グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
・・・エッチな話じゃないよ?
午前11:00、年越しキャンパーたちの楽しい時間が終わり、チェックアウトの時間となる。
「んじゃ先に帰るわよなでしこ、気を付けてね。」
「家で待ってるよー、なでしこー。」
桜と綾乃がなでしこにそう伝えて車に向かう、各務原一家が撤収を終えて帰宅の途に就くが、
便乗して綾乃もそのまま泊めてもらうことになっていた。最も綾乃はふもとのホテルにバイクを
置きっぱなしなので下山してからは運転して行くのだが。
「ではお先に失礼します、志摩さんも良い正月を。」
「ご苦労様でした、ビバークの新年号楽しみにしてます。」
ビバークカメラマンの木村も迎えの雑誌スタッフの車に機材を積み込み、仕事を終えてこの
キャンプ場を後にする。ビバークとしゃちほこさんぽ、両雑誌の編集がここからスタートだ。
「それはこちらのセリフですよ。あ、写真送りますんで使ってくださいね。」
木村の心遣いに感謝の一礼をする。思えばこの取材で彼と共に奔走した経験は雑誌ライター
として、とても貴重な経験になったもんだ。
「鶴木さん、またデザインの話しよーな!」
「うん、是非お願いするよ。」
犬山家の車に乗ったあかりが車窓から陽渚に手を振る。姉の縁で知り合った遠方の
プロデザイナーは、あかりにとって嬉しい出会い、そして良い友人となった。
・・・嘘に引っかかっていいリアクションくれるし。
恵那の父、潤もちくわを連れて退散。老犬のちくわはさすがに精魂尽き果てたようで、潤に
抱かれたままスヤァ顔で爆睡中だ。リンの両親や美波の夫、大町悟もすでに家路についている。
これから初詣に行く者、撤収して爆睡する者、あるいは里帰りする者など、ここからはそれぞれの
予定を追ってキャンプ場を後にする。
これで芦方勢を除く全キャンパーが撤収を完了した。一カ月前から準備に追われたこの
ダイヤモンド富士初日の出イベントは無事に大成功のまま終える事が出来たのだ、本当に
良かった。
すでに山梨県観光推進機構から引き継ぎのスタッフも到着しており、今日宿泊のお客を
迎える準備が始まっている。といっても今日は特にイベントも無いので、来ている2名で
充分に対応できるのだが。
「さーて、ウチらはどうすったい?」
黒岩の言葉に大野がぽん!と手を打って笑顔で提案する。
「私、この後なでしこちゃんの案内でワカサギ釣りに行くんですけど、みなさん一緒に
どうですか?」
その提案におお!という顔をする一同。南国
氷の張った湖面に穴をあけてするワカサギ釣りは遠い世界の憧れの釣りだ。
「はーい、行く行くー!」
「わたしもー。」
「そりゃ行くっきゃないでしょー!」
夏海、陽渚に続いてしずくも参加表明。それを見て黒岩も「んじゃ私も行くっかね。」
と言った後、後ろ指を指して呆れ顔で続ける。
「・・・で、アレどーすっと?」
指先の向こうにいたのは、未だに高イビキで鼻提灯を出している『怪人ブランケット呑兵衛』
2匹。健吾と冬美が「おきなっせ」「カゼひくよー」と揺り動かしているが、それでも
動く気配がない。どうやら10年ぶりの呑み友との再会に普段以上に痛飲したと見える。
「車に押し込んで連行すればオッケー!」
ひょこっ、と顔を出してそう言ったのはなでしこだ。これから向かう長野県、白樺湖までは車で
2時間弱、運んでいる内に目も覚めるだろう。
「無理言ってすみません。」
「いいよー、ホントは富士五湖でやる予定だったけど、どこも氷結してなくって・・・」
大野が持ちかけたワカサギ釣りだが、山梨県内は現在湖が凍っておらず、舟釣りやドーム釣り
でないと釣れない、どうせなら氷上穴釣りのできる長野まで足を延ばして釣る事になった。
「んじゃ、さっそくあの『荷物』積み込むか。」
「ああ、ちょっと待ってー。」
千明が動こうとした皆を制して後ろを振り向くと、あおいたちをちょいちょい、と手招きして
呼び寄せる。改まった態度で千明、リン、なでしこ、恵那、あおいが居並んで芦方一同を見据える。
「このたびは、本当に色々ありがとうございました。」
「「ありがとうございましたー。」」
千明の先導に習って深々と頭を下げる5人。そう、この松ぼっくりキャンプ場の年越し
ビッグイベントは、彼女たちの協力無くしては決して実現しなかった。
「で、これ・・・本当に少しで」
「お金は受け取らんっとよ。」
千明がカバンから出しかけた封筒を手のひらで押さえ、ぐい、とカバンに戻す黒岩。
「い、いや・・・そういう訳には。」
「うむ、これだけお世話になったのだから。」
千明に続いてリンがぐっ、と拳を握って目を光らせる。なでしこと恵那、あおいもうんうんと
頷くが、芦方勢の反応は皆が断固拒否の姿勢だった。
「いいですよ、あたしたちもめっちゃ楽しんだし。」
「私なんて、なでしこちゃん家でお料理までご馳走になったし・・・むしろこっちが払いたいですよ。」
にかっ、と笑って答える夏海と、他の皆に悪いなー、な顔で指先をちょんちょんしながら
小声で続く大野。
「10年も待たせたんですからお金なんていいですよ、ボランティアっていう事にしてください。」
笑顔で続いたのは陽渚だ。かつて芦方まで来てくれた野クルの面々と交わした、今度は
自分たちが山梨に行くという約束。だがそれを果たしたのは、紆余曲折あって10年も後の事に
なってしまった。しかも彼女たちが自分たちでキャンプ場を作るという偉業を達成
していなければ、それこそ立ち消えになる可能性大だったのだから。
「いや・・・これは大人としての『けじめ』です。どうか受け取ってください。」
千明が神妙な顔で再び封筒を差し出す。それはむしろ彼女たちへの礼というよりも、自分たち
山梨県民が他県の厚意に甘えて、礼を尽くさない存在になるのを避けたいという意図が強かった。
食材、運搬、調理、片付けに至るまで助力頂いた遠方の来賓をタダ働きさせるなど、どうして
出来ようか。
「けどさー、それ公費じゃないでしょ・・・みんなのポケットマネーじゃない?」
しずくの言葉に千明たち5人がうっ、という顔をする、どうやら図星のようだ。一応封筒には
入れているとはいえ、素封筒に領収書らしきものを誰も持っていない状態では、社会人歴の長い
しずくは騙せない。
「ますます受け取れねーって!」
「あたしらの友情はお金で買えるもんやったんやね・・・しくしく。」
手のひらをぶんぶん振りながら下がる夏海の横で、黒岩がわざとらしい演技でウソ泣きをする。
むむむむむ、と向かい合う山梨勢と芦方勢。お互い引く気配の無いまま少し気まずい
空気が流れる。
と、その空気を打ち払う救世主が現れた・・・酒臭い顔で。
「んじゃそのお金、みなみちゃんに渡したらいいんじゃない?」
黒岩の肩に顔を乗せながらそう言ったのは、ようやく起きてきた
なんでそうなるの?と全員が彼女に習って不思議顔になる。
「でー、そのお金で
全員の空気が固まった後、一斉に「あ!」と声を上げる。
本栖高校野外活動サークルと海野高校ていぼう部。10年前に縁あって交流した両部活は、
あるいはその後も交流が続いた未来もあったかもしれない。だが思わぬ
交わりを断ってしまった・・・ハズだった。
だが、その切れた縁を再び繋ぐ方法が思わぬ形で提案されたのだ。鳥羽美波改め大町美波は
現在も野クル顧問であり、さやかからていぼう部顧問を引き継いだ帆高夏海もここにいるなら
話は早い、最大の懸案である旅費も今まさにここにあるじゃないか!
「それだあぁぁぁぁっ!!」
「すごい、すごいよそのアイデア!」
「すっごくいいですよ、さすがさやか先生!」
「たまにイイ事言うばいねぇ、このヒトは。」
全員が笑顔でさやかの提案を絶賛する。そう、自分たちが南国で経験したあの時間を、
今この山梨で見た美しい景色を、部活の先輩として後輩たちに繋いでいけるのはなんか嬉しくて
堪らなくなる。
世代を超えて縁を深める、まだ見ぬ少年少女に、自分たちと同じ、いやそれ以上のアウトドアを
堪能してもらう『道』を示す、それはなんて素敵な事だろう。
皆が感極まってさやかに群がってもみくちゃにする。その様を見てハテナマークを浮かべる
健吾と冬美。
後にていぼう部と野クルの部長を務める2人が、その光景の意味を知るのはもう少し後の話。
今回の謝礼の話、原作や現実のいろんな要素が詰め込まれています。
なでしこは原作(薪割りの話)や劇場版で、自分たちの経験を後輩や他の人たちに伝えて
いきたいと言ってましたが、そんな感情をこの場の全員が共有したのを表現したくてこんな
話になりました。
あと某『雪かきツアー』に対する作者からの苦言でもあります。あれ旅行会社が経費
全部持ってってるだろ・・・千明たちにあんな真似をさせたくなかったというのもあって
謝礼を用意させました。