【web版】依存したがる彼女は僕の部屋に入り浸る(旧依存症な彼女たち)   作:萬屋久兵衛

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前話途中にあったお話


【緊急企画】妹ちゃん達が部屋の掃除するのを応援する配信

 

『……よし、始まったな。よう与太郎共。今日は俺の部屋を掃除する妹ちゃん達を見守る配信をするぜ』

 

:ちわ~

:緊急配信助かる

:クズみたいな配信が始まると聞いて

:見守るだけとかほんまもんのクズなんだよなあ

:自分で汚したんだから自分でかたづけろや

:せめて前口上はちゃんとしなさいよと

:妹ちゃん見てる~?

:態度が悪すぎて公式番組呼ばれないってマ?

:頑なに事務所に出向かないからなんだよなあ

 

 八重さん──もとい吉野さんの第一声に、待機していた与太郎達が一斉に反応する。挨拶を返す者や予定に無い配信を歓迎する者もいるが、他力本願が過ぎるクズ、吉野さんに突っ込みをいれる者も多い。

 その与太郎達に共通するのは、唐突にSNSで伝達された喜瀬川吉野の配信告知に反応して駆けつけたファンであるということだ。

 ともすれば批判とも取れるコメントも、雑で適当な吉野さんとの愛あるプロレスの一環だ。たぶん。実際に吉野さん自体は一切気にしていない様子であるし。

 

『俺はお前等に媚びないし、自分で掃除もしない。なぜなら俺は花魁だから』

 

:実際の花魁も気位が高かったとは言うけどさあ……

:普段ロールプレイしないくせに悪いところだけ花魁ぶるな

:妹ちゃんいなかったらマジで汚部屋に埋もれて死にそうなんだよな

:達ってことは妹ちゃん以外にも人がおるんか?

 

『そうそう。今回は健気でかわいい妹ちゃんを想って掃除手伝いが参戦してるぜ。男疑惑でおなじみのバイト君と、偶然バイト君家に遊びに来てたバイト二号ちゃんだ』

 

 ご紹介に預かった僕と東雲は身につけたマイクに向けてゆっくりと言葉を発する。

 

『バイトなのだ。自分の部屋と同じ間取りとは思えない汚部屋に絶望しているのだ』

 

『二号ですわ。二番目でもいいから愛して欲しいですわ』

 

:VOIDやんけ

:あれ、読み上げだけじゃなくてボイチェンも対応したんだっけ?

:これ元のVOICEDROIDの口調真似てしゃべってんのかw

:なんで生声じゃないのよ!僕っ娘ボイスでいいじゃないの!

:同じ部屋の中でどうやってボイチェン回してるんだ?

:なまじきれいな部屋を見てるからなおさら許せないんやろなあ

:二号はちゃん付けなんだなw

 

『バイト君だけならともかく二号ちゃんもいるから配慮してるんだよ。ボイチェンの設定とかは俺の同期の似非プログラマーに無茶振りしたらなんとかしてくれたぜ。あいつ、ホントにプログラミングとかできたんだな』

 

:なるほどもよたんか

:さすもよ

:さすもよだけど同期の扱いが酷くて笑う

:やめたげてよお!

:もよたんの仕事を増やすな

:ただでさえ社畜やってる人になんてことを……

:無茶ぶりの自覚はあるんすね……

 

 もよたんと呼ばれているのは吉野さんが言うように、彼女の同期である自称天才ハカー(誤字に非ず)の松方もよこのことである。一般社会に溶け込みながらもネットワークの裏で暗躍するヒロインを自称しているが、表の仕事がブラック気味なので滅多に配信せず、たまの配信ではいつも死んだような声をしているという悲しみを背負った御仁らしい。

 吉野さんはそのうち使うかもしれないからと、そのブラックヒロインに僕たち用のボイチェンアプリの制作を依頼していたらしい。

 もよこ氏が仕事と配信の合間に思いの外早くアプリを完成させてくれたので、吉野さんがせっかくだからこのアプリを使って配信し(遊び)たいとのたまい、お披露目となったわけである。

 いちいちクズみたいなムーブをかますのが上手い人である。

 

『ま、頼れるものは愛しの同期ってな。金もちゃんと払ったし本人も息抜きになったとか言ってから大丈夫だよ。で、最後の一人。さっきから後ろで爆笑してるのが我が最愛の妹ちゃんだ』

 

:息抜きで仕事はもう末期なんだよなあ

:あ、やっぱりそうなんすね

:めっちゃげらってる人いるなとは思ってたけど

:世にも珍しい妹ちゃんの爆笑シーン

:かわいい

;なんでこんな笑い転げてるんやこの娘……

 

『だ、だって……!ふひゅっ、バイトさん達が真顔なまま変な口調でしゃべるから……!』

 

 僕と東雲が言葉を発すると同時に吹き出して大爆笑中だった妹ちゃんこと七野ちゃんが、なんとかといった様子で声を出す。なお、七野ちゃんは普段から声を配信に乗せているので僕や東雲と違って生声だ。

 

『変とは失礼なのだ』

 

『我々はずっとこんな言葉遣いでしゃべってましたわ』

 

『それは嘘なのだ。リアルにこんな口調で話すやつがいたら即ハブられるのだ』

 

『バイトさんは口調とか関係なくハブられてるようなものですわ』

 

『正論パンチは止めるのだ……』

 

『~~~~~~!!!?!?』

 

:妹様が荒ぶっておられる

:俺等がコメント打つ時と同じような顔で喋ってるんやろなあ

:そう考えるとすごいシュールだw

:本当にハブられているやつは部屋に遊びに来る友達なんていないんだよな……

 

『二号は友達面して我が家を宿代わりにするただのクズなのだ』

 

『友達料の代わりに家に泊めてもらってるのですわ』

 

:どんな関係やねん

:なんだかんだただの仲良しなんだよなあ

:バイトちゃんといい感じにこじらせとる

 

『そう言うわけで、この愉快なメンバーが俺の部屋をなんとかしてくれるから、みんなも応援してくれよな』

 

:自分は手伝わないという鉄の意志を感じる

:自分の部屋のことで手伝うっておかしくね?

:なんでこんな他人事でいられるんだ……

 

『……ごほん。お姉ちゃんは邪魔にしかならないので与太郎さん達と遊んでいてください』

 

『姉の威厳がなさ過ぎて困惑ですわ』

 

『ここまで妹に言わせて恥ずかしくないのだ?』

 

『さすが妹ちゃんだ。姉のことをよくわかってくれてるぜ』

 

『罪悪感がかけらもねえのだ……』

 

:姉に対するこの扱いよ

:草

:しかし吉野に効果は無かった!

:美しい姉妹愛だあ

:ただただ姉が理不尽なだけでは?

:これにはバイトちゃん達も苦笑い

;苦笑いじゃ無くてドン引きでは?

;引かない媚びない顧みない 理想的なジャイアニズムや!

 

『とりあえず始めますけれども、どこから手をつけましょうか……』

 

『引きニートがなんでここまで部屋を汚せるのか理解できないのだ』

 

『一応一週間前に掃除した後なんですが……』

 

『通販で衝動買いしたり軽率に出前頼んだりしてるからなあ』

 

 吉野さんは事もなげに言うが、部屋の惨状はそんな一言で済ませていい状態では無かった。

 確かに通販の段ボールがたたまれもせず重ねられていたり、食後の容器が放置されていたりする。それだけでも突っ込みどころしかないのに、同じ種類のゴミがまとめられておらず、空段ボールの中にゴミや脱いだ後と思しき服がつっこまれていたりで目も当てられない状態である。

 一週間でここまで汚せるのは何か特別な才能を持っているとしか思えなかった。

 何故か空だったり飲みかけだったりしているペットボトルだけが部屋の隅で無駄にきれいに並べられているのがむしろむかつく。

 

:ちょっと困惑するレベルの散らかし具合なのか……

:そこまで言われると見てみたい気もするな

:いかんでしょ

:見たら見たで吉野ちゃんに幻滅してまう

:今までも夢を持てるような配信してましたかね……?

 

『と、とにかくある程度分別をしつつ家事を分担して片付けていきましょう!私は服を回収して洗濯しますね』

 

『じゃあ僕は容器とか食器を回収して洗い物を担当するのだ』

 

『私はペットボトルと空き缶の片付けをいたしますわ』

 

『よしよし、頑張ってくれよお前達。俺は与太郎共に実況して遊んでるから』

 

:がんばえ~

:どれぐらいで終わるのだろうか

:配信にするぐらいだからすぐには終わらんやろなあ

:圧倒的クズ感

 

 配信受けを狙っているとはいえどこまでも他人事な吉野さんを尻目に僕たちは片付けを開始した。取り急ぎ三人でゴミ山の整理から始める。

 適当に放られた衣服や雑誌類、封が開いたお菓子の空き袋やら飲みかけのペットボトルやら、どうして一緒にまとめられているのかわからない物を機械的に分別していく。

 時々掘り出し物か何かのように謎の器具やら機器類やら趣味の一品が出てくるが、そういった物は別に避けておいて後で整理することにする。

 

『放置された食器の山の下から脱いだ下着が出てくるとか正気じゃねえのだ。そもそもなんでテーブルの上に下着を放っておいたのだ……。理解できねえのだ……』

 

『わわわわ!回収!回収です!!』

 

 僕が思わずつまみ上げた下着を七野ちゃんが慌てて奪っていく。

 今さら下着ひとつどうでどうとも思わないが、身内の恥部を晒し上げるのは七野ちゃんには恥ずかしいのだろう。

 

『というか、見せる相手もいないのにあんな派手な下着持っててどうするのだ』

 

『見たところレース素材ですから、洗うのが面倒くさそうな一品でしたわ』

 

:えっっっっっ

:吉野ちゃんの使用済み下着……うっ

:視聴者プレゼントにしよう

:通報

:けど扱いが雑すぎるんだよなあ……

:洗い方がどうとか生々しいなw

 

『ちょ、ちょっとやめてくださいよふたりとも!』

 

 下着事情がさらし上げられて沸く与太郎と慌てる七野ちゃんを余所に、当の本人からあっさりとした回答が出される。

 

『ああ、そりゃあ与太郎から送られてきたプレゼントだな』

 

『ええ……』

 

『今は色々ヤバいもんが送られてくるってんで止めちまったが、俺が入ってすぐぐらいはプレゼントの受け付けとかしててなあ。与太郎からぜひ使ってくださいって手紙付きで送られてきたから使わせてもらってんだよ。ちゃんと未開封なのは確認してあるやつだから大丈夫だぜ』

 

 何がおかしいのかわからないが、けらけら笑いながら説明する吉野さんに僕たちはドン引きというか絶句することしかできない。

 

:草

:やば

:流石にポリスメン案件では

:いやあ、どうだろう……

:使ってくれてたんですね!ありがとうございます!!

:いたよ犯人

:通報

:通報した

:お前頭おかしいよ……

:使う方も使う方なんだよなあ……

 

 視聴者から贈られた下着を着けるのは有りか無しかで激論を交わす吉野さんと与太郎達を尻目に片付けはさくさくと進められる。

 この後東雲の相談とやらを聞いてやらねばならないし、七野ちゃんを早く家に返すためにも遊んでばかりはいられない。

 あらかた整理が終わったら、僕は雑然とした部屋の中から食器類や空いた容器を回収して流しに持っていく。流石に残飯らしいものは見当たらないが、使った食器を流しもしないで放置はいかがなものか。八重さんはほぼ部屋から出ないからか、常時空調を効かせているとのことなので夏場でも黴びることはなさそうだが、やはりそこいらのファッション汚部屋民とは格が違うということなのだろう。

 食器類はスポンジで洗わなければならないが、ゴミになる容器は軽く流していく。九子(ひさこ)さんの教育が良いためか、食べ残しがほとんどないのが救いだ。その癖ペットボトルは飲みかけにしておくし、片付けは頑なにしないが。 

 溜め込まれていたとはいえ一人暮らしの部屋にそれほどの食器類が有るわけも無く、ちゃっちゃと食器類を片付けた。ちょうど七野ちゃんも散らかっていた衣服を洗濯機に放り込んで回したようだし、東雲もペットボトル類をあらかたゴミ袋に放り込み終えたようだ。

 

『とりあえず第一段階完了ってところですわね……。次は一端保留していたゴミじゃなさそうな物の整理を進めましょうか』

 

『イヤホンとか充電ケーブルみたいなのはともかく、山に埋もれて鑑賞されてないフィギュアだとか出かけもしない癖に何故かある高そうなバッグとか無駄な物が多すぎるのだ。この作りかけのガンプラとか、他のパーツはどこにあるのだこれ……』

 

『この前ある程度整理したと思ったんですが、またこんなに買い込んで……』

 

『いやあ、これいいなと思うとつい買っちまうんだが、買った物を有効利用する時間が無くてなあ』

 

『もう!すぐに無駄遣いするんだから!せめて売ったりできるように綺麗にしておいてよね!』

 

『これらを整理してもどうせ置き場が無いですわ。残す物捨てる物売る物で整理いたしましょうか』

 

:吉野ちゃん長時間配信して寝て起きて長時間配信とかざらだからなあ……

:むしろ衝動買いする時間があることにもびっくりだわ

:最近は一時期よりも配信時間大人しいから……

:こんな風にかわいい妹に小言を言われてえなあ俺もなあ

:ネットフリマで売れなくても与太郎相手にオークションしたら高値付きそう

:捨てるぐらいなら俺にくれ 金なら出す

:いや俺に

:いやいやいや俺に

 

 東雲の提案を採用し、これらの物品を仕分けしていくことにする。どうせゴミ山に埋まっていた物ばかりなのでほぼ即刻ゴミ袋行きでいい気もするが、一応吉野さんの意思を確認しなければならないし、もしかしたら売れる判定の物が出てくるかもしれない。

 

『それじゃあまず……。この充電切れのまま放置されたタブレット端末からいくのだ』

 

『ああ、それは本読む用に買った電子書籍リーダーだな。目に優しくて読書特化のシンプルな機能が気に入って買ったんだが、カラーページが白黒になるのが嫌ですぐ使わなくなったやつだ。必要ならスマホで読みゃあいいし、そもそも紙で所持する方が好みだった』

 

『つまり完全なる無駄ということですわね……』

 

『売れるなら売ってしまいましょうか。お姉ちゃんこれ箱はどうしたの?』

 

『さあ……?』

 

『どうせまともな形じゃ残ってねえのだ。裸で売っても0円じゃないはずなのだ』

 

:さっそく無駄なものが出てきたな

:ネット通販サイトが売り出してるやつか

:カラーで表示できないのは致命的では?

:そ、それ以外は読書向けだから……

:せめて同じ会社のタブレットの方にしていれば……

 

『次はこれなのだ。なんかちょっと高そうな香水なのだ』

 

『某ブランドのオーデコロンですわね。これも外出しない吉野さんにはあまり使い道がないと思われますが』

 

『俺も一応女なんだぜ?そういう物を持ってもおかしくねえだろ』

 

 笑いながらしゅっとコロンを一吹きする吉野さん。

 おかしいかおかしくないかで言うと、この配信内だけでも女らしさを全く感じさせていないのでおかしい気もするが……って、この匂いは?

 

『まあ、むしゃくしゃした時にバイト君を撫でくり回しに行くんだが、そん時いつも嫌な顔されるから対策で買ったんだけどな』

 

『ああ、通りで最近覚えのある匂いだと思ったら……』

 

『なるほどですわ。バイトさんの部屋にいると吉野さんが急に部屋にやってきてバイトさんにヘッドロックをかけて帰ることが度々起こっていたのですが、あれは撫でていましたのね』

 

『ちょ、ちょっとお姉ちゃん!そんなことしてたの!?』

 

『ペットがいなくても気軽に癒やしを得られて便利だぜ』

 

『人をペット扱いするんじゃねえのだ』

 

『お、お姉ちゃん!それはどうかと思う……!』

 

『はっはっはっはっは』

 

『じゃあこれは残しですわね。さて、次は……』

 

:キマシタワー!!!

:吉バイは存在した……!

:ゴロ悪くて草

:俺も混ぜてくれよな~

:百合の間に挟まるのは死刑ですわ

:バイトちゃんをペット扱いしつつべたべたする姉。それを聞いて慌てる妹。これの意味するところはつまり……

:あらあらうふふ

:二号ちゃんがぶれずにマイペースなのちょっと笑う

 

 そんな感じで僕たちは物品の仕分けを続けていく。

 大体はしょうもない物で、容赦なく売るか捨てるかされるばかりであったが、作りかけのガンプラのパーツを求めて部屋の中を大捜索したり、エロフィギュアが中古品と発覚して捨てるべきか否かと大激論を交わしたりと無駄に山場もあって与太郎達にはウケているようだった。

 

『……ふう。これで大体片付いたのだ』

 

『後は掃除機だけかければ終了ですかね。配信的にはここまででいいんじゃないでしょうか』

 

 仕分け待ちの山を片付け終えて一息つく。

 なんだかんだここまでで一時間弱程度の時間が経過していた。ただの掃除の割に色々あったのでもっと時間がかかっているかとも思ったが、なんとか配信の尺としても都合良く終われそうな時間である。

 配信なんてやらなければ間違いなくもっと早く終わらせられていたとは思うけれど。

 

『待ってくださいまし』

 

『ん?』

 

 東雲から待ったがかかり、僕と七野ちゃんは首を傾げる。

 

『実は、配信のオチとして最後に仕分ける物を残しておりまして』

 

『オチ、ですか……?』

 

『もう口振からして嫌な予感しかしねえのだ……』

 

 わざわざオチに持ってくる時点で怪しいし、吉野さんがにやにやしていてさらに怪しい。

 どうせ碌でもない物なんだろうなと思いつつ身構えていると、東雲が枕の下に隠していた物を取り出した。

 

『最後は、本来の用途で使われない事に定評のあるマッサージ機ですわ』

 

『ちょ!?』

 

:キター!

:えっっっ!!

:そんなん出してええんかwww

:これは切り抜き案件

:不味いですよ!

:マジでやべえやつ来たwww

 

 出てきたのはでかいマイクみたいな形をしたハンディマッサージ機だった。東雲が言うようにただのマッサージ機として見られなくなって久しいぎりぎりな物品の登場にコメント欄は大盛り上がりだ。

 

『見つけた時に吉野さんに確認を取ったのですが、配信に乗せて問題ないと許可いただきましたのでお出しした次第ですわ』

 

『恥ずかしがって顔を赤くする妹ちゃんとドン引きしてやべえ奴を見る目で見てくるバイト君のリアクションだけでこいつを出した甲斐があったってもんだなあ』

 

 恥じらうものなど何もないと言わんばかりに堂々とというかにやにやとしている吉野さん。ウケ狙いとはいえやはり頭がおかしい人である。

 

『あえてお伺いしますが、どうしてこれをお持ちに?』

 

『さあてなんでだったかなあ?企画の景品だった気もするし、自分のために買ったやつな気もするなあ』

 

 吉野さんはマッサージ機をもて遊びながらとぼけてみせる。

 

『お姉ちゃん、流石に配信にそんなのを出すのは……』

 

 僕は突っ込んだら負けだと沈黙を貫いていたが、七野ちゃんが思わず苦言を呈すと、吉野さんがすかさず弄りにかかる。

 

『おやあ?そんなのってのはどう言う事だい妹ちゃん。これはゲームで疲れた筋肉をほぐす為のマッサージ機だぜえ?どういう使い方をすると思ったかお姉ちゃんに言ってみ?うん?』

 

『いや、ちょっ、そんなの……』

 

 さらに顔を赤くしてあわあわする七野ちゃんを見て吉野さんは至福の表情だ。まったくいい趣味をしている。

 

『妹相手にセクハラしてるんじゃねえのだ。というか、この為にわざわざ買っておいたとかじゃないのだ?』

 

『ううん?別にそんなつもりはないぜ?俺は癒やしを求めてるだけだからな』

 

『いや、どう考えても本来の癒やされ方をするためじゃ……って、おいやめろ!先端をこっちに向けるんじゃねえのだ!』

 

『酷いなあバイト君。人様の物をそんな汚ねえ物をみたいに』

 

 流石に可哀想になって口を挟むと、吉野さんはマッサージ機の先端を僕に向けて近づけてきた。配信に出すぐらいだから変な使い方はしていないと信じたいが、吉野さんの信用はゼロに近いためそれは無理な相談だった。

 

『それでは、吉野さんはマッサージ機を持ってバイトさんを追いかけ回すのに忙しそうなのでこれで配信を終わりますわ。ご視聴ありがとうございました』

 

:このまま終わるの草

:うーんマイペース

:どうせすぐ汚すだろうから定期的にやって欲しい

:乙

:お疲れしたー

 

 なお、配信後に改めてマッサージ機の用途を八重さんを問いただしたが、意味深に笑うだけで答えてはくれなかった。




本作タイトルを「依存したがる彼女は僕の部屋に入り浸る」に改題して書籍化されます。スニーカー文庫様より11月1日発売予定です。
詳細と続報は作者TwitterもといX
https://twitter.com/yorozuyaqb
スニーカー文庫公式サイトhttps://sneakerbunko.jp/product/322304000132.html

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