日本国召喚 × The new order: last days of europe 作:アレクセイ生存BOTおじさん
中央暦1639年/西暦1963年8月15日正午
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
パーパルディア皇国。
フィルアデス大陸の大部分を実行支配し、周辺国を傀儡ないし併合することにより、その影響力を強めている国家である。
この国家が第三文明圏の中核を成す存在であり、世界でも列強国としての地位を確立しているのは、この世界では常識として語られている。
そんな列強国であるはずのパーパルディア皇国の政治と経済の中心部において、国家の沽券を揺るがす事態が発生した。
きっかけは彼らに貢物を送ってくれる文明圏外国であるはずのとある国家が持ち込んできた資料であった。
「……いつまで我々を待たせるおつもりか?こうして出向いているにもかかわらず、我が国を足止めするとは……すぐに局長を呼んでもらいたい」
既に二か月以上も足止めを食らっていた日本の外交官である朝田が、しびれを切らして外交を担当している第3外務局の窓口係に問う。
朝田は元々満州において日本人枠で外交関係の職務を通じて働いていたということもあり、中国大陸の気質を持ち込んだような迫力と手腕があった。
靖田財閥による経済危機と、それ以前から燻っていたハワイに弾道ミサイルを設置したことによる日米が核戦争一歩手前までエスカレーションした「ハワイ危機」により、朝田は満州国を通じて得られた諸外国の情報を持って本邦の外務省に出向していたところで転移現象に巻き込まれたのだ。
技術官僚派である田中とは同期であり、彼の尊敬している岸の影響もあって外務省の官僚や高官との繋がりも深い。
そして、彼の心の中には経済・軍事においてもアジア圏で絶対的な大国として君臨した大東亜共栄圏の宗主国としての誇りを持ち合わせていた。
第三文明圏への接触を任された朝田は、日本からの親書を持ってパーパルディア皇国を訪れたのだ。
しかし、窓口係のライタという女性からは「窓口の順番が一杯ですので国交交渉書を確認してからお呼びします」と言われ、二か月もの間足止めを食らっている。
曲がりなりにも世界第二位の経済力とアメリカ・ナチスドイツに次ぐ軍事大国であった日本に対する非礼な扱いと振る舞いには、流石に朝田といえど限度を超えていた。
そんな朝田に対して、窓口係は冷笑するかのようにきっぱりとその要請を断った。
「失礼ですが……あなた方の国交交渉内容を見ましたけど……あれはいけません。あれでは局長にすら合わせられませんよ?」
「……といいますと?」
「我が国……パーパルディア皇国人の治外法権を認めないとは、文明圏外の蛮族の思想です。そんな非礼な対応をされては合わせる顔をありませんから……」
パーパルディア皇国にとって、列強国は対等に接するべきであり、それ以外の未承認国家や文明圏外の国は、貢物を持ってくるか筋を通して窓口係に金品を渡してから局長に通すことが『常識』であった。
しかし、日本ではその常識が通用しない。
そればかりか、主権国家である日本に対して外交官ですらない一般のパーパルディア皇国人に治外法権を認めるというのは、犯罪を犯して本国に戻っても法で裁かれることが無い。
江戸時代末期に欧米列強からの圧力によって治外法権を押し付けられ、数十年かけて列強国となって治外法権を撤廃させた日本にとって、パーパルディア皇国の要求は侮辱に等しい。
ばかげている上にパーパルディア皇国人がその事に対して『疑問』にすら思っていないことが朝田は日本以上に傲慢と偏見に満ちた国家であるとゲンナリした。
……いや、正確にいえば日本も確かにパーパルディア皇国のような傲慢はある。
太平洋戦争に勝利したが、結果としてアジア諸国を独立させても財閥による経済支配で利権を吸い上げ、汚職と経済腐敗によって本土は潤い、中国や東南アジアでは反対に飢えや貧困に苦しむ人も多かった。
中国大陸に至っては、二度と反逆が出来ないようにと意図的に中国各地の各軍閥に統治させ、広東国などの一部地域を除いて大量生産できる南京米などを日本向けに生産させる抑圧経済でもあった。
アメリカなどからは『サムライの奴隷』と揶揄されるほどでもあったが、それでもパーパルディア皇国と違うのは、最低でも日本は発展途上国であっても外交官は受け入れて大使館を通す筋ぐらいはあった。
だが、パーパルディア皇国はそんな必要最小限の事ですら出来ない。
傲慢とプライドによって生きている国民性なのだ。
「まぁ……我々といたしましても、文明圏外なら文明圏外らしく誠意を見せてもらいたいものですね」
窓口係の女性は朝田に向けて冷笑ともいえる微笑みをしながら言った。
時間にして10秒ほど経過した頃だろうか、朝田は鞄から新たに書類を窓口係の女性に投げつけるように渡した。
「貴国の無礼な振る舞いには十分飽き飽きした。本題に入ろう……この書類には貴国の政府機関が関わった戦争の詳細、それから貴国が狙っている標的について詳しく書かれている……」
外交の窓口で書類を乱暴に投げつけるという行為に驚きつつ、女性が書類に目を通すと先ほどまでの威勢は無くなってしまった。
そこに記載されていたのはパーパルディア皇国の政府内部を詳しく知っていない者でなければ知り得ない情報がきめ細かく記されていたからである。
国家戦略局がロデニウス大陸での戦争に深く関わっていたことだけではなく、第3外務局をはじめとした国家機関がアルタラス王国への内政干渉を行い、この世界でも有数の魔石採掘量を誇るシルウトラス鉱山の利権を巡って戦争を起こそうとしている事が綴られていたのだ。
すでに、日本はパーパルディア皇国を知っているのだ。
それも、国外には秘匿されているべきはずの機密情報まで持ち出し、それを見せつけている。
ここで初めて窓口係は知ったのだ。
目の前にいる外交官は、タダのボンクラではなく恐るべき怪物であると。
「私は貴国の情報を知っている。だからこそ改めて問おう。局長に今すぐ会えるかね?」
朝田は睨みつけるように窓口係の女性に鋭い目つきで見つめる。
女性職員は観念したのか、アタフタしながら局長に事情を説明した上で呼び出して迎賓館への案内を任されたのであった。