込みであることから、まだ彼らにとって希望は大いにある。
しかし、戦勝国として勝利したものの素直に喜べない者達がいた。
それはクワ・トイネ公国の政府首脳部であった。
「戦争が終わったのは喜ばしい事です……しかし、ロウリア王国は崩壊したのですか?」
「ええ……ハーク・ロウリア34世は王城の戦いで戦死、南部諸邦は我々の味方になりましたが、各地で民族・部族間対立が表面化し、敗戦と同時に各地で一斉蜂起と権力闘争が激化しております」
「今後、ロウリア王国より独立を果たした南部諸邦との関係を重視していきますが、亜人種排斥の思想が根深い西部部族連合などは未だにクワ・トイネ公国への抵抗を諦めておりません」
「……まだまだ戦争は終わったわけではないのですね」
「はい、今はあくまでもロウリア王国の暫定政府が樹立し、南部諸邦と共に我々の味方になるように取り込み作業をしている最中です。そして、抵抗勢力に関してはこのような写真というものを空中より散布して戦意を喪失させようとしているみたいです」
カナタ首相の下に届けられたのは、炎上し黒煙の舞い上がるジンハーク城の写真であった。
日本の窓口担当を行っている田中大使より受け取った写真は、絵画よりも正確で透き通った作りをしていた。
かつて日本の植民地であり、財閥企業が牛耳っている広東国で生産されていた帝都通信工業製のカメラによって撮影された写真だけに、くっきりとジンハークでの戦いが激戦であったことが伺える。
カナタは、この写真に人々の死臭が付いていない事に安堵していた。
流石に兵士達の死体を直接写した写真は送ってこなかったが、壁に無数に空いた弾痕や血しぶきなどで床が黒く変色してしまっている様相だ。
モノクロ写真であっても、ここで何が起こったのかは容易に想像できる。
ジンハークの戦いでは、多くの民間人が兵士として駆り出されたこともあり、ロウリア34世が戦死した事を告げるアナウンスが放送されても、まだ大王が生きていると思い込んでいる者達は戦うという選択肢を取った。
結果として日本軍はそうした抵抗勢力に関して徹底した爆撃と銃撃を加えて、跡形もなくジンハークで立てこもっていた抵抗勢力が占領していた都市区画を爆撃機や自走榴弾砲で吹き飛ばし、抗戦の意志を示すものは老若男女問わず攻撃の手を緩めなかった。
(日本帝国……やはり恐るべき力を持っている……数十万人の軍勢を僅か半月で蹴散らした上に逆侵攻を行って占領するなんて……列強国ですよ……)
カナタ首相の脳裏に浮かんだのは、公都を旋回するヘリコプターから機銃掃射を受け、飛竜よりも更に速い速度で飛行する鉄竜によって燃え盛る街が浮かんだ。
一歩間違えれていれば、自分達の街がジンハークのような結末を迎えていたことだろう。
幸いな事だが日本政府は租借した土地の契約についても好条件で建設を取り付けているし、高木首相もクワ・トイネ公国に対して好意的である。
しかし、一方間違えていたらこの写真に写っている光景は自分達の見慣れた街の景色となっていただろう。
そして、戦後処理を話合う蓮の庭園に爆弾が降り注いで燃え盛る炎で苦しみながら死んでいく……。
想像しただけでも身の毛がよだつ思いであった。
「もし、マイハークでの一件で戦争になっていたら、我々がこうなっていたに違いないですね……」
カナタ首相の言葉は比喩でもない。
ロデニウス大陸随一の軍事大国が、徹底して叩きのめされた末に滅亡をしてしまったのだ。
国家は分断され、傀儡政権が樹立したとしても戦後の賠償金を考えれば政府の自由意思決定など無くなる。
もしも、あの時政府内部の急進派勢力の意見に押されて日本との開戦に踏み切ったとしたら……テーブルの上に置かれているのは水の入ったコップではなく、自分の斬り落とされた首かもしれない。
「……とにかく、日本帝国とは今後も関係を維持していきましょう……我々が敵う相手ではありません……」
「そうですね……あとは駐在武官からの具体的な戦況報告を聞くことにしましょう」
政府だけではなく軍に関しても彼らは「敵になったら対応できる相手ではない」と結論付けている。
そして、戦争に勝った裏側でゆっくりとクワ・トイネ公国の足元は日本の魔の手から逃れないように浸蝕されていたのであった……。