グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦! 作:三流FLASH職人
「遅くなっちゃったな・・・千明たちもう始めてるかな?」
バイクを駐車場に止めて管理棟からキャンプ場に向かうリン。今日は四国の室戸岬から
本四海峡を渡ってここまでの強行軍、松ぼっくりキャンプ場に着いたのはもう夜9時を
過ぎていた。
「おーいリン、こっちこっちー。」
段々になっているキャンプ場の一番上で、お馴染みの面々がテーブルと焚火を囲んで
お茶をしている・・・約一名はアルコールだが。
「千明呑み過ぎ、顔真っ赤じゃないか。」
「いやぁ、まだグラス半分ヅラ~。」
ラム酒の入ったグラスを掲げてご満悦の千明がそう返す。とはいえ後ろのビニール袋に
大量のビールの空き缶が入っているのはごまかせないが。
「なでしこは?」
「ああ、惜しかったよ~、ほんの1時間前に大野さんと鶴木さん、それにあかりちゃんを下の
ホテルまで送っていったとこ。」
「入れ違いになってしもうたなぁ。」
恵那とあおいのその返しにあー、と残念そうな顔を見せるリン。自分だけはどうやらあの
懐かしい面々との再会は明日にお預けになったという事か。ま、黒岩さんとは先に会ってるから
お互いさまではあるが。
「でも凄いよねーなでしこちゃん。」
「大学在学中に立ち上げたキャンプギアメーカーが急成長。今やアメリカに本社を持つCEOやもん。」
「変わっちまったよなぁ。」
・・・え?
「いやお前ら何を言ってるんだ?」
いつからなでしこは大企業のトップになったんだ?っていうかあいつは今も東京のアウトドア
ショップの従業員でしか無い筈だし・・・?
3人を見回してみる。全員そろってなんかニヤニヤしてるんだが・・・絶対何か企んでる顔だな。
「あ、来たみたいだよ。」
空を見上げる恵那に習って天を仰ぐと、そこにあったのは何と空飛ぶテント!四隅からロケットの
ような噴射をして飛びながらゆっくりと近づいてくる。
「え、うぇええええっ!?」
そしてそのテントの中から顔を出し、手を掲げているなでしこの姿!なんだこの展開は?
「みんなー、お待たせーっ!」
なでしこの声が控えめに響く。一応、他の場所にも他の泊り客がいるので、それに気を使っているのか。
「「ぱーん、ぱぁ~ん、ぱぁ~~ん、ぱぱぱーーーんっ!!」」
恵那達が壮麗なファンファーレを口で奏で、まさかのなでしこの登場に華を添える。
「・・・って、ドローンじゃん!」
彼女らの元まで降りてきたテントは、縦横20センチほどのミニチュアのそれをドローンで
吊り下げているだけのものだった、中にいるなでしこのイラストがなかなかリアルに描けている。
と、後ろの草むらからコントローラーを手にしたなでしこが、うへへ~という顔で現れた。
「リンちゃん長旅お疲れ様~。」
なんでもこのドローン、千明の所属する山梨県観光推進機構からキャンプ場PRの一案として
出されたそうだ。キャンプ場をこれで空撮して、眼下の景色や遠くの富士山を楽しんでもらおうと
発案されたのだが、結局その企画はボツになった。「ドローンを飛ばせるキャンプ場」な
イメージが定着してしまうとそのテの人が殺到して、本来ののんびりキャンプを楽しみたい人との
トラブルが問題になるからだ。
で、リンが来るまでのわずかな時間でこのサプライズを仕込んだとの事。
「これな、ちょうど10年前になでしこが妄想してたヤツなんだよ。」
空飛ぶテントのミニチュアを抱えてころころ笑う千明。あれは確かふもとっぱらだったか、
リンが原付でガス缶の買い出しに出た時になでしこが「10年後の自分たち」を妄想して
そんな話を語っていたのだが、さすがにまだ空飛ぶテントは実現していなかった。
「てか大企業のCEOって盛り過ぎだろ。」
「へへへ~、でも10年後にはなってるかも。」
「ねーよ!」
ジト目でそう告げるリンにもなでしこはメゲずに笑顔で答える。いや、あるいは本当に
そうなってるかも知れないな、なでしこのバイタリティを考えたら・・・。
「黒岩さんは?あと土岐さんもいっしょだったんでしょ。」
「そうそう、アヤちゃんと黒岩さんとのツーリングどうだった?」
ココアをすすりながらリンのツーリング談議に花が咲く。あれから四国カルストを超えて
深夜の月夜の海岸線を走破して高知県、室戸岬で一泊。翌朝に海の朝日に照らされた
土佐東街道を北上して徳島入り、そして本州に戻ったのだが・・・
「本四連絡橋を全部渡ったぁっ!?」
思わず絶叫する千明。四国と本州を結ぶ連絡橋ルートは全部で3つあるが、なんとリン達は
くじ引きをして3人に分かれて3つの橋を別々に渡って来たとの事だった。
「徳島からやったら・・・しまなみ街道担当は悲惨やねぇ、だれが担当したん?」
あおいがぐるぐるマップを見ながら思わずこぼす。淡路島経由の鳴門神戸線が最短ルートで
香川まで回る瀬戸大橋ルートならまだマシなレベルだが・・・愛媛まで引き返してしまなみ街道なら
ほぼ四国を一周した事になる・・・
「私。」
キラキラした目で自分を指差してそう告げるリン。せっかく四国まで来たのだから出来るだけ
制覇したいと思っていた彼女にとって、このクジの結果は願ったり叶ったりだった。
岡山で綾乃と、大阪で黒岩と合流した後は、さすがに観光の余裕はなく真っすぐにこの
山梨までやって来たのだが・・・さすがに綾乃と黒岩は近くのホテルに入ってすぐバタンキュー
した模様だ。
「タフやなぁ・・・」
「明日は取材でしょ、大丈夫なの?」
明日にはビバークのスタッフを迎えての合同取材が待っている、その前に敢行した長距離
トラベルが疲れを溜めないかとさすがに心配になる。が、そんな彼女らにもリンはぐっ!と
手を握って「大丈夫!」と元気に返す。
そう、黒岩に教わった事、より個性的な記事を書く為にはなにより経験が大事なのだ。
四国を一周して様々な景色を見て来たリンにとって、明日以降の仕事のネタはがっつりと
確保できている。
「ま、明日はダイヤモンド富士、本年
「「さんせーい。」」
千明の音頭で一同就寝の準備をする。明日は大晦日、今年最後のダイヤモンド富士となる。
元旦の初日の出にスタッフの仕事が入っている一同は、のんびりと日の出を眺める余裕が
無いかもしれない。ならば一日フライングして、みんなでダイヤモンド富士を堪能しようと
こうして前日キャンプを取っていたのだ。
それはこのキャンプ場オープンの日にみんなで交わした、大事な約束。
◇ ◇ ◇
「うわぁー綺麗だねぃ。」
「すごい・・・ホントに富士山が輝いてる。」
「明日はこれをバックにフォトコンか、燃えるなぁ!」
翌早朝、キャンプ場の一番の高台に並んでダイヤモンド富士を堪能する5人。さすがに
この寒い中、大晦日の日の出をわざわざ早起きしている人は彼女ら以外誰もおらず、
広い空間で存分に堪能する事が出来た。
さぁ、いよいよ一年の総決算!大晦日からの年越しキャンプの運営とイベントの日。
懐かしき友人たちと、多くのアウトドアを愛するお客さん達と同じ時間を楽しく過ごすための
まさに決戦の日を迎えた。
「リンとなでしこはテントの撤収、あたしと恵那は周囲の見回り、犬子は管理棟を開けて
掃除と準備を頼む!
「「アイアイサー!」」
各々が今日の激務に向けて動き出す。あおいは管理棟のカギを開けて運営の準備に入り、
そのついでにラジオのスイッチを入れる。あまり大音量でなければラジオ放送はいい
BGMになり、ちょっとしたニュースや天気の情報も知る事が出来る。
-本日の甲信越地方は、日本海から南下する前線の影響で曇り、山沿いは雪になるでしょう-
-この前線、明日まで停滞が予想されており、残念ながらこの地域での初日の出は-
「これ、あかんヤツや・・・」
劇場版ゆるキャン△のラストシーン、5人がダイヤモンド富士を堪能するシーンがありましたが
今回の話の最後はそのイメージになってます。
だって元旦の初日の出ならもっと人が居そうなもんだし・・・