グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
「いいですね、それをぜひ採用させてください。」
名古屋、しゃちほこ出版の会議室で書類をまとめながらそう笑顔で話す人物の向かい側で
ライターの志摩リンとゲストの大垣千明は心でうっし!とガッツポーズした後、
立ち上がり、「よろしくお願いします。」と頭を下げる。
全国誌”ビバーク”と名古屋ローカル誌”しゃちほこさんぽ”の合同企画である
富士川松ぼっくりキャンプ場の特集にリン達が出したアイデアに、ビバーク側は快く
OKを出してくれた。
遠く
そんなシーンをダイヤモンド富士をバックに描けばさぞいい誌面が作れるだろうとのリンの提案は
自社の編集長も、大手のライターや編集者にも受け入れられた。
なにより彼女たちが顔出しやインタビューを了承してくれたのも大きい。許可済みで
高校生の合宿時に撮った写真を見せて回った際の一同の反応も抜群だったし、この見目麗しき
少女達なら今はさぞ美人であろうと、雑誌映えするいい絵に、そして話題になりそうだった。
「ただ・・・これだけだとちょっとキャンプ場の魅力そのものが伝わりにくいですね。」
喜んだのもつかの間、ビバークの編集者から追加注文がなされる。人間ドラマも確かにいいが
キャンプ場の魅力を伝えるプラスアルファが、あと一さじ欲しいとの事だ。
「ま、あーやってネタを骨の髄まで絞らせるのは大手のお約束だ、上等上等。」
会議終了後、うむむと頬を膨らませて悩むリンと千明に、リンの上司の刈谷がそう
フォローする。
なにしろ取材本番の大晦日までもう一カ月を切っているのだ、いまさら企画がボツになる
はずもなく、ここから追加できる企画などたかが知れているだろう。あの発言はあくまで
あとひとつ何かあれば嬉しいな、くらいのモノらしい。
「まぁ何にせよ助かりました、当日はよろしくお願いします。」
編集部の皆に一礼する千明。この会議の為に名古屋まで出張って来た彼女は、とりあえず今夜は
リンのアパートに泊めて貰い、明日イチで山梨に帰る事になっていた。
「うん、志摩ちゃんをよろしくね~」
「任せて下さいっ!」
刈谷の軽口に、びしっ!と敬礼して返す千明。おいやめろとジト目のリンだが、周囲の面々は
その千明のキャラクターに思わず笑いをこぼす、生真面目な志摩さんといいコンビじゃないか、と。
「・・・で、早速居酒屋かよオイ!」
「いやぁ~、企画通ったし、お祝いお祝い。」
帰社のその足で居酒屋に突入し、早速生ビールとつまみを注文する。千明は社会人になってから
仕事帰りの居酒屋が基本ルーチンになっていた、もう完全に二代目グビ姉である。
ちなみになでしこ達3人やていぼう部の面々にも企画が通ったことは伝えてある、これで
明日から年末に向けて本格的に動く事になるのだ。
「んじゃ、友人たちとの再会と企画の成功を祈って、かんぱーい!」
レモンチューハイを千明のビールジョッキに合わせて一口ぐびり、と飲むリン。
が、そのグラスをことりとテーブルに下ろすと、千明の方に向き直って一言発する。
「・・・やっぱ、あとひとつ何か欲しい!」
ぷはーっ!とジョッキを空にした千明は、神妙な顔のリンを見てやれやれ、と肩をすくめる。
「真面目だなぁ、刈谷さんもこれでいいって・・・」
そう言いかけた千明にぐっと顔を近づけて、気合いの入った表情で返すリン。
「
野クル時代から、リンに至っては中学生の時から、その雑誌は自分たちのアウトドアの
教科書とも言えた本だ。時にキャンプめしを吟味し、時にキャンプ候補地を参考にし、
またある時は憧れの道具の値段に鼻血をだしたりしたものだ。
そんな有名誌の紙面を、自分たちで完璧に彩りたい。そんな夢のようなチャンスが今まさに
目の前に転がっているのだ。
「しょうがねーな、もう一肌脱ぐか!」
そう言ってスマホを取り出し、”追加アイデア募集中”というメッセージを仲間たちと
ていぼう部の面々に送る千明。
「他力本願かよ!」
呆れるリン、だがもう野クルの側でのアイデアは限界まで絞り出されており枯渇状態だ。
作業着レンジャーショーなんて無茶振りやドローンを駆使した空飛ぶテントなんてアイデアまで
出尽くしており、さすがにネタ切れ感は否めない。
ここはひとつ、ていぼう部さんのナイスアイデアに期待したいところだ・・・
◇ ◇ ◇
「じゃあ、かんぱーいっ!」
「何の乾杯ですか、何の!」
鶴木陽渚がジト目で答える。さやかは構わずごっごっごっ!とジョッキを開けてぷはーっ!と
大息をつくと、いいのいいのといった表情で手をぱたぱたさせる。
「釣りは順調なんでしょ?そのお祝いでいーじゃない!」
実は
食材確保のために、かつての仲間たちと竿を出していたのだ。
まぁその度に週末はこうしてさやかに付き合わされる羽目になるのだが・・・彼女、母親ですよね?
「まーそうなんですけどね、ちょうど青物も入って来てますし、結構大物も確保できてますよ。」
芦方は内海ゆえに青物はなかなか入ってこないのが常だ。だが今年は5年ぶりにイワシが
大量発生して芦方に入り込んだために、それを追いかけて大型の青物が多く釣れる当たり年と
なっていた。
「ヒラマサ、カツオ、ハマチ、カンパチ、サワラからタチウオなんかも上がってます。
ゆらさん情報だとキハダマグロまでいるそうですよ・・・さすがに釣れてませんけど。」
と、そんな彼女たちのスマホにメッセージが届く。
「・・・大垣さんだ、企画通ったって。」
「おー、やったわね。これで陽渚ちゃんも雑誌に載るわねぇ。」
酔った勢いで絡むさやかに、てへへと照れ笑いしてカクテルを持ち上げる陽渚。答えてさやかも
ピッチャーからビールをジョッキに注いで再度掲げる。
「企画の採用と成功に、かんぱーいっ!」
陽渚は意外にもお酒に強かった。学生の頃から年齢以上に幼い印象がある彼女が、成人して
みれば実は酒豪だったという事実に皆が驚き、さやかは嬉々として呑み友に指名する。
もっともさやかがビールメインなのに対して陽渚は色とりどりのカクテルがメインだ、
裁縫が趣味の彼女にとってはカラフルなお酒を様々に味わうのが好みの飲み方だったのだ。
「・・・ん?またメール。今度は”追加アイデア募集中”?」
千明から連続して送られてきたそのメッセージに、陽渚はう~んと頭をひねる。
「いやぁ~大晦日が楽しみね。また美波ちゃんと飲めるなんて・・・ましてやあの富士山を
眺めながらねぇ、生きててよかった~。」
やっすい命ですねぇ、と呆れる陽渚に、さやかはわりとマジ目で反論する。
「想像してみなさいよ、あの富士山から昇る朝日にグラスを重ねて・・・そのままぐいっ!と。
まるで朝日を飲み干してる気分になるわよきっと!」
陽渚はその言葉にそんなわけないと反論しかけて、あ・・・と固まる。形を成さなかった
その景色が、さやかの言葉とダイヤモンド富士と言う符号、そして今の自分たちの状況で
ピースががっちりとハマった!
「それ!それですよ先生、いけますよその企画!!」
がっしりとさやかの肩を掴んで迫る陽渚。何事?と困惑するさやかに陽渚はかぶりつくように
詰め寄って言葉を続ける。
「ほら、富士山って山頂がえぐれて
昇る朝日をお酒に見立てて、それに合わせてお酒を掲げたらきっといい絵になりますよ!!」
テンション上がりっぱなしの陽渚にさやかは呆然とするばかりだ、そもそも彼女は大垣の
アイデア募集中のメッセージすら見ていないのでなおさらである。そんなさやかに構わず
スマホで千明にメッセージを送る!
『ダイヤモンド富士に色とりどりのドリンクをグラスに掲げて、それでフォトコンテストなんて
どうでしょうか!』
◇ ◇ ◇
「おおー!これはいいんじゃないか・・・どうかな、志摩隊員?」
陽渚のメッセージを受け取った千明が、そのよさげな企画に雑誌のプロであるリンの返事を待つ。
リンはアゴに手を当て、うーんと唸って送られてきたアイデアを吟味する。
(あのキャンプ場の最大の売りはダイヤモンド富士。だがそれだけに写真は誰が取っても同じで
ワンパターンな気がしたが・・・グラスを朝日に掲げれば光の反射で様々な絵が撮れる。それを
フォトコンにすれば参加者も工夫を凝らし、それが雑誌に載るとなればますます・・・)
「・・・ヤバイぞこれ!」
言葉面とは真逆の、らんらんと輝く目をしたリンが大垣を見据える。まさかこの短時間に
ここまで素晴らしいアイデアを送ってくれるとは!
あとは最後の課題、お酒限定でさえなくなれば・・・
「千明!お前昔にノンアルコールのカクテル作ってたよな!!今も出来るか?」
「あ、ああ。一時期凝ってて、まだ本やレシピノートもあるから・・・」
酒屋バイトの経験のある千明は、かつて先輩から教えてもらったノンアルカクテルをキャンプで
披露した事が何度かあった。
その技術があればこの企画、子供や下戸の方でも参加が出来る!
「千明!
「よ、よしきたっ!任せるヅラーーっ!!」
やおら立ち上がって傍目もはばからず叫ぶ両名。まぁお酒のせいにしておくとしよう・・・。