新たなる謎と出会い
SAOという世界がゲームから現実としての意味を持ってから3日、未だ街の中の混乱は収まりきってはいない。
だが動く者はすでに動いており各々がフィールドへ赴き、己のレベルを上げている。
何もわからない。だから動くべきではないと考え街に籠ったがこの世界は眠くもなれば腹も減る、金は降ってくるわけでもない。動かずにいるには限界が近づいていた。
だがこの三日目にしてベータテスター……SAOの先行体験者たちがガイドブックというものを作り、配布し始めていた。
そのガイドブックを頼りに、街の中から出る者も多少現れた。僕もその一人だ。
レベリングを繰り返し、ステータスを上げ、それなりの実力もついてきたので一つ挑戦をしてみよう。
◆
はじまりの街を抜けて外の森の小さな村《ホルンカ》、そこで受けられるあるクエスト。
《森の秘薬》クエスト、それはモンスターを討伐してアイテムを渡すという至ってシンプルな内容のクエストだがその報酬が重要だ。
ガイドブックに載っていたおすすめ装備の一つ、《アニールブレード》……持っておけば第三層まで使えるレベルの性能らしい。
そしてそのクエストのキーアイテムである《リトルネペントの胚珠》を手に入れるため森の中で狩りをしているのだが……
「落ちない……」
そう独り言を呟くぐらいにはうんざりしていた。また森の奥からウツボカズラのような巨大な口付き植物が出てくる。
またハズレだ……内心そう思いながらも相手を見据え再び切る。
リトルネペント――こいつは同じモンスターが三種類存在しており何もついていないノーマル、実を壊すとその香りに誘われ大量のリトルネペントが襲い掛かってくる《実つき》。
そして最後の一つはレアモンスターである《花つき》、今回のアイテムはこの《花つき》からしか出ない。
《花つき》は他のリトルネペントを倒していれば出現確率が上がっていくとのことだがそれでも出ない。
武器の耐久度も不安になってきたし……今日の所は諦めて帰るかと剣をしまいホルンカへ帰ろうとしたその時。
索敵スキルが反応し、その反応した方向へ振り返る。いた――今回のターゲット、《花つき》だ。
素早く敵に接近し、刀身を輝かせて根元を断ち切る。そのままリトルネペントは雄叫びを上げ、光の結晶となって消えた。
よし!これで目的の物は手に入った。これで帰れると思った矢先またもや索敵スキルが反応を示した。
反応が2つ、気になってそちらに歩いてみるとそこには大きめの木があり、その根元には見たこともないモンスターが2匹、そこにはいた。
一匹は鋭い目でこちらを睨む小さな身体に対しては大きめな刃のような一本角を持つ金色のモンスター、そしてもう一匹は酷く怯えた目でこちらを見つめる両腕に三本爪がついた平たい盾のようなもの持っている深緑のモンスター。
だが通常なら表示されるはずのカーソルやHPバーが表示されていない。なんだ……?となってじっと見ていると向こうの方から話しかけてきた。
「お前、ニンゲンって奴だろ!ここはどこだ!」
金色のモンスターはそう言いながらこちらの方にトコトコ歩いてきた。
まさか喋れるとは思っておらず驚きで少しうろたえながらも質問に答える。
「ここはホルンカって村の近くの森だけど……それより君たち何者?」
まず頭に浮かび上がってきた疑問を聞かずにはいられなかった。
そう聞くと金色のモンスターは忘れてた事を思い出したかのような動きをしたのち、口を開いた。
「おお!そういえばジコショーカイは大事だな!オレの名前はズバモン!あっちでビビってるのがルドモンって奴だ!」
この二匹は金色の方をスバモン、深緑の方をルドモンというらしい。
ズバ『モン』にルド『モン』……この名前はもしかして……でもそんなこと、『あの』世界と現実世界の繋がりは閉じられたはず。
また頭を悩ませているとズバモンがオマエの名前は!と言ってきたので慌てて返した。
「僕の名前はタクミ、君たちの言うとおり人間だよ。」
そう言うとズバモンは後ろに振り返りほらな!言った通りだったろ?と相変わらず木の根元で震えながらこちらの様子を見ているルドモンに言う。
その態度に対しルドモンはでも……と口ごもっているがそんなことなどお構いなしにイイじゃねーか細かいことはよー!と気にせずにいる。
その様子を見ながら先ほど浮かび上がったもう一つの疑問を尋ねる。
「君たちは何でここに?」
そう、まずはその確認だ。本来表示されるべきカーソルの類がこのモンスター達にはない。それはこのモンスター達の存在がこの世界において異常である事の証拠だ。
この地域には確認されたことのない喋れるモンスター、それも二匹。たまたま起きたバグでごまかすにはあまりにも不自然だ。
そして頭の中によぎるある可能性――それを確かめるために聞かねば。
その答えはあまりにも簡単に……何事もないように告げられた。
「オレたちはデジタルワールドの森ん中で遊んででよ、何か穴が開いててそこに入ったらこんなとこに来ちまった!」
デジタルワールド――それはこの現実世界とは違うもう一つの世界。デジモン――デジタルモンスターと呼ばれる生命体が存在し、生きている場所。かつての事件では現実世界との壁が崩壊し現実世界に大量のデジモンが現れたりもした。
だが事件の解決のためその世界との繋がりは断たれたはず……なぜだ?
頭に浮かんだ謎が思考の引き金となり止まることなく湧き出る疑問。
ログアウトできないのは実はデジモンが原因?でもならば茅場晶彦は?この世界は本当にSAOの中なのか?またイーターが出現したのか?現実世界はどうなっている?かつてのロイヤルナイツは?
そうした疑問が疑問を呼び頭がグルグル回る、それでも答えは出ず思考の無限ループに陥る。
そうして静かに冷静さを失いそうになっていた時――――
「どうしたんだタクミ?」
ズバモンの一言で思考が現実に戻される。ふと周辺に意識を回し、今自分が置かれている立場をもう一度深く認識する。そうだ、そんなことをいくら考えても現状では答えは出ない。それはこの世界で生き抜き情報を集めたその先の事だ。
「何でもないよ」
そういってごまかし現状を振り返る。今はクエストの途中だ。先ほど手に入れた《リトルネペントの胚珠》を持ち帰ろう。
「とりあえず僕は帰るよ」
そう告げ、後ろに振り返り少し湿った大地に足を踏み出した。
だが、2、3歩踏み出したときに急に後ろからガサガサと音が鳴りながらこちらに近づいてきた。
「オレも連れってくれー!」
素早く振り返るとズバモンが後ろから飛び掛かってきた、その頭部の刃のような角が腹に刺さりそうになりながらも何とか受け止め、その衝撃で軽くのけぞりながらも体制を直す。
「いってて……どうしたのズバモン?」
「オマエ面白そう!だからオマエと一緒に行きたい!」
なあいいだろ~!とねだるズバモン。連れていく分には別段構わないのだが……
「なあ、連れてくのはいいけどルドモンはどうするんだ?」
そういうとそうだった!と言いズバモンはヒョイと腕の中から飛び降りルドモンの方へ走っていき、何かを身振り手振りで話し始めたようだ。
そして少しほど待つとズバモンのもういい!という声とともにこちらにズバモンがイラついたように足元に力を込めながら歩いてきた。
「ルドモンは?」
「アイツは『ニンゲンについていくのはダメだよ……嫌だよ』だって、ビビってばかりじゃ何も始まんねーのにな!」
「置いて行っちゃっていいの?」
「知るかよ!あんなビビリ!」
そう不機嫌な様子で答えるズバモン、後ろを振り返るとルドモンがこちらを怯えのような、懇願のような暗く、重い目でこちらを見つめている。
思えば、この時に一つでも声をかけていればよかったのかもしれない。そうすれば後にあんな状況になることはなかったのだろう。
◆
しばらく歩き、大きめの茂みを抜けると少し開けた場所に出た。ズバモンも少し疲れているようだ。その様子を見てそういえば気になる事があったのでそのついでに休憩することにした。
「なあズバモン、本当に置いてきて良かったのか?」
「あんなビビリのことなんて知らねぇ!」
そういってそっぽを向くズバモン、再び話を聞こうとしてもフン!とそっぽを向きっぱなしなので話題を変えることにした。
「じゃあズバモンとルドモンってどういう関係なんだ?どうやってここに来たんだ?」
そう聞くと相変わらずそっぽを向いたままのズバモン。だが、ゆっくりと語り始めた。
「……アイツとオレは生まれた時から一緒にいたんだ、昔からビビリでオレが洞窟探検だー!って言ってもすーぐやめなよだの、危ないよ!だのゴチャゴチャ言っててよー!でもよ、3ヶ月ぐらい前にアイツと初めて離れ離れになったんだ。デジタルワールドでいつものように遊んでた時に空に急にデッケー穴が開いてよ、そこにオレ達が吸い込まれたんだ。」
3ヶ月前……ちょうどデジタルワールドと現実世界の壁が壊れた時期だ……
「そしたら今まで見たこともない場所でよ!そこにはオマエみたいなニンゲンもいっぱいいたんだよ!でもルドモンがいねーんだよ!それでずっとルドモンを探してよ、ようやく見つけたと思ったら泣きながらこっちに抱きついて放そうともしねーんだ。何かあったのかって聞いても何も答えねぇし!」
おそらく、ハッカーに虐げられたのだろう。ハッカーたちの大半はデジモンをただのプログラムと認識しており牢に捕らえて売り物として、もしくは道具として扱っていた。
現実世界に出現した時も小柄なデジモン達はよくハッカーに無理やり従わされていたらしい。
「オレが別の場所に行こうとしても『一人に……しないで』って泣きつかれてよ!しょうがねぇからずっと一緒にいたんだけけどよ、突然オレたちを光が包んで気が付いたらデジタルワールドに帰ってたんだ!」
「でもよ、そっから何かアイツ……オレにベッタリっていうかさ、前よりもずっとビビリになっててよ。最近ようやく前と同じぐらいになったんだ。今日も前と同じように探検と一緒のつもりだったんだ。でもアイツこっちに来るときに見た穴を見た時からひどく怯え始めてよ、『ねぇやめようよ!絶対ダメだよ』って必死に止めてきてよ、そんな様子に少しイラついちまって知らねぇ!って言って無理矢理通ってきたんだよ。」
「そしたらアイツもついて来ちまって後ろを見ると通ってきた穴は塞がってるしここは見たこともない場所だしアイツは離れねぇしでずっと一緒に居たんだ。」
大体の事情は分かった。だが彼らが来た穴が塞がっているらしい。これでは元の世界に帰ることも出来ない。しかもルドモンは恐らく人間に対しとてつもない恐怖感を抱いていると思われる……
このまま放置しても他のプレイヤーに見つかる可能性の方が高いだろう。そうなった場合最悪レアモンスター扱いされてルドモンは狩られてしまう。
そうなる前にもう一度ルドモンと話して誤解を解かねば。そう思い元の場所へ戻ろうとズバモンに声をかけようとしたその時――
「なあズバモン、やっぱ――」
キャアアアアアァァァ!!
静かな森の中に響き渡る悲鳴。その声を聞いた瞬間ズバモンが振り返り目を丸め森の奥を見つめている。
それと同時に頭の中によぎる予感――さっきまで歩いていた方向から悲鳴――まさか!?
「今の……ルドモンの声だ!」
その予感は的中した。