日本国召喚 × The new order: last days of europe   作:アレクセイ生存BOTおじさん

7 / 67
第六話

1963年6月3日午前9時

 

帝都 赤坂高級ホテル

 

たった一日で日本の情勢は大きく変わってしまった。

別惑星への転移とも言うべき超常現象を前に、科学者だけではなく、日本国民全員がどういった意図でこのような事態に陥ったのか理解出来る者は、誰一人としていなかったのである。

 

各新聞社は【帝国最大の危機、別惑星への転移】【我が国孤立ス、夜間外出禁止令発令】【大都市圏に陸海軍の部隊が出動】といった見出しを大きく取り上げていた。

 

転移現象に伴い、多くの日本人が危惧していたのは食糧の問題であった。

 

既に作付けされている帝国内の穀物を含めても、今の日本本土の人口を潤すことが出来る穀物は無い。

 

国内の食糧事情は満州や中国大陸から送られてくる格安の食料に頼っていたからである。

 

南京米、小麦、砂糖といった商品に関しては、その多くが2日以内に小売店から姿を消した。

噂などが流れなくても、足りていない食料の輸入が見通せない状態ではどうなるか、殆どの国民は直ぐに在庫が無くなることを予見したのである。

 

新宿などに立ち並んでいる百貨店に至っては、残っているであろう食料品を買い求める客で長蛇の列となり、米がまだあるという情報を聞きつけた主婦たちが詰めかけた結果、将棋倒しが発生して38名が死亡する事故まで発生しているほどだ。

 

これだけの混乱状態にあるにも関わらず、未だに大政翼賛会では次期首相を選出するための手段が取れていない。

 

各派閥が自分達の利権や主張をしている事もさることながら、選挙を行ったとしても多数派が存在しない現状では、どれも拮抗した結果となってしまうのは目に見えていたからだ。

 

だが、そんな状況も流石に何日も続けていたら、国民からこれまで以上に批判を食らうのは各派閥であり、そして国家元首たる天皇への不敬罪に繋がりかねない現状を踏まえ、正午までに大政翼賛会内の全ての派閥が、一度赤坂の高級ホテルに集まって会合を行うことが決定されたのだ。

 

普段であれば、仲の悪い派閥のトップ同士が会合することは有り得ないことであった。

 

技術官僚派に至っては、彼らの中でも革新派のトップであり、満州において合法・非合法問わず取引によって莫大な利益を生み出した「昭和の妖怪」の影響力が大きく、改革派も先進的なやり方を重視していた為に、その方針が保守派や技術官僚派に煙たがられていたのもまた事実である。

 

それだけに、各派閥の代表らが会合して首相を取り決めるという時局は、極めて政治的な意味で切迫したものとなっていたのである。

 

大政翼賛会の中でも木戸派改革派無党派保守派技術官僚派の各派閥のトップが一堂に参列し、大部屋の一室を貸し切って、次期首相並びに各派閥からの大臣の選出が話し合われたのだ。

最初に話を切り出したのは改革派のトップである高木であった。

 

「まず、我々は17年前の戦争の時以上の国難を対処しなければならない。あの時はまだヨーロッパにはドイツとイタリアがいたが、今は孤立無援だ。自分達でこの状況を打開しなければならない、その為には全員の協力が必要不可欠だ」

 

高木の主張に対し、全員が頷いた。

そして、高木は各派閥からそれぞれの分野に長けている人材を大臣などに選出する方法を提案し、これも全員が了承した。

 

また、高木はこの会議において強いリーダーシップを発揮し、それぞれの派閥が得意とする分野での取り決めを纏めたのである。

 

「保守派に関しては各財閥企業との関係が取り沙汰されているが、それでも現状では財閥企業の力無くして状況を打開できる手段がない。池田*1さん、大蔵省をはじめとした経済面で各財閥との調整は保守派に任せたいが、それで構わないかね?」

「私としては異存はない。それに帝国内の企業関連の事業に関しては改革派の意見を積極的に取り入れるつもりだ。協力体制に関しても問題はない」

「次に、技術官僚派に関しては転移先における我が国の技術が流出するのを防止するための法案整備をお願いしたい。特に、官僚間におけるやり取りを迅速に行うためにも、賀屋*2さんの力が必要だ」

「わかりました。幸いにもこちらには強力なフィクサーもおります。大蔵省を中心に各官僚による連携に関しては任せてください」

「そして木戸さんと愛知*3さんにお願いしたいのは、それぞれ陛下や派閥間との調整役をお願いしたい。特に議会における派閥間抗争が激化しないように各議員における説得を頼みたいが、可能ですか?」

「陛下との連絡は常に心掛けると共に、現状の報告を陛下に進言、並びに調整をやってみよう」

「無党派に関しては、私が説得をしてみます。各派閥のストッパーとして機能できるように、全力を尽くします」

 

高木がこの場をリード出来ているのは、転移現象が起こった当日に国会中継を中断して全派閥に事態の状況を知らせた功績が大きいからだ。

 

普段から高木に対して敵対している技術官僚派の賀屋ですら、今回の異常事態を知ったのは、高木からもたらされた情報があってこそである。

 

保守派に関しても、技術官僚にしても、得意不得意を客観的に分析した高木が派閥の代表者だけではなく、その派閥における長所を生かせる仕組みづくりを率先して具体的に提示したのが、信頼獲得につながったのである。

 

それぞれの派閥において得意とする分野を中心に、各派閥のお膳立てをしつつも、大政翼賛会の派閥のバランスを均等に保つ割合となった為、結果として大政翼賛会本来の意味合いとなる政治集合体が再び機能を正常化させたのである。

 

高木によって進められていく調整によって、最終的には池田や木戸、そして賀屋など全員が大政翼賛会総裁として高木が就任することを推薦し、国会でも正式に自分達の派閥にいる議員に根回しをしてから各派閥の暗黙の了解として、大政翼賛会代表として改革派の高木が首相に取り決められたのである。

 

そしてホテルの一室で首相が選ばれると同時に、早速彼らの元に入ってきたのは、海軍先遣隊として派遣された海軍第一艦隊が、新大陸付近で現地勢力の船と接触したという情報であった。

 

火中の栗を拾う

 

*1
前首相の辞任に伴って保守派の代表となった人物

*2
史実で大蔵大臣として太平洋戦争中の財務を担っていた人物であり、戦争終結後は与党の政調会長などを務めた人物である。この世界では大蔵省を筆頭とする官僚主義の派閥を率いる代表として技術官僚派のトップとして君臨している人物である

*3
史実では戦後日本の政治における経済調整を担った人物であり、このTNO世界では無党派の代表ともいえる存在




指令第44号を実行したい場合はアンケートを取ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。