グビ姉vsビールバカ、霊峰富士の聖杯大決戦!   作:三流FLASH職人

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第9話 いざ山梨!④帆高夏海、湯浦しずく、そして・・・

「お魚オッケー、キャンプ用品オッケー、他もろもろオッケーっ!」

「ついでに、さやかちゃんのビールサーバーと樽生19LもOK,と。」

「どんだけ吞む気なんですかね、さすがはビールバカ・・・。」

 

 12月31日午前0:30、芦方漁業組合の冷凍倉庫前にて湯浦しずくと共に保冷車の荷物の

最終チェックをする夏海は、最後に積み込まれている店舗用の生ビールサーバー一式を見やって

呆れ汗を流す。

「さやかちゃんは今日の朝に飛行機だっけ?」

「ええ。さすがに飛行機にコレは積めないからって・・・ったく現地調達すりゃいいのに。」

 顔を見合わせて苦笑いする夏海としずく。お互いさやかちゃんとは長い付き合いなので

彼女が旅行といえばビールを飲む旅になるのは最初っから承知の上だ、せめてキャンプ場では

醜態をさらさないで欲しいものである。

 

「っと、噂をすればなんとやらね、さやかちゃんからみたい。」

 しずくがスマホを取り出してメールボックスを開く。そこには懇願するアイコンと共に

さやかからのメッセージの一文。

『ゴメーン、やっぱあたしも乗っけてってー。』

 

 メールで詳しく事情を聞くに、どうも今日の甲信越地方は天候が荒れそうで、最悪飛行機が

欠航する可能性もありそうなので、やっぱりこっちの車で同行したいとの事だ。

 この保冷車は荷台の前に2列の座席があり、運転手も含めて6名が乗り込めるトラックなので

さやかを乗せてもまだ余裕はある、結局燃料と高速代の一部を折半することで話はついた。

 

 午前1:00、待ち合わせの道の駅、芦方しらぬいに到着したトラックを手を振って

迎える人影がある、さやかちゃんと、そして・・・あっ!

 その車の隣にトラックをつけて停車すると同時に助手席からしゅたっ!と飛び降りる夏海。

その車の中に見知った顔があったからだ、呼吸を合わせるように乗用車のドアも開き、

ひとりの少年が降りてくる!

 

「ケン坊!ひっさしぶり、元気だった?」

「つりししょー、ひさしぶりたい!」

 にかっと笑って夏海と手を合わせたのは、さやかちゃんの一人息子、小谷健吾(7歳)だ。

さやかが結婚して海野高校の教師を引退してから、後任となった夏海はさやかに色々な

アドバイスを受けて来た縁もあって小谷家とは付き合いが深かった。健吾が生まれて以来

よく面倒を見ており、海に山にと遊びに連れて行ったものだ。

 特に釣りは夏海の得意分野という事もあり、たびたび竿を出しに行ってはその釣果で

尊敬を得ていたのだ。

 

「こんばんわー渉さん。」

「こんばんわ、さやかたちをよろしく頼みます。」

 しずくは乗用車の運転席にいるさやかの夫、小谷渉(旧姓、黒川渉)に挨拶している。

農家の3男坊である彼が婿養子として夫婦となったのが8年前、以来仲睦まじく小谷家の

米農家を切り盛りしている。

「・・・え?ふたり、って?」

「おいも行くたい、やまなしにーっ!」

 ぐるんと振り向いてしずくに叫ぶ健吾。予想外のサプライズにしずくも夏海もおお!と

顔をほころばせて、おっし行こう行こうとハイタッチを交わす。

 

「渉さんは行かないんですか?」

「ボクは正月は実家に顔を出さなくちゃいけなくてね・・・悪いけど二人をお願いするよ。」

「ちょっとー、私がお荷物みたいな言い方止めてよね。」

腕組みして夫に抗議するさやかだが、その瞬間に周囲の全員がジト目を返す。

「「じゃあビール禁止で」」

「健吾まで・・・ひどーい!」

 

「あ、そうそう。ばーちゃんが、やまなしいくならコメもってけって!」

 健吾が指さしたトランクの中には30kg入りの米袋が鎮座していた。夏海はあーなるほど、と

言う表情で米袋を担ぎ、しずくに保冷車のゲートを開けて貰って中に押し込む。

 

「じゃあ、やまなしにむけて、しゅっぱーつ!」

「「おー!」」

 3人が健吾の音頭の元、拳を天に掲げる。さぁ、いざ山梨!

 

 

「でもさぁ、どうして米なの?」

 運転しながらしずくが不思議そうに問う。確かに米農家の小谷家で作られた米は熊本でも

ブランド米としての品質を誇っている、とはいえ向こうにも美味しい米はあるだろうに

どうしてこんな重たくてかさばる物を・・・?

「山梨県っていろいろあって、あんま米作は盛んじゃないんですよ。」

 夏海が神妙にそう返す。保健体育の教師である夏海やさやかには知識としてその県の

歴史を知っていた。

 

 地方病、片山病、またはマンプクリンなどと呼ばれる、当時原因不明だった奇病。

腹に水が溜まり、まるで妊婦のようにお腹を大きく膨らませて死に至る病。その正体は

皮膚から感染する寄生虫と、その幼虫を成長させる中間宿主である巻き貝によって

引き起こされるものだった。

 山梨や広島、佐賀などで蔓延したその病を根絶するために、中間宿主であるその貝の

撲滅運動が長年、それこそ100年以上にわたって行われてきたのだ。

 

「山梨は水田を止めて果樹園を推奨したのよ、桃や葡萄なんかの栽培が盛んなのは

そのせいなの。」

 さやかが後部座席から解説を入れる、彼女の母、健吾のばあちゃんは佐賀出身で、その病の

怖さと、それと戦った山梨県民の苦労をよく知っていた。

「なるほど、だから米なのかー。」

「10年前にキャンプに来た時に彼女たちも言ってたんですよ、『飯盒でご飯炊いてる』

『ウチらは大体パックご飯やしなぁ』って。だからお米をさし入れるのはいいアイデアだと

思いますよ。」

 

「ウチのコメはうまいけん、やまなしのみなもよろこぶっとよ!」

 病気の話は理解してない健吾だが、自分ちの自慢のご飯を食べてもらう期待に目を輝かせて

力強く断言する。その言葉に思わず顔がほころぶ女性陣。

 

 PAでトイレ休憩の際、夏海は一同を集合させて写真を撮り、先行している大野と陽渚、

そして野クルのみんなに画像付きのメッセージを送る。

『元気なゲスト追加だぜ!』

真ん中でガッツポーズする健吾を囲んだぞの画像に、送り先の面々が様々に返信を寄こす。

 

『野生児カルテット襲来だね!』

 陽渚はそう返してきた。彼女は健吾と少し面識があり、野生児の夏海とつるむ健吾に

夏海(やせいじ)二世”のイメージを持っていた、加えてしずくは漁師、さやかは猟師だ。

元々インドア派の陽渚にとってこの4人は典型的なアウトドアライフ人だった。

 

『健吾くん、さやかさんの監視お願いしますね。』

「まかしとき!」

大野の返信に健吾はそうガッツポーズし、さやかは「大野さんまで・・・」とさめざめと

涙を流す。夏海としずくは勿論大笑いだ。

 

『ちゃんと寝かしとくばい、明日が辛かとよ。』

「お!久々に部長らしいじゃんユウ姉。」

 黒岩の返信に夏海が感心する。確かに現在午前2時、事前に寝だめしていた夏海達はともかく

小学一年生の健吾は起きていていい時間ではない。が、言うまでもなく彼はすでにさやか()

もたれて寝息を立てていた。

 

 さすがに野クルの面々からの返信は無かった。時間が時間だし夜が明けたら彼女らは

大仕事が待っているのだ。今は貴重な睡眠時間のハズ、返信は夜が明けてからになるだろう。

 

 

 

 が、山梨側でただ一人、そのメッセージに目を輝かせる人物がいた。

 

「これはやっぱり、冬美も連れて行かなくっちゃ、ね。」

 

大町美波。旧姓、鳥羽美波はそう言って、ベッドの横に眠る愛娘の頭をそっと撫でた。

 




 この”いざ山梨”の話はていぼう部側のそれぞれの”10年後”を描いた回でもあります。
なにせゆるキャン勢と違って、彼女らの10年後は公式で描かれてませんから。
 大野の海洋調査員、黒岩のライター理論、陽渚のインテリアコーディネーター、そして
夏海の保健の先生としてのちょっとしたウンチクで、彼女らの成長した姿が描けていたら幸いです。
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