グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
『年末年始、
SNSのチャットに伝言が入る。それを受信した各務原なでしこ、大垣千明、犬山あおい、
そして斉藤恵那がそれぞれの場所で、ぐっ!とガッツポーズで笑顔を見せる。
彼女たちの友人である志摩リンからの報告、かねてから約束していた年越しキャンプへの
全員参加がこれで確定したのだ。
山梨県、富士川松ぼっくりキャンプ場。
高校時代にキャンプ同好会”野外活動サークル”に所属していた彼女たち。社会人になり
付き合いも希薄になりつつあったのだが、思わぬ縁から再び集結する事になる。
-キャンプ場を作る-
このとんでもないプロジェクトが山梨県観光推進機構所属の千明から発案され承認されたのだ。
リンの一言をキッカケにかつてのキャンプ仲間が集結し、その夢の実現に向かって様々な
行動を経て、ついに1年後、新たなキャンプ場の設立を成し遂げたのだ。
秋、そのこけら落としの日に、彼女たちは年末にまたここに集まってキャンプをしようと
約束していた。なにしろここのキャンプ場の最大のウリは年末年始時期に見られる
”ダイヤモンド富士”という富士山山頂から顔を覗かせる朝日なのだ。是非初日の出にそれを
みんなで見ようというわけだ。
ただ名古屋の雑誌社勤務のリンだけは休みが取れるか不透明で、今日まで返事を保留に
していたのだが、これで無事全員参加ができることに相成った。
『いよぉーし!新年ダイヤモンド富士初日の出キャンプ、これで開催だぜ!』
『ウチとアキはスタッフやけどなぁ。』
千明に続いてあおいがそう返す。彼女らはこのキャンプ場の運営スタッフのメンバーでもあり、
特に地元在住の千明、あおいの二人は仕事として来客の案内、管理も度々務めている。
『私もお手伝いしますから安心して!』
『もちろん私も頑張るよ。』
なでしこと恵那もそう続く。自分たちが楽しむのも勿論だが、訪れる人たちにキャンプの
楽しさを堪能してもらうのも、彼女たちにとっては大きな喜びなのだから。
『ま、私は仕事だけどな。』
「「えええーーーーっ!?」」
リンの返信に、全員がスマホを持ったまま驚きの声を上げる。今さっきこちらに来れるって
言ってたのに・・・仕事とは?
『今週末に帰るから、その時話すよ、重大発表。』
◇ ◇ ◇
「ビバークが、来る!」
役場のプロジェクトルーム。封筒に入った資料と共に、彼女たちにはすっかりお馴染みの
雑誌をどん!、と叩きつけるように置くリン。
「な、何だってぇーーーっ!?」
「ビバークって、あのビバークなん?」
千明やあおいが口をM字型に開いて驚くのも無理からぬ事、アウトドア専門雑誌”ビバーク”は
キャンプ好きなら知らぬ者がいないほどの超有名雑誌、事実上このジャンルの1強といえる
ブランドなのである。
リンいわく、彼女の勤務先の雑誌やWEB版に載せている松ぼっくりキャンプ場の記事を見て
ビバークのスタッフが是非合同取材をと申し出て来たとの事だ。お馴染みのダイヤモンド富士に
加えて、高校時代からのキャンプ同好会の女子達が立ち上げ作り上げたこのキャンプ場は
大手雑誌にとっても魅力的なコンテンツのようだ。
「凄い凄い!これで松ぼっくりキャンプ場も全国区だよ!!」
「これは人気出るねぇ、予約殺到するよ、よかったねあきちゃん。」
嬉々とする4人。結局こういった観光地にとって話題作りは最重要課題、その最善の方法が
むこうから転がり込んできたのだから無理もない。
が、リンだけは難しい顔をして、こう切り出した。
「それでだ、大晦日と新年の取材に向けて、なにか目玉になるような企画が欲しいんだ。」
その言葉に全員がえっ?という顔をする。元々キャンプ場創設時から様々な企画を
盛り込んで、途中に土器が出土してからはその要素まで取り込んだあそこに、さらに何か
追加要素が必要だと言うのか・・・?
「ダイヤモンド富士ならビバークはもう飽きるほど特集している、出土品の展示やドッグラン、
キッズスペースも特に珍しいというわけじゃない・・・何かこう、雑誌映えする企画がいるんだよ。」
雑誌社ライターのリンの言葉には重みがあった。確かにあの全国誌で特集を組むなら
何かもう一押し、企画映えする絵が欲しい所だ。難題に全員がう~ん、と頭をひねって考え込む。
「あ、そうだ千明。大晦日と元旦の予約状況はどうなってる?」
忘れてた、という顔でそう問うリン。雑誌の取材が入る以上、ぎゅうぎゅう詰めの混雑では
問題があるし、逆にガラガラならさらに最悪だ、魅力のないキャンプ場の烙印を押されかねない。
「うぐ・・・!」
「あ、あはは・・・いやぁ~それがなぁ。」
冷や汗をかいて言い淀む千明とあおい。バツが悪そうに眼を泳がせて頬を掻きながら
小声でこう答える。
「実は・・・まだ2組だけなんだよ。しかも両方ともソロで。」
「「えええええぇ~~~っ!?」
リン、なでしこ、恵那の3人が驚愕の声を上げる。もう12月に入っているというのに、肝心の
予約がまだたったの・・・2名?
「冬休み突入の25日や正月3日は結構予約入っとるんやけど・・・やっぱ元旦はみんな初詣や
家でまったり、っていうパターンが多いらしいわ。」
「ダイヤモンド富士を見る人はまぁ大抵、当日車やバイクで見に来るからなぁ・・・冬キャンプで
泊ってまでここで見るようなストロングスタイルな人はなかなかいないらしくて・・・」
加えて松ぼっくりキャンプ場は、元旦と言う日時を考慮した場合にあまり人を呼ぶのに
向いていないのもある、近所に神社仏閣は少なく初詣と兼用と言うのも難しいし、
何より冬の山梨の山岳部、雪でも降れば車での移動も一苦労になる、特に雪の少ない遠方の
お客は二の足を踏んでしまうだろう・・・付け加えるなら付近に温泉も無いのも痛かった。
うむむむむ、と腕組みして悩む一同。せっかくのこのチャンスで失敗してしまえば、
もう次の機会は望むべくも無いだろう、松ぼっくりキャンプ場の大きな岐路が
いきなり来てしまった。
「じゃあ、なおさら人が呼べる企画を考えないといけないねぇ。」
恵那が指を立ててそう提案する。元々広報担当として活躍した彼女だけに、ここは一念発揮
して皆に提案を促す。ペンを取り、ホワイトボード最上段に”元旦集客企画”の文字を記す。
「そうだ!元旦なんだから、甘酒や雑炊の振る舞いをするのはどうかな?」
料理の腕には自信のあるなでしこがそう提案するも、それはすでに千明たちによって
確定している企画だった・・・まぁ何を出すかまではまだ決まっていないが。
「よし!あのキャンプ場に温泉を掘り当てるぞ!」
「できるかい!出たとしても設備が間に合う訳ないやろ!!」
千明の提案はあおいのチョップによって却下された。
「じゃあ初詣用の神社を作ろうよ。」
「・・・何を奉る神社だよ!」
「もちろん、ちくわ。」
「おいこら待て!ちくわまだ生きてるだろ!!」
恵那のギャグのような提案を必死で否定するリン。かつて名犬
その3代目に会いに行くも既に他界していた経験がある彼女にとって、犬を奉る神社と言うのは
どこか縁起が悪い印象があった。
「もちろん、生き神様だよ。」
あっけらかんと返す恵那に、どっちにしろ却下だと結論付けるリン。そもそも個人の考えで
神社が設立できるわけ無いし・・・
「この時期の冬山のウリゆーたら・・・やっぱスキーかな?よっしゃ!スキー場作るで!」
「あ、それいいよあおいちゃん!整地してスロープ作って雪が降ったら、子供がソリで
下るくらいのミニスキー場出来るかも!」
ナイスアイデアに向かい合って両手を合わせるあおいとなでしこ。が、千明がメガネを
くいっ!と上げてそのアイデアを否定する。
「あそこにもう重機が入れないのは知ってるだろ・・・土器が出た以上は、な。」
あ、そうだった・・・と消沈する一同。縄文時代の土器が出土したあそこは、もう草刈りをするにも
神経を使う程のデリケートな土地になっているのだ、大掛かりなスロープを作る土地改造は
出来そうになかった。
むむむむむむむ・・・
全員が難しい顔をして悩む。あそこに大晦日に人を集め、なおかつ全国有名誌の紙面を彩る
企画を考えねばならないのだ、しかもあとひと月足らずの間に・・・
と、その時。
-ヴーッ、ヴーッ!-
-ぴろりん♪-
-キンコーン-
-ピピピピピピ-
全員のスマホに一斉に着信が入った。そのあまりのタイミングの良さに、何事かな?と
顔を見合わせ、スマホを取り出す。
それは、この物語を
あの暑い夏の思い出、ほんのひと時邂逅した、はるか遠い南国にいる懐かしい親友たちからの
嬉しすぎるメッセージ。
「友あり!遠方より来たるーーーーっ!!」
立ち上がり、ガッツポーズを掲げながら叫ぶ千明に、皆が追随してがたがたっ!と席を蹴り、
スマホを天井に向けてかざす。
「「おおおおおーーーーーっ!!!」」
◇ ◇ ◇
同時刻、山梨県本栖高校の職員室、鳥羽美波教員のスマホにも着信が入る。それはかつて
遥か南の地で出会った懐かしい友人からのメッセージ。未だ彼女のスマホに下がる、
フェルト製のストラップ、美波と共にビールを掲げて上機嫌の女性、その人からの
10年越しの”遠き約束”の実現-
映画”ゆるキャン”を見てロス気味な中、続編を思い立ったので連載開始です。
同じロスな方々の癒しに少しでもなれば幸いです。