【web版】依存したがる彼女は僕の部屋に入り浸る(旧依存症な彼女たち)   作:萬屋久兵衛

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致命的?な設定ミスが見つかったため一度消したのですが、無理矢理修正したので再投稿です


遅れてきたバレンタイン

 

「よいしょっと」

 

 部屋にやって来た東雲は身につけていた衣類を脱ぎ散らかすと、持参した紙袋の中身をミニテーブルの上にぶちまけた。

 僕は東雲にちゃんと服を片付けろと説教しようとしていたのだが、紙袋の中から出てきた大量のチョコレートに唖然として言葉が出てこなかった。

 ざっと見た限りそこらのスーパーで見かけるようなメーカー品のようなものではなく、デパートとかで売っているようなちょっとお高そうなブランドっぽいやつばかりである。

 ……まあ、僕はチョコレートのブランドなんてゴディバぐらいしか知らないのだけれども。

 驚きのあまり分かりやすく顔に出てしまったのか、僕がこれはいったいどうしたのかと問う前に東雲は口を開いた。

 

「やっぱり二月といったらチョコレートだからね」

 

 答えになっているようでまったく答えになっていなかった。

 確かに二月にはバレンタインデーがあり、一年の中で一番チョコレートが流通する時期であることは間違いない。東雲も女の子であるからしてチョコレートを買い込んで友達に渡すなりお義理で渡すなりすることもあるだろう。

 ……流石に男の部屋で服脱ぎ散らかすような女が誰かに本命のチョコを渡すつもりはないと信じたい。

 それでも東雲にはこれだけは言っておかねばならない。

 今日は二月の十六日。

 バレンタインデーなんてのは昨日どころか一昨日の話なのである。

 

「そうだよ?」

 

 僕の突っ込みに、しかし東雲はきょとんとした顔で返してくる。

 僕が困惑していると東雲はああ、と察したように頷いた。

 

「これは別にバレンタインで人に配ろうとかそういうチョコじゃないんだ。そのつもりだったらちゃんと当日に配ってるよ」

 

 いやまあ確かにそうなのだろうが、じゃあこの馬鹿みたいに大量のチョコレートはいったい……。

 

「もちろん、自分で食べる用だよ」

 

 ええ……。

 

「クリスマスのケーキと一緒でこの時期になるとチョコレートが安売りし始めるからね。買い込むなら今が一番お得なんだ」

 

 そんなことを語る東雲の表情は心なしか自慢気に見える。

 そうはいっても東雲は甘い物がそんなに得意じゃなかったと記憶しているが、大丈夫なのだろうか。

 

「スイーツ的な甘さは苦手だけれど、チョコレートならけっこういけるんだよ。ビターチョコなんてのもあるし、コーヒーに入れてもいいしね」

 

 そういうことらしい。本人が言うのならまあかまわないか。

 しかしまあ、これを全部かあ……。

 僕はテーブルの上に積まれたチョコの山を見る。安売りしていたとはいえよくもまあこれだけの量を買い込んだものだ。たばこ代といつもの飲み会代で毎月けっこうな額の出費があるだろうに、どこからこれだけの費用を捻出したのだろうか。

 東雲の口ぶりからしてこの日のためにこつこつ溜め込んでいたとしてもおかしくはないが、それにしたって買いすぎである。これだけチョコがあればいったいどれだけの間で消費することになるのやら。

 

「そうだね、これだけだと一週間は持たないと思うな」

 

 えええ……。

 東雲の言った通りであれば、一日に二箱以上消化する計算になる。一日二日ぐらいならいけるかもしれないが、毎日そんなに食べていたら間違いなく飽きるし体調不良を引き起こしそうだ。

 けっこういけるなんて言い方しているけれど、むしろ好きじゃなければそんなに食べれないと思うのだが……。

 僕が東雲の舌の構造について考察しつつ、何となく機嫌良さげな様子でチョコの山を整理し始める東雲を見ていると、東雲は僕の視線に気がつく。

 

「……ああ、はいこれ」

 

 東雲は何か用?とばかりに首を傾げたが何かに気がつきチョコの山から箱をひとつ手に取ると、気軽な感じで僕に渡してきた。

 ……いや、別にチョコが欲しくて見ていたわけではないのだけれども。

 

「まあまあ、私もこれだけのチョコを独り占めするつもりはないからさ。春香と夏希にもお裾分けするつもりだし。……それに部屋でチョコを保管してもらわないといけないしね」

 

 どう考えても最後に付け加えられたやつが一番の理由だった。多少の荷物ならまだ許せるが、こんなチョコの山をどこに置いておけというのか。

 

「どうしようか。できれば冷蔵庫の中が良いんだけれど……」

 

 僕は東雲を促してキッチンに向かい冷蔵庫を開けて中身を見せてやった。中にはお酒の瓶や缶、おつまみの類が所狭しと敷き詰められている。我が冷蔵庫ながら酷い有り様だ。

 

「……まあ大体分かってはいたけれど、やっぱりチョコを置くスペースはないね。そうするとクローゼットの隅に積むしかないかな」

 

 そんなことするぐらいなら自分の家に持ち帰ってほしいのだが、おそらく言ったところで無駄であろう。

 せめて生チョコ系は冷蔵庫で保管したいからと冷蔵庫のスペース作りを始めた東雲を後ろから眺めていると、玄関の扉が開いた。呼び鈴も鳴らさず侵入してきたのは西園寺である。

 

「おや、ふたりとも冷蔵庫なんか漁って何を……ああ、皆まで言う必要はないか。この部屋の冷蔵庫を漁ってすることなんて、飲み会しかないだろうからね」

 

 勝手に決めつけるんじゃねえよ。

 

「しかし、冷蔵庫の中身なんて酒とつまみしかないだろう?」

 

 いや、そうなんだけれどもこの有り様の下手人に言われるのはなんかむかつくな……。

 

「そうは言うけれど、君も飲み会で余ったつまみを後日ご飯のおかずにしてるじゃないか。これも持ちつ持たれつってやつだよ。それに、あの中にはボクが作ったつまみも含まれているんだ。女の子の手料理を好きなだけ食べれるのだからむしろ感謝してほしいね」

 

 むう。

 何かちょっと意味が違う気もするがその辺りを突かれるとちょっと弱い。宿代の代わりみたいなものとはいえ我が家の食費に寄与していることは否定できないのである。女の子の手料理云々という世迷い言は飲兵衛が作ったつまみの残飯の言い換えでしかないので僕の心には響かないが。

 

「君はちょっとむかつくぐらいその辺ぶれないね……」

 

「で、実はなんだけれど冷蔵庫に買ってきたチョコを入れたくて」

 

 僕と西園寺を横目にひたすら冷蔵庫の中を整理していた東雲が会話をぶった切って話を進める。

 

「ははあ、なるほどね」

 

 東雲の端的な説明を聞いた西園寺は頷いた。今の説明だけでまるっと納得できるのか……。

 

「昨日追加で買い入れたばかりだから冷蔵庫の中に空きスペースは無いだろう。ちょっと整理したぐらいでどうにかなるものじゃないだろうね。それよりももっと建設的な方法を考えるべきだろう」

 

「建設的な方法って?」

 

「要は中身を減らせば良いんだよ。つまり、飲み会だね」

 

「なるほど」

 

 なるほどじゃねえ何納得してやがる。ただ西園寺が飲みたいだけじゃねえか。

 

「しかしね、ぱんぱんの冷蔵庫の中にスペースを作ろうと思ったら中身を取り出すしかない。取り出した中身を外に放置するわけにはいかないのだから、消費するしかないじゃないか」

 

 そんなことしなくても酒瓶とチョコを各自の家に持ち帰れば済む話だろう。

 

「いつも言ってるじゃないか、こんなもの迂闊に持ち帰ったら大変なことになる。ボクが家を追い出されでもしたら責任をとって養ってくれるとでも言うのかい?」

 

 養わない。

 

「じゃあもう飲むしかないね。さあ早いところ始めようじゃないか。実はこの季節にぴったりな一品を買ってきてね」

 

 謎の論法で飲み会を決定事項であるかのように話を進め始めた西園寺はかばんの中から酒瓶を取り出した。

 瓶のサイズ感からしておそらくリキュールの類だが、冷蔵庫の中身を減らそうって時に増やしてるんじゃねえよ……。

 

「これは仕方ないんだよ。バレンタイン直後だからお買い得だったんだ。チョコレートリキュールなんて、まさに今が飲み時だろう?」

 

 その飲み時はもう過ぎてるんだよなあ……。

 

「春香にも一箱あげるよ。これなんかどう?」

 

「良いのかい?ありがとう。お、カシューナッツが入ってるやつか。これはおつまみに最適だね。ウィスキーとかに合いそうだ。お返しは何も準備してないのだけれど……」

 

「お返しはそのチョコレートリキュールを一杯ご相伴に預からせてもらえるならそれでいいよ」

 

「ふふふ、一杯なんて言わずにどんどん飲んでおくれよ」

 

 僕の諦め混じりな突っ込みをサクッとスルーして、東雲とふたり和気藹々と話を進める西園寺。

 僕は面倒くさくなって冷蔵庫の中身が減るなら良いかと妥協することにした。

 せっせと酒やつまみをミニテーブルへ並べ始めたふたりを横目にグラスや小皿を準備していると、今度は北条がやってくる。

 

「ただいま~!ってあっれ~?今日は飲み会やるって話だったっけえ?」

 

「いいや、さっき唐突に決まってね。ちょうどナツにも連絡しようとしていたところだったんだけれど、手間が省けたよ」

 

「はえ~そうなの。まあ飲み会だって言わなくてもお酒は飲むんだし今さらよね」

 

 あたかもうちの部屋で毎度飲み会紛いのことが行われているような口ぶりには抗議したいところだが、僕が口を開くよりも先にそうだ!と北条が何かを思い出したように声を上げてかばんの中を漁りはじめる。

 

「あたしもちょうどおつまみになりそうな物持ってきてるのよね~。ほら、これ」

 

 そう言って取り出したのは……。

 

「生八ツ橋?」

 

 箱にプリントされた三角形の菓子を見て東雲が首をこてんと傾ける。おそらく僕と同じく何故生八ツ橋が出てきたのかと疑問に思っているのだろう。

 

「へっへっへ~。これはマイホ(曰く、行きつけのパチンコ屋のことらしい)に期間限定で置かれた景品でさ。中身が餡じゃなくてチョコクリームになってるんだって!」

 

「へえ。パチンコ店でもそういう季節感のある物を売りにするんだね」

 

 なるほど。しかし、そういう物を景品に出したからと言って集客につながるのだろうか。パチンコを打つ人たちにとって最高の景品はそんなものではなくげんき──。

 

「おっとそれ以上はパチンコの闇に触れるよ」

 

 ああ、いけないいけない。パチンコを打つ人が好む景品は中に金とか文鎮とか万年筆が入った不思議で特殊なケースであって、けして賭博につながるような物じゃなかったな。うん。

 

「あたしもこの辺のパチンコ店はそこそこ見回ったけど、ぶっちゃけ文鎮とか万年筆の景品って見たことないのよねえ……地方とかに行けばあるのかしら。まあそれは置いておいて、今日は良い感じに勝てたから皆へのお土産にちょうど良いかな~ってことでもらってきたのよ」

 

 ありがたい話ではあるのだが、正直そんな景品に銀玉を使うぐらいならそれこそ金とか文鎮を交換して自分の生活の足しにしてもらった方がありがたくはある。

 北条が金欠でうちに転がり込んできて食料を恵んだりとか思いあまって定期の解約を検討するのを止めたりする手間が省けたりするし。

 

「定期はともかく夏希がお金を持ったらパチンコ店に通う回数が増えてここに来る回数が増えそうな気がするんだけれど」

 

 や、やっぱり北条はもうちょっと痛い目を見てパチンコを控えないといけないな……うん。

 そんなこんなで急遽飲み会が始まったわけであるが、本日は酒もつまみもやたら甘ったるいものが集まっている。

 いつもなら飲み会が夕食を兼ねることになるのだが、さすがにこれらを夕食と称するのは語弊がありそうだ。

 

「そうかい?確かに栄養素は片寄っていそうだけれど、いつもの飲み会だって揚げ物とか炭水化物ばかりだしたいして変わらないと思うよ」

 

「主食がほしいならバケットでも出せばいいじゃない。チョコレートにも合わせやすいし」

 

 そういうことを言ってるんじゃないんだよなあ……。

 間食やデザートじゃあるまいし、こんな甘味ばかりで腹を満たして飲むのは辛いだろうに。

 

「そう?私はいけるよ」

 

 僕の主張は東雲に即答で否定された。

 

「そもそも我々は女子であるからして、甘い物は別腹どころか主食でいける生き物だからね。この程度なら体重さえ気にしなければなんてことないのさ」

 

 体重は気にするのか……。まあ確かにこいつら、碌でもない生活を送る不良大学生ではあるが(れっき)とした女の子ではあるのでそういう特性を持っていることは否定できない。普段からしてそういう部分が見受けられない残念なやつらでもあるのだが。

 

「というか、こんなの朝ご飯にあんパンとかクリームパン食べるのと同じようなもんじゃない」

 

 いや、やっぱりこれ女子扱いはなんか違うな。やってることがその辺の中学生男子と変わんねえわ。

 結局しばらくの問答の後、口直しも兼ねた軽食に(北条が)炒飯を作るということで話が決着して飲み会が始まった。

 

「あ、これ美味しい」

 

 東雲はチョコレートリキュールをコーヒーで割ったものを一口飲むと、感嘆の声を上げた。甘めなチョコレートリキュールをコーヒーの苦味がいい感じに中和しているのだろう。

 僕はチョコレートリキュールをミルクで割ったのだが、口当たりがよくてこれも中々悪くない。

 

「こっちもいけるよ。しかし、カクテルを作るならシェイカーはあった方が良いかな……」

 

 西園寺はリキュールにウォッカを混ぜてカクテルにしている。酒に酒を混ぜにいく辺りは実に西園寺らしい。

 だがシェイカーは買わない。そんなものうちに置いたら流れでリキュールと割り物が大量に置かれるのが目に見えている。

 

「別にそれぐらい置いてもいいんじゃないの?角瓶ハイボールとチューハイと日本酒のループもそろそろ飽きてきたし。……あ、このチョコすっご」

 

 ひとりだけリキュールに手を付けずチョコレートでハイボールを嗜んでいる北条から他人事のような意見が出るが、それこそ宅飲みに多くを求めすぎというものだ。

 カクテルが飲みたかったらその辺のバーにでも行けばいいのである。

 

「だめかあ。部屋にカクテルセットが増えたら流れでパチンコ筐体の一台ぐらい部屋に置けると思ったんだけど」

 

 他人の部屋に物を増やそうとするんじゃねえ。

 そうやっていつものごとく碌でもない会話を繰り広げながらぐだぐだだらだらと飲んでいたのだが、炒飯がなくなりつまみがチョコレートのみになると飲み続けるのがしんどくなってきた。

 

「おやおやどうしたんだい?杯が進んでいないようだけれど」

 

 僕の様子を見て西園寺がにやにやと不愉快な笑みを作りながらしゃべりかけてくる。僕が胸焼けに苦しんでいるというのに、西園寺はいつも通り平気な様子で甘ったるい酒とつまみを楽しんでいる様だ。

 ちらりと伺うと、東雲の方も顔色ひとつ変えていないし北条はふにゃふにゃになっていてまったくの普段通りだ。

 今日の飲み会でいつもの調子が出ていないのは僕だけらしい。やはり甘い物に関しては女性陣の方が耐性があるということか。

 とりあえず西園寺を見返すためにコーヒーとチョコレートリキュールの比率を九対一ぐらいにした酒の入ったグラスを傾けるが、苦味の中に感じるほのかな甘味に思わず手が止まってしまう。

 

「悪酔いしたら明日に響くし、あんまり無理しない方がいいよ」

 

 東雲がグラスに水を注いで渡してくれたので、礼を言って口の中の甘ったるさを洗い流すようにそれを飲み干す。

 それでも口の中に甘味が残っているので、僕は諦めて残りの酒を西園寺に押しつけた。

 

「あらまあ、まさかシノちゃんより先に主賓がギブアップとはね~……あ」

 

 そんな様子をとろんとした目で見ていた北条が、そんな言葉をぽろりと零した。

 ……主賓?

 露骨にやっちまったという顔をする北条の様子から察するに、僕を(かつ)いで何かを企んだということだろうか。

 

「企んだは酷いな。日頃我々が世話になっている君のためのちょっとした企画だよ」

 

 仕方ないとばかりに苦笑しながらの西園寺の言葉に僕は首を傾げた。

 企画というのはこのチョコまみれの飲み会のことを言っているのだと思うが、何故このタイミングでこんなことを?

 

「それは当然バレンタインだからだよ。私たちから日頃の感謝を伝えるにはうってつけのイベントだと思うけれど」

 

 皆してやけにタイミング良くチョコレートっぽいものを持ち込んでくると思ったらそういうことらしい。

 確かにまあ、バレンタインというのは女性から男性に何らかのアクションを起こしやすいイベントではある。通常であればこれは愛の告白にでもなるのだろうが、最近はお義理だけでなく友達相手でもチョコレートを配るような風潮があるしそういったニュアンスでチョコレートを渡すようなことがあっても不思議ではない。

 こいつらとてやたらとうちに入り浸っているから、宿代代わりということもあるだろうし。

 しかし、どうしてもこれだけは言わずにはいられない。

 ……だからバレンタインデーはもう一昨日の話なんだって。

 僕の指摘に、赤ら顔の北条が真面目な顔をして重々しく頷いた。

 

「ええそうね。けど、これには深いわけがあるのよ」

 

 パチンコで擦って金が無くて安売りでしかチョコが用意できなかったとかそういう話じゃなくて?

 

「そ、それもあるわね……」

 

 目を逸らしながら震えた声で肯定する北条。むしろ他の理由があることが驚きである。

 

「まあ、ボクも酒代が嵩んで財布が薄くなっていたからナツのパチンコだけが理由じゃないんだよ」

 

「私もチョコはたくさん買いたかったしね」

 

 そこはぶれてないんだな……。

 

「で、本来はバレンタインデーに合わせた企画をちゃんと考えていたんだよ。金銭的にも無理なく実行できて君に喜んでもらえるような企画をね。まあその企画が頓挫してしまって急遽こういう形になった訳だけれど」

 

 ふうん。いったい何をしようとしていたんだ?

 僕の何気ない問いに西園寺は無言で肩を竦めながら答える。

 

「ナツの胸の型をチョコレートで取って渡そうとしていたんだがね。直前になって本人に断られてしまったんだ」

 

 ええ……。

 ドン引きする僕に、北条が憤然とした様子で主張する。

 

「それが酷いのよ!バレンタインデーの前日まで企画を伏せられてて、ぎりぎりのタイミングで集められたと思ったらハルちゃんにちょっと胸を出してくれ~なんて言われてさ!」

 

「君に確実に喜ばれて向こう数年入り浸っても許されるナイスな案だと思ったんだけれどね。直前まで引っ張ってこれしか道はない!って言って迫れば上手くいくかと思ったんだけれどなあ」

 

「それなら別にあたしじゃなくてもハルちゃんが自分の胸でやればいいじゃない!」

 

「それも一応考慮はしたんだけれど、それじゃあボクが楽しくないからね」

 

 もらう側の僕が言うのもなんだけれど、企画に私情を持ち込んでるんじゃねえよ。

 

「そもそも春香は胸の型を直接胸にチョコレートをかけて取ろうとしていたみたいだけれど、そんなことをしたら火傷しただろうしどだい無理な話だったよ」

 

 欲望が先行しすぎて企画ががばがばじゃねえか……。石膏とかで型を取ってそこにチョコを流し込んだりとか、もっとやりようはあっただろうに。

 

「正直その発想はなかった。惜しいな……君が企画側であったなら完璧なナツのパイチョコが完成したかもしれないのに」

 

 そんな評価の仕方をされてもまったく嬉しくないんだよなあ……。

 

「で、結局春香の企画は無しになったんだけれど、普通に渡すのはつまらないからってことで出たのが今回のチョコ飲み会なんだ」

 

 なるほどそういう話だったのか……ん?

 飲み会の主旨はわかったけれど、それならわざわざ理由を隠す必要はなかったのでは?

 僕の疑問に、西園寺が澄ました顔で答える。

 

「そりゃあ、たくさん食べさせて飲ませればその分ホワイトデーのお返しに対する期待値が高まるからね」

 

 おい。

 

「ふっふっふっふっふ。バレンタイン当日だったら君ももうちょっと警戒して予防線を張ったかもしれないけれど、なし崩しで飲み始めてしまったからにはもう言い訳はできないね。世に曰く、ホワイトデーはバレンタインデーの三倍返しという。さあて、どんなお返しをしてもらおうかな。まあ金銭的には中々難しいだろうから、この部屋にカクテルのシェイカーと割り物を増やしてもらおうか」

 

「あ、私へのお返しはこのチョコの山を保管しておいてくれればそれでいいから」

 

「あたしはパチンコの筐体……と言いたいところだけど、そこのすっかすかな棚に家にあるワンピース全巻を置かせてもらおうかしら」

 

 お前たち、最初からそれが狙いか!というかお返しは来月の予定なのに今日から前提で話を進めるんじゃないよ!

 その後理由もなく不利な交渉が始まったが、僕も好きなだけ手を付けていいという条件でチョコの山とカクテルセットが置かれることになった。

 カクテルはともかくチョコにはうんざりしているので、ほとんど手を付けることはないと思われるが。

 尚、ワンピース全巻はただでさえ普通に本が持ち込まれているのに百冊以上増えるのは数が多すぎるということを強く主張し、なんとかHUNTER×HUNTER全巻に変更させることに成功した。

 これならしばらくは棚に続刊が増えることはないだろう。いや、増えてくれたら嬉しいのだけれども。


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