グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
「よぉーし!これで大晦日泊のお客、5人獲得っ!」
「それでもまだガラガラだけどな。」
懐かしの友人たちの参戦を取り付けてテンションの上がる千明をリンが冷酷にたしなめる。
大手雑誌ビバークの取材を控えて、満員とはいかないまでも当日の予約を8割は押さえて
おきたい所だ。満杯で約35組100人が目安として20組弱は欲しいのだが・・・
「やっぱ何か企画が欲しいよね。」
「一応元日の振る舞い雑炊は告知しとるんやけど、他の神社や温泉でもやっとるしなぁ。」
うーむ、と頭をひねる一同。と、その中で恵那だけがスマホをいじってメッセージを
送信し、皆に向き直ってこう発言する。
「浮かばないなら募集すればいいんじゃない?」
彼女が送った相手は、先程着信した
『HELP!企画アイデア大募集中。』
「待て待て、彼女たちは仮にもお客だぞ・・・ゲストに手間を取らせるのは・・・」
-ピコン!ピコポコンペコンヴーーッ!-
「うぉっ!?」
言いかけたリンのセリフを怒涛の着信が遮る、思わずスマホの画面を見た全員が、
そのメッセージを流し見て思わず顔をほころばせる。
『なになに?私たちで考えていいの?採用されるの?』
『ぜひぜひ!色々考えてみたいです。』
『協力させてください、せっかく参加するんですから。』
『とりあえず何が決まっとっと?』
・・・なんかもうやる気マンマンなのが文体と返信の速さからビンビン伝わって来る。
彼女たちは知る由も無いのだが、スマホの向こうのていぼう部OG達は、自らキャンプ場を
立ち上げたこちらの成果に対して、自分たちは未だに”山梨に行く”という約束すら
果たせていない事に引け目を感じていたのだ。そこにきて協力の要請が来たとなれば
向こうの面々が一念発揮するのも無理からぬ事なのだ。
そんな熱意に打たれて、リン達一同も事情や現状を報告し、何かいいアイデアはないかと
頼み込んでみる。
『一応、振る舞い鍋はやることになってるんだけどなぁ・・・それだけじゃどうも弱くて。』
千明の送信に対する返信は速攻で帰って来た!
『んじゃ、またこっちの魚持ち込むっか?』
その返信に一同が口を開けて固まる。かつて芦方で堪能した南国
冬の山梨で振る舞いとして出せるとなれば・・・
「おぉぉーーーっ!すごい、それすごいよ!!」
なでしこが目を輝かせて絶賛する。思えば松ぼっくりキャンプ場のテストキャンプでも
鮭スープから石狩鍋のコンボを堪能したのだが、どうも冬の魚介料理と言うとどうしても
北海道の鮭やカニ、富山のブリや秋田のハタハタなど、目線が北の方に寄りがちになる。
そこにまさかの南国九州の地魚料理の振る舞いとなれば大きな目玉になりそうだ!
「だが待て、そうなるとかなりの量が必要になるだろ・・・予算がなぁ。」
千明が冷や汗を流して皆を制する。なにしろ松ぼっくりキャンプ場にはかなりの予算が
投入されており、正月だからと特別予算を計上するのはかなり厳しい状態なのだ。
『食材の確保と送料で、予算どんだけかかる?』
すかさずメッセージを送るあおい、彼女もまたその心配が真っ先に頭に浮かんで、
千明の発言と同時にメッセージを打ち出していた。
ピコン!
『ふっふっふ~、私たちは”何部”でしたっけ?』
あおいの問いに夏海が返事を返す。思わずあっ!と口を開けて固まるみんな。
『今は冬釣りの時期だから、任せて下さい!』
『ガラガブにメバル、グレにチヌ、シーバスに青物、アオリイカにヤリイカ、もちろんアジも。』
『保存と輸送もアテあっけんね~、心配無用たい。』
『と、いうわけで、費用はプライスレスですっ!!』
「お・・・お前らぁぁ~~」
スマホを握りしめて感激する千明。その鼻から思わず赤いものが垂れる。
「あ、アキっ!鼻血出とる!」
「鼻血の発動条件が昔と逆になってる・・・」
ティッシュを鼻に詰める千明を見てリンが思わずこぼす。かつては大金を使おうとした時に
興奮して鼻血を出していたが、大人になった今はタクシーで名古屋から富士川町に至るまでの
料金メーターとにらめっこしてる時すら鼻血は出なかったのだが・・・
『一度先行して少しお魚を送ります、それで出す料理を研究されてはいかがですか?』
大野がそうメッセージを送って来る。確かにぶっつけ本番で料理して失敗したら大惨事だ。
そんな事まで気遣ってくれる遠くの友人たちに心からの感謝を返す一同。
そんな中、リンは意を決して文章を打ち、少しためらった後に送信する。
雑誌ライターという職業病に対する自己嫌悪に、はぁとため息をついた後、やや自虐的に
こう嘆いた。
「さすがに厚かましすぎるかな・・・」
◇ ◇ ◇
「ほーう!ビバークが取材に来るっとか。」
納得の息を吐く。
「ビバークって、あのアウトドア雑誌だよね。ひょっとしてユウ姉、コネでもあるの?」
「うんにゃ、あたしみたいな駆け出しのフリーには雲の上の存在たい。」
夏美の問いに首を振って返す黒岩。なるほど向こうがアイデアを寄こしてと頼んできたのは
そのせいなのか。確かにあの全国誌を彩るなら企画からして練る必要があるだろう。
『それで・・・もしよかったらだけど、みんなにも顔出しをお願いしたいんだけど・・・』
続くリンのメッセージにはそう書かれていた。それを見て今度はこちらが口を開けて
固まる番だった。
「え、えええーーーっ!?」
「やった!雑誌に載れるっ!!」
「これはコメントを書き留めておかないと・・・海なし県と海洋汚染の関係と関心と・・・」
驚く陽渚に嬉々としてはしゃぐ夏海。大野は何か別の方向に思考が行ってそうだが。
「そういや志摩さんも雑誌のライターやったね・・・ウチらを記事のネタにする気ばいね。」
えっ?と言う顔をして黒岩を見る一同。私たちを・・・話のネタに?
「10年前に釣りとキャンプで出会った女子高生が、今また自分たちでこしらえたキャンプ場で
再会を果たす・・・そんな記事を提供したいんやろね。」
あー、そういう事か、と皆で顔を見合わせる。確かに
活動としてはかなりレアなものだ、そんな彼女たちが10年振りの邂逅となれば、アウトドア雑誌の
記事としてはかなりオイシイものになるだろう。
「なんか・・・恥ずかしいかも。」
陽渚が困り笑顔で頬を掻く、昔から引っ込み思案だった彼女には少しハードルが高いが・・・
「はーいあたし賛成。ていぼう部のいい宣伝になるし、これで来年の新入部員も
バッチリだよ!」
夏海が挙手をしてにかっ!と笑う。近年またていぼう部の人数がギリギリで顧問としては
頭が痛かったのだ。もしあのビバークに載れば来年はさぞかし多くの部員と部費が期待できる。
その言葉にしょうがないなぁ、と陽渚も首を縦に振る。ていぼう部OGとして今の部員たちに
貢献できるならしょうがないだろう。
ちなみに大野は未だに雑誌に伝えるコメントを吟味してぶつぶつとごにゃっている。
早く戻って来て・・・
と、喫茶店のドアがカランと音を立てて開く。入って来たのは白みがかった銀髪で片目を
隠した、いかにもたくましそうな女性だ。
「なになに~?いきなり呼び出して・・・さやかちゃんまで。」
「ゆらさん、お久しぶりですっ!!」
湯浦しずく。黒岩の一つ前のていぼう部部長、卒業後すぐに
瀬渡し旅館”こみや”に就職し、ていぼう部遠征合宿の手伝いをしてきた人物。現在はこの
芦北に帰ってきて漁業組合で働いていたのだ。
さやかのスマホのやりとりと、しゃちほこ出版の雑誌を見て事情を把握したしずくは
面白そうじゃん、あたしも参加させてよと笑顔で黒岩の肩を後ろから抱える。
「んじゃ今日から釣った魚の冷凍保存と、山梨まで冷凍車での輸送お願いね~」
黒岩のしれっと言い放つ無理難題に、お前なぁ、という顔をしながらも、彼女も
スマホを取り出し、組合の冷凍庫や保冷車の手配をして回る。こういうイベントに対しての
立ち回りの良さは、さすがは元民宿、瀬渡しの従業員だ。
「さって、保管とアシも確保したし、あとは釣るだけたい!」
黒岩のその言葉に、一同がおーっ!と拳を突き上げて立ち上がる。期日までまだ20日以上
あるとはいえ釣りは水物、釣れる時に釣っておかないと確実な確保は保証できない。
「よーっし、まずはたこひげ屋だね!」
釣り具と餌の確保に各々が個別の交通手段で釣具屋に向かう。思えばそこの店長と山梨の
志摩さんのお爺ちゃんの出会いから私たちの関係は始まったのだ。10年の歳月を経て
山梨のみんなに対する最初のアクションは、その原点へと向かう事、なんとも奇妙な縁である。
◇ ◇ ◇
その翌日、山梨の役場にて。
「お、おおおおお・・・予約が一晩で15件も入ってる。しかも全員山梨か長野のお客かよ!
どんだけ海産物が好きなんだよ、海なし県民ーーーっ!!」
千明が思わず絶叫する。昨日の夜に、元旦での振る舞い鍋の食材が
とたんにこの殺到ぶりである・・・