日本国召喚 × The new order: last days of europe 作:アレクセイ生存BOTおじさん
中央暦1639年/西暦1963年8月7日午後2時
クワ・トイネ公国 公都
公都の一室に設けられた刑務所の独房。
元々凶悪な殺人犯向けの独房として作られていたが、長年使われていなかった事もあってか、部屋の片隅には蜘蛛の巣が張り巡らされていた。
壁もよく見ればカビが生えており、換気もされないためにどんよりとした空気が立ち込めており、衛生的にもあまり長時間いることはオススメできない。
だが、この独房にいるのは、クワ・トイネ側の国民感情にしてみれば、「これでも温情を施している」と言いたくなる相手であった。
第三文明圏外の民に対して「蛮族」と平気で罵るような傲慢な態度を取っている連中だと、判っているからだ。
薄暗い部屋の中で取り調べを受けているのは、第三文明圏における列強としてこの世界に君臨しているパーパルディア皇国の国家戦略局の職員であった。
彼はパーパルディア皇国を通じてロウリア王国への軍事支援を行っていたことがヤミレイからの報告で明らかになっており、しっかりと証言が行える唯一の証人であった。
ジンハークの戦いにおいて王城での決戦に挑んだ結果、非戦闘員を巻き込んだ戦いとなって大勢の死傷者を出した。
城の中で軟禁されていたパーパルディア皇国の国家戦略局職員と諜報員は、自分達の運命を呪い、被害が出ないことを祈るしかなかった。
戦いの末に、軟禁されていた部屋で銃声を聞いてパニックになった大勢の職員と諜報員は部屋を飛び出して、鉢合わせした日本軍に対して魔法攻撃をしてしまったのだ。
攻撃を受けた日本軍からは、ロウリア王国軍の戦闘員と見なされて、瞬く間に銃殺されていた。
唯一、銃声を聞いた弾みで腰が抜けてしまい、部屋の片隅でロウリア王国に関する戦果報告用の資料を抱えてうずくまっていたただ一人の職員を除いて全滅したのである。
「あの時、仲間たちと一緒に死ねたらどれ程までに幸運だったか……」
そのまま城を占領した日本軍の捕虜となり、咄嗟にパーパルディア皇国人であり、今回の戦争に巻き込まれたために外交を通じて釈放してほしいと嘆願するも、ロウリア王国への軍事支援を行っていた関係者だと判明してしまい、クワ・トイネ公国に送還されたのである。
日本軍とクワ・トイネ公国軍双方の憲兵隊が、この国家戦略局の職員を取り調べており、ほぼほぼ戦争に助力を行っていたとしてどのような処遇を行うかで話し合いがされていたのだ。
やがて、日本軍の憲兵隊により、彼はカビや湿気の酷い独房から解放されて、幾分かマシな部屋へと移送された。
窓の外が見える部屋で、外からは陽射しと心地よい風が入り込んでくる。
テーブルには暖かく湯気が立ち込めている肉入りのスープ、採れたてのリンゴ、そしてクワ・トイネ産の小麦を使用したパンが置かれている。
「あと30分後に尋問が行われる。それまでに食事を済ませておくように」
椅子に座って食事を取るように言われた職員は、ゆっくりと食事を取ることにした。
かれこれ、一週間は具なしのスープとぼそぼそとしたパンしか配給されなかった職員にとって、本国で何不自由なく味わっていた食事が、御馳走となっていたのだ。
「……うまい……!」
スプーンでスープを啜ると、具材が絡み合って濃いスープは最近食べた中でも一番美味しいと感じた。
一杯、また一杯とスープを啜り、具材をよく噛んで味わう。
パンとリンゴに関しても、ゆっくりと噛みながら味を確かめており、職員は先程とは打って変わって心地よい気分になった。
そんな束の間の楽しい食事の時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
食事を食べ終えると、三人の黒い服装をした男が部屋に入ってきた。
顔立ちからもクワ・トイネ人ではなく日本人のようだ。
三人のうち、二人はカメラとマイクを手に取って機材の調整を行っている。
これから職員の言質を取り、録音と録画を行うのだ。
これは尋問ではあるが、同時にパーパルディア皇国に対する牽制と外交カードに使う予定で執り行っているのだ。
残る一人は対話を担当していることから、職員の前に座った。
職員から見ても、目の前にいる老人が、かなりのやり手である事は疑いようが無かった。
職員の顔をチラリと見ると、ゆっくりとした口調で老人は話し始めた。
「私は日本帝国から出向し、現在ロデニウス大陸治安維持局長を務めている須磨という者だ。楽にしてくれていい……正直に話してもらえれば君を即座に釈放し、本国に帰そうと思っている」
須磨は、職員に帰国を行う条件として取引を持ち掛けたのだ。
それはパーパルディア皇国がどのような形で軍事支援を行っていたかについてであった。
パーパルディア皇国は国家戦略局の独断でロウリア王国への軍事支援に踏み切った経緯があり、職員もある程度は把握していた。
パーパルディア皇国内における権力闘争の一環として、諸外国の紛争などに関与していることも知っているのだ。
「正直に答えてくれたのであれば、我が国は君の身の安全を保障する。もし亡命を希望するようであれば協力を惜しまない」
既にパーパルディア本国には、国家戦略局がミスをしたことを知られていて、おかしくない頃合いだ。
それに、ここで証言をして本国に帰還できたとしても、職員の身の安全が保証されるわけではない。
良くて降格処分、最悪皇帝陛下の怒りを買って処刑されることも、充分に有り得る。
ましてや、文明圏外の蛮族と侮っていた相手に一方的に殲滅され、自分達の支援していた戦力が灰燼に帰すのを目の当たりにしているのだ。
職員の選択は一つしかない。
積極的に知りうる限りの情報と、押収されたであろう資料以外の知っている情報を目の前の須磨という老人に売り渡すしか、生き残る術がないことを……。
「わかりました……すべてお話いたします……」
職員は全て洗いざらい話した。
後がないことを悟ってか、職員は亡命を希望した上で、国家戦略局に関する情報なども須磨に包み隠さずに話したのである。
そしてその様子は、帝都通信工業のトランジスタ技術を応用して作られた映像機材によって、パーパルディア皇国の行ってきた陰謀と謀略として、しっかりした映像媒体に記録されたのである。
2時間ほどで職員に対する質問は終わり、須磨は記録した映像と音声を保管するように指示した。
この映像と音声はその日のうちに日本本土に届けられた上で、パーパルディア皇国への対策に充てられることとなったのである。