グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
・・・ていぼう2期マダー?
ピーー
軽めの電子音と共に高速バスの降り口が開く。ぞろぞろと下車する客に混ざって、一人の
少年がチケットの半券を運転手に渡し、会釈してその地に降り立つ。
「うっわ、やっぱ寒かばい・・・」
浅黒く日焼けした顔に短いスポーツ刈りの髪型と、決して長身ではないけど引き締まった
体をしたその少年が4月の寒さに縮こまるその姿は、いかにも温かい地方からやってきた
南国少年だという印象を与えている。
ここは山梨県富士川町高下。道の駅、”ダイヤモンド富士”。
「このへんも変わったなー・・・昔は細っそい一本道しかなかったとに。」
はじめてこの地に来たあの10年前、ここは山際のややさびれつつある田舎町という印象だった。
しかし今は幹線道路が山を抜け、まだ新しい道の駅が地元の野菜や土産を販売し、軒先には
軽食やスィーツの露店が軒を連ねる。そして土曜日の昼らしく大勢の観光客やドライブ休憩の
ファミリーでごった返していた。
「
その看板を見てそう呟いた少年は、駐車場の切れ目から下に続く木造りの階段を降りながら
遥か遠方の霊峰富士を仰ぎ見て、そこから下方に視線を落とす。
眼下に映るはキャンプサイト”富士川松ぼっくりキャンプ場”。
◇ ◇ ◇
「はい、記入終わりました。」
「今日から一泊なのな、珍しいじゃんこんな時期に。」
キャンプ場の管理棟、眼鏡をかけた30過ぎに見える受付女性に書類を出しているのは
1人の少女。黒髪をポニーテールにまとめ、すらりとした細身ながら出る所はしっかり出ている、
凛とした雰囲気を纏ったその娘、大町冬美は笑顔で管理人の女性、岡崎千明に渋い笑顔で返す。
「ま、まぁたまにはソロもいいかな、って・・・」
目線を泳がせ曖昧な返事をする冬美に、千明は眼鏡を光らせてニヤリと疑惑の笑みをこぼす。
これは何か隠しているな~、と。
一方の冬美は冷や汗をかきながらも笑顔を崩さない、ただ心の中では(あっちゃー)と
嘆いているのだ。よりによって今日の担当が千明さんとは・・・いい人ではあるんだが、どうにも
下世話な絡みをすることが多く、今回のキャンプに同伴する相手を知られたら絶対に
冷やかされること間違いない。
「じゃ、じゃあ早速設営してこよっかな・・・」
なるべく距離を置こうと、そそくさと出口の方に移動する冬美、ドアノブに手を掛けて・・・
-ガラッ!-
力を入れる前に、ドアが勢いよく開いた。
「ひゃあぁぁっ!け、健ちゃん!?」
「おお!冬美、もう来とったとか。」
びっくりした猫のように飛び上がって驚く冬美の前にいたのは、はるか遠方の愛しの君、
小谷健吾その人であった。
「やっぱりかー、そんなこったろうと思ったけどな。健吾君おーっす!」
「ご無沙汰してます、千明さん。」
ニヤニヤしながらそう話す千明に健吾は綺麗な姿勢で会釈する。体育会系のイメージが
ある彼だけにそういう動作も気取った印象が無く、他意のない礼儀正しさを感じさせる。
一方冬美は照れながら頭を抱えていた。千明さんにはバレるわ、取り乱した自分を
健吾に見られるわでもう最悪である、なんとか話題を反らさないと・・・
「そ、そうだ健ちゃん、頼んでたアレ持ってきてくれた?」
「ん?ああ。ちゃんと持ってきたばい、おれらで釣った魚の干物やろ?」
そう言って荷物からビニールを取り出す健吾。中には天日でじっくり乾燥させた地元
地魚の干物が多数入っていた。
「わーい、おっさかなっ、おっさかなっ♪」
干物袋を掲げてわざとらしく飛び跳ねる冬美。だが多少棒読みなせいで演技なのがバレバレだ。
きっしっしと笑う千明の横で、健吾は(お前なぁ)という顔で呆れている。
観念した冬美を含む3人で管理棟のテーブルを囲み、設営前のティータイムとなった。
「しかし、ほんとこのへん変わりましたね、にぎやかになったっていうか、活気あるばい。」
「だろー?結構頑張ったんだぜ、あたしらも。」
山梨県観光推進機構に所属していた千明は、この高下地区の発展のまさに中心人物といっていい
存在だった。そのきっかけとなったのが10年前のキャンプ場設立と、その年明けに企画された
雑誌社主催のフォトコンテストだったのだ。
-遠方のアウトドアクラブの女学生同士、美しいダイヤモンド富士を背景に10年越しの交流-
その記事と写真は大きな話題となり、多くのアウトドア愛好家がこの高下の地に関心を
寄せたのだ。千明たちはそれを町おこしに大いに活用すべく各方面に働きかけをし、また
地元の人たちへの根回しに奔走して町の発展に大いに尽くした。
富士川町と
その結果、まるで違うカラーを持つ双方が影響し合って、より魅力ある街づくりを後押ししてきたのだ。
道路を通し、土産物屋や観光地を整備し、新たに温泉も掘り当てて企業誘致した。そして昨年
ついに大きな道の駅が完成し、高下一番の名物”ダイヤモンド富士”の名が冠されたことで
押しも押されぬ観光地としての地位を確立したのだ。
ちなみに千明は地元で親しかった農家の岡崎氏のお孫さん(7歳年下)と結婚していた。
彼女のそんな地域密着型の行動力も開発に際し、地元の理解を得るのに一役買ったのだ。
結婚後は観光推進機構を退職し、その退職金でふもとの町に居酒屋”ぐびねぇ”を開店、
夜は店のママさんとして客のテンションを上げまくっている。ついでに昼間は暇なので、
こうして時々キャンプ場の受付のバイトをしているという訳だ。
「ふたりも大人になったら飲みに来いよ、楽しいぞー。」
「ええ、母も連れて来るばい。」
「ウチのお母さんはすっかり常連だけどねー。」
ちなみに居酒屋ぐびねぇを立ち上げるにあたり、千明の恩師である大町美波と遠方の友人
鶴木陽渚(旧姓)は大いに協力してくれた。特に陽渚は店のレイアウトから出すカクテルの
チョイスまで、そのデザインセンスを大いに生かしてコーディネイトし、店名の通り女性客が
気兼ねなく楽しめる店として有名になっていたのだ。
「で、どうだ今年の
健吾の問いに、冬美はあははと頭をかいて、ちょっと困った顔で返した。
「それが・・・新入部員足りなくて、また
「あらら。まぁ去年は3年が5人もいたかんね~、部費も減るんやろ?大変やな部長。」
現在冬美が部長を務める本栖高校、野外活動サークルはいつも人数が部活認定できる
4人前後のギリギリで、人数が足りている時は野外活動クラブ(通称「野クラ」)、
足りない時は発足当時の野外活動サークル(通称「野クル」)という名称になっていた。
「そっちはどうなの?ていぼう部の部長さん。」
「ああ、こっちは3人入ってくれたんで今年も問題無したい。」
「内訳は?男女の。」
「3年は俺、2年は冬美も去年会った松茂さん、1年は男子1人に女子が2人ばい。」
「冬美ちゃ~ん、浮気が心配かね?」
千明のツッコミにうぐ、とうめいて頬を膨らませる冬美。去年芦方で会った松茂さんも
結構可愛かったし、あと新入生にも女子が2人居るとなれば気にはなる。
「そんなことせんて、俺は冬美一筋やって。」
「ちょ///このバカ!何口走ってんのよ!!」
ごく当たり前のようにそう発する健吾に、冬美が鼻まで真っ赤になってあたふたして、
しまいに(もう、バカ!)と健吾を突き飛ばす。
ふたりが出会った10年前から、本栖高校野外活動サークルと海野高校ていぼう部の交流は
続いていた。夏休みには一年ごとに一方がもう一方の土地へと旅行合宿を実地し、世代ごとの
生徒たちの交流を重ねて行った。健吾も冬美も高校生になったら自分たちも、との思いを叶えて
2年前に再会を果たす。そして今年はついにお互い部長になったのだ。
10年前のあの日、初めて会った二人はごく自然に友達になった。まだ7歳の二人に恋愛感情が
芽生えるはずは無かったのだが、その思い出だけはふたりの心にしっかりと残っていた。
それを繋いでいたのはあの日陽渚さんに貰った、ふたりの顔が頬をくっつけ合っていたストラップ。
やがて男女を意識する年齢になるとそのストラップの顔がぴったりくっついている様にすら
心が動き、想いが募った。再会を約束する想いはいつしか「恋心」という色を一筆追加していた。
そして2年前、新1年生部員として再会したふたりは思い出の中より遥かにいい男に、いい女に
なっていた想い人に思わず感激した。それは”美しい思い出”という絶対的な存在を凌駕する
ふたりの成長、そして魅力。そう、いわば”人間力”に感動し、ふたりは自然に恋仲となった。
・・・まぁ見つめ合って涙を浮かべる二人に、同伴していた先輩たちがドン引きしていたのは
このさい置いておこう。
「ごちそうさまでした。じゃ、設営行くっか。」
湯呑を置いてそう言う健吾に、冬美も続いて立ち上がり、荷物をしょい込む。
「うん、今回はどの辺にする、また一番上?」
「
連れ立って管理棟を後にしようとする二人の背中に千明が一言。
「不純異性行為は禁止だぞー、ちゃんと別々のテントで寝ろよ~。」
「しませんっ!」
「当然たい!!」
ぐるん!と振り向いてそう叫ぶ二人。さすがに健吾の顔も真っ赤だ。
「ま、二人には前科があるからな~、ほれほ~れ。」
千明がタブレットで二人にかざして見せたのは、封筒型シュラフに寄り添って寝ている
あの幼い日の二人の姿だった。
「なんて写真撮ってるんですかーーーっ!!」
真っ赤になって千明を追い回す冬美。それを見ながら健吾は「帰るまでに千明さんにその
データ貰おう」と心に誓うのであった。
テントの設営が終わり、ふたりはキャンプ椅子を並べて座り、寄り添って富士山を眺める。
「何度見てもでっかいばい、雄大さなら阿蘇も負けてないんやけどなー。」
「出た出た、熊本県民特有の負けず嫌い。」
「うっせ!」
くすくす笑う冬美にちょいヘソを曲げて健吾が返す。社交性があり度胸が据わっている
健吾は多数と話すときは冬美をリードするが、ふたりきりの会話になると逆に冬美が健吾を
手玉に取ることが多くなる。
「いよいよ3年かー、進路も考えんといかんよな。」
「大丈夫だって、健ちゃんアタマいいんだし。」
そう言ってイスに座ったまま健吾に寄りかかり、その頬に頬をくっつける冬美。まるであの
ストラップのように頬をくっつけたこの体勢が彼女は好きだった。
-本栖高校野外活動サークルと海野高校ていぼう部、その交流は今後も続いていく-
ゆるキャン△+放課後ていぼう日誌のコラボ二次創作
『グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦!』 -おしまい-
ご愛読ありがとうございました。