グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
-ドドドドドドドドドドドドド・・・-
「つ~る~ぎ~ちゃ~あ~~んっ!!」
「ひ、ひぃっ!??」
タクシーから降りた陽渚に雪煙を上げて突撃してきたのは、何故か人間大のてるてる坊主
だった。目の前で急停止したその白い物体は、袖から手を出して陽渚の手をぎゅっと握ると
間髪入れずこう懇願した。
「頼むぅ~、天気を・・・天気を、晴れにしてくれぇっ!!」
「え、えええーーーーっ!?」
てるてる坊主にそれを頼まれたのは、もしかしなくても多分陽渚が人類初だろう・・・
◇ ◇ ◇
「およよ?メール来てる。」
「あ、私も。帆高さんからか・・・」
テントの撤収を済ませたなでしことリンは、深夜に届いていたメッセージを開いて思わず
うわ~、とニヤケ顔になる。
『元気なゲスト追加だぜ!』
未だ山梨に到着していない懐かしい友人、帆高夏海と小谷さやかとあと一人に囲まれて
真っ黒に日焼けした顔でガッツポーズを取っているちっちゃな男の子に視線が釘付けだ。
「小谷先生の息子さんだって!可愛い、っていうか凛々しいねぃ。」
「うむ。子犬みたいな元気を感じるぜ・・・」
「おおー!小谷先生の息子さんか・・・なかなかワンパクそうじゃねぇか!」
「ホントだねー、これは会うのが楽しみだよ。」
周囲の見回りを終えた千明と恵那も合流し、思わず可愛いゲストを迎える事を知って
テンションがますます上がっていく、これは張り切らなきゃ・・・
と、そんな一同に管理棟にいたあおいが走って来る。千明の「おーい犬子、メール見たか?」
のセリフを、いつになく激しい剣幕で黙らせる。
「それどころやあらへん!みんな大変や、天気をチェックして!!」
え?と固まる一同。確か昨日の昼の予報では正月三が日までは晴れの予報だったハズ・・・
4人が一斉にスマホをタップして天気を確認しようとしたその時、彼女らの視界に
白い氷の結晶がひとつ、ふたつ舞い落ちる。
天気予報のページが開く時には、キャンプ場から見える景色の全てが降り注ぐ白玉で
彩られていた。
「なんてこった!よりによって今日から雪かよ!!」
「どうしよう、これじゃせっかくのダイヤモンド富士、初日の出が・・・」
まさかの天気の裏切りに愕然とする一同。特にリンはせっかくのフォトコンイベント企画が
おじゃんになる最悪のケースを予感して、顔面真っ青でうずくまっている。
「これは・・・ヤバいで、色々と。」
あおいの言葉は的を得ていた。午前中から今日のキャンプ場予約のキャンセルを告げる
電話が相次いだのだ。特に雪慣れしていない地方からの遠征組は、山裾のキャンプ場で
雪に降られて帰れなくなることや、道中での車の立ち往生を恐れるのは無理も無いだろう。
「とにかく、役場に連絡して凍結防止剤を回してもらおう!」
恵那の提案に頷いて千明が電話をかける。もしここに来るための山道が凍結したら、
最悪スリップ事故が発生しかねない、この松ぼっくりキャンプ場に来てくれるお客様に
そんな悲劇を経験させるなんて絶対にごめんだ。
午前9時、なんとか凍結防止剤の散布車がこっちに回ってきてくれた。道路一面に巻かれた
だが、雪は止まない。
既にキャンプサイトには3センチほどの雪が積もっており、雪慣れしていないキャンパーは
設営にさえ一苦労だろう。しかもこれからますます雪は深くなる、最悪の場合今日は
閉鎖の判断をしなければならなくなるかも・・・
「おー、降ってますねぇ。」
到着したタクシーから降りつつそう呟く人物を、リンが神妙な顔で出迎える。
「・・・ご苦労様です。」
降りてきたのはアウトドア雑誌、ビバークの人気ライター&カメラマンの木村氏だ。
歳はリン達よりひとつ下だが、アウトドア関連のテレビや雑誌に顔を出す売れっ子の
レポーター。小太りで温和な顔に似合わず非常に行動派で、山に海にと積極的な
その活動と、実に美味そうなキャンプ飯を本当にうまそうに食べる愛嬌のある顔に
多くのアウトドアファンの支持を受けて来た。
彼を寄こした事からも、雑誌”ビバーク”の本気度が分かると言うものだ。
だけど天気が・・・本当に何とかならないものか、これ。
「任せろ!あたしに秘策があるズラ!!」
古いカーテンを被って即興のてるてる坊主のコスプレをした千明が、なかばヤケクソ気味に
そう叫ぶ。その有様から秘策とやらが全くアテにならないのは分かり切っているが。
◇ ◇ ◇
「スゴイ降ってる・・・大丈夫かな?」
「これはバイクは絶対無理やったとね。」
「だね~、ホテルで預かってくれて良かったよね~」
陽渚、黒岩、大野、そして綾乃がタクシーで山道をキャンプ場に向かいつつそうこぼす。
昨日同じビジネスホテルに泊った4人は、今朝の天気予報を見て急遽バイクを取りやめ、
タクシーの相乗りでキャンプ場に向かうことにしたのだ。
で、そのタクシーが松ぼっくりキャンプ場に到着したのを見て、千明が「来たヅラ!」と
てるてる坊主のまま一直線に駆け出したのだ!
-ドドドドドドドドドドドドド・・・-
「つ~る~ぎ~ちゃ~あ~~んっ!!」
◇ ◇ ◇
「頼む!天気を晴れにしてくれえぇぇl」
「ひええぇぇぇ・・・って、この声、大垣さん?」
陽渚の指摘で、ようやく未だにてるてる坊主なのを思い出して、がばっ!と顔を出して
両手を握ったままがぶり寄る千明。
「このピンチを救えるのは君だけだ!鶴木嬢は名前に”陽”の文字がある。いやそれよりも
”ヒナ”という名前の女子は晴れ女と相場が決まって・・・」
「どこが秘策やねーんっ!」
追いついてきたあおいにスパーン!と頭をはたかれる千明。
「そういえばそんな名前のヒロインの映画がなんかあったねー。」
「あ、それ知っとる。しかも確か主人公の名が”ほだか”やったねぇ。鶴木~、夏海と協力
してお天気よろしく~。」
綾乃と黒岩が呑気にそう続ける。陽渚は「無茶言わないで~」と涙目になり、その後ろでは
大野がおろおろしていた・・・どうしようコレ。
「ま、まぁとにかく、出来る事をしようよ!」
なでしこのポジティブさが今は救いだろう。この雪が止んでくれる奇跡に僅かな望みを
託して、受け付けや元旦用の準備、炊き出しやフォトコンの用意を始める一同。
12時過ぎ。この天候にもめげずにキャンプを敢行するストロングスタイルキャンパーが
ぼつぼつ到着し始める。その中に彼女たちの恩師の姿もあった。
「鳥羽先生、それに・・・冬美ちゃんも!来てくれたんだー。」
「おいおい、今は大町先生だろ。」
受付する恵那に千明がツッコむ。鳥羽美波はもうずっと前に同じ職場、本栖高校
教員の大町先生と結婚していたのだが、やはり未だに彼女らの顧問は鳥羽先生のイメージが
抜けないでいた。
「ご苦労様です。」
管理棟での受付をすませる美波の後ろで、スカートの裾をギュッと掴んで隠れているのは、
彼女の愛娘、大町冬美(7歳)だった。
冬美は引っ込み思案な性格で、このキャンプもあまり来る気はなかったのだが、
お母さんの古い友達の息子さん(同い年)も来るということで、なだめすかして
引っ張ってきたのだが・・・面識のある恵那達にさえこの有様である。
「じゃ、設営に行きましょう、冬美。」
「・・・寒いからイヤ。」
そう言って管理棟の薪ストーブの前から動こうとしない冬美。名前の割に寒いのが苦手な
彼女にとって、この雪降る中で外でテントを張って泊まるなんてありえなかった。
やれやれ困ったねぇ、という表情の一同。これはいざとなったら自分達と一緒に管理棟で
年越しかな?なんて空気が流れていた、その時だった。
-うおおおおおっ!雪ばい、雪ばい、すごか積もっとっとよーーー!やっほぉーっ!!-
しんしんと張り詰めた静けさのキャンプ場に、南国の元気を詰め込んだような歓声が