グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
富士の山頂に今、
「登るぞ、ダイヤモンド富士!」
ひょこっ
「え・・・えぇぇーっ!?」
リンが変顔でそう嘆くのも無理からぬ事。なんと姿を見せたのは丸い物体ではあるのだが。
それは輝く太陽ではなく、光を発しない藍色の玉だったのだから。
「リンーっ、初日の出、釣れたよー!」
見れば富士山頂の淵に恵那が立って、釣り竿でその藍色の物体を釣り上げている。さらに
ポンッ、と音を立てて引っ張り上げると、玉の下にさらに大きな藍色の玉がまるでダルマの
ように引っ付いて出てくる。
「 あ た し か よ !」
出て来たのは富士山よりもでっかい志摩リンの顔だった、昔よく結っていたおだんごヘアーが
最初に見えた円だったみたいだ・・・なんだこれ。
-高下名物、ダイヤモンド富士しまりんだんご-
「名前長げーよ!」
「リンちゃーん、こっちも爆釣だよ-。」
なでしこの声に振り返ってみれば、なんと後ろは芦方のていぼうでみんなが竿を出している。
っておい!南アルプスどこいった!?
「こっちも釣れましたー!」
「おー、また釣れたばい、生きの良さそうなシー・マリンたいね。」
「 そ れ も あ た し か よ ! 」
水中からまるでクラゲのような水菓子を、ご丁寧にリンの絵が描いてあるその謎物体を
次から次へとクーラーボックスに投入する野クルとていぼう部の面々。それはやがて
クーラーボックスから溢れ出し、大軍となってリンの方に向かって来る。
「ひ、ひええぇぇぇっ!」
白目をむいて逃げ出そうと振り返れば、富士山からは先程の巨大しまりんだんごの大軍が
なだれ落ちて来ていた。
しまりんだんご軍とシーマリン軍が今、海と山の狭間で激突する!
◇ ◇ ◇
-ピピピッ、ピピピッ-
スマホの目覚ましの音でうっすらと目を開けるリン、手に取ってアラームを止めると
誰に向けるともないジト目で一言嘆いた。
「・・・なんだ今の夢?」
1月1日、午前5:30。すでに管理棟の中にはリンしかいない、おそらくみんなもう起きて
今日の仕込みに入っているのだろう。自分も一緒に起きると言ったが、雑誌取材の仕事が
控えているリンはゆっくり眠るべきだと皆に勧められて、起きる時間を遅らせていたのだ。
「あ、リンちゃんおはよー。あけましておめでとう!」
管理棟から出たリンをなでしこが、そして準備にかかっている皆が出迎える。
あおいが米を洗い、大野が魚介の出汁を取ってアクをすくい、黒岩は眠そうにに欠伸をしながら
恵那と一緒に魚に包丁を入れている。
「次、ロックグラスにウィスキー2、ジンジャエール6、残り2は氷だからあとでな。」
「りょーかいっす!」
千明、陽渚、そして夏海の3人はカクテルの準備担当だ。千明がブレンド比の指示を出して、
陽渚がグラスを、夏海が飲み物を持ち寄ってグラスに注ぐ。ちなみに千明はワイシャツに
ジャケット+蝶ネクタイというバーテンのコスプレまでしている凝りようだ。
「こーゆーのは形から入るのが大事なんだぜ!」
似合ってはいるがいかにも寒そうで、白い息をかじかむ手に吐きかけながらもカクテルを
制作していく。ちなみにホットカクテルは本番直前でなければ冷めるし、ノンアルカクテルは
凍りつく恐れがあるのでやはり後回しだ。まぁ注文の大半が氷点の低いアルコール入りだったので
事前準備が進められるのは助かるのだが。
「空は・・・未だ微妙か。」
リンが息を吐きながら空を見上げる。まだ夜は暗く天気ははっきりとは分からないが、
雪は小康状態でちらついているし、星が見えない以上晴れているわけもない。
つい先ほど見た縁起でもない夢を思い出して、うぁ、と息を吐く。
その様を、魚を捌きながら見ていた黒岩がふぅ、とため息を漏らす。あのダイヤモンド富士に
対する執念ともいえる志摩さんの想いは本当に凄かね、と。
「おはよーございます。」
「あ、木村さん、新年あけましておめでとうございます。」
テントからカメラを手に出て来た木村と挨拶を交わすリン。木村は皆に許可を貰って
仕込みの風景もそのカメラに収めていく。
ひとしきり撮影を終えると、サイトの隅っこに移動して電話している、どうやらビバークの
編集と連絡を取っているようだ、もうすでに完全に仕事モードに入っている、流石プロだ。
「木村さんはいつからカメラを?」
戻って来た木村にリンがそう質問し、周囲のみんなも思わず手を止めて聞き入る。
ちょっと太った温和な顔の、まるで相撲取りのようなイメージのある彼がどうして
こういう仕事をしているのかには興味を惹かれる。
「中3の時だね、ちょうど卒業アルバム委員に指名されて、いいカメラを使う機会に
恵まれたんだ、それからすっかりハマっちゃってねぇ。」
なるほど、写真に凝ったことで被写体を求めてアウトドア嗜好にはまったというわけだ。
その後は逆に、みんながどうしてキャンプや釣りにハマったのかという話になった。
普通に家族の影響というものから、冬の本栖湖で寝入って真っ暗になってしまい
キャンプ少女に救われたとか、たまたま知り合った人に勧められてタコを釣ったはいいが
迫り来る軟体動物の恐怖に腰が抜けて、助けてもらう代わりに強制入部させられたとかの
奇想天外な理由まで様々な逸話が飛び交っていた。
会話が弾み、仕込みが進むに応じて時計の針は進む。地平がうっすらと明るくなる
6時ごろには他のキャンパーたちもぞろぞろと起き出して来ていた。顔を洗い、
ジャケットを羽織って狙った撮影ポイントを確認したり、振る舞い鍋の中身を
興味深そうに覗き込んだりと、みなこの後のイベントを心待ちにしているようだ。
6:30。健吾と冬美がそれぞれの母親を引っ張ってテントから上がって来る。ちなみに
2人は夕べ同じテントで、しかも同じシュラフで寝たらしい。まぁまだ7歳だし、南国少年の健吾と
寒がりの冬美にとってお互いは、さぞ寒さをしのぐいいカイロになった事だろう。
もっとももし今後も付き合いが続いたなら間違いなく赤面の黒歴史になるだろうが。
最後に起きて来たのは恵那の父、斉藤潤とちくわだ。結局ちくわはここの寒さも
なんのその、寒そうなそぶりも見せずにぐっすり眠ったそうだ。よほどこのキャンプ場が
肌に合っているらしい。
「さてみなさん、初日の出まであと40分です、フォトコンテスト参加希望者はグラスを
持ってスタンバイにかかって下さい。」
千明がそう言って並ぶ皆にグラスを渡していく。いよいよ裁定の時、果たして
ダイヤモンド富士は見られるのか・・・?
「あ・・・あれ、犬山さん!!」
「なんや?まさか・・・・朝焼けや!」
夏海の驚きに応えるあおい、明るみを増す富士のふもとが赤く焼けていた。
「昨日の雪!それが南下してあのへんに行ってるんだよ!」
なでしこがぐっ!と拳を握ってドヤ笑顔を見せる。朝焼けは前後の天気が悪い方が
より綺麗な赤みを見せるものだ。昨日降った雪が逆に思わぬ絶景を見せてくれそうだ。
「しかもうまい感じに山頂付近は雲がかかってませんね、これなら・・・」
「頼むぅっ!このまま、このままぁっ!!」
美波の期待に思わず祈りの言葉を吐く千明、このままいけば朝焼け+ダイヤモンド富士という
期待を超える絵が見られるではないか・・・!それに呼応して全員がわくわくを掻き立て富士山を
注視する。このまま、このまま来い、初日の出!
地平付近の空が真っ赤に焼けた状態で。どんどん明るさを見せる空。もう富士山のかからない
所では日の出はすんでいるだろう・・・あと少し、もうすぐ、もうすぐっ!
「・・・あ、あれ!」
大野の言葉と同時に全員がはっ!と色めき立つ。今まさに富士山頂が輝かんとしている時に、
彼女が見つけた大きなリングが姿を現したのだ。
「うおぉぉーーーっ!虹ばい、虹が輪っかになっとっとよーっ!」
「きれい・・・すっごくきれい!」
すでに富士の山頂付近まで達した太陽の周囲、ちょうど富士山のふもとの外までかかる
大きなリングが、美しい7色の輝きを発しているではないか。
「ハロ!いや、
木村がカメラを覗きながら思わずこぼす。ごくまれに見られる太陽の周りを囲う大きな虹、
日の出や日の入り時に見られるそれは
自然現象として知られていた。
朝焼け、幻日、そして今・・・ダイヤモンドの輝きを備えた朝日が、富士山頂からのその光が
松ぼっくりキャンプ場の新年を照らし出す。
誰もがその幻想的な状況に固まっていた。プロの木村はさすがにシャッターを
切り続けているが、他の参加者はこの美しすぎる光景にスマホを構える余裕さえない。
特にリンは今までの心配事がまさにひっくり返るように最高の状態になったことに、
思わず感動して目から熱いものを流す。
「志摩さんの執念が呼んだ景色やね。」
そのリンの肩に手を置いて黒岩がそう告げる。そう、自分は「天気とは喧嘩できん」と言い、
木村は「雪見酒フォトコンでもOK」と言っていた。だがリンだけは最後までダイヤモンド富士の
初日の出を願い続けた。
ならばこの日の出は、そのリンの意思こそが呼びこんだのだろう。
「・・・綺麗ですね。」
涙を拭こうともせずに、美しさの3重奏、いや富士山も込みで4重奏に見入るリン。
こんな美しい風景が見られる、想い描いた景色を超える世界を堪能できる、身近な友人と、
懐かしい仲間と、同じ趣味を共有する人たちと一緒に。
本当に、アウトドアって素晴らしい。
思わず一歩踏み出したリンの足に、何かがコツ、と当たる。
彼女はその感触を知っていた、キャンプを始めてからずっとの付き合い、それはとうとう
ひとつのキャンプ場の名前にまでなった。そんな木の実をかがんで拾い上げ、目の前の美しい
輝きにかざして、そのシルエットを楽しむ。
その松ぼっくりは、ごく当たり前にリンに話しかける。
\アケマシテオメデトウ/
おーい。フォトコン忘れてるぞみんなー!