グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
『んじゃ、うちも出発するばい。』
仲間内に、そして山梨勢のみんなにメッセージを送信する黒岩。大野から遅れて数時間、
バイクで山梨までの長旅がこれからスタートだ。
といっても真っすぐ目的地に向かうわけでは無い、道中様々な所に寄り道して仕事である
ライターとしてのネタを拾いながら向かうつもりではあった・・・のだが。
『今から出発なら”芦方しらぬい”に寄って貰えますか?』
多数の道中お気をつけて、待ってますよのメッセージに交じってそう伝えて来たのは志摩リンだ。
その場所はかつて彼女たちが来た際にお土産を買った道の駅だ。何か買ってきて欲しいもの
あっとか?などと思いつつ『あいよー、ついたらまた連絡するばい』と返しておいた。
出発してほどなくバイクは道の駅”芦方しらぬい”に到着する。12月の風は
冷たく、この先の長旅を想像してちょっと憂鬱になる。こういう時は・・・
「はぁ~、やっぱ足湯はあったまる~」
年末の道の駅はいつもよりやや混雑していたが、それでも足湯スペースには5人ほどの
お客しかおらず、思う存分冷えた足先をあっためる事が出来そうだ。
「さ~て、志摩さんにメッセージ送らんとね~。」
スマホを取り出し、SNSチャットを開いて『到着したばい』文字を打ち込み送信する。
足湯の机にもたれかかりながら返信を待つ。と、すぐ隣でもメッセージの着信音、人の集う
場所ならまぁよくあること・・・
「じゃ、出発しますか。」
「・・・ん?って、うわぁっ!し、志摩さん?」
普段のんびりな黒岩が飛び跳ねるように反応する。だがそれも無理なき事、なんと山梨、
いや今は名古屋か、にいるはずのリンがなんと黒岩の隣にいるのだから。
してやったり、の顔でピースサインを掲げながら解説を入れるリン。大晦日から3が日まで
取材出勤の彼女はその代休を昨日からとっており、ならばと迎えも兼ねて阿蘇ツーリングを
強行したとの事だ。
「あ、こちら私のツーリング仲間の
「よろしく~、黒岩さん。」
リンの向こうで足湯に浸かりつつテーブルに突っ伏している女性が、ややけだるそうに
手を挙げて挨拶する、彼女のそのしんどそうな表情を見るにかなりの強行軍であったことが
伺える。
「まったく、元気過ぎるやろ。」
溜め息を拭いてそう返す黒岩。でもまぁ彼女の真意は何となくわかる、お互いバイク乗りなら
一度は一緒に走ってみたいと思うのだろう・・・だからといって山梨から
「山梨には伝説がある。
「そ・・・そりゃ、すごかばいね・・・」
山梨女子のDNAとバイクの意外な関係、なんて記事を思い描きながら引く黒岩。ひょっとして
彼女たちは山の娘、高所から駆け下りるならどこまでも下って行けるイメージでもあっとか?
どっちにしろ帰りは登らにゃならんばいに。
「憧れの阿蘇パノラマライン走破!いいコースでした。」
「まーおかげで疲れて疲れて~」
元気なリンとノビ気味の綾乃にやれやれ、と息をついて、この冒険好きで無茶な二人の為に
進行ルートを思い描く。二人とも大晦日までフリーな事を確認してからの提案。
「四国に渡って、四国カルストから土佐東街道を上がって、本四連絡橋渡っていくばい。」
おお!と目を輝かせるリンの横で、綾乃がばったりと机に突っ伏し直す。ちょっともう
勘弁してと言いたげな綾乃に黒岩はふふん、という顔で返す。
「四国へは
「賛成!はいはいさんせーいっ!」
がばっ、と体を起こして挙手する綾乃に、思わず笑いをこぼすリンと黒岩。
国道57号線を走破し、佐賀関港からフェリーに乗り込むや否や、綾乃は「あとはまかせた・・・」
と毛布と枕を相棒にして座敷に寝っ転がる。その横で腰を下ろしてくつろぐリンと黒岩。
「そういや志摩さんも雑誌のライターやっとんやね。」
「え?という事は黒岩さんも・・・」
リンは雑誌社所属だが黒岩はフリーのライターだ。様々な小出版社に顔を繋いで、ちょこちょこ
色んなジャンルの記事を請け負ったり、自分で書いたエッセイを持ち込んだりしている。
その話におおー、と感心したリンは、一呼吸おいて黒岩にずずいと詰め寄る。
「黒岩先輩!私の書いた記事、どう思いますか?」
元々出版社の営業として就職し、最近ライターの方に配置転換したリンだが、どうも自分の
企画はボツになる事が多く、先輩の刈谷達にページの埋め合わせをしてもらう事が多かった。
ここはひとつ遠く
「よく書けとると思うけどね~、ちゃんと読み手の知ってそうな事も盛り込んでるし。」
雑誌”しゃちほこさんぽ”の記事を読みながらそう答える黒岩に、リンはえっ!?という
表情をして固まる。”知らない事”じゃなくて”知ってそうな事”って?
「志摩さん、記事を読んでもらうっていうのは、読者の知る事を書くのが一番たい。」
本を読む、という事はその本が扱うジャンルに読者が少なからず精通しているという事だ。
例えばアウトドア雑誌を読む人はアウトドアを嗜んでいるか、あるいは憧れており、そこに
書かれている記事の内容をあらかじめ把握している事が多い。ならその本は読者にとって
一見無意味そうに思えるだろうが、実はそれがいいのだ。
「本で活字になっとる事は、いわば真実なんよ。説得力が違うやろ?それを読む読者も
自分とプロのライターの意見が一致してるとシンパシー感じるもんや。」
「・・・わかります。」
リンも自分が一読者だった頃の事を思い出す。そう、自分が知ってるちょっとマニアな
知識が雑誌に載ってたりすると妙に嬉しかったものだが、そういう事だったのか。
「草刈りやノコギリの扱い方、重機の注意点を細かく書いてるのも高ポイントばい、
キャンプする人は肉体労働者も多かけんね、あの記事見て「あるある」って思った読者も
多かじゃなかと?」
黒岩のその絶賛に、リンは逆にうっ!という顔をする。
「いや・・・あのへんは先輩や編集長に、書いておけって言われて書き足したんです。」
ちょっと落ち込むリンに、あちゃーという顔をする黒岩。うまく読み手のツボを押さえた
記事だと思ってたが、なるほどベテランの手が入っていたか。
「黒岩さんの記事、見せて貰えますか?」
そう切り出すリンに、黒岩はちょっと青い顔をして引く。いや、あたしの記事なんて
プロのライターに見せるほどのもんじゃ・・・と拒みかけるが。
「あたしも見たいなー、黒岩さんの記事。」
いつに間にか起きてた綾乃もそう続く。黒岩ははぁ、とため息をついて、しょんなかね~と
フェリー売店前の新聞、雑誌コーナーにあるローカル誌を手に取り、会計を済ませて戻って来る。
「あはははは!バイクの記事がいつの間にか野鳥の話になってるし。」
大笑いする綾乃の横で、リンは至極真面目な顔で黒岩の記事に目を走らせる。彼女の書いた
それは専門的な掘り下げは一切なく、全く無関係な所から共通の話題を拾い上げて記事にする
という手法を取っている。このバイク記事もオートバイと野鳥の意外な共通点を上げ、それを
うまくエッセイとしてまとめ上げていた。
「・・・すごいなコレ。」
心からそう称賛するリン。彼女が記事を書いて編集長に採用を言い渡された時、決まって
「いいね、
お褒めの言葉と受け取っていたが、回数を重ねるたびに逆の意味に聞こえていたのだ。
もしこんな個性的な記事を自社の編集長に提出したら何て言われるだろうか・・・。
どうやったらこんな記事が書けますか?と詰め寄るリンに、黒岩は目を反らして頬を
掻きながら、答えにくそうに語り出す。
「ウチはただ・・・自分のいろんな経験を当て込んでいるだけたい。その記事を書いた時も
高校時代に鶴木の奴が助けたアオサギを思い出してこじつけただけばい。」
「自分の経験を・・・当てはめる。」
「まぁ同じ人生なんて誰もないからねぇ。」
黒岩の言葉に、綾乃の感想に、リンは自分の視界が開ける思いがした。そう、自分は記事を
書く時、その記事のジャンルだけしか見ていなかったか?視野が狭くなり、どこか他の記事の
真似をしてなかったか・・・自分が人生で経験した色んな事、見た景色、感じた空気、そして
耳を通り抜けた音、聞こえて来た気がした”声”。
\コンニチワ/
ああ、そうだ。しゃべるはずのない松ぼっくりが、薪が、道路に置かれた警官人形が、
自分に挨拶をしているのをずいぶん妄想して来たじゃないか。あれは子供っぽい恥ずかしい妄想、
ではなくて、多くの読者をクスリと笑わせる、格好の記事の題材になるんじゃないのか!
もっと自分の中身を出せば良かったんだ、この黒岩さんのように。
「ありがとうございます!何かが見えた気がしました!!」
「お、おう・・・そりゃよかったばい。」
ぐっ!と手を握ってくるリンに、黒岩は(これ、やばかねー)という表情でそう返す。
良くも悪くも都会向けの優等生的な記事が書けてる志摩さんに、評価をダダ下げかねない
アドバイスをしちゃったんじゃじゃなかろうか、と。
-間もなく当フェリーは伊予三崎港に入港します、お客様は下船の用意を-
船内アナウンスが四国への到着を告げる。綾乃はやれやれあんまし休めなかったなー、と
嘆いた後に、二人に向き直ってこう告げる。
「んじゃ、四国でもしっかり経験値上げないと、ね。」
「うむ!」
「そ、そうやね・・・」
フェリーの車庫扉が大きく開く。その先の景色はリンにとって、さらに自分を成長させてくれる
場所にきっとなる、バイクにまたがりエンジンをかける、係員が誘導を始める。
「さぁ、待ってろ四国カルスト、土佐東街道、みかんにかつおのたたきに徳島ラーメンに
さぬきうどん、そして本四連絡橋!」
さぁ、いざ四国!
\ハヨコイヨ/
山梨県