グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
「ふぃ~、ようやく着いたわぁ。」
「・・・そう、ですね。」
白樺湖から車で約二時間、ようやく松ぼっくりキャンプ場に帰還したあおいの言葉に
夏海がやや寂し気に、それでも笑顔で頷く。
芦方勢の山梨遠征もいよいよ終わり、ここで一息ついた後に長い長い帰り道の途に就く。
そう、ついにお別れの時間が来てしまったのだ。
「色々と楽しかったですよ、また夏にお会いしましょう、帆高さん。」
美波の言葉に、あいよーと返す夏海。現役の教師3人が乗った車内でいろいろと為になる話を
交わす事が出来た、半年後の再会を先の楽しみにキープして。
続いて到着した恵那の車から黒岩としずくが降りた後、うーんと体を伸ばす。
「斉藤さん、いろいろお世話になりました。」
「またよかったら芦方に来るとよかぞ、待っとるけんね~。」
年上の女性二人に礼を言われ、さすがの恵那も恐縮気味だ。誰かをさらっと手玉に取るのが
得意な恵那だが、この二人はそんな自分の思惑をあっさり受け流してくれる。それだけに
仲間内には無いやりとりがなんとも新鮮であった。
少し間を開けて千明の車も到着する、乗っていたのはリンとさやか。そして移動中ずっと
神妙な顔をしていた健吾と、その腕にすがり付いてしゃくり上げ続けている冬美。
移動中リン達がずっとなだめ続けていたが、それでも二人の子供は間もなく訪れる別れに
悲しさを隠せなかった。
大町冬美と小谷健吾。遥か遠くの地にいた7歳の少年少女はこの地で出会い、かけがえのない
友達となった。出会いと同じ時間を過ごし積み重ねて来た楽しい思い出は、そのまま別れの
悲しさへと置き換わるのだ。
「ほら、健吾!早く降りなさい。」
さやかの強い口調にも健吾は下を向いて無言で反抗する。冬美の腕にすがり付いて泣く
姿を見て、彼もまた「別れたくない」という意志を共感してしまっていたのだ。車の中で何度も
「あと一日でいいから居っとったい」とワガママを言っていた。
(さよならだけが人生、か。)
その様を見て千明は思わず心で嘆く。普段から引っ込み思案で友達を作るのが苦手な冬美にとって
健吾は本当に宝物のような友人だっただろう・・・せめてもの救いはまだ二人が男と女の認識が
ないことだろう。もしこれが初恋になっていたらいよいよ別れが悲劇になる所だった。
「しっかし、なでしこの奴遅いなぁ。」
気分を入れ替えようとそう嘆く千明。なでしこの車とは途中のチェーン脱着所での処置の
遅れから未だ到着していない。まぁ遅ければ遅い程、あの二人が一緒にいる時間は引き延ばせる
のだが・・・。
と、駐車場になでしこの車が到着する、いよいよその時が来たかと一同が心の準備をする。
が、後部座席から出て来た陽渚を見た瞬間、一同がうわ!という顔をする。
「うう~~、な、なんとか、間に合った・・・うぷ!」
目の下にクマを作り、青い顔で口を押える陽渚。明らかに車酔いしているのを見て一同が
駆け寄り、大丈夫かと背中をさする。
「あ、ありがと~。で、健吾君と冬美ちゃんは?」
青い顔のまま千明にそう問う陽渚。未だ千明の車の中にいる事を聞くと、ふっふっふ~と
笑いながら車に近づいていく・・・見た目が不気味で怖いんですけど。
その様を一同は不思議そうに見るが、陽渚と車内で一緒だったなでしこと大野はふふっ、と
笑顔を見せて先の展開を見守る。
「健吾君~、冬美ちゃ~ん、いーモノあげるね~。」
その言葉にうつむいていた二人が「えっ?」と顔を上げる。陽渚が二人の目の前にかざしたのは
小さなひもで吊るしたふたつのフェルト製ストラップ。それを見た二人は、いじけていた顔を
まるで花が咲くようにぱぁーっ!と明るくさせる。
色黒の男の子の、にかっと笑う顔と、色白で長い黒髪のはにかんだ笑顔がぴったりホッペで
くっついた二人そのままの顔-
「うわー!よう出来とっとー、すごかばい!」
「すっごーい、ケンちゃんそっくりー。」
渡されたストラップを手に取って目をキラキラさせる子供たち。先程までのイジケ顔は
どこへやら、すっかり笑顔になっていた。そう、お別れの時に心の慰めになるもの、それは
「思い出の品」。
仲睦まじいふたつの顔は、これから別れる二人の縁を繋いでいるような気持ちにさせてくれる。
わらわらと集まる面々。そのストラップを目にした一同は、まず揺れる車内でそれを作り上げた
陽渚の執念にまず驚き、その後に自分たちが10年前に受け取ったソレを思い出す。
「ふっふっふ~、それを持ってるとね、また絶対会えるんだよ~。」
陽渚の言葉に、きょとんとした目を向ける健吾と冬美。だが少し間をおいて二人はそれが
ただの慰めでしかないと気が付く。そんなわけない・・・
「健吾、周りをよく見なさい。」
「ほら冬美、顔を上げて。」
二人の母親が、優しい声で我が子を促す。応えて顔を上げる少年と少女は、車を取り囲む
その光景に、思わず目を見開いて固まる!
「にっひっひ~」
「どやぁ!」
「ほれほれ。」
「私たちも持ってるよ~」
大人たち全員が車を囲んで、ふたつの顔が並んだストラップを手から下げて見せている、
それは10年前、芦方にて出会った仲間たちの記念にと皆に配ったふたつの顔のストラップ。
時を経てかなりくたびれてはいるものの、全員がそのときの記念の品を持ってきていたのだ。
あの懐かしい仲間の事を思い出させてくれる、その再会の約束の品を。
「鶴木さんの言ったことは本当よ、こうして私たちも再会できたんだし。」
さやかがグビ姉とビールバカの顔のストラップをひらひらさせてそう諭す。缶ビールと
カップ酒で乾杯するその絵に(・・・お母さんってば)と苦笑いする少年少女。
「だから、ね。今日はお別れ。」
美波の言葉に、健吾も冬美もストラップを胸に抱いたままこくりと頷く。そう、また会えるなら
それを楽しみにすれば笑ってお別れできるものだ。車から降り、全員が輪になって集合する。
と、なでしこがびくん!と反応し、大野が「あ!」と声を上げる。彼女たちが反応したのは
この松ぼっくりキャンプ場に小音量で流されているラジオの放送だ。
「みんな、ラジオ聞いて!」
なでしこの言葉に、全員が耳に手を当ててラジオに聞き入る。
-それでは最後の一曲、東京都の”まるしこ”さんからのリクエスト、”となりのとなり”-
実はなでしこは運転中、大野に頼んで地元のラジオ局にこの曲をリクエストしていたのだ。
お別れを悲しむ冬美たちにせめてこの曲をと、わざわざ到着時間にタイミングを合わせて。
それはかつて芦方から帰る時に別れを惜しんで涙した、なでしこだからこその気遣い。
あの時に黒岩から、ていぼう部から『歌』を送られ、それで笑って別れられた記憶の再現。
-君は今どうしてますか、どんな景色を眺めてますか-
-私の事を覚えていますか、出会った時のことを-
その曲は数年前のアニメのエンディングテーマ。月から地球に来た青年と恋に落ちた姫が、
世界の様々な景色を彼と楽しんで、彼が月に帰った後に想いを歌った曲。。
「「たーのしい時間を過ごーしたね、思い出いーっぱい作ーったね♪」」
「「キレイなー景色にーかっこまっれて、ふたりで世界を感じたあの時♪」」
即座に反応してみんなが歌う。そう、あの芦方の夏のように。
「「今はもう、君は遠くに・・・だけどね♪」」
健吾と冬美も合唱に参加する。この後の歌詞を知っていたから、尚更に。
「「空をみあーげるー、あの日見たーゆーうやけーをー、あの向こうにー君はいるー♪」」
「「そう、わーたしーのとなりには、そらがある、そらのとなりには、きーみーがーいるー♪」」
いつかまたきっと会える、会いに行く。その決意を全員が胸に刻んで、歌う。
-となりの、となりに、きみがいる-
-だから、いつか会いに行くよ、翼を広げて-
赤富士が見下ろす1月1日の松ぼっくりキャンプ場、夕焼けに染まるその場所で、彼と彼女は
再会を歌にして誓った。
今回の話、本当はゆるキャン△の挿入歌”この場所で”の歌詞を使いたかったのですが・・・
著作権先が分からねー!という事でオリジナル作詞してみたけど・・・
歌詞の才能が無い事を思い知るだけでした(死亡