日本国召喚 × The new order: last days of europe 作:アレクセイ生存BOTおじさん
中央暦1639年/西暦1963年10月7日午後2時
ムー国 アイナンク空軍基地
「来たぞ、日本の戦闘機と輸送機だ!」
管制官からの言葉にマイラスは振り返る。
プロペラではない未知の技術を駆使して飛行機雲を作り出す護衛戦闘機。
その真ん中では輸送機が着陸のアプローチを開始している。
護衛している戦闘機もアイナンク空軍基地の周囲を巡回するように飛行しており、上空からの脅威に備えて待機している。
その様子を見て、マイラスはすぐに悟った。
「司令、彼は我々の事を計っております。下手な動きをすれば間違いなく徹底した爆撃をされるでしょう」
「……どうしてそれが分かるかね?」
「あの戦闘機に取りつけられている両翼を見てください。増設されたガンポットがあります。間違いなく大口径のものを積んでいます」
マイラスの着眼点は鋭かった。
「キ-217」の両翼に取りつけられていたのは八式対空砲に搭載されている30mm機関砲であった。
対地攻撃任務にも割り当てられている追加装備でもあった。
これは不測の事態に備えて取りつけられており、万が一外交官らに危害が及んだ場合には飛行場やその周辺に対して攻撃することが許可されていたのである。
本土防衛を担っていた部隊だけに、有事の訓練も受けていただけでなく、東南アジアや蒙古での反乱の際には『現地義勇軍』として派兵され実戦経験を積んだ部隊である。
これに加えて沖合に停泊している大鳳から艦載機が発艦しており、すでにムー国には日本の戦闘機が14機以上飛来していたのである。
「我々の技術力では、彼らに太刀打ちできません。最低でもそれだけは叩き込んでください。偶発的な戦闘なんてしたら取り返しのつかない事になりますよ」
技術士官だけに、一目で日本帝国の脅威を感じ取ったマイラスは進言し、ムー国軍は発砲を禁じて日本の航空機への妨害行為などを一切しなかった。
その甲斐あって、輸送機は無事にアイナンク空軍基地に着陸した。
着陸した輸送機は陸軍管轄のYS-11であり、茶色ベースの機体に日の丸が描かれていた。
機体がアイナンク空軍基地に着陸してから誘導を受けて、ようやく岸と御園、佐伯らはムー国の地に足を運んだ。
外交官という立場もさることながら、彼らが目にした空軍基地は土浦海軍飛行場のような雰囲気であり、駐機場には複数のレシプロ機が鎮座している。
「あれがムー国の主力航空機ですか……」
「九五式戦闘機と同じぐらいですね……」
「航空機技術を考えても、よくて1920年代初頭といったところですね」
岸たちは満州時代に帝国から供与を受けて駐機していた陸軍の戦闘機を思い出す。
すでにレシプロ機があるのであれば、自分達が乗ってきた輸送機を見てその技術力が分かるだろうと考えた。
その考えは直ぐに的中することになる。
アイナンク空軍基地の基地司令を通じて案内役として技術士官のマイラスが担当官となって、岸たちを案内することになったのである。
「お初にお目にかかります、技術士官のマイラスです。この度は案内役として会談までの間、務めさせていただきます」
「ありがとう、私は岸だ。こちらは外交官の御園君に佐伯君だ」
挨拶を交わしてから、マイラスは岸や連れの外交官らの違和感に気が付いた。
(おかしいな……彼らは友好的ではあるが、どこか見ている場所が違う……)
空軍基地でレシプロ機のマリンなどについても語ったが、三人はマリンを褒めてはいるがそれ以上の事は言わなかったのだ。
プロペラを使わない未知の戦闘機を引き連れているだけに、恐らく技術力を計っているのだろうと考える。
おいそれと機密情報を喋る技術士官などいない。
例え誇るべき自国の兵器や武器であっても、同等の技術力があればその発言や見た目から似たようなものを作りあげてしまう恐れがある。
ましてや、四半世紀以上技術力が遅れていたとしても、レシプロ機からジェット工学技術を参考にすればそれまでの研究結果を飛ばして類似したものを開発してしまうだろう。
岸たちは技術官僚だ。
満州や中国大陸での諜報戦において欧州や米国の技術力に関する情報を仕入れていたが、ちょっとした弾みでこちら側の情報が漏れることがある。
たとえリップサービスのつもりで言った言葉一つで政治生命だけでなく、情報漏洩を行ったとして憲兵隊や特高にしょっ引かれる恐れがあるのだ。
口にしていい言葉と、そうでない言葉の区別を考えているのだ。
空軍基地からムー国首都の資料館に移動する際に、車の中で岸がマイラスに尋ねる。
「マイラス君、君は技術士官だそうだが……我々の技術力をどう見るかね?」
「……そうですね、一言でいえば、我が国よりも進んでいると思っております。時速500kmを超える速度で飛行する乗り物を操り、レシプロ機構ではない戦闘機を運用できている……」
「いい着眼点だ。君も分かるだろう。我が国は君たちの国よりも最低でも半世紀近くは進んだ技術力を持っている国家だ」
「……」
「ムー国は確かに平穏かもしれん、しかし……万が一我が国と対峙する事になった際に、勝てると思うかね?」
岸の言葉にマイラスは息をのんだ。
半世紀以上進んだ技術力を持った国家。
すでに報告書では大陸の沖合洋上に巨大な船が浮かんでおり、そこから戦闘機らしき航空機が発艦している情報もマイラスの耳に届いている。
戦争になったらどうなるか?
技術士官であるからこそ、マイラスは分かってしまう。
日本帝国と対峙することになれば、どんなに頑張って刺し違える覚悟で挑んでも負ける事を……。
岸は外交担当として赴任している。
これはムー国では勝ち目がないと暗に示唆しているも同然であった。
マイラスは振り絞った声で岸達に言う。
「……正直に申し上げれば、勝てる見込みは殆どありません。貴国に奇襲攻撃をしかける事は可能かもしれませんが、通常戦力では勝てないと思います」
「そうだろう、君の意見は正しい……そして、君のような聡明な人物がムー国にいるからこそ、我々も外交という場で交渉することができる」
「……岸閣下、それに御園さんや佐伯さんは……」
「うむ、君からも政府や軍上層部に働きかけを行ってもらいたい。我が国としても【平和】でいてもらいたいのだよ」
日本帝国と対峙することがなければ、平穏でいられる。
岸の語る平和で有意義な会談となるだろう。
しかし、それが踏みにじられた時はどうなるだろうか……。
(これは……決して脅しではないようだな……)
マイラスは岸の言葉を噛みしめながら資料館に岸達を案内するのであった……。