グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
夜7:00。松ぼっくりキャンプ場の一番下のサイト、土器作り用焚火スペースに組まれた
櫓が赤々と燃え上がり、雪のちらつく夜の山を照らし出す。その周囲には今夜をこの
キャンプ場で過ごす者たちの全員が集まって暖を取っていた。
運営の千明たち5名、ビバークの取材で来ている木村、そして
含む一般客12組、彼らはここで本年の年越しを迎えるのだ。
「はーいみなさん注目!これより明日のイベントのご説明をさせていただきます。」
千明が手メガホンで声を張り上げる。明日になればイベントの目玉、ダイヤモンド富士
フォトコンテストと、南国の食材を使った振る舞い朝食が待っているのだ。
「明日の日の出は7時19分の予定になってまーす、フォトコン用のカクテル希望の方は
今夜のうちに飲み物の名前と、ご希望のグラスを選んでくださいねー。もちろん
ノンアルカクテルもオッケーっす!」
明日の撮影用にカクテルを用意するのは千明の役目だ。原酒&ドリンクはすでに多数
取り揃えており、グラスもまた様々な酒の色に対応したものを用意している。
もちろん各自で持ち込みもOKで、フォトコン用の酒と杯を持ち込んでいる者も多数いる。
「写真はスマホで自撮りでもOKですが、カメラマンの木村さんも回って撮影もして下さる
そうなので、どしどし撮ってもらってください。」
リンがそう続ける横で、木村氏がカメラを掲げてぐっ、と親指を立てて笑顔。アウトドア雑誌や
配信でおなじみの人気カメラマンに撮って貰えることにおおー、と歓声が沸く。
「朝食は朝8時からですよー、お代わり充分ありますから堪能してくださいねー。」
なでしこの声に、待ってましたと拍手が起こる。元々この年越しキャンプに来てる人も、
やむなくキャンセルして来られなかった人たちも、この振る舞い鍋はかなりの楽しみだったのだ。
だたキャンセルが多く出た為、消費しきれるかがネックではあるが。
「私たちスタッフは今夜管理棟にいますので、何か緊急の事態があれば来てください。」
「このキャンプファイヤーは夜11時に消火予定です、お好きなだけ暖を取って下さいね。」
あおいと恵那がそう締める、その後は各々が火を囲んでの夕食会になった。
「って、なでしこも各務原一家もみんなカップ麺かよ!」
リンが料理上手の一家のまさかの粗食に驚きを隠せない、自分でさえ生麺と鴨ローストを
使った年越しそばだというのに・・・
「明日がご馳走だからねぇ!」
なでしこ父の言葉に全員がうんうん頷く。いいのかなでしこ、自分から料理のハードル
上げまくってるぞ・・・。
「ほい鶴木嬢、ご注文のほうとう出来たぜ!」
「ありがとー、一度食べてみたかったんだぁ。」
千明が自分で作ったほうとうを陽渚に渡す。実は明日の振る舞い鍋の一つに地元名物の
ほうとうを用意していたのだが、それをちょっとフライングして料理したのだ。まぁ味付けは
簡素なものだが、すすった陽渚はもちもちと咀嚼して「美味しー。」と笑顔になる。
「5000円やでー。」
「んぐっ!?」
「うそやでー。」
隣の犬山あかりにそう言われて思わず
あかりにこう窘める。
「鶴木嬢はお客様なんだから、お年玉たかるなよー。」
「それはあきちゃんにだけや。」
チョップするしぐさであかりにツッコミを千明が入れて3人であははと笑う、どうもあかりは
デザインの仕事をする陽渚にかなり懐いたようである。
「はい、お待たせ。」
大野が飯盒を夏海、あおい、そしてしずくの所に持って来る。こっちはこっちで持ってきた
試し炊きでもある。
「んじゃ缶詰め開けますか。」
「せやな。」
カシュ!パキュ!という音を立てて夏海とあおいが缶詰を開ける。ふたりは前もってメールの
打ち合わせで、いわゆる「飯の友」な地元の逸品を持ち込んでいたのだ。明日のあおいの苦労も
考えて簡単で美味しい夕食をと考えた夏海のナイスアイデアに、大野としずくも便乗して
舌鼓を打つ。
「あちちち・・・いい感じにあったまったよー。」
缶コーヒーを湯煎していた恵那が黒岩と綾乃に声をかける、ふたりは夕食をコンビニのパンと
コーヒーで済ませるつもりらしい、このへんはいかにもバイク乗りではある。
「ありがとー斉藤さん。」
「助かるっと、夕飯遅らせてすまんばいね。」
黒岩の言葉に恵那がいえいえーと笑顔で返す。彼女はこの湯煎のお湯を使ってこれから
料理をするらしい。といってもあらかじめブツ切りにしていた野菜と肉と調味料を
ぶちこんで煮るだけなのだが。
で、問題の一角、
「木村さんもイケますねぇ、ささ、もう一杯。」
「”池池”ですか、美味い酒ですよねぇコレ。」
「みなみちゃんもビール行きなさいよ、やっぱビールはサーバーでしょ?」
なんと真ん中に木村氏を挟んで、それぞれ持ち寄った一兎樽の日本酒と19Lの生ビール樽を
ビールサーバーに繋いで飯そっちのけで酒を煽っている。
ちなみに木村氏は酒豪でも有名で、この二人に付き合って杯を空にしても全然余裕で
にこやかに相手している。それを見て凄いな、と汗を流す野クル(元)+ていぼう部(元)。
上には上がいるもんだ・・・
「いやぁお二人とも素晴らしい、是非ダンナさんとも飲みたいですなぁ。」
その木村の言葉にうぇ、と固まる二人。美波の夫の大町氏は酒を嗜むとはいえ美波ほどは
吞まないし、さやかの旦那に至っては完全に下戸である。嗚呼、ダンナ方が木村氏くらい
吞めたらさぞ楽しいでしょうに・・・。
「母ちゃん、カメラマンさんにメイワクかけたらいけんぞ!」
「おかーさん、のみすぎはだめっておとーさんにもいわれてたでしょ?」
向かいで寄り添ってパック寿司をつまんでいる健吾とカップみそ汁をすすっている冬美に
そうツッコまれる母親2人、周囲から思わず笑いが漏れる。
というかこの2人たった数時間で本当に仲良くなったもんだ。オマケに完全に今回のキャンプの
アイドルかマスコット役に収まっているし・・・2人が食べているパック寿司も実は他のキャンパー
からの差し入れだったりする。
と、そこにザッ、ザッ、と雪を踏む足音が近づいてくる。
「遅くなったね。」
そう言って現れたのは恵那の父、潤だ。いつの間にか到着したらしいが、その腕に抱かれている
犬に、思わず驚きの声を上げる野クル勢。
「ち、ちくわだーーーっ!?」
チワワ犬種のちくわは寒いのが苦手だ。ましてやもう10歳を超えた老犬、それがこの雪の
ちらつく場所に現れたことに驚きを隠せない。
「恵那は
来たんだ、無理そうなら帰るけどね。」
潤に抱かれたちくわは一同を見てぐいぐいと身を乗り出す。飛び降りる寸前にしゃがんで
ちくわを解放すると、そのままみんなの所にダッシュして・・・
手を広げて抱き抱えようとする全員をスルーして、健吾と冬美の胸に飛び込んでいく。
「懐っこいたいねー、モフモフばい。」
「よーしよしちくわ、いつも可愛いねー。」
「・・・こいつ、ちくわって言っとか?」
ポテトサラダをつめたくなる名前ばい、と呟く健吾にハテナマークを浮かべる冬美。さやかが
そんなやりとりを見て、一同は3つに増えたマスコットをほっこりした笑顔で見守る、
それはやがて二人と一匹が寄り添ったまま、すやすや寝息を立てるまで続いていた。
夜が更け、年が明ける。そして松ぼっくりキャンプ場は初の新年を、夜明けを迎える-
次回、クライマックス!